2026/08/23

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義⑥

 第6回:実践者のためのDQLコース――株式会社ジェダイトが提供する、成果と人材変容の場

これまで本連載では、アンラーンの必要性、成功体験から生まれる「思考のクセ」、変化を妨げる七つの壁、そして自らの思考を再定義することの重要性について述べてきた。

最終回では、株式会社ジェダイトが提供する「設計品質リーダー(DQL)育成コース」の具体的な内容を紹介する。

DQLコースは、アンラーンそのものを座学で教える研修ではない。また、品質工学や統計手法などの技法を習得することだけを目的とした講座でもない。

受講者が自社の実務テーマに取り組み、経営に貢献する成果を生み出す過程で、従来の仕事の進め方や判断基準を問い直す。そこで必要な知識を学び直し、周囲を巻き込みながら成果へつなげる。つまり、実際の仕事を通じてアンラーンとリラーニングを経験する、実践型の人材育成プログラムである。

DQLとは、経営に貢献するテーマを自らつくれるリーダー

設計・開発部門の人材育成というと、品質工学、統計解析、シミュレーション、AIなど、個別の手法を学ぶ研修が中心になりやすい。

しかし、どれほど高度な手法を身につけても、取り組むテーマそのものが経営課題と結びついていなければ、大きな成果にはつながらない。目的や目標が曖昧なまま、「使ってみたい手法」を起点に活動を始めると、手法の適用自体が目的化してしまう。

その結果、「品質が少し良くなった」「データを解析できた」という技術的な改善は得られても、それが売上、利益、開発期間、市場機会、将来の競争力にどれほど貢献したのかを説明できないことがある。

DQLコースでは、この「手法ありき」の発想を転換する。

最初に考えるのは、どの手法を使うかではない。自社の現状を分析し、経営や事業にとって解決すべき重要課題は何かを明らかにする。そのうえで、目的、目標、期限、期待される成果金額を設定し、必要な手法を選択する。

品質工学や統計手法、シミュレーション、AIなどは、テーマを実現するための有力な手段である。しかし、DQLコースの中心は、特定の手法を習得することではない。

経営的に重要なテーマを自ら設定し、計画を立て、必要な人を巻き込み、成果を定量的に示せるリーダーを育成することが、このコースの目的である。

コース開始前:候補者の選定と組織内の共通認識づくり

DQLコースでは、各部門から選ばれたリーダー候補者が受講する。活動期間は、基本となる1年間と、その後のフォローアップ期間を合わせた2年間で構成される。

また、候補者だけに活動を任せるのではなく、必要に応じて全社講演会や管理職向けセミナーも実施する。

これは、受講者だけが新しい考え方を学んでも、上司や関係部門が活動の目的を理解していなければ、実務での挑戦が進みにくいからである。テーマの実行には、時間、予算、部門間の協力、意思決定などが必要になる。上司や経営層が活動の意味を理解し、組織として支援する環境を整えることが欠かせない。

アンラーンを個人だけの努力にしないためには、本人を取り巻く組織の認識も同時に変える必要がある。

第1フェーズ:重要テーマを抽出し、成果への道筋を設計する

1年目の前半6か月は、実践すべきテーマの抽出と計画策定に充てられる。この期間が、DQLコースの成否を左右する重要な段階である。

まず、開講式や講演、設計品質に関する手法、テーマ設定、効果試算などについて学ぶ。同時に、受講者は自部門の現状分析を行い、問題を定義し、根本原因を検討する。

そのうえで、次のような視点から、本当に取り組むべきテーマを絞り込んでいく。

自社や部門が直面している重要な経営課題は何か

顧客や市場にとって、どのような価値を生み出すのか

何を、いつまでに、どの水準まで改善するのか

売上、利益、損失回避、開発期間などに、どの程度の効果があるのか

テーマを実行するために、誰の協力が必要か

成果を確認するために、どのような指標を使うのか

テーマの例としては、新製品開発による売上・利益の拡大、製品開発の遅れによる市場機会損失の低減、開発期間の短縮、出戻り防止による価値創造リソースの確保、新市場の開拓などが挙げられる。

講師との対話や調査・議論を重ねながら、受講者はテーマ提案書を作成する。前半の最終段階では、経営幹部に対してテーマ提案報告を行い、テーマの内容と効果試算について確認を受け、実施承認を得る。

ここで受講者がアンラーンするのは、「目の前の技術問題を解けば、それが成果になる」「得意な手法を使えば、よいテーマになる」という従来の発想である。

技術課題を、経営課題や顧客価値との関係から捉え直す。それによって、受講者の視点は、個別問題を処理する技術者から、成果への道筋を設計するリーダーへと広がっていく。

第2フェーズ:実務テーマを実行し、成果を定量化する

1年目の後半6か月は、前半で承認されたテーマを実行する期間である。

受講者は、テーマの内容に応じて社内外の関係者を巻き込み、計画した活動を進める。講師は定期的なコンサルティングを行い、進捗、問題点、目標達成の見通し、効果試算などを確認する。必要に応じて、品質工学、統計手法その他の実務に必要な追加セミナーも実施する。

DQLコースでは、知識を学んでから実務に戻るのではない。実務を進める中で必要となった知識を学び、その場でテーマへ適用する。

そのため、受講者は「知っている」と「使える」の違いに直面する。教科書どおりに進まない問題、部門間の意見の違い、計画時には見えていなかった制約などに向き合いながら、自分の考え方や計画を修正していく。

この過程で解きほぐされるのは、「専門家である自分が正解を持っていなければならない」「一度決めた計画は変えてはいけない」「自分の部門だけで完結させたい」といった思考の固定化である。

実務では、最初から完全な答えを持つことはできない。仮説を立て、実行し、結果を確認し、必要に応じて計画を修正する。DQLコースは、このPDCAを実際のテーマの中で回すことによって、変化に対応できる思考と行動を身につける場となる。

