2026/09/09

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑫

 5-3.中止基準を先に決める

新規研究開発では、「何を始めるか」には多くの時間を使います。

市場性を調べ、技術課題を整理し、経営会議で説明し、予算を確保する。ところが、いったん始めたテーマを「いつやめるか」については、意外なほど曖昧なことがあります。

その結果、

「ここまで投資したのだから」
「もう少しやれば成果が出るかもしれない」
「担当者が長年取り組んでいるから」

といった理由で、テーマが惰性で継続されます。

研究開発には不確実性がありますから、途中で計画通りにいかないのは当然です。しかし、不確実性があることと、判断基準がないことは別です。

むしろ新規テーマほど、始めるときに中止基準まで決めておくことが重要です。

「市場があるはず」では続けない

まず見るべきなのは、顧客損失です。

たとえば設備診断の新技術を開発しているとします。

技術的には面白く、顧客からも「あると便利ですね」と言われる。しかし、その設備停止や保全工数による損失を金額換算すると、年間数十万円しかない。

その問題を解決するシステムが数百万円するのであれば、導入は難しいでしょう。

この場合、

顧客損失を合理的に金額換算できない

こと自体を、中止あるいは再設定の基準にしてよいと思います。

「ニーズがある」と「お金を払うほど困っている」は違います。

既存製品との差が説明できるか

新規研究開発でよく起きるのが、開発を続けている間に既存製品が追いついてくるケースです。

当初は新しかった機能が、数年後には標準PLCに搭載されている。クラウドサービスの標準機能で同じことができる。

こうなると、研究テーマの前提そのものが崩れています。

定期的に、

「市販のPLCでできないのか」
「既存のクラウドサービスを使った方が安くないか」

と問い直す必要があります。

自社で研究開発する理由が説明できなくなったら、そのテーマは見直すべきです。

AI精度95%」でも使えないことがある

AI関連では、評価指標の置き方に注意が必要です。

たとえば設備異常検知で、

「判定精度95%を達成した」

という結果が出たとします。

数字だけを見ると良さそうです。

しかし、正常設備を異常と判定する誤警報が1日に20回発生するのであれば、現場では使われなくなるでしょう。

最初のうちは担当者も確認してくれますが、毎日誤警報が出れば、やがて画面を見なくなります。

FAの研究では、平均的な精度だけではなく、

誤警報率、見逃し率、応答時間、異常時の影響

まで含めて実用性を判断しなければなりません。

技術的に成立したことと、現場で使えることは別です。

個別対応が増えたら要注意

PoCではうまくいったのに、事業化すると儲からない。

この原因として多いのが、顧客ごとの個別開発です。

A社ではセンサー配置が違う。
B
社ではPLCが違う。
C
社ではデータ形式が違う。
D
社では設備仕様が非公開。

そのたびに技術者が現地へ行き、解析モデルや設定を作り直す。

これでは売上が増えるほど技術者も増やさなければならず、事業としてスケールしません。

そこで、

標準機能で何割の顧客に対応できるか

を評価します。

個別対応が一定割合を超えるなら、製品アーキテクチャを見直すか、場合によってはテーマ自体を中止する判断が必要です。

データが取れないAI事業は続かない

AIや設備診断では、研究段階のデータ確保だけで満足しないことも重要です。

最初の顧客から大量のデータを提供してもらい、高性能なモデルを作れた。

しかし商品化後は設備データを取得できない。

これでは、モデルを改善できません。

設備条件も変わります。部品も変わります。顧客の生産品種も変わります。

数年前のデータだけで作ったモデルが、その後も同じ性能を維持するとは限りません。

したがって、

事業化後も継続して現場データを取得できるか

は、テーマ継続の重要な条件です。

「できるけれど製品には載せられない」もある

FA分野では、安全性とリアルタイム性が大きな制約になります。

研究室ではAI制御がうまく動いた。ところが実機では、演算時間が安定しない。通信遅延が発生する。異常時の安全側動作を保証できない。

こうした場合、研究としては成功していても、製品として採用できないことがあります。

そのため初期段階から、

「何ミリ秒以内に応答する必要があるか」
「誤動作した場合の影響は何か」
AIが停止したとき、従来制御へ戻せるか」

といった条件を決めておきます。

安全性やリアルタイム性を保証できないなら、対象用途を限定するか、中止する判断も必要です。

セキュリティは販売後にも費用がかかる

デジタルFAでは、販売後のコストも無視できません。

ネットワークにつながる製品を販売すれば、脆弱性への対応、ソフトウェア更新、顧客への通知などが必要になります。

つまりセキュリティ対応は、開発時の一回限りの費用ではありません。

製品を10年間供給するのであれば、その期間中の更新費用を誰が負担するのかを考えなければなりません。

それを製品価格や保守契約に転嫁できないのであれば、

「売れるが儲からない商品」

になる可能性があります。

研究テーマ評価にも、ライフサイクル全体の保守費用を入れる必要があります。

「あの人しかできない」は技術資産ではない

もう一つ、見落とされやすい中止基準があります。

特定の技術者しかシステムを構築できないテーマです。

研究段階では、優秀な担当者が一人いれば動きます。

しかし事業化すると、

営業が提案する。
サービス担当が設定する。
顧客が運用する。
別の技術者が保守する。

という状態にしなければなりません。

毎回、開発者本人が現場へ行かなければ動かない製品は、なかなか事業にはなりません。

研究成果を、

標準ソフトウェア、設定ツール、設計ルール、教育プログラム

などへ落とし込めるかを見る必要があります。

中止は「失敗」ではない

研究開発でテーマを中止すると、「失敗した」という印象を持たれがちです。

しかし本来は逆です。

市場性がないことが早く分かった。
必要精度を実現できないことが分かった。
標準化できないことが分かった。

これは立派な研究成果です。

問題なのは、分かっているのに続けることです。

研究開発資源には限りがあります。

有望でないテーマを半年早く中止できれば、その半年分の人員と予算を次のテーマへ回せます。

したがって、中止基準は研究者を評価するためのものではなく、会社の研究開発資源を守るための仕組みと考えた方がよいでしょう。

そして、研究テーマが技術的に成立した後にも、まだ大きな壁があります。

「作れる」ことと「事業になる」ことは同じではありません。



次回からは 6.研究開発から事業化への移行」 に入り、まず *6-1.技術仮説と事業仮説を分ける」として、技術的成功と事業的成功をどのように切り分けて検証すべきかを考えていきます。



