2022/12/28

超実践品質工学の必要性③

  超実践品質工学の必要性③(つづき)

 そこで本書(「これでわかった!超実践品質工学」)では,理想論の立場ではなく,現場や実務者の立場を徹底します.つまり,これは実際に実行に移し,成果を出すための実務者のための書です.それゆえ意図的に「タグチイズム」から逸脱した場所もあります.筆者の思いは歩留り2割の部分を少なくとも8割にすることにあります .その中で読者のみなさんがいろんな気づきを得,実際に行動に移してしていただければこんなに嬉しいことはありません.

 さて本書は品質工学の中でも「機能性評価」と,それを中心に据えた設計・開発プロセスの革新・改善を扱っています.「機能性評価」はとても難しい言葉なので,「機能の安定性評価」あるいは「技術の実力の見える化」といってもよいと思います.この機能性評価をまず正しく理解し,実力の見える化を設計・開発の初期段階で実施することで,悪い部分は早い段階(やり直しが利く小さな段階)で直し,開発の最終段階での手戻りやお客様の使用段階での不具合を無くしていくことを狙っていきます.ベースである機能性評価がうまくいけば,直交表を使ったパラメータ設計も成功しやすくなります.また改善だけなら直交表を使わずとも機能性評価だけで可能であることも示します.あの面倒な―――というと語弊がありますが,実際たくさんの設計を試作・評価しなければならないので敬遠されがちな―――直交表の実験をしなくてもよいというだけでも,実務適用でのハードルがうんと下がるものです.直交表を使わない品質工学といってもいいですね.


2022/12/26

超実践品質工学の必要性②

 超実践品質工学の必要性②

(つづき)

 確かに,そのような技術開発が現実に行えるのなら最高です.それが究極的に目指すべき方向性であることも理解できます.しかし,とてもではないですが,筆者は前記のような設計・開発の現場に,これらの理想論をそのまま提案することはできません.それでも「困っている」現場―――もはや設計変更もほとんどできず,納期は迫り,なのに性能や品質が確保できていない状態―――では,藁をもすがる思いで品質工学らしきもの(これが単なる直交表実験を指していることが多い)をやってみよう,ということになることはあります.しかし,生半可な技術力,見よう見まねのやり方で実施してもうまくいくはずもなく,結局「品質工学は役に立たない」,「うちの現場にはレベルが高すぎる,難しい」,「うちの製品(技術)は特殊だから」などとして,やめてしまうのがオチなのです.無駄にした時間は帰ってきません.そのような経験は,一度でも社内で品質工学を試してみた方,人に勧めてみた方なら体験しているのではないかと思います.また上記のような理想的な開発が一気通貫で行えている事例が発表されているかというと,これが非常に少なく,また適用分野も限られています .そのため,推進・指導する側も,「本当に品質工学が提唱するような理想的な開発が行えるのだろうか」と疑問をもつことになるのです.

 さてパレートの法則によれば,社内教育やセミナーや本での自習などで品質工学に出会った人の中で,それを理解して「いいね」とアンテナが立つ人が2割くらいでしょうか.その中の2割が実際に行動を起こします.その中のさらに2割が品質工学でなんらかの成果をもたらすと考えると,成功するのは品質工学に何らかの形で触れた人の約1%という狭き門となります.こうなる理由はさまざまありますが,それでも残り99%の人には品質工学は不要な考え方なのでしょうか.非常に高度な技術力と倫理観をもつ一部の有能な技術者,リソースが潤沢にある開発組織,崇高な技術理念を実践できる企業だけのものなのでしょうか.品質工学は故田口玄一氏が半世紀を費やしてほぼ独力で創造した,技術論・方法論の結晶です.これを一部の技術者,組織だけのものとするのは余りにもったいないと考えるのです.より多くの方が,より広い範囲で品質工学を設計・開発の現場では使い,成果を出せないものだろうかと.(つづく)


2022/12/25

超実践品質工学の必要性①

 超実践品質工学の必要性①

  製造業の技術開発・製品設計・開発(以下,「設計・開発 」)の現場とはどのようなものでしょうか.実際,これらの現場の技術者は非常に多忙です.設計・開発のメインの業務以外にも,情報収集から企画,開発の管理,試作の手配,業者とのやりとり,部品や製品評価,不具合が起こった場合の対応,ドキュメンテーション,デザインレビューの対応,担当部分とのインターフェースとの調整,定例会議での報告(書いているだけで疲れてきた!)…等々,すべてを一人でやらなければならない場合も多いのが実情です.その中で,競合に打ち勝ち,成果を出さなければならないのです.

