2026/09/02

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑨

 3-4.「アイデア」を「研究テーマ」に変える

新規研究開発の会議では、面白いアイデアがいくつも出ます。

AIで設備異常を予測できないか」
「段取り替えを自動化できないか」
「古い設備からデータを取れないか」

こうした発想は大切です。しかし、アイデアが出たことと、研究テーマとして採択できることは別です。

研究開発テーマにするには、誰の、どんな損失を、どのレベルまで改善するのかを明確にしなければなりません。

テーマ採択前には、少なくともいくつかの項目を明文化しておく必要があります。

「誰の問題か」を最初に決める

まず明確にしたいのは、対象顧客、設備、工程です。

「製造業向けの予知保全」では広すぎます。

たとえば、

「自動組立設備のサーボ駆動部」
「半導体製造装置の搬送機構」
「食品包装設備のシール工程」

くらいまで絞った方がよいでしょう。

対象を具体化すると、必要なセンサー、取得できるデータ、異常の種類、顧客が許容できるコストも見えてきます。

研究テーマは、最初から市場全体を狙う必要はありません。

まず、どこで最初の価値を証明するかを決めることが重要です。

損失をできるだけ金額にする

次に、その問題によって顧客がどれだけ損をしているかを考えます。

たとえばチョコ停が問題であれば、

1回平均5分、110回、年間250日発生しているとします。

それによって失われる生産量、人件費、再立上げロスなどを計算すれば、年間損失をある程度見積もれます。

ここまで分かれば、

「年間300万円の損失を50%削減できるなら、100万円のシステムでも投資対象になり得る」

といった議論ができます。

逆に、年間損失が10万円しかない問題に、500万円の装置を開発しても事業にはなりません。

研究テーマの技術的な魅力と、顧客にとっての経済価値は分けて考える必要があります。

現在の回避策を調べる

顧客は、問題を放置しているとは限りません。

設備停止が多ければ、予備部品を持っているかもしれない。
品質変動があれば、検査員を増やしているかもしれない。
段取りが難しければ、熟練者を専任で配置しているかもしれない。

つまり、新しい技術が競争する相手は、他社製品だけではありません。

現場が現在行っている回避策そのものです。

「人がやれば30分で済む作業を、自動化すると100万円かかる」

のであれば、顧客が導入しないのは当然です。

反対に、熟練者不足でその30分の作業すら維持できなくなるのであれば、状況は変わります。

現在の方法と、その限界を知ることが重要です。

目標は「AIを使う」ではなく性能で書く

研究テーマでありがちなのが、

AIを活用した異常検知システムの開発」

という表現です。

これでは、何ができれば研究成功なのか分かりません。

研究テーマにするなら、

「異常発生の30分前に検知する」
「誤報率を5%以下にする」
「設備停止後30秒以内に原因候補を提示する」

といった目標機能や性能に落とします。

AIを使うかどうかは、その後です。

重要なのは、顧客に必要な性能を先に定義することです。

AIでは「何が分からないか」を明確にする

AIやデータ解析を使うテーマでは、もう一つ注意点があります。

データを集めれば何とかなる、とは限りません。

正常データは大量にあるが故障データがほとんどない。
設備ごとに条件が違う。
センサー交換後に特性が変わる。
季節や材料ロットによって正常範囲が変化する。

こうした問題があります。

つまり、「AIを使えるか」ではなく、

何がまだ分からないのか

を研究課題として明確にしておく必要があります。

ここが曖昧なままだと、単なるソフトウェア開発と研究開発の区別もつきません。

FAでは精度だけでなく「使えるか」が重要

FA分野でAIやソフトウェアを扱う場合、予測精度だけを評価してはいけません。

安全性は十分か。
決められた時間内に応答するか。
通信が切れても設備を安全に動かせるか。
なぜその判断をしたのか説明できるか。

こうした条件が重要です。

たとえばAIが設備停止を予測できても、演算結果が5分後に届くのでは使えないケースがあります。

逆に、診断根拠が分からないため現場担当者が信用せず、結局使われないこともあります。

リアルタイム性、安全性、説明可能性まで含めて技術テーマを設計する必要があります。

「なぜお金を払うか」に答えられるか

研究テーマを事業化するのであれば、避けて通れない問いがあります。

顧客はなぜ、この技術に対価を支払うのか。

設備停止を年間20時間減らせるから。
検査員を2人減らせるから。
段取り時間を半減できるから。
不良流出のリスクを下げられるから。

こうした理由が説明できれば、価格を考える土台もできます。

「便利だから」「AIだから」「最新だから」では、長期的な事業にはなりにくいでしょう。

データを一度だけ取って終わらせない

そして、デジタルFAのテーマでは特に重要なのが、データ取得の仕組みです。

PoCのときだけ顧客からデータをもらい、そのデータでAIモデルを作る。

これでは、数年後に競争力を維持できません。

設備は変わります。
部品も変わります。
製造条件も変わります。

だからこそ、

「販売した機器から継続的にデータを取得できる」
「保守時に故障情報が蓄積される」
「複数顧客の知見を匿名化してモデル改善に使える」

といった仕組みまで考える必要があります。

ここまで設計できれば、製品を売るほどデータが増え、データが増えるほどサービスが良くなるという循環を作れる可能性があります。

良い研究テーマは「一文」で説明できる

最終的には、研究テーマを一文で説明できる状態を目指します。

たとえば、

「食品包装設備を対象に、サーボとセンサーの時系列データからシール不良の兆候を10分前に検知し、廃棄損失を年間30%削減する技術を開発する」

という具合です。

対象、問題、技術課題、目標、顧客価値が一つの文章に入っています。

これくらい具体化されていれば、経営側も技術側も同じテーマについて議論できます。

逆に、

AIを活用したスマートファクトリー技術の研究」

では、何を研究するのかほとんど分かりません。

アイデアを出す段階では、多少曖昧でも構いません。

しかしテーマとして採択する段階では、技術の面白さ、顧客価値、事業性を同じ土俵に乗せる必要があります。

では、複数の候補テーマが具体化された後、経営側は何を基準に選べばよいのでしょうか。

次回からは 5.テーマの評価・選定方法」 に入り、まず 5-1.幹部が評価すべき六つの軸」として、研究開発テーマを経営視点で比較する考え方を整理していきます。

(第4章は競争領域の具体的な開発テーマに関わりますので、本稿では割愛します)