※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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2026/09/08

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑪

 5-2.テーマポートフォリオ

前回は、新規研究開発テーマを「顧客損失の深刻度」「市場性」「自社優位性」「技術実現性」「収益性」「戦略性」の六つの軸で評価する考え方を紹介しました。

しかし、個々のテーマを点数順に並べて、上から採択すればよいわけではありません。

研究開発では、もう一つ重要な視点があります。

それが、テーマ全体の組み合わせ、つまりポートフォリオです。

企業としては、来年の売上につながるテーマも必要ですし、3年後、5年後の柱になるテーマも必要です。すべてを短期型にすると将来がなくなり、すべてを長期型にすると足元の収益につながりません。

短期・中期・長期を意識して持つ

FA分野で考えると、たとえば次のように整理できます。

短期型では、既存製品や既存顧客を活用します。

PLCに診断機能を追加する。
既存設備に後付けセンサーを取り付ける。
現在取得しているログを使って異常傾向を表示する。

このタイプは比較的早く商品化でき、既存販売網も使いやすいのが特徴です。

一方、中期型では、複数の技術を組み合わせるテーマが増えます。

予知保全であれば、センシングだけでなく、データ解析、故障モードの知識、エッジ処理などが必要です。

エネルギー最適制御なら、計測、インバータ、設備モデル、AIなどを組み合わせることになります。

仮想立上げも、制御ソフト、設備モデル、シミュレーション環境を一体で考えなければなりません。

さらに長期型になると、現在の商品分類そのものを超えるテーマが出てきます。

自律制御、オープンFA基盤、製造デジタルツインなどです。

これらは研究期間も長く、不確実性も高い。

しかし成功すれば、単なる機器メーカーから、工場全体を支えるプラットフォーム企業へ事業領域を広げられる可能性があります。



短期テーマだけでは「改善」に偏る

経営会議では、どうしても短期型が高く評価されやすくなります。

市場が見える。
顧客がいる。
技術もある。
売上予測も立てやすい。

当然です。

ただし、この基準だけで研究開発テーマを選ぶと、

「既存PLCの高性能化」
「既存センサーへの機能追加」
「現行サービスの改良」

のようなテーマばかりになります。

これらは大切ですが、ほとんどが既存事業の延長です。

逆に、長期テーマだけを優先すると、5年後には成果が出るかもしれないが、その間に事業環境が変わる可能性もあります。

したがって重要なのは、テーマごとの優劣ではなく、時間軸の異なるテーマを意図的に組み合わせることです。

もう一つの軸は「どこまで事業を広げるか」

テーマポートフォリオには、時間軸とは別の見方もあります。

それが、

コンポーネントシステムサービス

という事業階層です。

事業階層

具体例

コンポーネント

AIセンサー、セキュアPLC、高効率ドライブ

システム

設備診断、エネルギー最適化、仮想立上げ

サービス

遠隔保全、モデル更新、脆弱性対応、改善支援


従来のFAメーカーは、コンポーネント層を得意としてきました。

高性能なPLCを作る。
高精度なセンサーを作る。
高速なサーボを作る。

この競争力は今後も重要です。

しかし、顧客損失を起点に考えると、コンポーネントだけでは解決できないテーマが増えてきます。

機器からシステムへ

たとえば設備停止を減らす場合です。

振動センサーを高性能化するだけでは、設備停止は減りません。

センサーからデータを取り、設備状態を判定し、異常兆候を通知し、必要なら保全担当者へ対応方法を提示する。

ここまで行って初めて顧客価値になります。

つまり、

「高性能センサーを販売する」

というコンポーネント事業から、

「設備診断システムを提供する」

という事業へ一段上がります。

同じことはエネルギー分野でも言えます。

高効率インバータを売るだけではなく、設備全体の負荷を予測し、複数機器を最適運転するシステムまで提供する。

研究テーマをどの階層まで広げるかによって、事業規模も競合相手も変わります。

さらにサービスへ進む

デジタルFAでは、もう一段上のサービス層も重要になります。

設備診断システムを導入した後、

遠隔で状態を監視する。
診断モデルを更新する。
故障傾向を定期的に報告する。
脆弱性情報を通知し、対応方法を提示する。

こうしたサービスを継続的に提供すれば、売切り型とは異なる収益構造を作れます。

ここで、以前取り上げた「設置ベース」が効いてきます。

自社製品が大量に現場で稼働していれば、その機器を入口として新しいサービスを展開できます。

コンポーネントを売ったことが、次のサービス事業への顧客接点になるわけです。

研究テーマ同士をつなげる

ポートフォリオを考えるときには、テーマを独立した箱として扱わないことも重要です。

たとえば短期テーマとして、

「既存設備の後付けデータ収集」

を開発するとします。

これだけでも商品になりますが、そのデータを蓄積すれば、中期テーマである予知保全に使えます。

さらに、複数設備のデータや設備モデルが蓄積されれば、長期的には自律制御やデジタルツインへ展開できるかもしれません。

つまり、

短期テーマが中期テーマのデータ基盤になり、中期テーマが長期テーマの技術基盤になる

という関係を作れます。

このようなポートフォリオは強い。

一つ一つのテーマが単発で終わらず、研究開発投資が次のテーマに蓄積されていくからです。

ポートフォリオは「予算配分表」ではない

研究開発ポートフォリオというと、

短期50%、中期30%、長期20

のような予算配分を思い浮かべるかもしれません。

もちろん、そのような管理も必要です。

しかし本質はそこではありません。

重要なのは、

「今年の商品化テーマは何か」
3年後の事業候補は何か」
5年後の競争力を作る基盤技術は何か」

が一本のストーリーとしてつながっていることです。

さらに、

「コンポーネントで稼ぐのか」
「システムへ広げるのか」
「継続サービスまで取るのか」

という事業の階層も合わせて考えます。

研究開発テーマを一件ずつ審査するだけでは、この全体像は見えません。

個々のテーマの評価と、テーマ群全体の設計は別の仕事なのです。

そして、ポートフォリオを作ると、次の問題も出てきます。

限られた人員と予算を使う以上、始めたテーマをいつまでも続けることはできません。

研究開発では「何を始めるか」と同じくらい、**「何をやめるか」**を決めることが重要です。

次回は、「5-3.中止基準を先に決める」として、研究テーマが惰性で継続されるのを防ぎ、限られた開発資源を有望テーマへ振り向ける方法を考えていきます。