1年目の最終段階では、経営幹部も参加する成果報告会を実施する。各テーマの進捗や技術的成果だけでなく、成果を金額で定量化し、投入費用との関係も含めて報告する。

「なんとなく良くなった」で終わらせず、活動が事業にどのような価値をもたらしたのかを経営層と共有する。この経験を通じて、受講者は技術成果を経営の言葉で説明する力を身につける。

第3フェーズ:フォローアップによって成果を定着・拡大する

DQLコースは、1年目の成果報告会で終了するわけではない。

経営効果の大きなテーマは、計画から成果の実現までに2年以上を要することも多い。そのため、2年目以降は、実践活動のフォローアップを行う。既存テーマを継続するだけでなく、実践中に生まれた新しい課題や、次に取り組むべきテーマについても相談・指導を行う。

このフォローアップには、研修を「一過性のイベント」にしないという意味がある。

一般的な研修では、受講直後には意欲が高まっても、日常業務へ戻ると従来の仕事の進め方に引き戻されやすい。DQLコースでは、実務テーマの進捗を継続的に確認し、問題が生じたときに相談できる関係を保つことで、学びを実際の成果へつなげる。

さらに、2年ごとなどのサイクルで新しい受講者を迎えることにより、先に修了したDQLが後輩の活動を支援する側へ回る。自分が学んだことを次のリーダーへ伝え、他のテーマにも応用することで、個人の経験が組織の知識へと変わっていく。

こうして、テーマ設定、実行、成果確認、フォローアップ、次世代育成という循環が形成される。

DQLコースが目指すのは、優秀な個人を一人育てることだけではない。継続的にリーダーを生み出し、改善と価値創造が自律的に繰り返される組織風土をつくることである。



受講者が得るのは、手法だけではない

DQLコースを通じて、受講者が得るものは、設計品質やデータ解析に関する知識だけではない。

経営効果の大きいテーマを設定する力、成果を金額で試算する力、経営層へ提案するプレゼンテーション力、関係者を巻き込むリーダーシップなどを、実際の活動を通じて身につける。

テーマを提案し、経営幹部の承認を受け、多くの関係者とともに成果を生み出す経験は、本人の自信につながる。その姿を見た周囲からの信頼が高まり、さらに大きなテーマを任されるという成長の循環も生まれる。

DQLは、品質手法に詳しい専門家にとどまらない。経営と技術をつなぎ、自ら価値創造の仕事をつくり、周囲を巻き込みながら実現できる人材である。将来のプロダクトマネージャーや組織責任者の候補としても、重要な役割を担うことになる。

実績が示す「仕事を通じた人材育成」の効果

株式会社ジェダイトの案内資料に記載された2023年度時点の集計では、同社設立後の7年間で、5社13期、100名以上のリーダー育成に関わっている。

受講者が取り組んだテーマの単年度効果試算は、1テーマ当たり平均約1億円、中央値約5,000万円であり、合計では120億円以上とされている。これらは実践企業自身が算出し、経営幹部が確認した数値を集計したものである。

もちろん、すべてのテーマが同じ規模の成果を生むわけではない。また、DQLコースは、短期間で特定の手法を覚えれば自動的に成果が出るというプログラムでもない。

成果の源泉となるのは、受講者自身が重要なテーマを選び、組織の協力を得ながら、計画と実行を粘り強く繰り返すことである。コースは、その活動を正しい方向へ導き、途中で止まらないように支援する仕組みである。

アンラーンを、実際の成果へ変える

DQLコースにおけるアンラーンは、過去の考え方を反省するだけの内省活動ではない。

「手法を学べば成果が出る」という考え方から、「経営的に重要な目的に応じて手法を選ぶ」という考え方へ変わる。

「技術的に改善できれば十分」という考え方から、「生み出した価値を定量化し、経営に説明する」という考え方へ変わる。

「自分の専門の中で解決する」という考え方から、「関係者を巻き込み、組織として実現する」という考え方へ変わる。

「研修が終われば学習も終わる」という考え方から、「実務、フォローアップ、後進育成を通じて学び続ける」という考え方へ変わる。

この変化は、講義を聞くだけでは生まれない。自社の重要テーマに向き合い、計画し、提案し、実行し、成果を報告する一連の経験を通じて初めて、自分の思考と行動が更新される。

DQLコースは、単なる「知的ドック」ではない。思考を点検するだけでなく、実際のテーマにおいて新しい行動を試し、経営成果を生み出し、その経験を組織へ定着させるところまでを支援する、実践型の人材育成・事業成果創出プログラムである。

株式会社ジェダイトが目指すのは、受講者の過去の成功体験を否定することではない。その経験を、現在の経営課題と結びつけ、次の時代にも価値を生み出せる力へと変換することである。

人を育てることと、事業成果を生み出すことを分けない。実際の仕事を通じてリーダーを育て、そのリーダーが次の成果と次の人材を生み出す。

その循環を組織の中につくることこそが、DQLコースの最終的な目的なのである。


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2026/08/22

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義⑤

 第5回:アンラーンを加速させる「DQLコース」の設計思想

これまで本連載では、アンラーンが必要とされる背景、成功体験によって形成される「思考のクセ」、それを解きほぐすための実践方法、そして変化を妨げる「七つの壁」について見てきた。

ここまでの内容から分かるように、アンラーンは、本人がその必要性を理解するだけでは十分ではない。「過去の成功に固執しないようにしよう」「柔軟に考えよう」と決意しても、日常業務に戻れば、再び慣れた思考と行動のパターンが働き始める。

だからこそ、アンラーンには、それを継続的に促すための場と仕組みが必要になる。

株式会社ジェダイトが提供する「設計品質リーダー(DQL)育成コース」は、本連載で述べてきたアンラーンの考え方を、設計・開発の実務へ落とし込むためのプログラムである。

DQLコースの目的は、新しい知識や手法を一方的に教え、それまでの知識を新しい知識で「上書き」することではない。受講者が、自分の判断を支えている前提や成功体験を振り返り、現在の環境に適した形へと自らの思考を再定義することにある。