※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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2026/09/01

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑧

 3-3.テーマ探索マトリクス

前回は、新規研究開発テーマの発生源として、設備停止、品質不良、段取り替え、保全履歴、Excel作業、旧型設備、エネルギー、セキュリティなど、現場で繰り返し発生している「損失」に注目しました。

ただし、テーマ候補をいくつも集めると、次に困ることがあります。

「どれから手を付ければよいのか分からない」

という問題です。

そこで有効なのが、市場・工程、顧客損失、必要機能、自社技術を一つの表に並べて整理する方法です。

私はこれを「テーマ探索マトリクス」として考えています。

テーマ探索は四つの欄で整理する

基本形はシンプルです。




ポイントは、いきなり「新商品案」を書かないことです。

たとえば、

AI付きPLC
「新型サーボ」
「クラウド監視サービス」

という書き方では、まだ技術側の発想から抜け出せていません。

まず左から順番に、

どの市場・工程で、どんな損失が起きていて、それを減らすために何が必要か

を考えます。

その後で、自社技術との接点を探します。

「組立・加工設備」を例に考える

たとえば組立設備や加工設備では、設備が完全に故障するよりも、チョコ停や微妙な調整不良が頻発していることがあります。

一回の停止は数分でも、1日に何十回も起こればかなりの損失です。

さらに、復旧のたびに担当者を呼び、条件を確認し、設備を再スタートするとなれば、人の工数も増えます。

ここで必要なのは「より高性能なPLC」ではありません。

必要なのは、

異常の前兆を検出すること。
停止原因を短時間で推定すること。
可能であれば自動復旧すること。

です。

そこで初めて、PLC内部のログ、センサー情報、時系列データ解析といった自社技術を当てはめます。

すると、

「設備ログとセンサー情報からチョコ停の予兆を検出し、復旧条件を自動提示する」

といった研究テーマが見えてきます。

半導体分野では「わずかな変化」が価値になる

半導体や電子部品の製造では、要求される精度が高く、わずかな工程変動でも歩留まりに影響することがあります。

この場合の顧客損失は、大きな故障ではなく「微小な品質変動」です。

必要になるのは、高速制御、高精度計測、複数機器間の時刻同期などです。

たとえば、複数のセンサーと駆動系のデータを正確な時刻でそろえることができれば、

「どの瞬間にどの条件が変化し、その後の品質にどう影響したか」

を解析しやすくなります。

ここではFAメーカーが持つ高速制御や時刻同期技術が、そのまま競争力になります。

サーボ性能を設備能力につなげる

搬送や包装設備では、段取り時間や整定時間が生産能力を左右します。

研究テーマを「高性能サーボ」と置くと、モーター性能や制御応答の議論だけになりがちです。

しかし、

「品種切替時の調整時間を半減する」
「搬送軌道を自動最適化してタクトを短縮する」

と置けば、研究対象は広がります。

自動チューニング、振動抑制、機械特性推定、軌道生成など、サーボやモーション制御の技術を組み合わせたテーマとして考えられます。

省エネルギーも「見える化」で終わらせない

プロセス設備では、電力、蒸気、エア、熱などのエネルギー損失が問題になります。

ここでも「エネルギーを見える化する」というだけでは、すでに多くの製品があります。

一歩進めて、

「これから必要になる負荷を予測する」
「生産量や設備状態に応じて運転条件を変える」

ところまで踏み込みます。

そうすると、計測、インバータ、AI、最適制御といった自社技術を組み合わせたテーマになります。

つまり、「測る」から「制御する」へ進むわけです。

多拠点工場では「標準化」が価値になる

複数の工場を持つ企業では、設備保全の判断が工場ごとに違うことがあります。

ある工場では熟練者が振動値を見て判断し、別の工場では定期交換、さらに別の工場では故障まで使う。

この場合の顧客損失は、単なる設備故障ではありません。

保全判断が属人化していることそのものです。

そこで必要になるのが、状態監視や標準診断です。

エッジ端末で設備データを集め、クラウド側で比較し、HMIやダッシュボードで診断結果を提示する。

こうしたテーマは、単一製品ではなく複数の技術資産を横断して成立します。

「古い設備」は狙い目になりやすい

テーマ探索マトリクスを作るとき、ぜひ一行入れてほしいのが旧型設備です。

実際の工場では、最新設備ばかりが動いているわけではありません。

20年前の設備が現役ということも普通にあります。

こうした設備では、

「データを取りたいが通信機能がない」
「旧PLCなので上位システムにつながらない」
「装置改造はしたくない」

といった問題が起こります。

そこで、後付けセンサーやゲートウェイを使ってデータを取得し、新しいシステムへ変換する。

これは派手なテーマではありませんが、市場規模が大きく、顧客の困りごとも明確です。

研究開発テーマは、必ずしも最先端である必要はありません。

顧客損失が大きく、自社技術が効くのであれば、それは十分に有望なテーマです。

マトリクスの目的は「表を埋めること」ではない

このマトリクスの目的は、きれいな一覧表を作ることではありません。

重要なのは、テーマ候補を見ながら、

「この損失は本当に大きいか」
「他の業界でも同じ問題があるか」
「自社技術を使う必然性があるか」
「競合企業が簡単にまねできないか」

と議論することです。

場合によっては、一つの技術が複数市場に使えることも見えてきます。

たとえば異常検知技術は、加工設備にも、搬送設備にも、プロセス設備にも展開できます。

逆に、一つの顧客損失に対して複数の技術を組み合わせる必要があることもあります。

この「縦横の組み合わせ」が、新規研究開発テーマを増やすポイントです。

ただし、ここで出てくるものはまだ「アイデア」です。

「設備停止を予測できたら面白い」
「旧型設備からデータを取れないか」

という段階では、研究開発テーマとしては不十分です。

