2010/07/28

エネルギー比型SN比をNGと判定された理由

2008年にエネルギー比型SN比を提案した当初、ある学会幹部の方が、病床の田口博士にその是非を伺いにいったそうである。結果は「NG」(両手を公差させるジェスチャー)であったと伝え聞いている。

その後、このことはいろんな憶測を呼んでいるが、これは思うに、エネルギー比型SN比の内容に二つ返事でNGを出されたのではなく、技術とは独立にSN比のみを議論することは品質工学にはない、と仰りたかったのではないか・・・と最近思うようになった。

この秋にも、学会誌上で議論が始まるはずである。

2010/07/27

【今日の言葉061】

もし貯金が1億円あればやらないことは、やらなくてもよいことである。

山崎将志「残念な人の思考法」より

1億円あっても品質工学、やります。(逆は真ならず)

実験計画法第3版の印象

 前書きに述べられているように、「千差万別の実験データの解析法をただひとつの指導原理のもとに統一する」ことが目指されている。
  第3版で追加されたもののうち、第24章の「ダイナミックな特性とSN比」の部分が現在の品質工学との架け橋になっている。
 動特性のSN比(この時点ではまだゼロ点や理想機能の概念は明確には出てこないが)、誤差因子、2段階設計の考え方などが萌芽している。

 面白いのは、本書の内容からわかるように、前版からかなり進歩させた渾身の作であるはずだが、先日再読した「タグチメソッドわが発想法」には、”第2版の演習問題の模範解答集が出回ってしまい、面白くないので演習問題をすべて差し替えて加筆した第3版を出した”・・・というような内容が述べられている。この理由はかなりユーモアが感じられる。第4版を期待したい方は、第3版の演習問題の模範解答集を出されるとよいかもしれない(冗談です)。

 内容の個々についてもいくつか気づきがあったし、現在の品質工学では常識になっているがまだそこまで思いが至っていないように見える箇所もある(昭和51年の著書なので当然だが。ちなみにそのとき私は今の娘と同じ小学1年生)。

 第3版は参考文献や引用などでよく使用され、ある種の教条化がなされてる場合があるが、ここに書いてあることが最終結論ではないことは留意しておくべきである。その後もかなりの頻度で品質工学は改善されているのだ。思考停止してはいけない。

2010/07/25

【今日の言葉060】

  田口玄一著「田口メソッドわが発想法」より。その4です。

●(フォーラム・学会の設立にあたり、)市場品質に関係のある機能の確実性に対する工学だけにしぼるべきだということで品質工学という言葉に決まりました(p.211)
●議論もどちららが正しいかではなく、どちらが効率が良いかで討論してほしいと思います。(p.211)
●日本の企業を見ていると、技術者にたくさんの仕事を与え、会社が要求した仕事を行わせている。結果的に、行われているのは創造的技術の開発ではなく、要求した通りの物を作るための製品開発なのである。技術を開発するためには基本的に自由がなければならないことを、日本の経営者は肝に銘じる必要がある。もちろん、自由には責任がともなうことを忘れてはならない。(p.225-226)
●生産性があがれば、部分的に失業者が増えるのは自明の理なのだ。ただし、失業者に新しい仕事を与えることが前提条件である。(p.226)
●研究部門のマネジメントの仕事は、個々の設計や生産技術を担当するのではなく、テーマ選択と広い範囲の開発研究に役立つ方法を担当者に与えることである。(p.228)

…ふう、200数十ページの本1冊にこんなに示唆に富むメッセージがこめられていました。11年前の著書ですが、現在でも輝きを失うどころか、今まさに日本の製造業が直面している問題をずばり言い当てているように思います。

