2008/07/24

新SN比の利点

新SN比の利点を思いつくままに列挙する。
ただ、「かんたんになる」というのは意図せざる追加の便益であるとは思う。

1. 信号水準数k、ノイズ水準数nによらずSN比が不変
(1)同一実験内でk,nが不ぞろいの場合に、実験の再現性が向上する。
(2)SN比を絶対値で捉えることができるので、別々の実験(MT法含む)のSN比を比較して論じることが出来る。

2. 動特性でk=1の場合、望目特性と一致する
(1)動特性と静特性の数式の上での区別がなく、数理に一貫性がある。
(2)計算プログラムが動特性/静特性共通のコードで表現できる。

3. 必ず真数部が正になるため、対数がとれない場合がない
(1)同一実験内で一貫性のあるSN比の求め方となるため、再現性が向上する。
(2)計算プログラムに場合分けが不要で共通のコードで表現できる。

4. 従来SN比の完全な代用となる
(1)信号を標準条件(平均値)にすると標準SN比として使用できる。
(2)信号をお客の使用条件にすると非線形効果も含めた動特性のSN比として使用できる。

5. MT法で用いられるすべてのSN比にも適用が可能なため、
(1)判別精度の評価の用いる総合SN比の事例間の比較が可能
(2)総合SN比の絶対値で精度のよいあしが議論できる
(3)項目毎η>0のため、すべての項目を予測に参加させることができる

6. 式の成り立ち(有効E/無効E)が理解しやすく、数理が単純
(1)初心者の学習が容易になり、QEへ入門するハードルが下がる。
(2)社内教育等でSN比の説明が容易であり、数理以外の本質的な部分の理解が妨げられることが少なくなる。
(3)自由度の計算がないため、その概念を理解する必要がない。また、計算間違いが少なくなる。

2008/07/19

従来SN比の問題点と新SN比の計算方法

 ゼロ点比例型 SN 比では、信号の大きさ(範囲)によって、SN 比の絶対値に影響が出ることが知られている。これに対して、信号の影響を補正して、誤差分散の逆数 1/(VN'/nr)とした標準 SN比では信号の大きさの影響を受けないようになった。しかし、標準 SN 比おいて信号水準数 k が変わると、品質(ノイズに対する安定性)が同じでも SN 比の値が変わってしまう。以上のような従来SN比の問題に関する検証を、「新SN比の研究(1)(2)」あたりで示した。

 これに対して今回提案したエネルギー比型の新しいSN比は、有用成分と有害成分の2乗和成分の比をとる。たとえば、全2乗和STを、感度Sβ、ノイズによる傾きの変動SN×β、それ以外の誤差変動Seに分解する(もちろん、必要に応じて1自由度単位まですべて分解してもよい)。技術の評価における有用成分がSβ、有害成分がSN×β+Se=SN'の場合、新SN比はその比をとって、Sβ/SN'となる。

 このような簡単な手続きで求めたSN比は、実は信号のスケールやデータ数の影響を受けにくく(Ve=0の線形なデータの場合はまったく影響を受けない)、またSN比の真数がマイナスになるこもない。機能性評価の場合は信号水準数 kが異なる場合には、機能性の利得の推定に問題がでる。また、パラメータ設計では実験条件ごとに信号水準数 k がそろえられない場合もある。このような場合に、新SN比の評価を行えば、かなりの部分で問題が解決すると考える。

 なお、新SN比は非常に値の小さいVeの補正をやめ、分母の分散(平均平方)を2乗和にしたものであるので、従来SN比は新SN比より、10log(nk-1)(db)だけ大きく表示されていた。信号スケールやデータ数がそろっている事例では、従来のSN比と新SN比の要因効果図は平行移動するだけで利得はほぼ同一である(Veの違いによるわずかな差が生じるが、通常は計算の最小桁以下の差である)。

※参考文献 鶴田他,「新SN比の研究(1)~(5)」,第16回品質工学研究発表大会

株式会社ジェダイト(JADEITE:JApan Data Engineering InstituTE)

2008/07/13

新SN比登場

 技術品質の新しい評価尺度としてエネルギー比型SN比を学会に向けて提案した。多くの聴講者の来場と反響の大きさに驚くとともに、有益なご意見やアドバイスを多数頂き感謝している。その上、大会実行委員長賞まで頂き、品質工学の研究者として大きな励みとなっている。

 賞をいただいた原和彦大会実行委員長より、下記のようなコメントをいただいた。「新SN比の研究に対して文句をつける方が学会幹部に多いのだが、そのような方は何故だめなのかご自分の意見で反論しない。『田口博士がダメだというから駄目だ』では理由にならない。これからたくさんの事例で検証してその良さを認めてもらえる努力をお願いする。これからも進化発展は続くと思うが皆さんの力が必要だ。」

 今回提言した古くて新しいSN比は、ひとことで言えば「SN比の絶対値化」である。技術品質の相対比較に用いられてきた従来のSN比を、ノイズによるデータの変化率という観点で絶対値化することで、損失関数との整合性や、データ数によって変化する影響を改善した。つまり摂氏温度のように差だけに意味があるのでなく、絶対温度のように原点や比にも技術的に意味を持つ絶対尺度となった。また、SN比のもともとの意味である「有効エネルギーと有害エネルギーの比」になったことで、理解が容易になった。

 新しいSN比では計算方法は完全な記述統計となった。技術者導入した評価空間をユニバースとして、そこに現れたデータの平均とノイズによる変化をそのまま認めるのだと理解した。つまり技術者は、評価空間の中では分布を超越したユニバースの創造主である。これは品質工学の主張する、能動的で強い誤差因子の考え方や、評価の効率性追及、技術者の責任論に完全に符合すると気づき、品質工学の思想や戦略の深さに驚いた。

 我々は研究の中で、新しいSN比と損失関数の一致を示したが、それでも技術品質の真値は常に不明であり、その予測が品質工学の命題である。実際の損失を新しいSN比で評価できているのかどうかは、予め正解が存在する数理の問題ではない。SN比も損失関数も現実の品質に対する1つのモデル(仮説)に過ぎない。これに関しては、多くの事例の中でその妥当性を検証していく必要があると思っている。

 新SN比の内容は、その誕生のいきさつなどは、おいおい紹介していきたいと思う。