その中心にあるのが、「Re-define(再定義)」という考え方である。



知識の上書きではなく、思考の再定義

一般的な研修では、新しい知識、手法、フレームワークを習得することが重視される。もちろん、DQLコースにおいても、設計品質を高めるための知識や実践的な手法を学ぶ。

しかし、新しい手法を学んだだけで、実務における判断が変わるとは限らない。

例えば、顧客要求を整理する新しい方法を学んでも、「顧客の要望は営業部門が把握しているはずだ」という前提が残っていれば、開発者自身が顧客価値を深く考えるようにはならない。新しい評価手法を学んでも、「過去の製品で問題がなかったから、今回も同じ条件でよい」という考え方が残っていれば、その手法は形式的に使われるだけで終わってしまう。

つまり、知識を追加する前に、その知識を受け入れ、活用する側の思考を点検しなければならないのである。

DQLコースが目指すのは、「従来の考え方は間違っていた」と否定することではない。これまでの方法が、どのような条件のもとで有効だったのかを明らかにし、現在の条件でも有効なのかを問い直すことである。

「この方法が正しい」という完成した答えを、「この条件では、この方法が有効なのではないか」という検証可能な仮説へ戻す。これが、DQLコースにおける思考の再定義である。

あえて「不完全段階」へ戻る

DQLコースの設計思想には、受講者を意図的に「不完全段階」へ導くという考え方がある。

経験を積んだプロフェッショナルは、自分なりの仕事の進め方や判断基準を確立している。それによって、複雑な課題にも素早く対応し、安定した成果を出すことができる。いわば、仕事における一つの「完成形」を築いているのである。

しかし、その完成形が強固であるほど、別の考え方を受け入れる余地は小さくなる。

そこで、いったん完成された答えを開き、「なぜ、この方法を選んでいるのか」「前提となる条件は変わっていないか」「別の方法は本当に成立しないのか」と問い直す。自分の判断に含まれる暗黙の前提を、他者が検討できる形まで言語化する。

この過程では、これまで自信を持っていた答えが揺らぐこともある。自分が十分に理解していると思っていた問題に、説明できない部分が見つかることもある。それは、能力が低下した状態ではない。新しい可能性を取り込むために、完成形を一度開いた状態なのである。

プロフェッショナルとして身につけた鎧を、一時的に脱ぐ。そこで生まれた余白に、新しい知識、異なる視点、他者からの問いを受け入れる。そのうえで、自分の経験を現在の環境に合った形へと組み直していく。

DQLコースにおける「不完全段階」とは、初心者へ戻ることではない。豊富な経験を持ったまま、もう一度学び、選び直せる状態へ戻ることである。

最大の対象は、成功体験を持つリーダー層

アンラーンによる効果を最も大きく得られるのは、皮肉にも、すでに豊富な経験と大きな成功体験を持つリーダー層である。

成功してきたリーダーには、自分の判断を信じるだけの根拠がある。過去の経験によって、多くの問題を解決してきた実績もある。組織の中でも、その人の判断や方法が一つの基準として扱われていることが少なくない。

しかし、環境が大きく変化したとき、その強い成功体験は「成功体験という名の脆弱性」に変わる可能性がある。

リーダーの過去の成功パターンが組織の標準になっていると、本人だけでなく、部下や組織全体も新しい方法を試しにくくなる。「以前、この方法で成功した」という事実が、現在の条件を検討しない理由として使われるからだ。

DQLコースの使命は、リーダーが築いてきた専門性や成功体験を否定することではない。それらを成立条件まで含めて見直し、新しい課題にも使える形へと変換することである。

過去の経験を、守るべき完成品として扱うのではなく、未来のために更新できる資源として扱う。そうすることで、「成功体験という名の脆弱性」は、再び「未来を切り拓く武器」へと変わる。

「人は変われる」を、カリキュラムとして体験する

「人はいつからでも変わることができる」という言葉は、理念としては多くの人が理解している。しかし、長年かけて形成された思考や行動のパターンを、本人の決意だけで変えることは難しい。

必要なのは、過去の前提に気づき、他者の視点を受け入れ、新しい考え方を試し、その結果を振り返る一連のプロセスである。そして、その経験を一度きりで終わらせず、実務の中で繰り返せる形にすることである。

DQLコースは、「人は変われる」という信念を、抽象的な理想ではなく、受講者自身が実感できる学習プロセスとして設計する。

受講者が得るべきものは、研修で学んだ知識の量だけではない。自分の思考を点検し、必要に応じて解きほぐし、別の形へ組み直せる能力である。この能力が身につけば、研修で扱わなかった未知の課題に直面したときにも、自ら学び、変化し続けることができる。

DQLとは、完成された答えを持つリーダーではない。環境の変化に応じて、自分と組織の答えを何度でも問い直せるリーダーなのである。

次回の最終回では、DQLコースが受講者をどのような段階を通じて変容へ導くのか、その具体的なステップと、受講後に開かれる新たな可能性について詳しく見ていく。

※参考文献:Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」_柳川 範之_為末 大_日経BP

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2026/08/21

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義④(後半)

(前回続き) 

5.権威への依存――「あの人の言うことなら間違いない」

私たちは、実績のある経営者、著名な専門家、経験豊富な上司など、権威を持つ人の判断を信頼する傾向がある。限られた時間の中で意思決定を行うためには、権威や実績を判断材料にすること自体は合理的である。

問題は、「誰が言ったか」が、「現在の条件でも正しいか」より優先されることである。

過去に優れた成果を上げた人物であっても、別の業界、別の時代、別の組織で、その方法が同じように機能するとは限らない。権威ある人の発言も、そのまま正解として受け入れるのではなく、成立条件を確認する必要がある。

「誰の意見か」と「どのような根拠があるか」を分けて考えることが、この壁を越える第一歩となる。

6.感情的な固執――「だって、これが好きなんだもん」

人間の判断は、合理性だけで決まるものではない。長年使ってきた方法への愛着、思い入れのある製品、自分を育ててくれた上司から教わった考え方などには、感情的な価値が結びついている。