次回は、「3-4.『アイデア』を『研究テーマ』に変える」として、思いつきのアイデアを、研究開発部門が実際に取り組めるテーマへ具体化する方法を考えていきます。

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2026/08/31

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑦

 3-2.テーマの発生源

新規研究開発テーマを探すというと、つい「将来伸びそうな技術」を探したくなります。

AI、ロボット、デジタルツイン、エッジコンピューティング、次世代通信――。もちろん、こうした技術動向を追うことは必要です。

ただ、事業につながるテーマを見つけるという意味では、もっと身近なところに有力な材料があります。

それは、顧客の現場で繰り返し発生している損失や面倒な作業です。

研究テーマの種は、華やかな技術ニュースよりも、むしろ「毎日困っていること」の中に埋まっています。



設備停止だけでなく「少しずつ遅い」も損失

設備停止は分かりやすい損失です。

ただし実際の工場では、完全停止よりも、

「数分止まるチョコ停が多い」
「設備は動いているが速度が落ちている」
「本来のタクトまで上げられない」

といった問題も少なくありません。

こうした損失は、一回あたりでは小さく見えます。

しかし年間で積み上げると大きい。

ここから、異常兆候検出、停止原因の自動分類、サイクルタイム監視、設備能力低下の診断などのテーマが生まれます。

品質問題は「不良品」だけではない

品質についても、不良率だけを見ているとテーマを見逃します。

工程条件が少しずつ変動している。
不良が怖いため検査を増やしている。
本当は不要かもしれない全数検査を続けている。
熟練者が経験で条件調整している。

これらもすべて顧客損失です。

たとえば「検査自動化」という発想だけではなく、

工程データから品質を予測し、そもそも検査を減らせないか

という方向へ展開できます。

これはセンサー、PLC、データ解析、品質管理を横断するテーマになります。

立上げやティーチングは宝の山

新しい設備を導入したときの立上げ、サーボ調整、センサー設定、ロボットティーチングなども有望なテーマ発生源です。

FAメーカー側では、装置が安定稼働した状態だけを見がちです。

しかし顧客は、その状態になるまでに相当な時間を使っています。

現場で技術者が何度も条件を変える。
設定値をExcelに記録する。
ベテランが過去の経験を思い出しながら調整する。

この「立ち上がるまでの時間」を短縮できれば、大きな価値になります。

自動チューニング、設定推薦、過去案件の再利用、仮想立上げなどは、まさにここから生まれるテーマです。

段取り替えは製品多様化とともに重くなる

多品種少量生産が進むほど、段取り替えや品種変更の回数は増えます。

設備そのものが高速でも、段取り替えに30分、1時間とかかれば生産能力は上がりません。

しかも、品種ごとに設定条件が異なると、入力ミスや確認作業も増えます。

この領域では、

品種認識、条件の自動呼出し、設定ミス防止、治具状態確認、段取り手順ナビゲーション

といったテーマが考えられます。

保全履歴は次の研究テーマにつながる

センサー交換、モーター交換、電源交換、ファン交換などの履歴も重要です。

何が壊れたかだけではなく、

「なぜ交換したのか」
「交換前にどんな兆候があったか」
「同じ部品が繰り返し交換されていないか」

まで見ると、予知保全や寿命推定のテーマにつながります。

とくに長期間の設置ベースを持つFAメーカーにとって、これは新規参入企業には簡単に得られない情報です。

顧客のExcelを見せてもらう

テーマ探索で、かなり有効なのがこれです。

顧客が独自に作っているExcel、紙帳票、チェックリストを見る。

そこには、本来システムや機器が提供できていない機能が表れています。

設備データを毎朝Excelへ転記している。
警報履歴を人が集計している。
複数装置の稼働率を手作業でまとめている。
保全部品の交換時期を個人の表で管理している。

こうした「人が補っている仕事」は、新しい機能やサービスの候補です。

最新技術を探すより、顧客が作ったExcelを見た方が、よいテーマが見つかることさえあります。

「つながらない」ことにも市場がある

工場では、異なるメーカーのPLC、センサー、装置、SCADAなどが混在しています。

データ形式が違う。
通信仕様が違う。
タグ名が違う。
時刻が合わない。

その結果、データを収集するだけで多くの工数がかかります。

この接続負担そのものが顧客損失です。

相互運用性、データモデル変換、自動タグ認識、時刻同期などは、この問題から生まれるテーマです。

古い設備にも大きな市場がある

新規研究開発というと、新型設備ばかりを考えがちですが、実際の工場には古い設備が大量に残っています。

設備本体はまだ使える。
しかしPLCが古い。
交換部品がない。
ソフトウェアが新しいOSで動かない。
通信規格が古く、データを取得できない。

こうした問題に対して、互換機、変換装置、レトロフィット、ソフトウェア変換などの需要があります。

「最新技術を新設備へ入れる」だけが新規テーマではありません。

古い設備をどう現代化するかも、大きな研究開発領域です。

エネルギーとセキュリティも日常業務から見る

省エネルギーも、「電力を見える化する」だけではテーマとして弱い。

重要なのは、

エネルギー原単位が悪化している。
ピーク電力を下げたい。
設備停止中なのに電力を使っている。

といった具体的な損失です。

同様にセキュリティも、「セキュアな機器を作る」だけではありません。

顧客側では、

脆弱性情報を確認する。
対象機器を特定する。
アップデートの影響を調べる。
監査用の記録を作る。

といった業務負担が発生しています。

この負担を減らすこと自体が、新しいサービスや機能のテーマになり得ます。

「困りごとの反復」を探す

こうして並べてみると、テーマ探索で見るべき場所はかなり広いことが分かります。

設備停止、品質、立上げ、段取り、保全、Excel作業、データ接続、旧設備、エネルギー、セキュリティ。

共通しているのは、

現場で繰り返し発生している損失や手間を探すこと

