人材育成にも「苗木」を育てる時間が必要である
人材育成も、短期・中期・長期で考える必要がある。
現在の主力事業を支える専門家は必要である。
同時に、数年後の新しい事業を担う人材も育てなければならない。
さらに、その先の技術変化に対応できる若い人材も必要になる。
たとえば、現在は機械製品が中心の企業でも、五年後にはソフトウェアやデータサービスが利益の大きな部分を占めると考えているとする。
その場合、五年後になってから「デジタル人材が必要だ」と言い始めても遅い。
今の段階で人を選び、学ばせ、実際のテーマを経験させる必要がある。
果樹園の苗木と同じで、人材も一晩では育たない。
専門技術だけでなく、顧客理解、事業性評価、プロジェクト推進、データ活用などの経験を数年かけて積ませる必要がある。
この意味で、研究開発ポートフォリオと人材育成計画は、本来一つの戦略として設計されるべきなのである。
DQL自身も「ポートフォリオ型人材」である
DQL自身の能力についても、同じことが言える。
DQLは、専門性を持たないゼネラリストではない。
むしろ、何か一つの技術領域についてしっかりした専門性を持つことが前提になる。
そのうえで、顧客課題を理解する力、事業性を見る力、データを扱う力、リスクを判断する力、異なる専門家をまとめる力、経営層へ説明する力などを身につけていく。
すべての分野で専門家になる必要はない。
しかし、必要な専門家と対話でき、その知識を意思決定につなげられる幅は必要である。
つまりDQLは、専門技術を核としながら複数の能力を組み合わせた、いわば「ポートフォリオ型人材」である。
このタイプの人材は、一つの専門領域だけを深く掘る人材育成では生まれにくい。
異なるテーマ、異なる職種、異なる顧客との接点を意図的に経験させる必要がある。
優秀な人材を、現在の主力事業だけに置いてはいけない
企業の人材配置には、一つ大きな矛盾がある。
最も優秀な人材ほど、現在の主力事業へ配置される。
売上の大きな製品を任せる。重要顧客を担当させる。難しい不具合を解決してもらう。
短期的には当然の判断である。
しかし、その結果、新規事業や長期テーマには、若手や経験の浅い人だけが配置されることがある。
すると経営は「新規事業がなかなか育たない」と嘆く。
しかし考えてみれば当然である。
会社の未来をつくるテーマに、会社のエースを一人も置いていないからだ。
野球チームが「この試合は絶対に勝ちたい」と言いながら、主力選手を全員ベンチに置くようなものである。
未来の事業を本気で育てたいなら、そこにも勝てる人材を配置しなければならない。
研究開発ポートフォリオを見る際には、予算だけでなく、
どのテーマに、どのレベルの人材を置いているか
を見る必要がある。
DQLは、自分のテーマだけを勝たせる人ではない
ここまで来ると、DQLの役割は、一つの研究テーマの推進者を超えてくる。
DQLは、自分のテーマを成功させることに責任を持ちながらも、会社全体の研究開発の中で、そのテーマがどのような位置を占めているかを考えなければならない。
短期収益を守るテーマなのか。
中期的な成長を狙うテーマなのか。
長期的に新しい事業をつくるテーマなのか。
そして、今このテーマに人と金を置くことが、会社全体にとって本当に合理的なのか。
すべてのDQLが研究所長になる必要はない。
しかし、自分のテーマしか見ていない技術者と、会社全体のポートフォリオを理解したうえで自分のテーマを判断できる技術者とでは、意思決定の質は大きく違う。
「自分の研究を続けたい」ではなく、
「会社にとって、今ここに資源を置く価値があるか」
と考えられる。
そこまで視野が広がったとき、技術者は専門家からリーダーへ変わっていく。
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