【今日の言葉059】

  田口玄一著「田口メソッドわが発想法」より。その3です。

●営業はマーケットシェアに責任があり、製造は原価に責任がある。(p.133)
●生産性は不合理なことをしたら絶対に増加しない。生産性の増加は、技術の開発やよりよい製品の開発、コストと品質のバランスなどによってもたらされる(p.151)
●現在の中国のものづくりに関していえば、機械設備などは非常に新しいものが導入されているものの、品質を含む生産性の分野や新しいものを設計する問題では、まだまだ遅れている(p.154)
●105グラムで原価計算したものを100グラム入りだと言って売りつけるのは「詐欺」的行為に等しいことが分かる。「おまけ」という考え方は後進国の考え方であり、・・・目標値どおりであることが非常に重要になる。目標値よりも大きくても小さくても損害が発生する。(p.172-173)
●工場での不良品とは、実は品質問題ではなく企業側のコスト問題なのだ。(p.181)
●不良品の集団の分布を評価しても意味がないということである。…だが、良品だけは非常に似ている。この似ている集団でマハラノビス空間を作り、そこで個々の不良品の距離を測ることがもっとも重要なことなのである。私にこのようなアイデアを与えてくれたきっかけは、昔読んだトルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭の一説である…「幸福な家庭はすべて互いに似通ったものであり、不幸な家庭はどこもその不幸のおもむきが異なっているものである」(p.199-200)
●(時計の誤差の分布モデルは)連続無限次元空間の分布となり、統計的には取り扱えない。…だが誤差なら簡単に求められる。…環境温度といったノイズの影響でばらつくのであり、その影響を小さくすることが大切なのだ(p.214)

【今日の言葉058】

  田口玄一著「田口メソッドわが発想法」より。その2です。

●日本の企業が海外へ生産拠点を移すことに、私は否定的な考えを持っている。…日本国内より条件が悪い海外では、生産速度のアップによる生産性向上は望むべくもないからだ。安易な海外進出は自社従業員の解雇につながる(p.74)
●信用できるかどうか不明確な一因子実験の情報で物をたくさん作ってしまって失敗している事例は枚挙にいとまがない。…直交表には二つの目的がある…第1の目的は下流条件への再現性の計算である。第二の目的が、外側に割り付けた因子との交互作用を求めさせて制御因子の主効果を用いさせないようにする効果で、それによって安定性の評価の妥当性を確保するのである。(p.97,99)
●シャノンやフィッシャーの論文に接して、通信理論の概念を直交表を使った実験計画法に移植することを思いついた(p.119)
●デジタル通信でのSN比をどのように計算するかの計算方法を明らかにした上で、通信の世界で定義されているSN比をもっと広い範囲で使うべきだとも述べた。(p.121)
●(ヒ素ミルク事件やカネミ油症事件のように)まったく予測できないことから発生するのが重大な公害問題であり、品質問題なのだ。予測できない問題は、技術では防ぐことができない。そうした予測できない問題を担当するのが、本当の品質管理部門の責務だと私は考えている。(p.131-132)

【今日の言葉057】

 田口玄一著「田口メソッドわが発想法」を約10年ぶりに再読した。以下、気になったメッセージを抜粋しておこう。(その1)

● 要は「自由の生産性の追求」に役立つかどうかなのである。(p.13)・・・人は自由であらねばならない。それが私の信念だ。(p.36)
●私の考えを実証する1つの例として「現在ベル研究所で、一番困っている問題をお手伝いさせてほしい」と、強く申し入れた。「最初の一歩」を踏み出させるためには多くの労力を要する。関係者を納得させて、かなり複雑な実験をさせなければならないからだ。(p.21-22)
●(昭和44年、海軍水路部の仕事で、)星の位置からどれくらいの精度で航空機の位置が確認かできる実験を行うため(中略)・・・最小二乗法に強い興味をもった。(中略)・・・「誤差の絶対値ではなく、なぜ誤差の二乗なのか」という疑問が頭の中に残った。これが後に「損失関数」という考え方に発展する。(p.33-34)
●(厚生省の衛生統計課のお仕事で)参考にする文献もない中で、手探り状態で導き出す作業の連続である。知識が試されるのではなく、実際問題に対する応用力が求められたといってもいい。そうした経験を重ねる中で、「何でも来い」といった自信めいたものが生まれていった。(p.41)
●私はサイエンティストを目指すのではなく、技術に寄り添って生きていきたいと強く考えるようになる。(p.44)
●(ベル研がワイヤーリレーの開発に失敗したのは)お客の使用条件、使用環境や試用期間を誤差条件(ノイズ)と考え、それらへの対策を考えたテストを行わなかったからだと断言できる。(p.66)

(その2に続く)

猛暑にはキンキンのスパークリングを!