そのため、データによって別の方法が優れていると示されても、簡単には手放せないことがある。論理的な説明を重ねても変化が起きないとき、背後には「正しいかどうか」ではなく、「好きかどうか」「自分らしいかどうか」という問題が隠れている可能性がある。

感情を排除しようとする必要はない。まず、自分の判断にどのような愛着や思い入れが影響しているのかを認めることが重要である。そのうえで、「好きだから残す部分」と「成果のために変える部分」を分けて考えるのである。

7.潜在的バイアス――自分では気づけない思考の偏り

七つ目は、無意識のうちに働く多種多様な思考の偏りである。

自分に都合のよい情報ばかり集める、最初に示された数字や意見に引きずられる、所属する集団の考え方を正しいと思い込む、成功例だけを見て失敗例を見落とす。こうしたバイアスは、本人が注意しているつもりでも、完全に避けることは難しい。

潜在的バイアスの厄介な点は、偏っている本人には、自分の判断が自然で合理的に見えることである。自分だけで発見しようとしても限界がある。

だからこそ、判断の根拠を言語化する、反対意見を意図的に集める、データで確認する、異なる立場の人によるレビューを受けるといった仕組みが必要になる。

成功した人ほど、壁は高くなる


個人の努力から、組織の仕組みへ

七つの壁は、人間に共通する心理的な性質から生まれる。そのため、「意識を変えよう」「柔軟に考えよう」と呼びかけるだけでは十分ではない。個人の意志力に依存するのではなく、固定化した前提を発見し、問い直し、別の方法を試せる仕組みを組織の中に設ける必要がある。

例えば、異なる部門のメンバーが一つの課題を検討する、判断の前提を言葉にする、データによって仮説を検証する、経験の異なる人からレビューを受けるといった活動である。こうした仕組みがあれば、本人には見えにくい思考のクセを、組織として発見しやすくなる。

設計品質リーダーを育成する「DQLコース」の存在意義も、単に新しい知識や手法を教えることだけにあるのではない。参加者が自らの成功体験や専門領域の常識をいったん相対化し、実際の課題を通じて、判断の前提を組み替えられるようにすることにある。

アンラーンは、一人で過去を否定する作業ではない。異なる知識と視点を持つ人々が、互いの「当たり前」を問い直し、よりよい方法へ更新していく組織的な学習活動である。

変化に適応できる組織とは、最初から正しい答えを持っている組織ではない。七つの壁が存在することを認識し、必要なときに過去の答えを開き直せる仕組みを持った組織なのである。




※参考文献:Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」_柳川 範之_為末 大_日経BP

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2026/08/20

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義④(前半)

第4回:変化に適応するための「七つの壁」を乗り越える(前半)

前回は、アンラーンを実践するための方法として、無意識のルーチンを洗い出すこと、「いつも」「通常は」という言葉を問い直すこと、異質な他者との対話によって自分の常識を相対化することを紹介した。

しかし、方法を理解しただけで、長年身につけてきた思考や行動を簡単に変えられるわけではない。アンラーンを始めようとすると、私たちの内側には、変化を押し戻そうとするさまざまな力が働くからだ。

それは、本人の意志が弱いからではない。人間には、現在の安定を守り、損失や不確実性を避けようとする心理的な性質がある。アンラーンとは、その性質に逆らい、慣れ親しんだ考え方をいったん不完全な状態へ戻す行為である。そのため、個人の意志力だけでは突破しにくい、いくつもの心理的障壁が立ちはだかる。

ここでは、アンラーンを妨げる代表的な要因を「七つの壁」として整理する。

1.現状維持の誘惑――「このままでいいんじゃないか

第一の壁は、現在の状態を変えずに保とうとする心理である。

今の方法で大きな問題が起きていなければ、あえて変更する必要はないように思える。新しい方法には学習や準備が必要であり、結果がどうなるかも分からない。それなら、慣れた方法を続けるほうが安全に見える。

しかし、「今は問題がない」ことと、「これからも有効である」ことは同じではない。環境変化の影響は、最初から明確な失敗として現れるとは限らない。顧客ニーズとの小さなずれ、意思決定の遅れ、若手社員との認識差などとして、静かに蓄積していくこともある。

現状維持の壁を見分けるには、「問題が起きていないか」だけでなく、「今、新たにこの方法を選ぶか」と問い直す必要がある。

2.損失回避――「今あるものを手放したくない」

人は一般に、同じ大きさの利益を得る喜びよりも、すでに持っているものを失う苦痛を強く感じやすい。

アンラーンでは、慣れた方法、確立した立場、周囲からの評価などを、いったん手放すことが求められる。それが新しい可能性につながると理解していても、「今までできていたことが通用しなくなる」「自分の評価が下がるかもしれない」という不安が先に立つ。

そのため、変化によって得られるものより、失う可能性のあるものばかりに注意が向いてしまう。

この壁を越えるには、「何を失うか」だけでなく、「変えないことによって、将来何を失うか」も同時に考えることが必要である。

3.サンクコストへの執着――「せっかくここまで頑張ってきたのだから」

サンクコストとは、すでに費やしてしまい、取り戻すことのできない時間、費用、労力などを指す。

長い時間をかけて身につけた技術や、苦労して整備した仕組みほど、「ここでやめたら、これまでの努力が無駄になる」と感じやすい。その結果、今後の有効性ではなく、過去にどれだけ投資したかを基準に、継続を決めてしまう。

しかし、過去の努力が価値を持っていたことと、その方法を将来も続けるべきかどうかは、別の問題である。役割を終えた方法を手放しても、そこで得た経験や判断力まで失われるわけではない。