※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑩

 5.テーマの評価・選定方法

5-1.幹部が評価すべき六つの軸

新規研究開発テーマの候補がいくつか出そろうと、次に必要になるのが「どれを選ぶか」という判断です。

ここは意外に難しいところです。

技術部門は、どうしても技術的新規性や実現可能性を重視します。一方、営業部門は顧客の声や売れそうかどうかを見る。経営側は投資額や将来の収益性を気にします。

それぞれの見方は正しいのですが、評価軸がばらばらでは、結局「声の大きい人のテーマ」が残ってしまいます。

そこで、テーマ採択の段階では、あらかじめ評価軸を決めておくことが重要です。

FA機器メーカーであれば、私は次の六つを基本に考えるのがよいと思います。



合計100点です。

ただし、重要なのは点数そのものではありません。

この六つの観点について、幹部と技術者が同じ言葉で議論できることに意味があります。

まず「顧客はいくら困っているか」

最初に見るべきなのは、顧客損失の深刻度です。

研究テーマとして面白くても、顧客側の損失が小さければ事業にはなりにくい。

たとえば設備停止であれば、

年間何時間止まっているのか。
そのとき何台の設備、人員が影響を受けるのか。
生産機会損失はいくらなのか。

品質問題であれば、不良品そのものだけでなく、選別、再検査、手直し、廃棄、顧客対応まで含めて考えます。

できるだけ金額に直すことがポイントです。

「大変困っている」という表現より、「年間3000万円の損失が発生している」と分かった方が、研究投資の判断はずっとしやすくなります。

一社で終わらないか

次が、市場性・横展開性です。

研究開発では、ある有力顧客から強い要望が出ると、その案件を新規テーマとして採択したくなります。

ただし注意が必要です。

その問題は、その顧客だけに存在する特殊事情なのか。それとも同業他社、さらに他業界にも存在する問題なのか。

ここを見極めます。

たとえば「包装設備の段取り時間短縮」というテーマなら、食品だけでなく医薬品、化粧品、日用品などにも広がる可能性があります。

一方、特定顧客の特殊な設備仕様に強く依存するテーマであれば、受託開発に近くなります。

もちろん、一社専用案件が悪いわけではありません。ただし「研究開発テーマ」として投資するなら、二社目、三社目に展開できる構造になっているかを確認したいところです。

「できる」ではなく「自社だからできるか」

三つ目が自社優位性です。

これは非常に重要です。

AIで異常検知する」というテーマだけなら、多くのIT企業ができます。

しかし、

PLC内部の制御データ、
サーボの電流・位置情報、
センサーの計測値、
過去の故障履歴

を組み合わせて診断するとなると、話は変わります。

FAメーカーだからこそアクセスできるデータや、制御・計測・駆動を横断できる技術があります。

評価すべきなのは、

そのテーマが実現できるかではなく、競合より有利に実現できるか

です。

他社も半年後に簡単に追随できるテーマなら、技術開発に成功しても十分な収益を得られない可能性があります。

FAでは「精度が高い」だけでは足りない

技術・安全実現性も欠かせません。

特にFA分野では、一般的なITサービスとは条件が違います。

設備制御では、リアルタイム性が必要です。
誤った判断が設備停止や品質不良につながることもあります。
場合によっては人の安全にも関係します。

AI診断の正解率が95%だったとしても、残り5%の誤判断がどのような影響を与えるかを考えなければなりません。

AIが判断できないときには従来制御へ戻す。
重要な判断は人の承認を必要とする。
安全系はAIから独立させる。

といった設計も必要になります。

「技術的に面白いからやってみよう」ではなく、工場で実用できる水準まで持っていけるかを見る必要があります。

売上ではなく「どう儲かるか」

収益性では、市場規模だけを見ない方がよいでしょう。

特にデジタルFAでは、売上の形そのものが変わる可能性があります。

従来のように、

機器を1台売って終わり

ではなく、

ソフトウェアライセンス、
年間保守契約、
監視サービス、
解析サービス、
機能アップデート

など、継続収入につながる可能性があります。

たとえばハードウェア単体では粗利益が小さくても、設置後に診断サービスを継続販売できるなら、事業価値は大きく変わります。

テーマ評価では、「年間何台売れるか」だけではなく、顧客との取引がどのくらい継続するかも見ておくべきです。

最後に「既存事業とつながるか」

六つ目が、戦略・設置ベース活用です。

これは既存FAメーカーにとって特に重要な評価軸です。

すでに何十万台ものPLCやセンサー、サーボが市場で稼働しているなら、その設置ベースを活用できるテーマは、新規参入企業より有利に展開できます。

既存機器へソフトウェアを追加できる。
既存顧客に新しいサービスを提案できる。
保守契約から診断サービスへ広げられる。

こうしたテーマは、新規事業でありながら既存事業との相乗効果があります。

逆に、自社の顧客基盤も技術資産もまったく使えないテーマであれば、それ相応の理由が必要です。

100点満点のテーマを探さない

ここで一つ注意があります。

六つの軸すべてで満点になるテーマは、まずありません。

市場性は大きいが技術難度も高い。
自社優位性は高いが市場規模はまだ小さい。
短期収益は小さいが、将来の戦略価値が大きい。

こうしたテーマが普通です。

したがって、この評価表は「70点以下を落とす」といった単純な足切りに使うよりも、

そのテーマは、何が強く、何が弱いのかを見えるようにする道具

として使う方が有効です。

テーマAは短期収益型。
テーマBは将来成長型。
テーマCは基盤技術型。

という違いが見えてきます。

そして、ここからもう一つ重要な問題が出てきます。

有望なテーマだけを上から順番に採択すればよいのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

短期で商品化できるテーマばかり選ぶと、5年後の成長テーマがなくなります。逆に、将来テーマばかりでは目先の収益につながりません。

研究開発では、個々のテーマを評価すると同時に、テーマ全体の組み合わせを見る必要があります。

次回は、「5-2.テーマポートフォリオ」として、短期・中期・長期、既存事業・新規事業、確実性・挑戦性などのバランスをどう取るかを考えていきます。


※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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2026/09/02