 暑いですね~。こういうときには炭酸が旨いですね。
写真のスパークリングワインは、「ドュック デ フォワ ブリュット」。近くのリカーショップで1200円ほど。辛口ですっきりしていて、涼をとるのには最適。

 料理は手前右は冷製パスタ。上地雄輔が以前「はなまるマーケット」に出演したときに「今日のおめざ」のコーナーで紹介していた、横須賀Y'sさんのパスタ(おっ、なんかこういうのはブログっぽいですねえ)・・・をTVの見よう見まねで再現したもの。しょうが風味の和風ソースにからめたパスタの上にマヨネーズであえたえびとイカ、大葉、トマト、レモンなどをトッピング。実物とれくらい一致しているかわかりませんが、おいしくて結構リピートしています。

 手前左は豚肉をマリネしてローズマリーで焼いたもの。奥は三田屋のロースハム。新たまねぎのスライスを添えて。

 とはいいつつ、毎日スパークリングワインというわけにはいきませんので、角ハイボールでこの暑さを乗り切ります!


 


2010/07/18

SN比40dbは信号/ノイズ比が1万倍(by Dr.Taguchi)

 ある方に、田口博士の「タグチメソッドわが発想法」もよく読むように、と言われていたので、初心者のころに読んだのを引っ張り出してきた。

 やはり気になるのはSN比の記述、ということでp.159.
「例えば40デシベルとは、出力の中で信号の大きさがノイズの大きさの1万倍に当たるときである。」
とある。

 そのあと、動特性の事例としてステアリングの話が出てくるので、これは動特性に対する記述であろう(もちろん静特性でも同様の議論は成り立つのだが)。

 田口博士の動特性のSN比の基本式は、β^2/σ^2 である。これはp.166にも説明されている。しからば、あるβのデータに対して、データを取る範囲を狭く(または小さく)した場合のσは小さく、範囲を広く(または大きく)した場合のσが大きくなる(これは数理的にというより技術論として)。その場合に、β^2/σ^2が絶対値としての安定性の尺度として意味を持たないのは自明である(なので、信号範囲が比較対象間でそろっているときのみ、その利得は意味があり、そのような場合で使用できることも周知である)。

 さて、上記p.159の記述は何を意味しているか。「信号の大きさ」「ノイズの大きさ」はそれぞれエネルギーやパワーを示していると考えて差し支えなかろう。つまり、信号の反応である「有効なエネルギー成分」と、ノイズの反応である「有害なエネルギー成分」の比のことであろう、

 SN比の計算の世界では、このエネルギー(パワー)とは、データの2乗(和)であらわされる。すなわち、「有効なエネルギー成分」は出力のうち、有効な変動の2乗和であり、Sβという記号で表される。また、「有害なエネルギー成分」は出力のうち、有害な変動の2乗和であり、SNという記号で表される。

 つまり、冒頭の表現は、Sβ/SN=10000 と言っているのである。このSβやSNに何の補正もかけずに、常用対数をとって10倍してみよう。10log(Sβ/SN)=40db となる。つまり冒頭のSN比の説明は、われわれがエネルギー比型SN比と言っているものである。すでに数10年前の田口博士の著書(「統計解析」など)にはこの式の記載があり、これはSN比の原義、原点なのではないかと考えられる。このSN比の特徴については以前の記事で述べた次第で、一定の価値を確信している。

 なお、本章のステアリングの事例で、信号である操舵角が小さい場合と大きい場合の機能性二間して別々に議論されているが、制御因子が共通の場合は1つの評価尺度が必要で、そのような場合は「総合損失SN比」で評価できることをQES2010で提言させていただいている。