「これまで、どれだけかけたか」ではなく、「これから、さらに何をかける価値があるか」を判断基準にする必要がある。

4.専門性の呪縛――「自分のやり方でやりたい」「他人には分からない」

専門性は、プロフェッショナルにとって大きな強みである。一方で、専門知識が深くなるほど、外部からの意見を受け入れにくくなることがある。

「この分野は経験した人にしか分からない」「自分の方法には理由がある」という考え方は、専門家として正しい場合も少なくない。しかし、それが強くなりすぎると、専門外の人からの素朴な疑問や、新しい技術による代替案を退けるための言葉になってしまう。

また、専門性は、その人の自信や社内での地位とも結びついている。従来の方法を見直すことが、自分自身の価値を否定するように感じられる場合もある。

必要なのは、専門性を捨てることではない。専門知識を「自分だけが守る完成品」ではなく、「他者との対話によって更新する資源」として扱うことである。




※参考文献:Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」_柳川 範之_為末 大_日経BP

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2026/08/19

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義③

 第3回:「不完全段階」への戦略的回帰――実践・アンラーンの技術

アンラーンの必要性を理解しても、「これまでの考え方に固執しないようにしよう」と意識するだけでは、実際の行動はなかなか変わらない。アンラーンを、心構えや精神論だけで終わらせてはならないのである。

アンラーンは、人生という長期航海を続けるうえで必要な「脳と思考のメンテナンス技術」として捉えるべきものだ。

私たちは、日々の仕事や生活を通じて、膨大な知識と経験を蓄積している。しかし、知識を増やし続けるだけでは、必要な場面で適切な考え方を選べるとは限らない。古い情報、新しい情報、現在も有効な経験、すでに条件が変わった成功体験が、区別されないまま頭の中に残っているからだ。

大切なのは、過去をすべて忘れることではない。知識や経験を定期的に棚卸しし、「現在もそのまま使えるもの」「条件を限定すれば使えるもの」「いったん保留すべきもの」に整理することである。この整理ができて初めて、新しい経験や考え方を受け入れる余地が生まれる。

では、日常の中で、固定化した思考をどのように解きほぐせばよいのだろうか。ここでは、三つの基本的なステップを紹介する。



1.無意識のルーチンを洗い出す

最初に行うのは、自分が普段、ほとんど考えずに繰り返している判断や行動を見つけることである。

例えば、会議では必ず上司から発言する、企画書は前年度の形式を踏襲する、新しい提案には最初にリスクを指摘する、部下への指導では自分の経験を伝える、といった行動である。これらは日常化しているため、本人には「選択している」という自覚さえないことが多い。

そこで、自分の判断に対して、次のように問いかけてみる。

この方法を使い始めたのは、いつ頃からか

どのような成功体験が、この判断を支えているのか

当時と現在では、何が同じで、何が変わっているのか

この方法を使わなかった場合、どのような選択肢があるのか

重要なのは、ルーチンを直ちに否定することではない。まず、自動化されている判断を意識の上に取り出し、「自分はこの方法を選んでいる」と認識することが第一歩となる。

2.「いつも」「通常は」という言葉を検閲する

思考の固定化は、日常的に使う言葉にも表れる。

「いつもこの方法でやっている」「通常はこの手順で進める」「普通はそう考える」「これまで問題は起きていない」。こうした言葉が浮かんだときは、思考が過去のパターンに戻ろうとしている可能性がある。

もちろん、「いつもの方法」が現在も最適である場合は少なくない。問題なのは、検討を行わないまま、それを自動的に正解としてしまうことだ。

そこで、「いつも」「通常は」という言葉に気づいたら、いったん立ち止まり、次の三点を確認する。

今回も、過去と同じ条件が成立しているか

顧客、技術、目的、制約条件に変化はないか

この方法を初めて採用するとしたら、現在でも選ぶか

特に有効なのが、最後の問いである。過去からの経緯をいったん外し、現在の条件だけを見て同じ方法を選ぶかどうかを考える。そうすることで、「合理的だから続けている方法」と「慣れているから続けている方法」を区別しやすくなる。

3.異質な他者との対話によって、自分の常識を相対化する

自分一人で自分の思考のクセを発見することには限界がある。長く同じ組織や業界にいると、周囲の人も似た前提を共有するため、組織全体の思い込みが見えにくくなるからだ。

そこで有効なのが、専門分野、世代、職種、業界、経験の異なる人との対話である。

技術者が営業担当者に意見を聞く。管理職が若手社員の仕事の進め方を観察する。製造業の人がサービス業の顧客対応から学ぶ。自社では当然とされている手順を、業界外の人に説明してみる。異なる背景を持つ人と接すると、「なぜ、その方法でなければならないのですか」という素朴な問いが返ってくる。

この問いにうまく答えられないとき、そこには思考の固定化が潜んでいる可能性がある。

異質な他者との対話は、正解を教えてもらうためだけに行うものではない。自分の常識が、特定の組織や時代、専門分野の中で成立している「ローカルな常識」にすぎないことを知るために行うのである。

アンラーンの核心は、完成された知識を、あえて「不完全段階」へ戻すことにある。

ここでいう不完全段階とは、知識を失った状態ではない。「この方法が正しい」という確定した結論を、「この条件では有効かもしれない」という検討可能な仮説へ戻すことである。完成した答えを一度開き、別の見方や方法を受け入れられる状態にするのだ。

これは、高く積み上げてきた山を、さらに上へ伸ばすのではなく、頂上をいったん削って余

次回からは、私たちがアンラーンを実践しようとするとき、その前に立ちはだかる「七つの強固な壁」を一つずつ見ていく。

※参考文献:Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」_柳川 範之_為末 大_日経BP

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2026/08/18

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義②

第2回:成功体験という名の脆弱性――「思考のクセ」の正体

仕事に習熟すると、判断や行動のスピードが上がる。似たような問題に直面したとき、一から考え直さなくても、過去の経験をもとに素早く答えを出せるようになるからだ。

このとき私たちの頭の中には、「この状況では、この方法を使えばよい」という思考と行動のパターンが形成されている。本稿では、それを「思考のクセ」と呼ぶことにする。

思考のクセは、本来、悪いものではない。むしろ、限られた時間の中で効率的に仕事を進め、安定した成果を出すために欠かせない仕組みである。経験を積んだ技術者、営業担当者、管理職などが、状況を見ただけで問題の所在や対処法を直感的に把握できるのも、数多くの経験が思考のパターンとして定着しているからだ。