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑨

 3-4.「アイデア」を「研究テーマ」に変える

新規研究開発の会議では、面白いアイデアがいくつも出ます。

AIで設備異常を予測できないか」
「段取り替えを自動化できないか」
「古い設備からデータを取れないか」

こうした発想は大切です。しかし、アイデアが出たことと、研究テーマとして採択できることは別です。

研究開発テーマにするには、誰の、どんな損失を、どのレベルまで改善するのかを明確にしなければなりません。

テーマ採択前には、少なくともいくつかの項目を明文化しておく必要があります。

「誰の問題か」を最初に決める

まず明確にしたいのは、対象顧客、設備、工程です。

「製造業向けの予知保全」では広すぎます。

たとえば、

「自動組立設備のサーボ駆動部」
「半導体製造装置の搬送機構」
「食品包装設備のシール工程」

くらいまで絞った方がよいでしょう。

対象を具体化すると、必要なセンサー、取得できるデータ、異常の種類、顧客が許容できるコストも見えてきます。

研究テーマは、最初から市場全体を狙う必要はありません。

まず、どこで最初の価値を証明するかを決めることが重要です。

損失をできるだけ金額にする

次に、その問題によって顧客がどれだけ損をしているかを考えます。

たとえばチョコ停が問題であれば、

1回平均5分、110回、年間250日発生しているとします。

それによって失われる生産量、人件費、再立上げロスなどを計算すれば、年間損失をある程度見積もれます。

ここまで分かれば、

「年間300万円の損失を50%削減できるなら、100万円のシステムでも投資対象になり得る」

といった議論ができます。

逆に、年間損失が10万円しかない問題に、500万円の装置を開発しても事業にはなりません。

研究テーマの技術的な魅力と、顧客にとっての経済価値は分けて考える必要があります。

現在の回避策を調べる

顧客は、問題を放置しているとは限りません。

設備停止が多ければ、予備部品を持っているかもしれない。
品質変動があれば、検査員を増やしているかもしれない。
段取りが難しければ、熟練者を専任で配置しているかもしれない。

つまり、新しい技術が競争する相手は、他社製品だけではありません。

現場が現在行っている回避策そのものです。

「人がやれば30分で済む作業を、自動化すると100万円かかる」

のであれば、顧客が導入しないのは当然です。

反対に、熟練者不足でその30分の作業すら維持できなくなるのであれば、状況は変わります。

現在の方法と、その限界を知ることが重要です。

目標は「AIを使う」ではなく性能で書く

研究テーマでありがちなのが、

AIを活用した異常検知システムの開発」

という表現です。

これでは、何ができれば研究成功なのか分かりません。

研究テーマにするなら、

「異常発生の30分前に検知する」
「誤報率を5%以下にする」
「設備停止後30秒以内に原因候補を提示する」

といった目標機能や性能に落とします。

AIを使うかどうかは、その後です。

重要なのは、顧客に必要な性能を先に定義することです。

AIでは「何が分からないか」を明確にする

AIやデータ解析を使うテーマでは、もう一つ注意点があります。

データを集めれば何とかなる、とは限りません。

正常データは大量にあるが故障データがほとんどない。
設備ごとに条件が違う。
センサー交換後に特性が変わる。
季節や材料ロットによって正常範囲が変化する。

こうした問題があります。

つまり、「AIを使えるか」ではなく、

何がまだ分からないのか

を研究課題として明確にしておく必要があります。

ここが曖昧なままだと、単なるソフトウェア開発と研究開発の区別もつきません。

FAでは精度だけでなく「使えるか」が重要

FA分野でAIやソフトウェアを扱う場合、予測精度だけを評価してはいけません。

安全性は十分か。
決められた時間内に応答するか。
通信が切れても設備を安全に動かせるか。
なぜその判断をしたのか説明できるか。

こうした条件が重要です。

たとえばAIが設備停止を予測できても、演算結果が5分後に届くのでは使えないケースがあります。

逆に、診断根拠が分からないため現場担当者が信用せず、結局使われないこともあります。

リアルタイム性、安全性、説明可能性まで含めて技術テーマを設計する必要があります。

「なぜお金を払うか」に答えられるか

研究テーマを事業化するのであれば、避けて通れない問いがあります。

顧客はなぜ、この技術に対価を支払うのか。

設備停止を年間20時間減らせるから。
検査員を2人減らせるから。
段取り時間を半減できるから。
不良流出のリスクを下げられるから。

こうした理由が説明できれば、価格を考える土台もできます。

「便利だから」「AIだから」「最新だから」では、長期的な事業にはなりにくいでしょう。

データを一度だけ取って終わらせない

そして、デジタルFAのテーマでは特に重要なのが、データ取得の仕組みです。

PoCのときだけ顧客からデータをもらい、そのデータでAIモデルを作る。

これでは、数年後に競争力を維持できません。

設備は変わります。
部品も変わります。
製造条件も変わります。

だからこそ、

「販売した機器から継続的にデータを取得できる」
「保守時に故障情報が蓄積される」
「複数顧客の知見を匿名化してモデル改善に使える」

といった仕組みまで考える必要があります。

ここまで設計できれば、製品を売るほどデータが増え、データが増えるほどサービスが良くなるという循環を作れる可能性があります。

良い研究テーマは「一文」で説明できる

最終的には、研究テーマを一文で説明できる状態を目指します。

たとえば、

「食品包装設備を対象に、サーボとセンサーの時系列データからシール不良の兆候を10分前に検知し、廃棄損失を年間30%削減する技術を開発する」

という具合です。

対象、問題、技術課題、目標、顧客価値が一つの文章に入っています。

これくらい具体化されていれば、経営側も技術側も同じテーマについて議論できます。

逆に、

AIを活用したスマートファクトリー技術の研究」

では、何を研究するのかほとんど分かりません。

アイデアを出す段階では、多少曖昧でも構いません。

しかしテーマとして採択する段階では、技術の面白さ、顧客価値、事業性を同じ土俵に乗せる必要があります。

では、複数の候補テーマが具体化された後、経営側は何を基準に選べばよいのでしょうか。

次回からは 5.テーマの評価・選定方法」 に入り、まず 5-1.幹部が評価すべき六つの軸」として、研究開発テーマを経営視点で比較する考え方を整理していきます。

(第4章は競争領域の具体的な開発テーマに関わりますので、本稿では割愛します)



