第8章 技術者に「商売」を教えなければならない
― 技術を利益に変える力まで含めて、DQLを育てる
技術が分かるだけでは、事業はつくれない
これまで、研究開発テーマは顧客の損失から考え、不確実性を前提に小さく試し、期待値で投資判断し、複数テーマをポートフォリオとして管理する必要があると述べてきた。
ここまで来ると、DQLに必要な能力が、従来の「設計品質」の枠をかなり超えていることが分かる。
技術に詳しいだけでは足りない。
顧客が何に困っているのかを理解し、その問題がどの程度の経済価値を持つのかを考え、どこまで投資してよいかを判断し、最終的に会社として利益が残るかまで見なければならない。
つまり、これからの技術リーダーには「商売」を理解する力が必要になる。
ここでいう商売とは、営業テクニックを覚えることではない。
値引き交渉が上手になることでもない。
自分たちの技術が、どのように顧客価値へ変わり、その価値がどのように売上や利益へ変わるのかを理解することである。
「良い技術」と「儲かる技術」は同じではない
技術者にとっては、性能が高い、精度が良い、寿命が長い、構造が美しい、といった技術的な優秀さは非常に大切である。
しかし、技術的に優秀であることと、事業として儲かることは必ずしも一致しない。
たとえば、あるメーカーが既存製品より精度を2倍にした新型センサーを開発したとする。
技術者から見れば大きな成果である。
しかし顧客の使用環境では、既存精度でも十分だったとする。
この場合、精度を2倍にしたこと自体に顧客価値はほとんどない。
それどころか、高精度化のために高価な部品を使い、原価が30%上がってしまえば、事業としてはむしろ不利になる。
逆に、精度は従来品と同じでも、設置時間が半分になり、保守回数も減る製品であれば、顧客にとっては大きな価値になるかもしれない。
つまり、技術の価値は技術の中だけでは決まらない。
顧客の使い方と経済性の中で決まる。
技術者は「原価」だけでなく「価値」を見る必要がある
製造業の技術者は、原価には比較的なじみがある。
部品費はいくらか。
加工費はいくらか。
組立工数はいくらか。
歩留まりはどうか。
これらは重要である。
しかし、原価だけを見ていると「安くつくること」が目的になりやすい。
本当に重要なのは、顧客にどれだけの価値を提供できるかである。
たとえば、ある装置部品の価格が10万円から13万円に上がるとする。
一見すると高くなっただけに見える。
しかし、その部品を使うことで設備停止が年間10時間減り、顧客の損失が100万円減るのであれば、追加3万円は十分に合理的である。
技術者は、原価差3万円だけを見るのではなく、
「顧客側で100万円の損失削減を生む」
という価値まで考える必要がある。
この視点があれば、設計判断も変わる。
単純なコストダウンだけでなく、顧客価値を増やすために、どこへコストをかけるべきかという判断ができるようになる。
価格は「原価+利益」で決めるだけではない
製造業では、価格を「原価に一定の利益率を加えて決める」考え方が根強い。
もちろん、その方法は一つの基本である。
しかし、新しいプロダクトや高付加価値製品では、それだけでは不十分な場合が多い。
たとえば、製品原価が5万円で、社内ルール上20%の利益を乗せて6万円で売るとする。
一方で、その製品を導入すると顧客は年間50万円の保守費を削減できるとする。
この場合、6万円という価格は安すぎる可能性がある。
反対に、原価が5万円だからといって20万円で売れるとは限らない。
顧客が感じる価値が3万円しかなければ、その製品は売れない。
価格は原価からだけでなく、
顧客がどれだけの価値を受け取るか
という視点からも考える必要がある。
この感覚を持つことが、上流の技術者には重要である。
簡単な例で考える「儲かる設計」
ある工場向けのバルブを開発するとしよう。
従来品は20万円で、年間1回の定期交換が必要だった。
新製品は30万円するが、交換周期を3年に延ばすことができる。
さらに交換作業には設備停止が伴い、1回の停止で顧客に50万円の損失が出るとする。
この場合、顧客が見るべきなのは製品価格だけではない。
3年間で考えると、従来品は製品代が60万円、さらに交換のたびに停止損失が発生する。
新製品は30万円で済み、交換回数も減る。
単純な購入価格では高く見えても、顧客全体のコストでは大幅に有利になる可能性がある。
このような価値が明確なら、技術者は「30万円では高い」と思う必要はない。
むしろ、なぜ30万円でも顧客にとって得なのかを説明できることが重要である。
ここに、技術と商売の接点がある。
「たくさん売れる」と「儲かる」は違う
技術者が事業性を考えるとき、もう一つ注意したいのは売上と利益の違いである。
売上が大きい製品が、必ずしも良い事業とは限らない。
たとえば100億円売れる製品でも、価格競争が激しく、利益率が2%しかなければ、利益は2億円である。
一方、売上30億円でも、独自技術やサービスがあり、利益率20%なら6億円の利益が出る。
研究開発テーマの魅力を見るときには、「市場規模が大きい」という言葉だけでは足りない。
その市場で自社がどの程度の価格決定力を持てるのか。
競合と差別化できるのか。
継続的に利益を得られるのか。
そこまで考える必要がある。
川に例えるなら、売上は流れている水量であり、利益は実際に自社の水車を回してくれる水である。
川が大きくても、水車に流れてこなければ意味がない。
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