目標が明確になれば、技術の使い方が変わる
では、DQL(設計品質リーダー)はこの目標をどのように実現するのだろうか。
まず、噛み合い騒音の発生メカニズムを考える。
歯車の騒音は、単純に歯形精度や歯面粗さだけで決まるものではない。
歯形や歯すじの誤差、ピッチ誤差、偏心、歯面修整量などに加え、歯車に加わる負荷、回転速度、軸の支持剛性、組付け誤差、潤滑条件など、多くの要因が関係している。
また、熱処理による変形や加工条件のばらつきも、歯車の噛み合い状態に影響する。
さらに、歯車単体では高精度に仕上がっていても、実際の減速機に組み込んだ際の軸のたわみや組付け誤差によって、歯当たりが変化し、騒音が大きくなることもある。
したがって、加工精度をひたすら高めることだけが、必ずしも最善の解決策ではない。
DQLは、まず現状の騒音データと歯車の測定データを収集し、騒音の大きさや周波数成分と、歯車の幾何学的な特徴との関係を調べる。
必要に応じて、歯車の噛み合いに伴う伝達誤差や振動特性を解析し、騒音の発生に影響する技術的な要因を絞り込む。
そのうえで、品質工学や実験計画法を活用し、例えば歯形修整量、歯すじ修整量、加工条件、熱処理条件などを制御因子として設定する。
一方、負荷変動、回転速度、組付け誤差、潤滑温度などを誤差因子として与え、さまざまな使用条件の下でも騒音が大きくなりにくい設計条件を探索する。
ここで重要なのは、単に歯車の加工精度を限界まで高めることではない。
多少の製造ばらつきや使用条件の変化があっても、減速機として安定した性能を発揮できる、ロバストな歯車設計と製造条件を実現することである。
例えば、歯形修整を適切に行うことで、負荷による歯の弾性変形を考慮した噛み合い状態を改善できる可能性がある。これによって、加工精度を過度に厳しく管理しなくても、騒音を低減できるかもしれない。
逆に、実験や解析の結果によっては、歯車の設計だけでは十分な改善が得られず、減速機側の軸受構造や組付け方法を変更する必要が明らかになることも考えられる。
その場合、DQLは自社の技術的な担当範囲に閉じこもるのではなく、取引先の設計部門や生産技術部門とも連携し、製品全体としての解決策を検討する。
そして、試作段階での騒音改善効果だけでなく、量産時の製造ばらつきやコストへの影響も確認する。
これらの活動を通じて、初めて「不合格率2%以下」という成果目標を実現するための、具体的な技術的道筋が明らかになるのである。
ここでも重要なのは、品質工学や統計解析を使うこと自体ではない。
目標を達成するために、どの技術を、どの順番で、どこまで活用する必要があるのかを判断することである。
目標が明確であるからこそ、実験や解析の優先順位を決めることができる。限られた時間と人員の中で、何に集中するべきかが明らかになるのである。
また、半年後に初めて結果を確認するのではなく、途中で噛み合い伝達誤差、騒音レベル、製造ばらつき、改善条件の再現性などを評価し、達成の見通しを継続的に確認する。
想定した効果が得られなければ、原因を調べて実施方法を修正する。必要ならば、技術的なアプローチそのものを変更する。
目標は簡単に諦めない。しかし、目標達成のための手段には固執しない。
これも自律的な技術リーダーに欠かせない姿勢である。
計画は未来の予想ではなく、未来を変える意思決定である
ここでもう一つ、技術者に理解してほしいことがある。それは、計画と予測の違いである。
例えば、過去3年間の原価低減実績が毎年2%程度だった企業が、来年度も2%の原価低減を計画したとしよう。
この数字は過去の実績から見れば妥当に思える。しかし、それだけでは企業が生き残るために十分な目標かどうかわからない。
競合他社が新しい製造技術を導入し、製品価格を15%引き下げようとしているのであれば、従来の延長線上にある原価低減計画では対応できないかもしれない。
本来、計画とは、過去の傾向から将来の数字を予想することではない。
企業が将来どのような状態を実現しなければならないかを考え、そのために今何をするのかを決定することである。
仮に、競争力を維持するために製造原価を15%低減する必要があるならば、それを出発点として、製品構造、材料、加工方法、工程設計などを根本から見直さなければならない。