 その一方で,設計・開発における評価の効率化や,それによる製品品質の確保・向上,コストダウン等に品質工学(タグチメソッド)とよばれる,技術の評価・設計の方法論が紹介され,また期待されてきました.2000人規模の学会員を擁する品質工学会で数多くの事例が発表され,製造業で一定の成果が上がっているようにも見えます.いくつか品質工学の本やネットの記事を読んでみればわかることですが,品質工学は多くの点で理想論を提示しています .また想定する技術者のレベルも非常に高く想定しています .つまり正統な品質工学では,たとえば以下のことを要求しているのです(初心者の方へ:この箇条書きは,難しければ飛ばしても大丈夫ですよ!).

・すべての品質特性(燃費や騒音や発熱や寿命のような各種スペック)を一挙に改善できるような,本質的な“技術的な機能(働き)”を考える(生み出す)こと.【基本機能】
・そのような機能を改善する(すなわちすべての品質特性が良くなる)ような,設計をすること.そのためには,革新的な新しいシステム(技術的な手段)を考える(生み出す)こと.【システム創造・システム選択】
・そのようなシステムには,設計パラメータ【制御因子】間に悪い副作用【交互作用】ができるだけ少なくなるように,すなわち効果が期待した通りに再現するような設計をすること(【再現性】).その検査を直交表によって行うこと.【パラメータ設計】
・その検査の結果,交互作用が大きい,再現性が悪いとなった場合は,それは信用ができない技術なので,設計を見直すこと.
・しかもこれらのことを,製品設計が始まる前の,技術開発の段階で実施しておく(【先行性】)ことで,どんな製品にでも使える【汎用性】のある技術として準備しておくこと.

 確かに,そのような技術開発が現実に行えるのなら最高です.それが究極的に目指すべき方向性であることも理解できます.しかし,・・・(つづく)


2022/12/21

「超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」⑩(さいご)

 「超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」⑩(さいご)

 5.3 設計品質リーダの人財育成を

 筆者が運営する株式会社ジェダイト(以下,弊社)では,設計品質リーダを育成する社内教育(研修と実践テーマのコンサル)を通じて,以上の活動を牽引できるような人財育成や活動のしくみ化を,国内の大手製造業を中心にトータルに支援している.
おおむね1社につき1期(1年)で10名前後の受講生を募り,月1回(人数により1~2日)の塾形式で実施している.上半期は主に実践テーマの抽出と計画の期間である.自職場の現状分析・問題定義・根本原因究明から真に解決すべき課題をあぶりだし,改善実践の提言として計画にまとめていく.平行して計画や実践に必要となるツール(機能性評価など)の講座を実施していく.
下半期は上半期の計画にもとづいた実践を各自の職場で行う.コンサル形式の実践検討会において,各自のテーマの進捗状況を確認,相談事項に対してディスカッションを行い,次のアクションを明確化していく.最終月には成果報告会を実施し,経営幹部やマネージャに参加いただく.各テーマの成果をさまざまな指標により金額で定量化し,本活動の費用対効果を見えるようにすることで,活動の継続を経営幹部にも再確認いただく.一例として,ある電気関連機器メーカーでは1期10名の受講者の成果(見込み)金額は約22億円と試算された.
以上をヒントとして社内推進方法を推進メンバーで再考いただくのもよいし,社内にそのような部隊がない,あるいはゼロからのスタートという場合でも遠慮なく弊社にご相談願いたい.

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本記事の全文は下記よりダウンロードしていただけます。

超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」(6ページ)

(日本経営工学会の了承済)。

弊社が推奨する超実践品質工学の概要と、社内で推進するためのポイントをわかりやすく解説しています。
書籍「これでわかった!超実践品質工学」も好評発売中。

2022/12/18

「超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」⑨

 「超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」⑨

5.2 社内推進を成功させるポイント

 以下,前節の七つ特徴に対応させて,活用や推進をうまく進めるためのポイントを示す.

品質工学を活用する目的や,その必要性を理解,明確にして実施できるように説明する.そのような説明ができる講師の育成または招聘が必要.目的に合ったところで使用することになり,成果に結びつきやすい.また手段について納得して進めることになるので,やらされ感は少なく,自主性や継続性につながりやすい.もちろん,目的に応じて品質工学以外の管理技術も同時に使用していくことも重要である.

直交表にこだわらない運用の推進.品質の見える化(機能性評価)と比較による設計改善に重点を置いた活用を実施.直交表の活用は設計改善・最適化のためのオプションと位置づけ,強要しない.教育研修では機能性評価の背景や考え方を中心とする.パラメータ設計等の手順はツール化してだれでも活用できるようにする.

