第2章 「できるだけ頑張る」技術者から「これだけ実現する」技術者へ
― 目標を自ら設定し、結果に責任を持つ ―
技術部門にあふれる「できるだけ」という言葉
「できるだけ品質を向上させたい」「可能な限り原価を低減する」「開発期間の短縮に努める」
製造業の技術部門では、こうした言葉が日常的に使われている。研究開発方針や部門目標、さらには個人の業務計画にも、似たような表現が数多く見られる。
一見すると、どれも前向きで真面目な目標に思える。しかし、経営の視点から考えると、これほど曖昧な言葉もない。
例えば、「できるだけ原価を低減する」という目標を掲げた技術者が、半年間の活動によって製造原価を3%削減したとしよう。本人はさまざまな工夫を重ね、相当な努力をしたかもしれない。
しかし、その3%という成果は、果たして十分なのだろうか。
競合他社が同等の製品を20%安く販売し始めているのであれば、3%の原価低減では事業の競争力を維持できない可能性がある。逆に、競争上の優位性が十分に確保されており、原価低減のために多額の開発費が必要なのであれば、無理に原価を下げることが合理的とは限らない。
重要なのは、どれだけ努力したかではなく、何を実現する必要があり、それに対してどのような成果を上げたかということである。
「できるだけ」という目標には、達成すべき水準も期限も、成功か失敗かを判断する基準もない。したがって、どのような結果になっても「精一杯努力した」という説明が成り立ってしまう。
私は、こうした仕事の進め方を「できるだけ主義」と呼び、それに対して「これだけ主義」への転換が必要だと考えている。
「これだけ主義」は、結果から仕事を考える
「これだけ主義」とは、最初に実現すべき成果を明確にし、その達成に向けて仕事を組み立てる考え方である。
例えば、「製品の信頼性を向上させる」という目標を、「市場での故障発生率を2年間で半減させる」と置き換える。
「生産性を改善する」という目標であれば、「設備投資を増やさずに、1年以内にラインの生産能力を15%向上させる」と設定する。
こうして目標を明確にすると、技術者の仕事の進め方は大きく変わる。
故障率を半減させるためには、まず市場で発生している故障を分析しなければならない。故障の発生条件や原因を明らかにし、どの設計要素を改善すれば目標を達成できるのかを考える必要がある。
生産能力を15%向上させるのであれば、設備能力、段取り時間、停止時間、歩留まりなどを分析し、改善すべき要因を特定しなければならない。
つまり、成果目標を明確にすることで、初めて技術的な課題が具体的になるのである。
もちろん、数値目標を設定すれば自動的に成果が出るわけではない。根拠のない目標を現場に押しつけるだけでは、技術者を疲弊させ、かえって組織の活力を奪う。
大切なのは、その目標をなぜ達成する必要があるのかを理解し、達成のための方法を自ら考えることである。
ここに、従来型の技術者と設計品質リーダー(DQL)の違いが現れる。
事例:歯車の噛み合い騒音を低減する
具体的な事例で考えてみよう。
ある精密歯車メーカーでは、産業用減速機に使用する歯車を設計・製造し、減速機メーカーに供給している。
ところが、取引先の減速機メーカーから、「組み立てた減速機の噛み合い騒音にばらつきが大きく、完成検査で不合格になる製品が多い」という問題が持ち込まれた。
歯車メーカーの技術部門では、歯形精度や歯面粗さの改善を進めてきた。しかし、歯車単体では図面公差を満たしているにもかかわらず、減速機として組み立てると騒音の大きなものが発生する。
そこで技術部門の管理者は、担当者に対して「できるだけ歯車の加工精度を上げ、騒音を改善するように」と指示した。
技術者たちは加工条件を見直し、歯面の仕上げ精度を向上させ、検査も強化した。その結果、半年後には取引先での騒音検査不合格率が、従来の8%から6%に低下した。
担当者は「不合格率を25%低減した」と報告し、改善活動は一定の成功を収めたとして評価された。
しかし、ここで経営的な視点から考えてみたい。
仮に、取引先が月間10,000台の減速機を生産しているとすれば、不合格率8%では月間800台、6%に改善しても600台もの製品が再調整や再検査の対象になる。
不合格となった製品の手直しに平均30分を要するとすれば、改善後も毎月300時間もの作業が発生している計算になる。
さらに、騒音不良の発生によって納期遅延や追加検査、製品選別などが必要になれば、顧客の負担は一層大きくなる。
歯車メーカーが「25%改善した」と満足していても、顧客は依然として問題を抱えたままなのである。
では、DQLならどのように考えるだろうか。
まず、取引先が求めているのは歯形精度そのものではなく、減速機としての静粛性と、その安定した量産品質であることを確認する。
そして、顧客の生産能力、品質損失、競合製品の水準などを踏まえ、例えば次のような目標を提案する。
「6か月以内に、減速機の噛み合い騒音に関する完成検査不合格率を8%から2%以下に低減する。ただし、伝達効率、強度、耐久性などの基本性能を維持し、歯車の製造原価の増加は1%以内に抑える」
もちろん、これは顧客と共同で達成可能性を検討すべき目標であり、歯車メーカー単独で実現を保証できるものではない。
それでも、8%から2%への改善が実現すれば、月間の不合格数は800台から200台へ、600台減少する。
再調整・再検査に要する作業時間は、月間400時間から100時間へと減り、300時間分の作業負担を削減できる計算になる。仮に作業時間当たりの費用を4,000円と評価すれば、月間120万円、年間1,440万円に相当する作業負担の削減効果である。
これはあくまで作業時間を金額換算したものであり、すべてがそのまま現金支出の削減になるわけではない。しかし、顧客にとって大きな経済的価値を持つことは理解できるだろう。
ここで初めて、騒音改善という技術的なテーマが、顧客の生産性向上と、自社の競争力・収益力の向上を目指す経営課題になるのである。
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