※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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2026/09/01

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑧

 3-3.テーマ探索マトリクス

前回は、新規研究開発テーマの発生源として、設備停止、品質不良、段取り替え、保全履歴、Excel作業、旧型設備、エネルギー、セキュリティなど、現場で繰り返し発生している「損失」に注目しました。

ただし、テーマ候補をいくつも集めると、次に困ることがあります。

「どれから手を付ければよいのか分からない」

という問題です。

そこで有効なのが、市場・工程、顧客損失、必要機能、自社技術を一つの表に並べて整理する方法です。

私はこれを「テーマ探索マトリクス」として考えています。

テーマ探索は四つの欄で整理する

基本形はシンプルです。




ポイントは、いきなり「新商品案」を書かないことです。

たとえば、

AI付きPLC
「新型サーボ」
「クラウド監視サービス」

という書き方では、まだ技術側の発想から抜け出せていません。

まず左から順番に、

どの市場・工程で、どんな損失が起きていて、それを減らすために何が必要か

を考えます。

その後で、自社技術との接点を探します。

「組立・加工設備」を例に考える

たとえば組立設備や加工設備では、設備が完全に故障するよりも、チョコ停や微妙な調整不良が頻発していることがあります。

一回の停止は数分でも、1日に何十回も起こればかなりの損失です。

さらに、復旧のたびに担当者を呼び、条件を確認し、設備を再スタートするとなれば、人の工数も増えます。

ここで必要なのは「より高性能なPLC」ではありません。

必要なのは、

異常の前兆を検出すること。
停止原因を短時間で推定すること。
可能であれば自動復旧すること。

です。

そこで初めて、PLC内部のログ、センサー情報、時系列データ解析といった自社技術を当てはめます。

すると、

「設備ログとセンサー情報からチョコ停の予兆を検出し、復旧条件を自動提示する」

といった研究テーマが見えてきます。

半導体分野では「わずかな変化」が価値になる

半導体や電子部品の製造では、要求される精度が高く、わずかな工程変動でも歩留まりに影響することがあります。

この場合の顧客損失は、大きな故障ではなく「微小な品質変動」です。

必要になるのは、高速制御、高精度計測、複数機器間の時刻同期などです。

たとえば、複数のセンサーと駆動系のデータを正確な時刻でそろえることができれば、

「どの瞬間にどの条件が変化し、その後の品質にどう影響したか」

を解析しやすくなります。

ここではFAメーカーが持つ高速制御や時刻同期技術が、そのまま競争力になります。

サーボ性能を設備能力につなげる

搬送や包装設備では、段取り時間や整定時間が生産能力を左右します。

研究テーマを「高性能サーボ」と置くと、モーター性能や制御応答の議論だけになりがちです。

しかし、

「品種切替時の調整時間を半減する」
「搬送軌道を自動最適化してタクトを短縮する」

と置けば、研究対象は広がります。

自動チューニング、振動抑制、機械特性推定、軌道生成など、サーボやモーション制御の技術を組み合わせたテーマとして考えられます。

省エネルギーも「見える化」で終わらせない

プロセス設備では、電力、蒸気、エア、熱などのエネルギー損失が問題になります。

ここでも「エネルギーを見える化する」というだけでは、すでに多くの製品があります。

一歩進めて、

「これから必要になる負荷を予測する」
「生産量や設備状態に応じて運転条件を変える」

ところまで踏み込みます。

そうすると、計測、インバータ、AI、最適制御といった自社技術を組み合わせたテーマになります。

つまり、「測る」から「制御する」へ進むわけです。

多拠点工場では「標準化」が価値になる

複数の工場を持つ企業では、設備保全の判断が工場ごとに違うことがあります。

ある工場では熟練者が振動値を見て判断し、別の工場では定期交換、さらに別の工場では故障まで使う。

この場合の顧客損失は、単なる設備故障ではありません。

保全判断が属人化していることそのものです。

そこで必要になるのが、状態監視や標準診断です。

エッジ端末で設備データを集め、クラウド側で比較し、HMIやダッシュボードで診断結果を提示する。

こうしたテーマは、単一製品ではなく複数の技術資産を横断して成立します。

「古い設備」は狙い目になりやすい

テーマ探索マトリクスを作るとき、ぜひ一行入れてほしいのが旧型設備です。

実際の工場では、最新設備ばかりが動いているわけではありません。

20年前の設備が現役ということも普通にあります。

こうした設備では、

「データを取りたいが通信機能がない」
「旧PLCなので上位システムにつながらない」
「装置改造はしたくない」

といった問題が起こります。

そこで、後付けセンサーやゲートウェイを使ってデータを取得し、新しいシステムへ変換する。

これは派手なテーマではありませんが、市場規模が大きく、顧客の困りごとも明確です。

研究開発テーマは、必ずしも最先端である必要はありません。

顧客損失が大きく、自社技術が効くのであれば、それは十分に有望なテーマです。

マトリクスの目的は「表を埋めること」ではない

このマトリクスの目的は、きれいな一覧表を作ることではありません。

重要なのは、テーマ候補を見ながら、

「この損失は本当に大きいか」
「他の業界でも同じ問題があるか」
「自社技術を使う必然性があるか」
「競合企業が簡単にまねできないか」

と議論することです。

場合によっては、一つの技術が複数市場に使えることも見えてきます。

たとえば異常検知技術は、加工設備にも、搬送設備にも、プロセス設備にも展開できます。

逆に、一つの顧客損失に対して複数の技術を組み合わせる必要があることもあります。

この「縦横の組み合わせ」が、新規研究開発テーマを増やすポイントです。

ただし、ここで出てくるものはまだ「アイデア」です。

「設備停止を予測できたら面白い」
「旧型設備からデータを取れないか」

という段階では、研究開発テーマとしては不十分です。

次回は、「3-4.『アイデア』を『研究テーマ』に変える」として、思いつきのアイデアを、研究開発部門が実際に取り組めるテーマへ具体化する方法を考えていきます。

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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2026/08/31

