2007/01/12

音の基本機能による開発と、本年初の散財?

 年末のニュース情報番組で、もとONKYOで現在タイムドメイン社社長の由井啓之氏と、同社が発売している、新理論にもスピーカーが紹介されていた。筆者もオーディオには少なからず興味がある(といっても、素人でマニアというほどでもない)ので、興味深く見た。吉井社長自らが開発した、このスピーカーは、以下の考え方で成り立っている(技術説明書http://www.timedomain.co.jp/tech/theory/td_theoryA4.pdfより抜粋)。

「音楽の感動を伝えるには、またアーティスト(音楽家)の心まで伝えるには何が必要でしょうか。それには何も加えず、欠落させずに、音源からの音を100%引き出し、ありのままに伝えることが必要であると考えました。音楽家が選んだ楽器の音色、長年努力して得た演奏。これらの全てを再生しなければならないと考えました」

 この全くアタリマエの機能を、これまでの音響技術者が考えなかったわけがあるまい。しかし音響技術(に限らないがいわゆる科学技術)と言うものは、技術が高度化するにつれて、物事をさらに精密に分析・解析し、システムを複雑かつ膨大にしてゆく過程で、その本来の目的を忘れてしまうものである。最後に残るのは歪み率などの技術スペックの羅列と、その数値の優位性を示すカタログスペックである。同書によれば、

「測定器を使って解析しても正弦波成分に分析できるので、音を正弦波成分の集まりと考えてしまいますが、正弦波の集まりとして表せると言うことと、正弦波の集まりでできていると言うことは違います。」

と音を周波数成分に分けて解析・改善することを否定されており、また、

「電気音響再生の世界(歪み率など※筆者注)では100 倍も違うのに、(音のよさという※筆者注)結果に差がほとんど現れない、と言うパラメーターを頼りに長年研究開発を進めてきた」

と、間違った技術開発の方向性(技術スペック、品質特性での開発)に警鐘を鳴らしておられる。
(同書に歪み率と音のよさの相関のグラフが載っているが、まったく関係ないことが示されており、興味深い)

 その結果、現在の音響システムは、
「過剰に音域を分割され、加工された音。そのためにますます膨れ上がるシステム。システムとシステムをつなぐ、無数のケーブルとコネクター。迫力ある音を求め、巨大化し、グロテスクなほど飾りつけられ、そうして音は、どんどん壊されていく」
と述べられている(タイムドメイン社HPより)

 由井氏は「音源からの音を100%引き出し、ありのままに伝えること」というアタリマエの「音の基本機能」に忠実に技術開発を進めた結果、最高の(オーディオマニアでもあるビルゲイツに「自分の所有する50万ドル(当時7000万円)のオーディオと交換したい」とまで言わしめた)スピーカを完成させたのである。

 #こう聞いては、一度このスピーカーの音を聴いて見なければ気がすまないというものであろう。
 #正月休みに神戸の東急ハンズに展示されているシリーズ最高機種Yoshii9の音を聴きにいった。
 #ここでは個人的な感想を長々と述べるつもりはないが、巷の5.1chサランウンドシステムなど
 #という、作り物のわざとらしい臨場感にだまされてはいけないということだ。
 #そして、このスピーカーに魅了され、今年初の散財をする予定であることは 付け加えておこう。

 筆者は音の専門家でもオーディオマニアでもないが、由井氏の技術開発の方向性が良い製品に結実したのは、やはり基本機能に忠実であったからであろうと思うのである。

自分が開発する機能(製品ではない)の目的は何か。これを問い続けるべきである。

2007/01/08

今年度の抱負に代えて

本年度改めてよく考えてみたいことがある。

 まず、「現場力を鍛える 『強い現場』をつくる7つの条件」(著 遠藤 功)から抜粋しよう。
「戦略と実行は車の両輪みたいなものであり、切り離して考えること自体がナンセンスである。(中略)たとえロジックが完璧であっても、実行されない、できない戦略はそもそも戦略などと呼ぶべき代物ではない」

 品質工学が技術戦略と言われて久しいが、それを現場レベルの実行に落としこめている企業は一部である。どのように品質工学を推進していくかが、いまや学会内でも最重要のテーマの1つとして議論され続けている。

 つまり、品質工学のロジックや哲学がいくら完璧なものであっても、実行に移さなければ、移せなければそれは戦略とよぶに値しないというのである。

 同書からもう1つ引用すれば、
「誇りをもって泥臭い仕事をやってきた現場においても、自らの持ち味を軽視し、資源分散につながる新たな戦略に対する納得性は生まれない」
とある。
 品質工学を導入しようとして、組織レベル、個人レベルで有言無言の抵抗にあったことがあるであろう。これは品質工学のロジックそのものに対するNoというよりは、その実効性において、セミナーや書籍からの借り物のの品質工学では、現場の持ち味(適社性ともいう)にそぐわなかったり、現場の腹に落ちていなかったり(納得性ともいう)するからである。

 品質工学を勉強・推進するものはえてしてツールや数理の部分、さらにすすんでタグチフィロソフィーの奥深さに感動して、それを他人に教えようとすることに目が行きがちである。品質工学を実行レベルに落とし込むにはどうすべきか。当社オリジナルの品質工学と何かを今一度問い直し、それを作り上げ、実行に移していく、ありふれたテーマであるが、これが筆者の今年の重要課題である。

追伸
冬休みに06年度に読んだ本(雑誌・マンガなどは除く)を集計した結果、54冊であった。年初の目標が週1冊換算で50冊であったので、忙しい中でよく目標が達成できたと思う。かなりジャンルが偏っているとは思うが、今後このBlogでも読んだ本の中から、参考になるものがあれば随時紹介したいと思う。
なお、07年度に新たに攻めたい読書テーマは複雑系、経済物理学、科学論、比較言語学などである。

あけましておめでとうございます。

新年明けましておめでとうございます。

本当にいろいろありましてなかなかかBLOGが更新できていない状況ですが、本年もよろしくお願いします。

孫子の兵法に「敵を知り己を知れば百戦危うべからず」という有名が言葉がありますが、これはDOEとQEの関係にも当てはまるように思います。
DOEのように己(内側直交表:設計者の条件)だけでなく、敵(外側直交表のノイズや信号)も考えることて良い設計ができ、「百戦危うべからず」となるのではないでしょうか。これをSN比というレーダで見るのがQEですね。

QEを知れば知るほどその奥の深さにおののくばかりで、これからも「己を知る」ためにさらに勉強していこうと思っています。
今年もよろしくお付き合いください。