第3章 技術テーマではなく「顧客の損失」を探せ
― 儲かるプロダクト企画は、技術ではなく「困りごと」から始まる
研究開発テーマは、どこから生まれているのか
企業の研究開発会議に出ると、よく目にする光景がある。
新しい材料が見つかったので用途を探したい。AIを使った新製品を考えたい。競合が取り組んでいるので、自社でも始めたい。社内に長年蓄積してきた技術があるので、それを生かせる市場を探したい。
どれも研究開発テーマとして不自然ではない。
実際、優れた技術シーズから新しい事業が生まれることはあるし、技術の蓄積そのものが企業の重要な資産であることも間違いない。
しかし、一つ注意しなければならない。
「技術があるから、それを使える製品を考える」という順番だけで研究開発テーマを作ると、技術的には魅力的でも、事業としては弱いプロダクトが生まれやすい。
技術者にとって面白いことと、顧客がお金を払いたいことは同じではないからである。
前回、研究開発とは本質的に「賭け」であると述べた。
だとすれば、最初に考えるべきなのは「どの技術に賭けるか」ではない。
どの顧客課題に賭けるかである。
技術は、その課題を解決するための手段として後から選べばよい。
顧客は「製品」ではなく「損失の解消」にお金を払う
企業が製品を販売していると考えると、商品企画はスペックの競争になりやすい。
もっと速くしよう。もっと軽くしよう。精度を上げよう。耐久性を高くしよう。機能を追加しよう。
しかし、顧客の側から見ると少し違う。
顧客は、性能そのものを買っているとは限らない。
その性能によって、自分が抱えている問題が解決されるからお金を払っている。
たとえば工場で使われるバルブを考えてみよう。
顧客が欲しいのは、必ずしも「高性能なバルブ」ではない。
液漏れが起きて設備が停止する時間を減らしたい。薬液交換時の作業負担を減らしたい。保守周期を延ばしたい。製品への異物混入を防ぎたい。設備立ち上げ時の調整時間を短縮したい。
顧客にとって価値があるのは、このような損失が減ることである。
設備停止が1時間短くなれば、いくらの利益が生まれるのか。
保守作業が年間10回から2回になれば、人件費や交換部品費はどれだけ減るのか。
歩留まりが0.5%改善すれば、年間いくらの価値になるのか。
そこまで考えると、「高性能」という曖昧な言葉が、具体的な経済価値へ変わってくる。
私は、研究開発テーマを考えるときに最初に見るべきものは、この顧客が現在負担している損失だと考えている。
「困っている」と「お金を払う」は同じではない
ただし、顧客が困っていれば何でも事業になるわけではない。
ここも重要である。
顧客にヒアリングすると、さまざまな不満が出てくる。
もっと軽いほうがよい。表示が見にくい。操作が少し面倒だ。デザインを変えてほしい。報告書を自動で作ってほしい。
どれも要求としては正しい。
しかし、その要求を解決するために顧客が追加で100万円を払うかというと、話は別である。
事業になる顧客課題には、一定の「痛み」がある。
問題が発生すると生産が止まる。人手が大量に必要になる。不良が出る。事故の可能性が高まる。顧客からクレームを受ける。熟練者がいなければ仕事ができない。
このような問題には、すでに何らかのコストが発生している。
言い換えれば、顧客は現在も、その問題を放置するための「料金」を払っている。
それが人件費として表れているかもしれない。
廃棄損失かもしれない。
設備停止による機会損失かもしれない。
あるいは担当者の膨大な時間として埋もれているかもしれない。
ここに事業機会がある。
顧客が現在1000万円の損失を負担している問題を、200万円で大幅に減らせるのであれば、そこには明確な経済合理性がある。
反対に、年間1万円程度の不便を解決するために100万円の製品を開発しても、よほど別の価値がない限り事業にはなりにくい。
つまり、商品企画で問うべきなのは、
「顧客は何を欲しがっているか」
だけではない。
「顧客は今、何にどれだけ損をしているのか」
なのである。
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