2026/08/30

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑥

 3.新規テーマを発見する方法

3-1.テーマ探索の基本構造

ここまで、新規研究開発テーマを考える際には、製品そのものではなく、その背後にある技術資産や、顧客が現場で抱えている損失を見るべきだと述べてきました。

では、実際にはどのような順序でテーマを組み立てればよいのでしょうか。

基本となる流れは、次のように整理できます。

生産・人材・規制の変化
製造現場の損失
必要な機能・情報
自社技術との接点
研究開発テーマ
機器・ソフト・サービス


一見すると当たり前の流れですが、研究開発テーマの議論では、この順番が逆になっていることが少なくありません。

最初に「技術」を置かない

たとえば、「生成AIが流行しているから、生成AIを使ったFA機器を考えよう」というテーマ設定があります。

これ自体が悪いわけではありません。しかし、この段階では顧客にとっての価値がまだ見えていません。

そこで、出発点を一つ前に戻します。

たとえば製造現場で、

「熟練保全員が減っている」
「設備停止時に若手では原因を特定できない」

という変化が起きているとします。

ここから発生する損失は、設備停止時間の長期化です。

すると必要になる機能は、

「異常発生時に原因候補を絞り込む」
「過去の類似故障を検索する」
「復旧手順を作業者に提示する」

といったものになります。

ここまで来て初めて、自社が持つHMIPLCログ、設備データ、保守履歴、AIなどとの接点を考えます。

その結果、

「設備異常時に、過去の故障履歴と制御ログから原因候補と復旧手順を提示する保全支援システム」

といった研究開発テーマが見えてきます。

生成AIは、その中で使う技術の一つにすぎません。

「変化」から「損失」へ落とす

テーマ探索で重要なのは、社会や市場の変化をそのままテーマにしないことです。

「人手不足」
「脱炭素」
DX
「サイバーセキュリティ」

こうした言葉だけでは、範囲が広すぎます。

たとえば人手不足であれば、

人が足りないために何が起きているのか。

段取り替えに時間がかかる。
復旧できる人が限られる。
検査工程に人を配置できない。
設備の巡回点検が減る。

といった具体的な損失まで落とします。

脱炭素も同じです。

「省エネルギー対応」というだけではテーマになりません。

どの設備で、どのエネルギーが、なぜ無駄になっているのか。

待機中のモーターかもしれません。
エア漏れかもしれません。
必要以上の加熱かもしれません。

損失を具体化すると、必要なセンシングや制御が見えてきます。

損失から「必要な機能」を考える

次に、いきなり製品へ進まないことも大切です。

「設備停止を減らしたい」から「新しいセンサーを作ろう」と飛ぶのではありません。

その前に、

顧客は何が分かれば、あるいは何ができれば、その損失を減らせるのか

を考えます。

たとえば設備停止であれば、

異常の予兆が分かる。
劣化部品が分かる。
残存寿命が分かる。
故障原因を短時間で特定できる。

といった機能が考えられます。

ここではまだ、センサーなのかPLCなのかクラウドなのかを決めません。

この「機能で考える」という一段を入れることで、解決手段の幅が広がります。

そこではじめて自社技術を重ねる

必要な機能が明確になったら、自社の技術資産を重ねます。

たとえば、

振動計測が得意。
モーター制御データを取得できる。
PLC
内部の制御状態を詳細に把握できる。
大量の設置機器を持っている。
修理履歴を蓄積している。

といった強みです。

すると、

「一般的なAI会社でもできるテーマ」と、
「自社だからこそできるテーマ」

を分けられます。

この違いは非常に重要です。

新規研究開発は、単に市場が大きいテーマを選べばよいわけではありません。

市場ニーズがあっても、自社に優位性がなければ価格競争になりやすい。

逆に、自社技術が優れていても顧客損失が小さければ、事業にはなりにくい。

顧客の困りごとと、自社固有の技術資産が重なる場所を探す必要があります。

研究テーマと商品を分けて考える

もう一つ重要なのは、「研究開発テーマ」と「商品」を同じものだと考えないことです。

たとえば研究テーマが、

「加工状態の変化をモーター電流から検出する」

だったとします。

この成果は、最終的にはさまざまな形になり得ます。

サーボアンプの新機能かもしれません。
PLC
のソフトウェア機能かもしれません。
設備監視用エッジ端末かもしれません。
月額課金の診断サービスかもしれません。

つまり、

研究開発テーマの出口は、一つの機器に限定する必要がない

ということです。

研究段階では「どんな機能を実現するか」を中心に置き、商品化段階で最適な提供形態を考えた方が、テーマの可能性を狭めずに済みます。

一本の線でつながるテーマは強い

良い研究開発テーマは、説明すると一本の線でつながります。

「なぜ今それが必要なのか」
「顧客は何に困っているのか」
「何ができれば解決するのか」
「なぜ自社がやるのか」
「最終的に何として提供するのか」

この五つに無理なく答えられるテーマは、研究開発だけでなく、経営会議でも説明しやすいテーマです。

逆に、この途中に飛躍がある場合は注意が必要です。

AIが伸びているからAIテーマをやる」
「競合が始めたからクラウドをやる」

というテーマは、その典型です。

新規テーマ探索とは、未来予測のコンテストではありません。

環境変化と顧客損失を、自社技術を通じて事業機会へ変換する作業です。

この基本構造を押さえておけば、流行技術に振り回されにくくなります。

では、その最初の材料となる「テーマの種」は、具体的にどこから拾えばよいのでしょうか。

顧客の声だけではありません。営業情報、故障履歴、法規制、競合動向、技術ロードマップ、現場観察など、テーマの発生源はいくつもあります。



次回は、「3-2.テーマの発生源」として、研究開発テーマの候補をどこから見つけるかを整理していきます。


※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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