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑦

 3-2.テーマの発生源

新規研究開発テーマを探すというと、つい「将来伸びそうな技術」を探したくなります。

AI、ロボット、デジタルツイン、エッジコンピューティング、次世代通信――。もちろん、こうした技術動向を追うことは必要です。

ただ、事業につながるテーマを見つけるという意味では、もっと身近なところに有力な材料があります。

それは、顧客の現場で繰り返し発生している損失や面倒な作業です。

研究テーマの種は、華やかな技術ニュースよりも、むしろ「毎日困っていること」の中に埋まっています。



設備停止だけでなく「少しずつ遅い」も損失

設備停止は分かりやすい損失です。

ただし実際の工場では、完全停止よりも、

「数分止まるチョコ停が多い」
「設備は動いているが速度が落ちている」
「本来のタクトまで上げられない」

といった問題も少なくありません。

こうした損失は、一回あたりでは小さく見えます。

しかし年間で積み上げると大きい。

ここから、異常兆候検出、停止原因の自動分類、サイクルタイム監視、設備能力低下の診断などのテーマが生まれます。

品質問題は「不良品」だけではない

品質についても、不良率だけを見ているとテーマを見逃します。

工程条件が少しずつ変動している。
不良が怖いため検査を増やしている。
本当は不要かもしれない全数検査を続けている。
熟練者が経験で条件調整している。

これらもすべて顧客損失です。

たとえば「検査自動化」という発想だけではなく、

工程データから品質を予測し、そもそも検査を減らせないか

という方向へ展開できます。

これはセンサー、PLC、データ解析、品質管理を横断するテーマになります。

立上げやティーチングは宝の山

新しい設備を導入したときの立上げ、サーボ調整、センサー設定、ロボットティーチングなども有望なテーマ発生源です。

FAメーカー側では、装置が安定稼働した状態だけを見がちです。

しかし顧客は、その状態になるまでに相当な時間を使っています。

現場で技術者が何度も条件を変える。
設定値をExcelに記録する。
ベテランが過去の経験を思い出しながら調整する。

この「立ち上がるまでの時間」を短縮できれば、大きな価値になります。

自動チューニング、設定推薦、過去案件の再利用、仮想立上げなどは、まさにここから生まれるテーマです。

段取り替えは製品多様化とともに重くなる

多品種少量生産が進むほど、段取り替えや品種変更の回数は増えます。

設備そのものが高速でも、段取り替えに30分、1時間とかかれば生産能力は上がりません。

しかも、品種ごとに設定条件が異なると、入力ミスや確認作業も増えます。

この領域では、

品種認識、条件の自動呼出し、設定ミス防止、治具状態確認、段取り手順ナビゲーション

といったテーマが考えられます。

保全履歴は次の研究テーマにつながる

センサー交換、モーター交換、電源交換、ファン交換などの履歴も重要です。

何が壊れたかだけではなく、

「なぜ交換したのか」
「交換前にどんな兆候があったか」
「同じ部品が繰り返し交換されていないか」

まで見ると、予知保全や寿命推定のテーマにつながります。

とくに長期間の設置ベースを持つFAメーカーにとって、これは新規参入企業には簡単に得られない情報です。

顧客のExcelを見せてもらう

テーマ探索で、かなり有効なのがこれです。

顧客が独自に作っているExcel、紙帳票、チェックリストを見る。

そこには、本来システムや機器が提供できていない機能が表れています。

設備データを毎朝Excelへ転記している。
警報履歴を人が集計している。
複数装置の稼働率を手作業でまとめている。
保全部品の交換時期を個人の表で管理している。

こうした「人が補っている仕事」は、新しい機能やサービスの候補です。

最新技術を探すより、顧客が作ったExcelを見た方が、よいテーマが見つかることさえあります。

「つながらない」ことにも市場がある

工場では、異なるメーカーのPLC、センサー、装置、SCADAなどが混在しています。

データ形式が違う。
通信仕様が違う。
タグ名が違う。
時刻が合わない。

その結果、データを収集するだけで多くの工数がかかります。

この接続負担そのものが顧客損失です。

相互運用性、データモデル変換、自動タグ認識、時刻同期などは、この問題から生まれるテーマです。

古い設備にも大きな市場がある

新規研究開発というと、新型設備ばかりを考えがちですが、実際の工場には古い設備が大量に残っています。

設備本体はまだ使える。
しかしPLCが古い。
交換部品がない。
ソフトウェアが新しいOSで動かない。
通信規格が古く、データを取得できない。

こうした問題に対して、互換機、変換装置、レトロフィット、ソフトウェア変換などの需要があります。

「最新技術を新設備へ入れる」だけが新規テーマではありません。

古い設備をどう現代化するかも、大きな研究開発領域です。

エネルギーとセキュリティも日常業務から見る

省エネルギーも、「電力を見える化する」だけではテーマとして弱い。

重要なのは、

エネルギー原単位が悪化している。
ピーク電力を下げたい。
設備停止中なのに電力を使っている。

といった具体的な損失です。

同様にセキュリティも、「セキュアな機器を作る」だけではありません。

顧客側では、

脆弱性情報を確認する。
対象機器を特定する。
アップデートの影響を調べる。
監査用の記録を作る。

といった業務負担が発生しています。

この負担を減らすこと自体が、新しいサービスや機能のテーマになり得ます。

「困りごとの反復」を探す

こうして並べてみると、テーマ探索で見るべき場所はかなり広いことが分かります。

設備停止、品質、立上げ、段取り、保全、Excel作業、データ接続、旧設備、エネルギー、セキュリティ。

共通しているのは、

現場で繰り返し発生している損失や手間を探すこと

です。

一度だけ起きた特殊な問題より、何度も繰り返している問題の方が研究開発テーマとしては有望です。

繰り返しているということは、それだけ市場全体にも同じ問題が存在する可能性が高いからです。

ただし、テーマの種をたくさん集めるだけでは十分ではありません。

「市場の重要性は高いが自社技術と遠い」
「自社技術には合うが顧客損失が小さい」

といったテーマも混ざってきます。

そこで次に必要になるのが、候補を整理するための枠組みです。

次回は、「3-3.テーマ探索マトリクス」として、顧客課題と自社技術をどのように組み合わせて、有望な研究開発テーマを絞り込むかを考えていきます。


※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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2026/08/30