です。

一度だけ起きた特殊な問題より、何度も繰り返している問題の方が研究開発テーマとしては有望です。

繰り返しているということは、それだけ市場全体にも同じ問題が存在する可能性が高いからです。

ただし、テーマの種をたくさん集めるだけでは十分ではありません。

「市場の重要性は高いが自社技術と遠い」
「自社技術には合うが顧客損失が小さい」

といったテーマも混ざってきます。

そこで次に必要になるのが、候補を整理するための枠組みです。

次回は、「3-3.テーマ探索マトリクス」として、顧客課題と自社技術をどのように組み合わせて、有望な研究開発テーマを絞り込むかを考えていきます。


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2026/08/30

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑥

 3.新規テーマを発見する方法

3-1.テーマ探索の基本構造

ここまで、新規研究開発テーマを考える際には、製品そのものではなく、その背後にある技術資産や、顧客が現場で抱えている損失を見るべきだと述べてきました。

では、実際にはどのような順序でテーマを組み立てればよいのでしょうか。

基本となる流れは、次のように整理できます。

生産・人材・規制の変化
製造現場の損失
必要な機能・情報
自社技術との接点
研究開発テーマ
機器・ソフト・サービス


一見すると当たり前の流れですが、研究開発テーマの議論では、この順番が逆になっていることが少なくありません。

最初に「技術」を置かない

たとえば、「生成AIが流行しているから、生成AIを使ったFA機器を考えよう」というテーマ設定があります。

これ自体が悪いわけではありません。しかし、この段階では顧客にとっての価値がまだ見えていません。

そこで、出発点を一つ前に戻します。

たとえば製造現場で、

「熟練保全員が減っている」
「設備停止時に若手では原因を特定できない」

という変化が起きているとします。

ここから発生する損失は、設備停止時間の長期化です。

すると必要になる機能は、

「異常発生時に原因候補を絞り込む」
「過去の類似故障を検索する」
「復旧手順を作業者に提示する」

といったものになります。

ここまで来て初めて、自社が持つHMIPLCログ、設備データ、保守履歴、AIなどとの接点を考えます。

その結果、

「設備異常時に、過去の故障履歴と制御ログから原因候補と復旧手順を提示する保全支援システム」

といった研究開発テーマが見えてきます。

生成AIは、その中で使う技術の一つにすぎません。

「変化」から「損失」へ落とす

テーマ探索で重要なのは、社会や市場の変化をそのままテーマにしないことです。

「人手不足」
「脱炭素」
DX
「サイバーセキュリティ」

こうした言葉だけでは、範囲が広すぎます。

たとえば人手不足であれば、

人が足りないために何が起きているのか。

段取り替えに時間がかかる。
復旧できる人が限られる。
検査工程に人を配置できない。
設備の巡回点検が減る。

といった具体的な損失まで落とします。

脱炭素も同じです。

「省エネルギー対応」というだけではテーマになりません。

どの設備で、どのエネルギーが、なぜ無駄になっているのか。

待機中のモーターかもしれません。
エア漏れかもしれません。
必要以上の加熱かもしれません。

損失を具体化すると、必要なセンシングや制御が見えてきます。

損失から「必要な機能」を考える

次に、いきなり製品へ進まないことも大切です。

「設備停止を減らしたい」から「新しいセンサーを作ろう」と飛ぶのではありません。

その前に、

顧客は何が分かれば、あるいは何ができれば、その損失を減らせるのか

を考えます。

たとえば設備停止であれば、

異常の予兆が分かる。
劣化部品が分かる。
残存寿命が分かる。
故障原因を短時間で特定できる。

といった機能が考えられます。

ここではまだ、センサーなのかPLCなのかクラウドなのかを決めません。

この「機能で考える」という一段を入れることで、解決手段の幅が広がります。

そこではじめて自社技術を重ねる

必要な機能が明確になったら、自社の技術資産を重ねます。

たとえば、

振動計測が得意。
モーター制御データを取得できる。
PLC
内部の制御状態を詳細に把握できる。
大量の設置機器を持っている。
修理履歴を蓄積している。

といった強みです。

すると、

「一般的なAI会社でもできるテーマ」と、
「自社だからこそできるテーマ」

を分けられます。

この違いは非常に重要です。

新規研究開発は、単に市場が大きいテーマを選べばよいわけではありません。

市場ニーズがあっても、自社に優位性がなければ価格競争になりやすい。

逆に、自社技術が優れていても顧客損失が小さければ、事業にはなりにくい。

顧客の困りごとと、自社固有の技術資産が重なる場所を探す必要があります。

研究テーマと商品を分けて考える

もう一つ重要なのは、「研究開発テーマ」と「商品」を同じものだと考えないことです。

たとえば研究テーマが、

「加工状態の変化をモーター電流から検出する」

だったとします。

この成果は、最終的にはさまざまな形になり得ます。

サーボアンプの新機能かもしれません。
PLC
のソフトウェア機能かもしれません。
設備監視用エッジ端末かもしれません。
月額課金の診断サービスかもしれません。

つまり、

研究開発テーマの出口は、一つの機器に限定する必要がない

ということです。

研究段階では「どんな機能を実現するか」を中心に置き、商品化段階で最適な提供形態を考えた方が、テーマの可能性を狭めずに済みます。

一本の線でつながるテーマは強い

良い研究開発テーマは、説明すると一本の線でつながります。

「なぜ今それが必要なのか」
「顧客は何に困っているのか」
「何ができれば解決するのか」
「なぜ自社がやるのか」
「最終的に何として提供するのか」

この五つに無理なく答えられるテーマは、研究開発だけでなく、経営会議でも説明しやすいテーマです。

逆に、この途中に飛躍がある場合は注意が必要です。

AIが伸びているからAIテーマをやる」
「競合が始めたからクラウドをやる」

というテーマは、その典型です。