しかし、ここに大きな落とし穴がある。

思考のクセが有効なのは、過去と現在の条件が大きく変わっていない場合に限られる。市場環境、技術、顧客の価値観、競争相手などが変化し、いわば「競技のルール」そのものが変わったとき、以前は強みだったパターンが、かえって新しい環境への適応を妨げることがある。

為末大氏が示したスポーツの比喩は、この「熟練のジレンマ」を分かりやすく表している。

体操競技では、美しい演技を実現するために、つま先をまっすぐ伸ばす動作を繰り返し練習する。長い訓練を経て、その動作は、いちいち意識しなくても自然にできるレベルまで身体に刻み込まれる。これは、競技者が一つの完成形に到達したことを意味する。

ところが、その選手がハードル競技へ転向すると、話は変わる。体操で身につけた「つま先を伸ばす」という美しい動作が、ハードルでは障害物に足を接触させる原因になり得るからだ。新しい競技では、つま先を上げてハードルを越える必要がある。体操では正解だった動作が、ハードルでは上達を妨げる要因に変わってしまうのである。

頭では「動きを変えればよい」と理解できても、身体に染みついた動作を修正することは簡単ではない。正しい動きを身につける前に、まず無意識に出てしまう以前の動きを抑えなければならないからだ。一度完成したフォームを、あえて不完全な状態まで崩し、別の競技に適した形へ組み直す必要がある。



ビジネスにおけるアンラーンも、これとよく似ている。

例えば、優れた営業担当者が管理職になったとき、自分が成果を上げてきた営業方法を部下にも細かく指示することがある。しかし、顧客層や商材、部下の特性が異なれば、本人の成功パターンがそのまま通用するとは限らない。自分で動いて成果を出す能力が、部下の判断を奪い、組織の成長を妨げる可能性さえある。

技術開発の現場でも同様である。過去の製品で有効だった設計基準や評価方法が、新しい材料や使用環境にも適しているとは限らない。それにもかかわらず、「これまで問題がなかった」「当社では以前からこの方法でやっている」という理由だけで前例を踏襲すれば、見えないリスクを抱え込むことになる。

では、なぜ人は「いつものやり方」から離れられないのだろうか。

その理由の一つは、人間の脳が、できるだけエネルギーを使わずに判断しようとする性質を持っていることにある。毎回すべての情報を検討し、一から考えていては、時間も労力もかかる。そこで脳は、過去にうまくいったパターンを呼び出し、それを現在の状況にも当てはめようとする。

この仕組みは、平常時には非常に効率的である。しかし、環境が変化しているにもかかわらず過去のパターンを使い続けると、「考えて判断しているつもりで、実際には前例を再生しているだけ」という状態に陥る。

しかも、成功体験には「以前これでうまくいった」という実績がある。そのため、本人にとっては合理的な判断に見えやすく、周囲から疑問を示されても受け入れにくい。慣れた方法を続けることで得られる安心感は、状況が変化した事実から目をそらす「かりそめの安心感」になってしまう。

一度も成功したことのない方法より、何度も成功した方法のほうが手放しにくい。つまり、経験が豊富で専門性の高い人ほど、アンラーンが難しくなる場合がある。過去の成功が大きいほど、それを支えてきた考え方は、本人の自信や職業上のアイデンティティーと強く結びついているからである。

重要なのは、成功体験そのものを否定することではない。「その成功は、どのような条件のもとで成立していたのか」「その条件は、現在も変わっていないのか」を見極めることである。

ある場面での最適解は、別の場面でも最適解であるとは限らない。強みとは、どのような状況でも通用する万能の能力ではなく、一定の条件のもとで有効に働く特性である。条件が変われば、強みが弱みに転じることもある。

この「強みと弱みの表裏一体性」を理解することが、アンラーンの出発点になる。人生100年時代をしなやかに生き抜くために必要なのは、完成した自分を守り続けることではない。環境の変化に応じて、完成形をいったん緩め、別の形へ組み直せる柔軟性である。

次回は、こうした無意識の「思考のクセ」に気づき、それを解きほぐしていくための具体的な技術へと視点を移していく。


※参考文献:Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」_柳川 範之_為末 大_日経BP

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2026/08/17

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義①

第1回:なぜ今、「アンラーン」が必要なのか?

「もっと新しい知識を身につけなければならない」「これからの時代に必要なスキルを学ばなければならない」。変化の激しい現代において、多くのビジネスパーソンがそのような焦りを感じている。

しかし、私たちが直面している問題は、単なる知識やスキルの不足だけではない。むしろ注意すべきなのは、これまで仕事を通じて身につけてきた知識、経験、成功パターンが、新しい環境への適応を妨げる場合があることだ。

過去に有効だった知識や方法は、いわば蓄積された「ストック」である。一方、市場環境や技術、顧客の価値観、働き方は、絶えず変化する「フロー」である。環境の変化が緩やかな時代には、豊富なストックを持つことが大きな強みになった。しかし、変化の速度が上がると、過去の経験をそのまま当てはめるだけでは、目の前の状況に対応できなくなる

例えば、以前は対面での会議や訪問営業が当然だった企業でも、コロナ禍をきっかけに、オンラインでの意思決定や顧客対応を迫られた。そこで必要になったのは、オンライン会議の操作方法を覚えることだけではない。「重要な話は対面でなければ伝わらない」「部下の働きぶりは職場にいなければ把握できない」といった、それまで当然だと思っていた前提そのものを見直すことだった。

