技術者は「誰が払うのか」を考える必要がある
優れた技術でも、支払者が明確でなければ事業にならない。
たとえば工場の省エネ技術を考えてみよう。
設備担当者は非常に高く評価している。
しかし購入予算を持っているのは別部門で、しかも省エネによる利益は工場全体に分散してしまう。
すると、「良い技術だけれど、誰の予算で買うのか分からない」という状況が起こる。
逆に、品質不良を直接減らす装置なら、品質部門や製造部門の予算として通りやすいかもしれない。
商品企画では、「誰が使うのか」だけでなく、「誰が購入を決め、誰の予算で払うのか」
まで理解する必要がある。
BtoB製品では特に重要である。
DQLが顧客企業の意思決定構造まで理解できれば、技術提案の仕方も変わってくる。
「顧客が欲しい」と「事業になる」の間には距離がある
営業部門から、
「顧客が欲しいと言っている」
という話が研究開発に持ち込まれることがある。
これは重要な情報だが、そのまま開発テーマにしてはいけない。
たとえば一社の大口顧客が、特殊仕様の製品を強く求めているとする。
開発すれば確実に買ってくれる。
一見、良いテーマに見える。
しかし、その顧客専用の設計が必要で、年間100台しか売れないとする。
開発費5000万円、専用設備2000万円、さらに保守対応も必要になる。
これでは、売れることは確実でも儲からない可能性がある。
逆に、一社の要望を抽象化すると、同じ問題を抱える顧客が数百社あるかもしれない。
その場合、個別対応ではなく、標準製品として開発する価値が出てくる。
DQLは「顧客が欲しいと言っている」という情報を、
どこまで横展開できる事業機会なのか
まで考えなければならない。
研究開発投資を「いくら使うか」ではなく「いつ回収するか」で見る
技術者にとって、研究開発費は「使える予算」として見えやすい。
しかし経営から見ると、それは投資である。
たとえば新製品開発に1億円かかるとする。
製品化後、年間利益が5000万円出るなら、単純計算では2年で回収できる。
年間利益が1000万円しか出ないなら、10年かかる。
技術的に同じくらい魅力的なテーマでも、投資回収の構造は大きく違う。
もちろん、すべての研究テーマに短い回収期間を求めるべきではない。
長期研究には長期研究の役割がある。
しかし、少なくとも事業化段階では、
「開発費はいくらか」
だけでなく、
「その投資を何年で回収できるのか」
という視点が必要である。
これが研究と事業の境界線を考えるうえで重要になる。
「売切り」だけでなく、収益モデルまで設計する
これからの製造業では、製品を一度売って終わるビジネスだけではない。
機器にソフトウェアを組み込み、月額利用料を得る。
保守サービスを提供する。
消耗品や交換部品で継続収益を得る。
取得データを使って分析サービスを提供する。
こうした収益モデルが増えている。
たとえば100万円の装置を一度販売するのと、装置価格を80万円に抑えながら、年間20万円の予知保全サービスを提供するのでは、事業の性質がまったく違う。
後者なら顧客との接点が継続し、データも蓄積できる。
そのデータによってサービス精度が上がれば、さらに競争優位性が強くなる可能性もある。
つまりDQLは、製品そのものだけでなく、
その製品からどうやって継続的に利益を生むか
というビジネスモデルにも関心を持つ必要がある。
技術者が商売を理解すると、設計の優先順位が変わる
商売を理解することは、技術者を「金のことばかり考える人」にすることではない。
むしろ、技術をどこに使えば最も価値が出るかを判断できるようにすることである。
たとえば、性能を5%高めるために開発費2000万円が必要な案と、保守工数を半分にするために1000万円が必要な案があったとする。
技術者だけの視点なら、性能向上のほうが魅力的に見えるかもしれない。
しかし顧客調査の結果、性能はすでに十分であり、保守工数が最大の不満だと分かった。
さらに保守時間の短縮が顧客に年間100万円の価値を生む。
そうであれば、後者を優先するほうが事業的には合理的である。
この判断をできるようにするのが、商売を理解するということである。
DQLは「技術の言葉」を「経営の言葉」へ翻訳する
技術者と経営者の会話が噛み合わないことは珍しくない。
技術者は、
「この方式なら精度が10%上がります」
と説明する。
経営者は、
「それで、いくら儲かるのか」
と聞く。
技術者は、
「技術的には非常に重要です」
と答える。
このやり取りでは、話がつながらない。
DQLは、この間を翻訳する必要がある。
「精度10%向上により検査漏れが年間200件減り、顧客の再検査工数を年間1000時間削減できます。顧客価値として約800万円が見込めるため、現行品より20%高い価格でも競争力があります」
と説明できれば、技術と事業がつながる。
経営者にも判断材料ができる。
つまりDQLは、
性能値を、顧客価値と利益へ翻訳する人
なのである。
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