新規テーマ探索とは、未来予測のコンテストではありません。

環境変化と顧客損失を、自社技術を通じて事業機会へ変換する作業です。

この基本構造を押さえておけば、流行技術に振り回されにくくなります。

では、その最初の材料となる「テーマの種」は、具体的にどこから拾えばよいのでしょうか。

顧客の声だけではありません。営業情報、故障履歴、法規制、競合動向、技術ロードマップ、現場観察など、テーマの発生源はいくつもあります。



次回は、「3-2.テーマの発生源」として、研究開発テーマの候補をどこから見つけるかを整理していきます。


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2026/08/29

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑤

 2-3.製品起点から顧客起点へ

新規研究開発テーマを考える会議では、つい「次は何を作るか」という話から始まりがちです。

AIを搭載したPLCはどうか」
「もっと高性能なセンサーはできないか」
「クラウドサービスを始めるべきではないか」

どれも間違いではありません。けれど、この考え方だけでは、研究開発テーマが技術者側の都合に寄りやすくなります。

そこで一度、出発点を変えてみます。

何を作るかではなく、顧客が何を失っているかから考える。

これが、今回のテーマです。

顧客は「高性能」が欲しいわけではない

たとえば、あるPLCAI機能を搭載するとします。

技術的には面白いテーマです。ところが顧客から見れば、「AIが載っていること」そのものに価値があるわけではありません。

顧客が困っているのは、

「条件が少しずつずれて、不良率が上がる」
「原因が分かるまでに何時間もかかる」
「熟練者しか異常に気付けない」

といった問題です。

であれば、研究テーマは「AI搭載PLC」ではなく、

「品質変動を制御条件から自動検出する」

と置いた方がよい。

こうすると、必要な技術を後から考えられます。AIが必要かもしれませんし、統計的な変化点検出で十分かもしれません。PLC内部で処理するのか、エッジコンピュータを使うのかも、テーマを検討する中で決めればよいのです。

最初から手段を固定しないことが重要です。

「新型センサー」では損失が見えない

センサーでも同じです。

「高精度な新型センサーを開発する」というテーマだけを見ると、精度をどこまで上げるか、応答速度をどうするか、といった議論になります。

しかし実際の現場では、別の問題が起きています。

たとえばセンサーが徐々に劣化しているのに、それに気付かず測定を続けてしまう。結果として良品を不良と判定したり、逆に不良品を見逃したりする。

この場合、顧客が失っているのはセンサー性能ではなく、誤判定による品質損失や停止時間です。

そこでテーマを、

「センサー劣化による誤判定を防止する」

と置き換えてみます。

すると、センサーの自己診断、ドリフト検出、他のセンサーとの比較、校正時期の予測など、複数の解決策が見えてきます。

製品起点では見えなかった研究テーマが出てくるわけです。

サーボ性能も「何秒縮まるか」で考える

サーボモーターやサーボアンプでは、高速応答、高精度、高トルクといった性能指標が重要です。

ただ、新規テーマを考えるときには、

「応答速度を20%向上する」

だけでは少し弱い。

それによって顧客の何が改善するのかを考えます。

たとえば整定時間が短くなれば、1サイクルあたり0.2秒短縮できるかもしれません。1時間あたりの生産数が増え、年間では相当な生産能力向上につながる可能性があります。

すると研究テーマは、

「整定時間を短縮して設備能力を向上する」

となります。

この表現に変えると、サーボ単体だけでなく、制御アルゴリズム、機械剛性、振動抑制、ティーチング方法まで研究対象になってきます。

HMIは「見やすさ」より復旧時間

HMIについても、「大型画面」「高解像度」「新しいUI」といった製品側のテーマだけでは不十分です。

工場では、設備異常が起きたとき、作業者が大量の警報の中から原因を探し、マニュアルを確認し、復旧操作を行っています。

そこで発生している損失は、誤操作や復旧時間です。

であればテーマは、

「誤操作と復旧時間を減らす」

となります。

必要なのは必ずしも新型HMIではありません。

警報の優先順位付け、故障原因の推定、復旧手順のナビゲーション、過去の類似トラブル表示など、ソフトウェア側の研究テーマが重要になるかもしれません。

クラウドも目的ではない

DX関連では特に注意が必要です。

「クラウドサービスを始める」
「設備データをクラウドに上げる」

といったテーマはよくあります。

しかし、クラウドにつながっただけでは顧客価値は生まれません。

たとえば複数工場を持つ企業では、設備保全の判断基準が工場ごとに異なっていることがあります。

A工場では予防交換する。
B
工場では故障するまで使う。
C
工場では熟練保全員の経験で判断する。

このばらつきによって、保全費用や設備停止時間に差が出ているとすれば、

「複数工場の保全判断を標準化する」

ことが顧客価値になります。

クラウドは、そのための手段の一つです。

テーマの名前を変えるだけでも議論は変わる

製品起点と顧客損失起点を並べると、違いがよく分かります。


この二つは、似ているようでかなり違います。

左側は「何を作るか」です。
右側は「何を改善するか」です。

新規研究開発の初期段階では、右側から考えた方が選択肢を広く持てます。

しかも、テーマの価値を評価しやすくなります。

品質変動による損失はいくらか。
設備停止1時間はいくらか。
段取り時間を10分短縮すると年間いくらになるか。
誤操作を半減すると、どれだけ復旧工数が減るか。

こうした問いにつなげられるからです。

研究テーマを「技術的に面白いか」だけで評価するのではなく、顧客が現在負担している損失を、どれだけ減らせるかで見る。

ここまで来ると、新規研究開発テーマと事業テーマの距離がぐっと近くなります。

もちろん、すべての基礎研究を短期的な顧客損失に結びつける必要はありません。しかし、事業化を前提とした研究開発テーマであれば、「この技術で何ができるか」より先に、「誰の、どんな損失を減らすのか」を問い直す価値があります。