従来の設備や設計方法では実現できないのであれば、新しい技術を検討する必要がある。
実現方法がすぐに見つからないからといって、安易に目標を引き下げるのではなく、どうすれば実現できるかを考える。
一方で、実験や調査によって重大な技術的制約が明らかになった場合には、必要な投資と期待される収益を再評価しなければならない。採算性が成立しない計画を、精神論だけで続けることも経営としては誤りである。
DQLに求められるのは、目標に対する執念と、事実に基づいて判断する冷静さの両立なのである。
自律的な技術者は、目標を与えられるのを待たない
ここまでの議論には、もう一つ重要な点がある。
それは、目標を誰が設定するのか、という問題である。
一般的な企業では、経営方針や部門目標が上位組織から与えられ、技術者はそれを個人の業務目標に展開する。
もちろん、企業全体の方向性を統一するためには、経営者による方針や目標の提示が必要である。
しかし、技術者が上司から具体的な課題と数値目標を与えられるまで待っているとすれば、それは自律的な仕事の進め方とはいえない。
例えば、顧客からの問い合わせや不具合情報、生産現場での問題、競合製品の動向などを日常的に把握している技術者は、経営者よりも早く重要な課題に気づくことがある。
そのとき、「上司から指示がないから何もしない」のではなく、自ら問題の重要性を評価し、必要な改善目標を考え、具体的な提案にまとめる。
さらには、必要な協力者を集め、技術的な実現可能性を調べ、投資対効果を見積もる。
ここまでできれば、その技術者は単に与えられた仕事をこなしているのではない。自ら経営に貢献する仕事を創り出しているのである。
DQLとは、まさにこのような技術者を意味する。
そして経営者は、こうした自主的な提案を歓迎し、合理的な挑戦には必要な資源と裁量を与えなければならない。
目標達成への責任を求めながら、実行方法のすべてを上司が指示していたのでは、自律的な人材は育たないからである。
「頑張った」を卒業する
企業にとって、技術者の努力は重要である。しかし、努力そのものが経営成果になるわけではない。
どれほど長時間働いても、どれほど多くの実験を実施しても、顧客価値や企業の競争力に結びつかなければ、その活動の意味を問い直す必要がある。
だからといって、すべての技術活動に短期的な利益を要求するべきだということではない。基礎研究や将来技術の探索など、不確実性が高く、成果が現れるまでに長い時間を必要とする活動もある。
そうした場合でも、「いつまでに何を明らかにするのか」「どのような技術的可能性を検証するのか」「次の開発段階へ進むための判断基準は何か」を設定することはできる。
重要なのは、仕事の成果を自分自身で定義し、その実現に向けて主体的に行動する姿勢である。
「できるだけ頑張ります」という言葉には、努力の意思はあっても、成果に対する明確な約束はない。
これに対して、「いつまでに、これだけの成果を実現します」という言葉には、自ら考え、判断し、行動する覚悟が込められている。
もちろん、約束した目標が必ず達成できるとは限らない。技術開発には失敗も不確実性もつきものである。しかし、目標と結果の差を明らかにし、その原因を考え、次の手を打つことはできる。
自律的な技術者とは、結果をすべて予測できる人ではない。不確実な状況の中でも、自ら目標を定め、結果に向き合い続ける人なのである。
「できるだけ」から「これだけ」へ。
この仕事に対する姿勢の転換こそ、技術者が設計品質リーダー(DQL)へと成長するための重要な第一歩である。
では、明確な目標を掲げた技術者が、実際に組織を動かして成果を生み出すためには何が必要なのだろうか。
次回は、多くの企業で技術活動の障壁となっている部門間の壁や、権限と責任の問題を取り上げ、自律的なリーダーシップのあり方について考えてみたい。
※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。
[無断転載禁止]
DQL(設計品質リーダー)育成コースの詳細なご案内は下記よりダウンロードできます。
ダウンロード