言葉や説明のしかたの重要性を認識.用語の意味を理解し,必要に応じて一般技術者が理解しやすい用語に置き換える.推進者・講師は,企業の文化や状況を考慮して,相手の立場に立った説明を行うことが必要.

講師の経験・体系化レベルは十分か.講師は十分な経験と考察にもとづいて,知識を体系化できており,実務で本当に必要な知識や困ったときの対処方法などを実践的に教えられる.機能の定義方法,ノイズ因子の抽出法,交互作用への対応方法などについて実用的なガイドラインや解決手段を豊富にもっている.

エネルギー比型SN比の活用.計算は一度理解したらツールに任せる.教える側も教わる側も負担が減り,計算よりも本質的な部分,アタマを使うべき部分に費やす時間を増やせる.

経営的な成果にコミットした活動.現状分析から「何をなすべきか」を明確にし,そこから目標値を設定する.成果を必ず金額で定量化することが仕組み化されており,定期的にそれらが集計・評価され,経営幹部に報告される.

計画に入れて実施することと,しくみの整備が重要.ボトムアップの場合であっても,少なくとも実施担当者の上長とスケジュール,リソース,成果について握り合って,進捗がフォローされていることが必要.トップダウンの場合,まずトップにより目的や適用展開の枠組みが明言することが重要であり,各階層でそれが理解,腹落ちされること.リピートや横展開や後進育成のしくみを整備し,自主的なリピートや展開につなげていくことが必要である.


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2022/12/12

「超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」⑧

5. 品質工学の推進と展開

5.1 社内推進がうまくいっていない組織の特徴

品質工学を社内で推進しようとしても,腰が重い,実施したとしてもリピートや定着に繋がらないなどの問題を散見する.以下筆者の指導経験に基づき,活用や推進がうまくいっていない組織の特徴についてまとめた.

手段ありきで,目的や必要性が分からずに「手法を適用」している.やらされ感ばかりでやる気が出ず,リピートにつながらない.その結果,活動が成果に結びついていない.

品質工学といえばすぐに直交表実験と考え,それを強要しがち.教育研修でも,直交表実験の手順を教える傾向が強い.

定義や意味をよく考えずに専門用語を濫用している(特に「基本機能」,「設計品質」など),田口玄一の言説を受け売りする推進者・講師.「失敗したことが成果」,「技術力がない証拠」などと場をしらけさせ,実践者のやる気をなくさせる.

講師の実践経験,知識体系化レベルが低く,手法の表面的な説明や,天下り的な教科書の説明に終始.明示的な手順や数式以外は,「担当者が考えること」と責任を丸投げしてしまう.

田口のSN比にこだわる(あるいはそれしか知らない)ため,自由度,期待値,純変動といった,設計・評価の実務には無用な知識を説明しなければならず,講座が冗長・退屈になる.その結果,教育に時間を浪費し,受講生は数理が理解できず挫折したり,品質工学は難解という印象をもってやらなくなったりする.

計画時にテーマの位置づけや目標値が明確化されないまま,目先の困っているテーマでもって,見切り発車のまま手法を当てはめる進め方が目立つ.「なんとなく良くなった」レベルで終わっている.経営幹部に成果が見えていないので活動に対して半信半疑である.

しくみがない.ボトムアップでは,推進者と担当者の直接取引のような形で,職制が関知しないまま実施するため,進捗が職制としてフォローされず,他の仕事が優先されるなどしていずれやらなくなる.トップダウンの形をとっている場合においても,特に中間管理職層で腹落ちできておらず,形だけ担当者にやらせる状況に陥る.その結果,よほどマインドに優れた担当者,職制でないと自主的なリピートや展開につながらない.

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超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」(6ページ)

(日本経営工学会の了承済)。

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2022/12/11

「超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」⑦

4.6  機能性評価の使いどころと効果

以上のような機能定義,ノイズ因子設定,SN比定義を実験計画段階でしっかり実施しておくことが,評価の手戻りを防ぐために重要である.これをP-diagramと呼ばれる図(図4)にまとめて,機能ブロック図や特性要因図等とともに関係者でレビューするとよい(図1の右上参照).

 機能性評価の主な使いどころは,設計・開発の初期段階における,短時間での設計の見える化・改善と,購入部品の選定である.さらに直交表を用いたパラメータ設計(機能の安定性の改善)を実施する場合も,ベースは機能性評価であるため,その実験計画の質が重要である.

図4 P-diagramの例

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超実践品質工学の概要とうまく推進するためのポイント」(6ページ)

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