では、実際に顧客損失から有望なテーマをどう発見すればよいのでしょうか。

次回からは、「3.新規テーマを発見する方法」**に入り、まず 3-1.テーマ探索の基本構造」として、市場、顧客課題、自社技術をどのように結びつければ研究開発テーマになるのかを整理していきます。

 

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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2026/08/28

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)④

 2-2.見落とされやすい戦略資産

前回は、FA機器メーカーが持っているのはPLCやセンサー、サーボ、HMIといった「製品」だけではなく、その背後にある制御、計測、信号処理、通信などの技術資産である、と書きました。

ただし、自社の強みを考えるときには、もう一段広く見る必要があります。

技術一覧表には載っていないものの、実は他社が簡単にはまねできない資産があるからです。

その代表が、長年の納入実績、設置ベース、現場データ、顧客との接点です。

「何台売ったか」ではなく「何台動いているか」

FA機器メーカーにとって、過去の販売実績は単なる売上の履歴ではありません。

何十年にもわたりPLC、センサー、サーボ、HMIなどを販売してきた企業であれば、全国、場合によっては世界中の工場や装置の中で、自社製品が稼働しています。

この「設置ベース」は大きな資産です。

たとえば、新しい設備診断サービスを考える場合、新規参入のIT企業はまず顧客を探し、対象設備を理解し、データを取得できる状態を作るところから始めなければなりません。

一方、既存のFAメーカーには、すでに顧客があり、設備があり、機器がある。

しかも、その機器がどのような装置に組み込まれ、どのような環境で使われているかという知識まで持っていることがあります。

新規研究開発では、この差をもっと意識してよいでしょう。



故障履歴は「過去のトラブル記録」ではない

修理部門やサービス部門には、膨大な故障情報が蓄積されています。

警報コード、故障部位、使用年数、交換部品、使用環境、再発状況などです。

これらは通常、「品質問題への対応記録」や「修理履歴」として扱われています。

しかし見方を変えれば、これは将来の研究テーマの材料です。

たとえば、

「特定の使用条件で電源部の故障が増える」
「ある警報の数週間後に重大停止が起こりやすい」
「特定の部品交換が繰り返される装置には共通条件がある」

といった傾向が見つかれば、予知保全や寿命予測、異常検知のテーマにつながります。

つまり、過去のクレームや修理履歴は、将来の商品企画に使える学習データでもあるのです。

カタログには書けないノウハウがある

もう一つ重要なのが、顧客装置への組込みノウハウです。

FA機器は、それ単独で使われることはほとんどありません。

実際の現場では、センサー、PLC、サーボ、電源、ネットワーク、機械構造などが組み合わされます。

すると、

「この制御周期では安定するが、これ以上速くすると振動が出る」
「この配線だとノイズを拾いやすい」
「この位置にセンサーを置くと温度影響が大きい」
「この装置では加減速条件をこう設定した方が安定する」