東京大学の柳川範之教授が指摘するように、コロナ禍は、私たちに「強制的なアンラーン」を迫った出来事であった。過去の延長線上に未来を描く5か年計画のような考え方は通用しにくくなり、従来の成功パターンが、環境の急変に対して意外なほど脆弱であることが明らかになった。



そこで重要になるのが、「アンラーン(Unlearn)」である。

アンラーンは、一般に「学習棄却」と訳されることがある。ただし、これまで学んだことをすべて忘れたり、過去の経験を否定したりすることではない。アンラーンとは、「これまでに習得した知識や技術を批判的に振り返り、さらなる成長のために、あえて不完全な状態へと整理・再構築するプロセス」である。

たとえるなら、古い知識を捨てて空っぽになるのではなく、長年使ってきた工具箱の中身を点検する作業に近い。今も役立つ道具は残し、用途が限られる道具には注意書きを付け、使わなくなったものはいったん外す。そして、新しい仕事に必要な道具を入れられる余地をつくるのである。

これまで私たちは、学びを「足し算」として捉えがちだった。資格を増やす、知識を蓄える、新しい技術を習得する。もちろん、こうした学びは今後も必要である。しかし、知識を増やすだけでは、古い前提と新しい知識が頭の中で衝突し、結局は使い慣れた方法へ戻ってしまうことがある。

そのため、リスキリングや学び直しを始める前に、「自分は何を当然だと思っているのか」「その考え方は現在も有効なのか」を点検する必要がある。新しい知識を入れるためには、まず古い知識の置き場所や使い方を整理しなければならない。アンラーンは、学習を止める行為ではなく、新しい学習を機能させるための準備なのである。

人生100年時代には、一度身につけた専門性だけで最後まで働き続けることは難しい。職業人生が長くなるほど、過去の成功体験も多く蓄積される。それは大切な財産である一方、「以前はこの方法でうまくいった」「自分の専門ではこう考えるのが常識だ」という固定観念にもなり得る。

変化への適応を阻む真の要因は、知識の不足だけではない。経験を重ねるうちに無意識に骨格化した「思考のパターン」である。だからこそ、これからのビジネスパーソンには、学び続ける力と同時に、自分の考え方を定期的に点検し、必要に応じて組み替える力が求められる。

アンラーンとは、過去を捨てる技術ではない。過去の経験を、これからも使える形に整備し直す「知識と思考のメンテナンス技術」なのである。

次回は、私たちが気づかないうちに身につけ、成長にブレーキをかけている「思考のクセ」の正体を、身体的な知見も交えながら解剖していく。

※参考文献:Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」_柳川 範之_為末 大_日経BP

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2026/08/14

【新規連載】日本的製造業の「次世代進化論」:DQL(設計品質リーダー)が導くティール組織への転換⑤

 5. DQL育成コースの全貌――120億円の成果を生み出す「仕組み」と「実践」

ジェダイト社が提供するDQL育成コースが、一般的な研修と大きく異なる点は、その圧倒的な収益への貢献にあります。通算20年の実績の中で、本職8年間だけでも累計120億円以上(1テーマあたりの平均効果は1億円、中央値は5,000万円)の効果試算金額――しかもこの数字は各社の経営幹部が確認済みの、単年度の数値です。

2年サイクルの育成プロセス

1年目前半(テーマ提言):経営陣を納得させられる、論理的な「効果試算」と「テーマ提言書」を作成します。この段階で、参加者は「稼ぐ技術者」としての視点を身につけます。

1年目後半(テーマ実行):実際の開発プロジェクトの中で、コンサルタントの支援を受けながら、具体的な技術的成果を生み出します。

2年目(成果の定量化と定着):実行したテーマの効果を自ら算出し、経営幹部の承認を得るところまでやり遂げます。この「成功体験をやり切った」という経験が、リーダーとしての自信を確かなものにします。

このサイクルを毎年繰り返すことで、1期生、2期生とリーダーの層が厚くなり、その自律的な姿勢が組織全体に広がっていきます。これは一時的な外部からの働きかけではなく、組織が自ら学び続ける力を身につけていくプロセスです。



結論:変化に強い「自律型組織」を社内に根づかせるために

人的資本経営、そしてティール組織への移行は、一朝一夕には実現できない「投資」です。しかし、DQLを中核として、次世代の経営実行を担う人材が次々と育っていく姿こそ、日本の製造業が目指すべき最終的な形だと私たちは考えています。

最後に、経営者の皆様へ率直にお伝えします。このプログラムは「変わる気のない組織」にはお勧めしません。現状維持を良しとする文化の中にDQLという新しい存在を投入しても、組織の拒絶反応を招くだけだからです。しかし、昨今の急速な変化を先取りし、本気で技術者の力を解き放ち、「稼げる組織」へと生まれ変わりたいと願う経営者の方には、私たちが全力で伴走することをお約束します。

お問い合わせ・参画のご案内

技術士(経営工学)として、あらゆる製品・課題に対して3,000件以上の指導実績を持つ鶴田明三が、直接貴社の組織変革をリードします。経営工学に裏打ちされた科学的なアプローチにより、技術的な取り組みを経営の数字に直結させます。

募集状況:限定2社様まで(本気で組織を強くする決意のある企業様に限らせていただきます)

詳細な内容、費用例、卒塾生の声については、弊社ウェブサイトをご確認ください。お問い合わせは、意思決定権者様、または権限を委任された方より、下記ホームペ―ジのお問合せフォームからお願いいたします。


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2026/08/13

【新規連載】日本的製造業の「次世代進化論」:DQL(設計品質リーダー)が導くティール組織への転換④

 4. 「DQL(設計品質リーダー)」とは何か――変革を担う次世代のリーダー像

モノづくりやプロダクト開発の現場において、技術の高度化と市場の変化スピードは増すばかりです。そんな中、これまでのトップダウン型のマネジメントや、単純な分業制だけでは、真のイノベーションを生み出すのが難しくなっています。

