2006/06/03

パラメータ設計の目的





 すでに田口博士ほか言い古されたことかもしれないがもう一度確認しておく。

 新開発品や新技術の評価は、設計の最適化そのものにも意味があるが、第一義的には「技術方式の素性が悪い」ことを早期にあぶりだして、できるだけ上流の段階で、設計の見直しを行う判断をすることにある。そのためには、効率的で確実な評価方法の提案が必要である。また、上流での品質確保により、量産や市場でのトラブルを前もって対策しておくことに、品質工学適用の大きな意味があると考えられる。

 一般に評価の効率化の手段として、品質工学で使用する直交表の効果を挙げることが多い。例えばL18直交表では8つの制御因子のすべての組み合わせ4374通りが18通りの評価で済むからという理由からである。しかしながら、これはほとんどの場合誤解である。直交表は品質工学以前の実験計画法においても、国内で半世紀以上前から広く用いられており、品質工学特有のものではない。また品質工学はそれによる工数削減を主張していない。直交表は効率化ではなく、以下に述べる、上流の設計段階における評価の確実化のために活用する。

 仮に、制御因子の効果がすべて独立であれば、直交表を用いずとも最適と思われる設計には比較的容易に(例えば、1つずつ因子の水準を振ってみて、よい水準を順に選んで行くという方法でも)たどり着くことができるであろう。このようにしてたどり着いた設計条件は、制御因子の効果がすべて独立であるということが分かっている場合のみ有効であるが、実際の新開発、新設計の現場では、制御因子の効果の独立性はおろか、効果の方向性(符号)すら分からないことが多い。制御因子の出力やばらつきに対する効果の独立性が不明の場合は、上記のようにしてたどり着いた設計条件は、ある条件の組み合わせの時にだけ成立する局所最適である可能性が高く、設計全体の最適条件であるという根拠はどこにもない。また逆に、さらによい条件があるかどうかも不明であるため、前記の局所最適条件でスペック未達成の場合、さらに設計改善をのための評価を続けるのか、それとも技術方式そのものに見切りをつけ、別の方式の検討を始めるのかの判断が困難である。一般に、評価のやり直しが多く、開発が長期化する原因の1つはここにある。

 そこで、制御因子同士に大きな交互作用がない(=制御因子の出力やばらつきに対する効果の独立性が高い)かどうかをチェックするために、網羅的に、しかも最小の組み合わせで因子・水準を評価ことができる直交表を用いるのである。個々の制御因子の独立性が高い系であれば、最適化は容易である。また、独立性の低い(交互作用の大きい)因子が混在している場合においても、それに影響されないような、大きな効果がある制御因子を見出せれば、それを設計に生かすこともできるのである。従って最適化そのものは、パラメータ設計の狙いとして重要でない。逆に、制御因子の独立性が全体に低い場合は、直交表で指示された評価実験(例えば18通り)の結果だけでは、評価していない設計条件の結果(含む最適条件)が全く予測不能である。直交表の解析では効果の加法性を前提とした計算をしているからである。このような設計では、合わせ込みによってスペックを達成できる設計ができたとしても、量産や市場に行ってトラブルを起こしやすいのである。なぜならば、高々設計段階で検討した8つの因子の間でさえ交互作用があるのだから、多数の未検討、未知の因子が存在する量産段階、市場段階では、何が起こるか予測ができないからである。

 従って、少なくとも上流の設計段階で、制御因子間の交互作用が少ないこと、また多少の交互作用の中でも再現する大きな効果のある制御因子を見つけておくことが下流でのトラブル抑制のため重要であり、これがパラメータ設計の目指すところである。