といった、現場固有の知識が蓄積されていきます。

これらは論文や特許にはならないかもしれません。しかし、実際の製造現場で機器を安定して動かすという意味では、非常に価値があります。

むしろ、こうした「細かすぎて文書化されにくい知識」こそ、長年FAに関わってきた企業の強みです。

技術を横断できる人も資産である

新規研究開発を考えるとき、技術資産というと特許や設備、ソフトウェアなどを思い浮かべがちです。

しかし、人も重要な資産です。

とくにFA分野では、

制御だけが分かる。
計測だけが分かる。
モーターだけが分かる。

という人よりも、

制御・計測・駆動・通信を横断して、一つのシステムとして考えられる人

が、新しいテーマを生み出すうえで大きな役割を果たします。

設備の異常を診断しようとすれば、センサーだけでは足りません。機械構造、駆動条件、制御ロジック、データ処理まで見る必要があります。

こうした複数領域をつなげられる人材は、外部から簡単に調達できるものではありません。

顧客との「距離の近さ」も競争力になる

FAメーカーには、代理店、装置メーカー、エンドユーザーの工場など、多層的な顧客接点があります。

営業担当者、サービス担当者、アプリケーションエンジニアなどが日常的に現場へ入り込んでいる企業も多いでしょう。

ここには、Web検索や市場調査だけでは得られない情報があります。

「最近こういう相談が増えた」
「この工程だけ人が集まらない」
「設備停止より復旧作業の方が問題になっている」
「データは取れているが誰も見ていない」

こうした小さな変化は、新しい市場の兆候であることがあります。

研究開発部門が顧客の声を直接聞く機会が少ない企業ほど、この情報を意識的に取り込む仕組みが必要です。

「古い体質」に見えるものが強みになることもある

FA業界では、長期供給、旧製品との互換性、修理対応などが重視されます。

一般のIT製品の感覚から見ると、開発スピードを遅くする制約にも見えます。

しかし工場では、設備を10年、20年と使うことも珍しくありません。

「突然サービスが終了しない」
「旧機種との互換性がある」
「故障しても修理できる」

という安心感そのものが商品価値です。

この信用は、短期間で市場参入した企業には簡単に作れません。

新規事業を考えるときも、既存FAメーカーがIT企業と同じ土俵でソフトウェア機能だけを競う必要はありません。

むしろ、長期間使われる設備を知り、その設備を最後まで支えられることを事業モデルに組み込む方が強い場合があります。

IT企業にはない二つの資産

こうして見ると、FAメーカーには多くの戦略資産があります。

その中でも特に重要なのが、

設置ベース
現場データ

の二つです。

どこに、どの機器が、どんな設備に組み込まれ、どのような条件で使われているか。

そして、その設備でどのような故障、警報、修理、交換が発生してきたか。

これらは、FA機器メーカーが長い年月をかけて蓄積してきたものです。

AIやソフトウェアの技術だけを見れば、新興IT企業の方が強いこともあります。

しかし、AIを本当に製造現場で役立てようとすれば、学習させるデータと、結果を解釈する現場知識が必要です。

そこでFAメーカーの蓄積が効いてきます。

新規研究開発テーマを考えるときには、「自社にどんな新技術があるか」だけを見るのではなく、

他社が欲しくても短期間では手に入らないものは何か

という問いを加えてみるべきでしょう。

そこに、新規参入企業とは違う研究開発テーマの入口があります。

そして次に必要になるのが、その資産を「何に使うか」です。

製品起点で「次のPLC」「次のセンサー」を考えるのではなく、顧客が現場で失っているものからテーマを考える。

次回は、「2-3.製品起点から顧客損失起点へ」として、新規研究開発テーマの出発点をどこに置くべきかを考えていきます。


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2026/08/27

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)③

 2.デジタルFA企業の技術資産を再定義する

2-1.保有しているのは「FA機器」だけではない

新規研究開発テーマを考えるとき、多くの企業が最初にやるのは「自社には何があるか」の棚卸しです。

ところが、この棚卸しには一つ落とし穴があります。

PLCメーカーならPLC、センサーメーカーならセンサー、サーボメーカーならサーボ、といった具合に、現在販売している製品の名前で自社の強みを整理してしまうことです。

これでは、これまでの延長線上のテーマしか出てきません。

たとえば「次世代PLC」を考えれば、演算速度を上げる、I/Oを増やす、小型化する、通信機能を強化するといった発想になりやすい。もちろん、それ自体が悪いわけではありません。しかし、新しい事業領域を探索するのであれば、もう一段深く掘る必要があります。

見るべきなのは製品ではなく、その製品を成立させている技術資産です。



PLCの本当の資産は「箱」ではない

PLCを例に考えてみます。

顧客が購入しているものはPLCという機器ですが、その背後には、リアルタイム制御、シーケンス処理、安全制御、決定論的な演算処理など、多くの技術があります。

さらに言えば、

「決められた時間内に必ず処理を終わらせる」
「異常時にも安全側へ移行する」
「長期間安定して動作する」

といった設計思想やノウハウも蓄積されています。

これらはPLC以外にも使える技術です。

自律搬送機器、ロボット、分散制御システム、エッジコンピューティングなど、新しい製品やサービスに展開できる可能性があります。

センサー企業は「計測技術」を持っている

センサーについても同様です。

製品として見れば、温度センサー、圧力センサー、流量計、変位計、振動センサーなどに分かれます。

しかし技術資産として見れば、

物理量を電気信号へ変換する技術、校正技術、温度補償、ノイズ除去、微小信号処理、異常値判定などが存在します。

つまり、「振動センサーを作れる会社」というより、

ノイズの多い現場から意味のある微小変化を取り出せる会社

と捉えたほうが、技術の応用範囲は広がります。

この言い換えは、新規テーマ探索では意外に重要です。

サーボやHMIにも別の顔がある

サーボモーターやインバータの背後には、モーターそのものだけでなく、電力変換、位置制御、速度制御、トルク制御などの技術があります。

これらを「モーターを動かす技術」とだけ考えるのか、「機械の動きを精密に作り出す技術」と考えるのかで、発想できるテーマは変わります。

HMIも同じです。

表示器を作っている、と考えるだけでは十分ではありません。

実際には、

「設備の状態を人に伝える」
「異常を見逃させない」
「操作ミスを防ぐ」
「複雑な情報から必要な情報だけを提示する」

という技術を持っています。

これは表示技術というより、人と設備のインターフェース設計技術です。

熟練者不足が進む工場では、この技術の価値はむしろ高まる可能性があります。

ネットワーク企業が持っているのは通信だけではない

産業用ネットワークについても、「データを送る技術」とだけ見ると狭すぎます。

機器同士を確実につなぐ。
異なる装置間で時刻を合わせる。
大量のデータを決められた時間内に届ける。
異なるメーカーの機器間で意味を共有する。

この背景には、通信技術だけでなく、時刻同期、機器接続、データモデル、相互運用性に関するノウハウがあります。

工場がデータ中心のシステムへ移行するほど、この資産は重要になります。

「保守サービス」も立派な技術資産である

さらに見落とされやすいのが、保守部門です。

研究開発部門から見ると、保守は製品販売後の業務と考えられがちです。

しかし保守部門には、

どの設備が、どこで、どのように使われているか。
何年目にどんな故障が起きやすいか。
顧客がどんな使い方をしているか。
現場では何に困っているか。

という情報が蓄積されています。

これは、予知保全サービスや設備診断、新しいセンサー、新しい制御機能を考えるうえで非常に価値の高い資産です。

技術研究所にはない情報を、サービス担当者が持っていることも珍しくありません。

製品名を外して考えてみる

そこで自社技術を棚卸しするときには、一度、製品名を消してみることをおすすめします。

たとえば次のように整理します。


こうしてみると、自社が持っているものは「PLC」「センサー」「HMI」という製品群だけではないことが分かります。

むしろ、それらの製品を長年作り続けるなかで蓄積した、制御する、測る、動かす、つなぐ、見せる、診断するといった能力こそが、新規研究開発の材料になります。

新規テーマを考える際には、「今ある製品の次」を考えるだけでは不十分です。

今ある製品を一度分解し、その奥にある技術を取り出して、別の用途と組み合わせ直す。

ここから、従来の製品分類では見えなかったテーマが出てきます。

もっとも、技術資産は技術部門の中にだけあるわけではありません。長年蓄積された設備データ、故障履歴、顧客との接点、さらには「この業界では当たり前」と思っている現場知識の中にも、他社が簡単には手に入れられないものがあります。