いま、組織の壁を越えて変革を推進する「新しいリーダーシップ」が強く求められています。そこで株式会社ジェダイトが提唱しているのが、「DQL(Design Quality Leader:設計品質リーダー)」という新しいリーダー像です。



DQLは「単なる技術スペシャリスト」ではない

DQLと聞いて、「技術に特化した優秀なエンジニア」をイメージするかもしれません。しかし、それはDQLの一側面に過ぎません。

彼らは、人的資本経営における「技術面での経営実行役」です。現場の技術を深く理解しながらも、常に経営的な視点を持ち合わせています。つまり、将来的に事業全体を統括し、プロダクトを成功へと導くプロダクトマネージャー(PdM)の有力な候補となる人材なのです。

では、DQLは具体的にどのように組織を牽引していくのでしょうか。DQLは、次世代型の組織モデルとして注目される「ティール組織」の3つの特性を、現場レベルで強力に体現します。

1. セルフマネジメント(自主経営):受動から能動へのシフト

従来の開発現場では、「与えられた仕様や業務をいかに正確にこなすか」が重視されがちでした。しかしDQLは、指示を待つことはありません。

自ら市場の動向やユーザーの声を拾い上げ、「どこに機会損失が潜んでいるのか」「どうすれば自社の利益を最大化できるか」を能動的に考え抜きます。そして、自発的に「解決すべき技術テーマ」を生み出し、プロジェクトとして立ち上げる力を持ち合わせています。

2. 全体性(ホールネス):部門の壁を壊す「人間力」

組織が大きくなると、どうしても「開発」「製造」「営業」といった部門間の壁(サイロ化)が生じます。この壁を突破するには、技術力だけでは不十分です。

DQLに求められるのは、卓越した専門スキルに加えて、周囲を巻き込むリーダーシップと豊かな人間力です。自分の殻に閉じこもるのではなく、他部門のメンバーの意見を尊重し、心理的安全性を担保しながら、組織全体を同じゴールへ向かって動かしていく力。それがDQLの持つ「全体性」です。

3. 存在目的への耳澄まし:「手段の目的化」からの脱却

現場で陥りがちな罠の一つが、「品質工学などの特定の手法や、最新ツールを導入すること」自体が目的になってしまう現象です。

DQLは、こうした「手段の目的化」を鋭く警戒します。常に「このプロダクトは、最終的に社会や顧客にどんな価値を提供すべきなのか?」という本質的な存在目的(パーパス)に立ち返ります。その揺るぎない目的から逆算して、今本当に取り組むべき技術テーマを設定し、正しい方向へとチームを導く羅針盤の役割を果たします。


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2026/08/12

【新規連載】日本的製造業の「次世代進化論」:DQL(設計品質リーダー)が導くティール組織への転換③

 3. 日本的経営の強み再発見:長期雇用を「自律分散型組織」の土台にする

近年、「メンバーシップ型雇用(職務を限定せず、長期的に人材を育てていく日本型の雇用慣行)」や「解雇規制の厳しさ」は、日本企業の成長を阻む要因として語られることが増えました。変化の激しい時代において、ジョブ型雇用への移行や人材の流動化を進めなければ、グローバルでのスピード競争に勝てない――。そんな論調がメディアを賑わせています。

確かに、従来のトップダウン型で硬直化したピラミッド組織のままでは、それは「弱み」にしかならないかもしれません。しかし、いま世界中で注目されている「ティール組織(自律分散型組織)」へと進化させる文脈において、日本の伝統的な雇用慣行は、実は他国には真似できない決定的な「強み」へと反転するのです。

短期主義の限界と、長期雇用が育む「心理的安全性」

海外の多くの競合企業は、四半期ごとの短期的な利益を追求し、必要に応じてドラスティックに人材を入れ替える経営を行っています。これはスピード感がある反面、組織への帰属意識や、社員同士の深い結びつきが育ちにくいという弱点を抱えています。

ティール組織のように、社員一人ひとりが自律的に動き、部門を越えて協力し合う組織をつくるには、「失敗しても簡単には切り捨てられない」という絶対的な心理的安全性が不可欠です。

長期雇用を前提とする日本企業には、この土壌がすでに備わっています。技術力はもちろんのこと、「この会社で社会に貢献したい」という志や企業文化を、時間をかけてじっくりと組織全体へ浸透させていくことができるのです。

組織文化は「内側から、数年かけて」伝播していく

組織文化の変革は、システムをアップデートするように一朝一夕で完了するものではありません。

例えば、先述した「DQL(設計品質リーダー)」のような自律的なリーダーが現場に現れたとします。彼らが自分の熱意で周囲を巻き込み、少しずつチームの空気を変え、それが隣の部署へと波及し、やがて全社的なうねりとなっていく。この有機的なプロセスには数年の歳月がかかります。

「明日も、来年も、この仲間と一緒に働く」という社員同士の長期的な信頼関係の基盤があって初めて、こうした草の根からの変革は途絶えることなく継続し、強固な文化として根付くのです。

究極のボトルネックは経営陣の「覚悟」にある

しかし、日本企業の強みを活かして自律分散型組織へと進化していくためには、たった一つ、決して避けては通れない壁があります。それは「経営陣の覚悟」です。

組織開発の世界には、「組織の進化段階は、そこにいるリーダー(経営トップ)の意識レベルを超えることができない」という残酷な法則があります。どれだけ現場に優秀で自律的な人材が育っていても、経営側が「数字で細かく管理したい」「自分の目の届く範囲に置いておきたい」というトップダウンの呪縛から抜け出せなければ、組織はそこで成長を止めてしまいます。


経営者が「コントロールを手放す不安」を真っ向から受け止め、それを乗り越えられるか。そして、社員一人ひとりが持つ自発性やポテンシャルを心から信じ、彼らに権限と責任を委ねることができるか。

日本的経営のDNAである「長期的な信頼関係」を最大の武器にできるかどうかは、経営者のその「覚悟」にかかっています。それこそが、これからの時代における企業の持続的な競争力を左右する、最大の分かれ目になるのです。



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