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑥

 3.新規テーマを発見する方法

3-1.テーマ探索の基本構造

ここまで、新規研究開発テーマを考える際には、製品そのものではなく、その背後にある技術資産や、顧客が現場で抱えている損失を見るべきだと述べてきました。

では、実際にはどのような順序でテーマを組み立てればよいのでしょうか。

基本となる流れは、次のように整理できます。

生産・人材・規制の変化
製造現場の損失
必要な機能・情報
自社技術との接点
研究開発テーマ
機器・ソフト・サービス


一見すると当たり前の流れですが、研究開発テーマの議論では、この順番が逆になっていることが少なくありません。

最初に「技術」を置かない

たとえば、「生成AIが流行しているから、生成AIを使ったFA機器を考えよう」というテーマ設定があります。

これ自体が悪いわけではありません。しかし、この段階では顧客にとっての価値がまだ見えていません。

そこで、出発点を一つ前に戻します。

たとえば製造現場で、

「熟練保全員が減っている」
「設備停止時に若手では原因を特定できない」

という変化が起きているとします。

ここから発生する損失は、設備停止時間の長期化です。

すると必要になる機能は、

「異常発生時に原因候補を絞り込む」
「過去の類似故障を検索する」
「復旧手順を作業者に提示する」

といったものになります。

ここまで来て初めて、自社が持つHMIPLCログ、設備データ、保守履歴、AIなどとの接点を考えます。

その結果、

「設備異常時に、過去の故障履歴と制御ログから原因候補と復旧手順を提示する保全支援システム」

といった研究開発テーマが見えてきます。

生成AIは、その中で使う技術の一つにすぎません。

「変化」から「損失」へ落とす

テーマ探索で重要なのは、社会や市場の変化をそのままテーマにしないことです。

「人手不足」
「脱炭素」
DX
「サイバーセキュリティ」

こうした言葉だけでは、範囲が広すぎます。

たとえば人手不足であれば、

人が足りないために何が起きているのか。

段取り替えに時間がかかる。
復旧できる人が限られる。
検査工程に人を配置できない。
設備の巡回点検が減る。

といった具体的な損失まで落とします。

脱炭素も同じです。

「省エネルギー対応」というだけではテーマになりません。

どの設備で、どのエネルギーが、なぜ無駄になっているのか。

待機中のモーターかもしれません。
エア漏れかもしれません。
必要以上の加熱かもしれません。

損失を具体化すると、必要なセンシングや制御が見えてきます。

損失から「必要な機能」を考える

次に、いきなり製品へ進まないことも大切です。

「設備停止を減らしたい」から「新しいセンサーを作ろう」と飛ぶのではありません。

その前に、

顧客は何が分かれば、あるいは何ができれば、その損失を減らせるのか

を考えます。

たとえば設備停止であれば、

異常の予兆が分かる。
劣化部品が分かる。
残存寿命が分かる。
故障原因を短時間で特定できる。

といった機能が考えられます。

ここではまだ、センサーなのかPLCなのかクラウドなのかを決めません。

この「機能で考える」という一段を入れることで、解決手段の幅が広がります。

そこではじめて自社技術を重ねる

必要な機能が明確になったら、自社の技術資産を重ねます。

たとえば、

振動計測が得意。
モーター制御データを取得できる。
PLC
内部の制御状態を詳細に把握できる。
大量の設置機器を持っている。
修理履歴を蓄積している。

といった強みです。

すると、

「一般的なAI会社でもできるテーマ」と、
「自社だからこそできるテーマ」

を分けられます。

この違いは非常に重要です。

新規研究開発は、単に市場が大きいテーマを選べばよいわけではありません。

市場ニーズがあっても、自社に優位性がなければ価格競争になりやすい。

逆に、自社技術が優れていても顧客損失が小さければ、事業にはなりにくい。

顧客の困りごとと、自社固有の技術資産が重なる場所を探す必要があります。

研究テーマと商品を分けて考える

もう一つ重要なのは、「研究開発テーマ」と「商品」を同じものだと考えないことです。

たとえば研究テーマが、

「加工状態の変化をモーター電流から検出する」

だったとします。

この成果は、最終的にはさまざまな形になり得ます。

サーボアンプの新機能かもしれません。
PLC
のソフトウェア機能かもしれません。
設備監視用エッジ端末かもしれません。
月額課金の診断サービスかもしれません。

つまり、

研究開発テーマの出口は、一つの機器に限定する必要がない

ということです。

研究段階では「どんな機能を実現するか」を中心に置き、商品化段階で最適な提供形態を考えた方が、テーマの可能性を狭めずに済みます。

一本の線でつながるテーマは強い

良い研究開発テーマは、説明すると一本の線でつながります。

「なぜ今それが必要なのか」
「顧客は何に困っているのか」
「何ができれば解決するのか」
「なぜ自社がやるのか」
「最終的に何として提供するのか」

この五つに無理なく答えられるテーマは、研究開発だけでなく、経営会議でも説明しやすいテーマです。

逆に、この途中に飛躍がある場合は注意が必要です。

AIが伸びているからAIテーマをやる」
「競合が始めたからクラウドをやる」

というテーマは、その典型です。

新規テーマ探索とは、未来予測のコンテストではありません。

環境変化と顧客損失を、自社技術を通じて事業機会へ変換する作業です。

この基本構造を押さえておけば、流行技術に振り回されにくくなります。

では、その最初の材料となる「テーマの種」は、具体的にどこから拾えばよいのでしょうか。

顧客の声だけではありません。営業情報、故障履歴、法規制、競合動向、技術ロードマップ、現場観察など、テーマの発生源はいくつもあります。



次回は、「3-2.テーマの発生源」として、研究開発テーマの候補をどこから見つけるかを整理していきます。


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2026/08/29