次回は、「2-2.見落とされやすい戦略資産」として、技術一覧表には載りにくいものの、新規事業を考えるうえで大きな武器になる資産について考えていきます。

2026/08/25

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)②

 1-2.製造業を取り巻く変化

新規研究開発テーマを考えるとき、まず押さえておきたいのは「技術の進歩」よりも「顧客の工場がどう変わっているか」です。

FA機器メーカーにいると、どうしても新しい通信方式、新しいセンサー、AI、新しい制御技術といったものに目が向きます。しかし、顧客が新しい技術を採用するのは、その技術自体が面白いからではありません。

工場が抱えている問題が変わるから、必要な技術も変わるのです。

その意味で、現在の製造業にはいくつかの大きな変化が同時に起きています。

人が足りない。それ以上に「分かる人」が減っている

もっとも分かりやすい変化は、人手不足です。

ただし製造現場で深刻なのは、単純な人数の不足だけではありません。

設備の音を聞けば異常が分かる。
加工状態を見て条件を微調整できる。
停止した設備を短時間で復旧できる。

こうした熟練者が減っています。

これまで人の経験で補っていたものを、センシング、データ解析、制御、ナビゲーションなどによって支援する必要が出てきました。

設備監視や予知保全が注目される理由もここにあります。

ただし、「振動センサーを付けてAIで異常診断する」と考えただけではテーマとしてはまだ浅い。

本当に問うべきなのは、

熟練者が行っていたどの判断を、どこまで機械やソフトウェアで支援できるか

ということです。

ここまで掘り下げると、研究テーマの姿がかなり変わってきます。

多品種少量化は「止まらない工場」を難しくする

もう一つの変化が、多品種少量生産です。

同じものを長時間作り続ける工場であれば、一度条件を決めれば比較的安定して運転できます。しかし品種が増えれば、段取り替え、条件変更、治具交換、プログラム変更などが頻繁になります。

当然、ミスも起こりやすくなります。

ここでは高速なPLCや高精度なサーボだけでなく、

「品種が変わっても短時間で条件を設定できる」
「誤った設定を設備側で検知する」
「過去の良品条件を自動的に参照する」

といった機能が価値を持つようになります。

つまり、機器単体の性能競争から、変化に強い生産システムをどう作るかという競争への移行です。

「何が起きたか」から「なぜ起きたか」へ

工場では、設備停止、品質異常、電力使用量など、多くのデータが取得されるようになりました。

ところが実際には、データを取っただけで終わっているケースも珍しくありません。

「今月の設備稼働率は93%でした」

と表示されても、それだけでは設備は改善しません。

重要なのは、

「残り7%はなぜ止まったのか」
「どの条件のときに品質異常が増えるのか」
「どの設備、どの工程でエネルギーを無駄に使っているのか」

まで分かることです。

今後のFA機器には、単にデータを収集・表示するだけでなく、原因推定や意思決定支援まで踏み込むことが求められるでしょう。

ITOTの境界が薄くなる

従来、工場内の制御系、いわゆるOTOperational Technology)は、企業のITシステムとは比較的独立していました。

しかし現在は、PLCやセンサーのデータを上位システムに送り、SCADA、生産管理、クラウドサービスなどと接続するケースが増えています。

産業用ネットワークについても、特定メーカーの閉じた世界だけでなく、オープン化や相互運用性が重要になっています。

これはFA機器メーカーにとって大きな変化です。

顧客が評価する対象が「その機器が何をできるか」だけではなく、

他の機器やシステムと、どれだけ自然につながるか

に広がるからです。

AIとデジタルツインは「特別な技術」ではなくなる

AIについても同じことが言えます。

異常検知、品質予測、条件最適化、画像検査、需要予測など、製造現場での利用範囲は広がっています。

さらに、実際の設備や生産ラインをデジタル空間に再現するデジタルツインも、シミュレーション、保全、立上げ支援などへの展開が進んでいます。

もっとも、「AI搭載」や「デジタルツイン対応」と書けば商品になる時代が続くとは思えません。

やがてこれらは、通信機能やデータロギングと同じように、当たり前の機能になっていくでしょう。

だからこそ研究開発では、「AIを使うか」ではなく、AIを使うことで顧客の仕事をどう変えるかを考える必要があります。

セキュリティも「あとから付けるもの」ではない

そして見落としてはいけないのが、サイバーセキュリティです。

工場の設備がネットワークにつながり、ITOTの接続が進めば、それだけ攻撃対象も広がります。

経済産業省は202510月、「半導体デバイス工場におけるOTセキュリティガイドライン」を策定しました。同ガイドラインでは、生産目標の維持、機密情報の保護、半導体品質の維持を守るべき対象とし、国際規格との整合も意識した工場セキュリティ対策を示しています。(経済産業省)

ここからFA機器メーカーが読み取るべきことは明快です。

これからのPLC、産業用PC、ネットワーク機器、HMIなどでは、セキュリティは「上位機種だけに付ける便利な機能」ではありません。

設計、製造、導入、アップデート、保守、廃棄までを含めた、製品ライフサイクル全体の基本品質として考える必要があります。




こうして製造業の変化を並べてみると、一つの共通点が見えてきます。

今後求められるのは、単体のFA機器を高性能化することだけではありません。

人の判断を支援する。
設備同士をつなぐ。
現象をデータとして捉える。
将来を予測する。
安全につながり続ける。

こうした機能を組み合わせ、工場全体の価値へ変えていくことです。

そこで次に考えたいのが、FA機器メーカー自身が持っている「技術」の見方です。

PLCメーカーは、本当にPLCという製品しか持っていないのでしょうか。

次回は、「2.デジタルFA企業の技術資産を再定義する 2-1.保有しているのは『FA機器』だけではない」として、自社技術を製品名ではなく「技術資産」として棚卸しする方法を考えていきます。

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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