2010/07/12

ついに実験計画法第3版を入手

 これまで、新版(第2版)の上下は秋田県の古本屋で(もちろんネットで)見つけて所有していたのであるが、この版ではまだノイズ因子やSN比の話は出てきておらず、よく言われる「実験計画法第3版の時代からもう品質工学の原型は出来上がっていた」ということが確かめられずにいた。

 先日の研究会で勧められた、西堀栄三郎氏「技士道十五ヶ条」をネットで調べていたら、山梨県の古本屋に、上巻だけだが第3版が1500円で売っているではないか。そうなったら、下巻だけどこかにないかと、Yahooオークションをみたら、これまた都合のよいことに下巻が1冊だけ買ってください、と言わんばかりに即決価格で5000円で出品されていた。もちろん即ゲットした。

 何を本2冊をうれしそうに、とおっしゃるなかれ。通常だと古書でもプレミアがついて上下で20000円以上するのだ(現在はAmazon古書でも売り物自体がないようだ)。

 数日中に手元に届く予定であるが、まずは(知る人ぞ知る)下巻のp.538を見てみるつもりである。

2010/07/11

説明の妙

長谷部さんが信頼性学会に「品質工学から見た加速試験の課題と展望」を寄稿している。
この学会は親切なことに一定期間たつとネットで論文の全文を読むことができる。
#CiNiiから「長谷部光雄 信頼性」で検索

詳細は上記から検索して見ていただくとして、
毎度ながら驚かされるのは、説明の角度、多彩さだ。

この論文ではパラメータ設計をニューラルネットとのアナロジーで説明している。

ほかの著書を持ち出すまでもなく、1つのことをいろんな表現で説明できる
というのは、ものごとの本質をよほど深く捉えていなければできることえではない。

「周りが理解してくれない」ではなく、自分の言葉を持つ重要さを
改めて感じたしだいである。

2010/07/03

「設計されたデータを取得する」とは

 「ベーシックタグチメソッド」などのわかりやすい著書で有名な長谷部光雄氏が、「標準化と品質管理」誌に、「初心者のための品質管理講座」を連載中である。今月号はその第4回であるが、そのなかにナルホドとうなる表現があった。

 「技術者の仕事、つまり製品開発のためのデータ解析では(※科学のための解析ではない:下名注)、データ構造が有効に設計されているかどうかが重要なのです。(中略)判断を下すために必要な要素を設計し、たとえ収集しにくくても対応するデータをを集める必要があるのです。」(標準化と品質管理,63,7,p.110,2010)

 今回の講座までに主に「機能をどう考えるか」の話が展開されており、結びのところで上記のように記載されている。初心者のための品質講座なのだから、多少不親切な表現に見えるが、、次回以降への伏線にもなっているのだろう。

 つまり、機能(システムの働き)を測るということと、わざと積極的に極端な条件を与える、というノイズ因子の考え方である。これらは計画的に設計されたデータである。その説明が次回以降に分かりやすくなされたときに、上記引用の意味がわかるという、ちょっと推理小説的な仕組みなのではないだろうか。

 小説といえば、最近出版された「技術者の意地」も、小説仕立てでわかりやすく、お奨めである(ただしエンディングはちょっと陳腐だったかな)。

夏の定番:牛たたきの野菜巻き


 以前紹介した、家の近くにあるいきつけの「小川屋」の牛肉ですが、夏になるとさっぱりとタタキでいただきます。付け合せのタレは、タタキ用のタレににんにくのキザミが入れたのと、わさび醤油。にんじん、きゅうり、白髪ねぎ、大根などの千切りを巻いていただきます。

 サイドメニューは、これも定番の「再度メニュー」とでもいうべきか、アボカドのグラタンです。

 ワインはサッカーシーズンだからという訳ではないですが、珍しくアルゼンチン産「サンタ・アナ・マルベック2009」。ちょいと冷やしめにしてグビっといただきました。

 W杯もいよいよクライマックスが近いづいてきましたが、さてどうなるでしょうか。日本なき今、ドイツ特に強烈な攻撃スピードをもつエジルに期待しています(と、にわかファンが言ってみる)。