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑤

 2-3.製品起点から顧客起点へ

新規研究開発テーマを考える会議では、つい「次は何を作るか」という話から始まりがちです。

AIを搭載したPLCはどうか」
「もっと高性能なセンサーはできないか」
「クラウドサービスを始めるべきではないか」

どれも間違いではありません。けれど、この考え方だけでは、研究開発テーマが技術者側の都合に寄りやすくなります。

そこで一度、出発点を変えてみます。

何を作るかではなく、顧客が何を失っているかから考える。

これが、今回のテーマです。

顧客は「高性能」が欲しいわけではない

たとえば、あるPLCAI機能を搭載するとします。

技術的には面白いテーマです。ところが顧客から見れば、「AIが載っていること」そのものに価値があるわけではありません。

顧客が困っているのは、

「条件が少しずつずれて、不良率が上がる」
「原因が分かるまでに何時間もかかる」
「熟練者しか異常に気付けない」

といった問題です。

であれば、研究テーマは「AI搭載PLC」ではなく、

「品質変動を制御条件から自動検出する」

と置いた方がよい。

こうすると、必要な技術を後から考えられます。AIが必要かもしれませんし、統計的な変化点検出で十分かもしれません。PLC内部で処理するのか、エッジコンピュータを使うのかも、テーマを検討する中で決めればよいのです。

最初から手段を固定しないことが重要です。

「新型センサー」では損失が見えない

センサーでも同じです。

「高精度な新型センサーを開発する」というテーマだけを見ると、精度をどこまで上げるか、応答速度をどうするか、といった議論になります。

しかし実際の現場では、別の問題が起きています。

たとえばセンサーが徐々に劣化しているのに、それに気付かず測定を続けてしまう。結果として良品を不良と判定したり、逆に不良品を見逃したりする。

この場合、顧客が失っているのはセンサー性能ではなく、誤判定による品質損失や停止時間です。

そこでテーマを、

「センサー劣化による誤判定を防止する」

と置き換えてみます。

すると、センサーの自己診断、ドリフト検出、他のセンサーとの比較、校正時期の予測など、複数の解決策が見えてきます。

製品起点では見えなかった研究テーマが出てくるわけです。

サーボ性能も「何秒縮まるか」で考える

サーボモーターやサーボアンプでは、高速応答、高精度、高トルクといった性能指標が重要です。

ただ、新規テーマを考えるときには、

「応答速度を20%向上する」

だけでは少し弱い。

それによって顧客の何が改善するのかを考えます。

たとえば整定時間が短くなれば、1サイクルあたり0.2秒短縮できるかもしれません。1時間あたりの生産数が増え、年間では相当な生産能力向上につながる可能性があります。

すると研究テーマは、

「整定時間を短縮して設備能力を向上する」

となります。

この表現に変えると、サーボ単体だけでなく、制御アルゴリズム、機械剛性、振動抑制、ティーチング方法まで研究対象になってきます。

HMIは「見やすさ」より復旧時間

HMIについても、「大型画面」「高解像度」「新しいUI」といった製品側のテーマだけでは不十分です。

工場では、設備異常が起きたとき、作業者が大量の警報の中から原因を探し、マニュアルを確認し、復旧操作を行っています。

そこで発生している損失は、誤操作や復旧時間です。

であればテーマは、

「誤操作と復旧時間を減らす」

となります。

必要なのは必ずしも新型HMIではありません。

警報の優先順位付け、故障原因の推定、復旧手順のナビゲーション、過去の類似トラブル表示など、ソフトウェア側の研究テーマが重要になるかもしれません。

クラウドも目的ではない

DX関連では特に注意が必要です。

「クラウドサービスを始める」
「設備データをクラウドに上げる」

といったテーマはよくあります。

しかし、クラウドにつながっただけでは顧客価値は生まれません。

たとえば複数工場を持つ企業では、設備保全の判断基準が工場ごとに異なっていることがあります。

A工場では予防交換する。
B
工場では故障するまで使う。
C
工場では熟練保全員の経験で判断する。

このばらつきによって、保全費用や設備停止時間に差が出ているとすれば、

「複数工場の保全判断を標準化する」

ことが顧客価値になります。

クラウドは、そのための手段の一つです。

テーマの名前を変えるだけでも議論は変わる

製品起点と顧客損失起点を並べると、違いがよく分かります。


この二つは、似ているようでかなり違います。

左側は「何を作るか」です。
右側は「何を改善するか」です。

新規研究開発の初期段階では、右側から考えた方が選択肢を広く持てます。

しかも、テーマの価値を評価しやすくなります。

品質変動による損失はいくらか。
設備停止1時間はいくらか。
段取り時間を10分短縮すると年間いくらになるか。
誤操作を半減すると、どれだけ復旧工数が減るか。

こうした問いにつなげられるからです。

研究テーマを「技術的に面白いか」だけで評価するのではなく、顧客が現在負担している損失を、どれだけ減らせるかで見る。

ここまで来ると、新規研究開発テーマと事業テーマの距離がぐっと近くなります。

もちろん、すべての基礎研究を短期的な顧客損失に結びつける必要はありません。しかし、事業化を前提とした研究開発テーマであれば、「この技術で何ができるか」より先に、「誰の、どんな損失を減らすのか」を問い直す価値があります。

では、実際に顧客損失から有望なテーマをどう発見すればよいのでしょうか。

次回からは、「3.新規テーマを発見する方法」**に入り、まず 3-1.テーマ探索の基本構造」として、市場、顧客課題、自社技術をどのように結びつければ研究開発テーマになるのかを整理していきます。

 

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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