権限は、与えられるまで待つものなのか
ここで、もう一つの問題がある。
こうした部門横断的な活動を進めようとすると、「私には他部門に指示する権限がない」という壁に突き当たることがある。
確かに、一般の技術者が他部門の担当者に業務命令を出すことはできない。また、設計変更や設備投資などについても、所定の承認手続きが必要である。
しかし、だからといって、正式な権限を与えられるまで何もできないわけではない。
例えば、他部門の担当者に問題の重要性を説明し、協力を依頼することはできる。
現状のデータを整理し、改善によって得られる経済的な効果を示すこともできる。
さらに、具体的な実行計画を提案し、必要な人員や時間、費用について関係部門の管理者に承認を求めることもできる。
こうした活動には、必ずしも管理職としての役職や指揮命令権限が必要なわけではない。
むしろ、技術的な根拠を示し、実現すべき成果を共有し、関係者の納得と協力を得ることこそ、自律的なリーダーに求められる能力である。
「責任と権限は対等でなければならない」という組織論がある。これは、組織運営の原則として重要な考え方である。
しかし、実際の仕事では、最初から十分な権限を持っている人ばかりではない。
私は、リーダーシップとは、権限を持っていることではなく、周囲から信頼され、必要な協力を引き出せることだと考えている。
自ら重要な問題を発見し、解決への道筋を示し、実際に成果を生み出す。その積み重ねによって周囲の信頼が高まり、より大きな仕事を任されるようになる。
その意味で、権限は上司から与えられるだけのものではなく、自らの行動と実績によって獲得していく側面もある。
ただし、権限を持たない技術者に、結果責任だけを無制限に負わせるべきだということではない。
経営者や管理職には、合理的な提案を受け止め、必要な人員や予算、正式な決定権を与える責任がある。
DQL(設計品質リーダー)の自律性と、経営者の権限委譲は、互いに補完し合う関係になければならないのである。
会議と報告書が増えても、問題は解決しない
組織を動かすうえで、もう一つ注意したいことがある。それは、管理することと仕事を進めることを混同しないことである。
例えば、先ほどの歯車メーカーで、毎週の改善会議が開催されているとしよう。
各担当者は進捗報告書を作成し、会議では実施した作業と今後の予定を説明する。問題点について意見交換が行われ、議事録には多くの課題が記載される。
一見すると、組織的な改善活動が適切に進められているように見える。
しかし、実際にはどうだろうか。
前回の会議で指摘された問題が、今回も同じように報告される。原因の調査が遅れている理由が説明され、次回までの検討事項として持ち越される。
関係者は毎週のように会議へ出席しているが、肝心の問題解決は進んでいない。
こうした状況は、報告書や会議を適切に管理することが、いつの間にか仕事の目的になってしまった結果である。
本来、進捗管理の目的は、予定と実績の差を明らかにし、必要な対策を講じることにある。
例えば、2週間で完了する予定だった騒音測定が、設備の都合で実施できないとわかったとする。
そのとき、「測定設備の都合により遅延しています」と報告するだけでは、何も解決しない。
別の測定設備を使用できないか。試験の順番を変更できないか。外部の試験機関を利用する方法はないか。
DQLは、こうした代替策を自ら考え、必要な判断と実行を進める。
もちろん、費用や安全性、品質保証上の問題を伴う変更には、適切な承認が必要である。しかし、承認を得るための具体案を示し、意思決定を促すことはできる。
進捗を管理するとは、遅れていることを説明することではない。遅れを取り戻すための行動を起こすことである。
そのためには、毎週の定例会議を待つ必要もない。
問題が明らかになった時点で関係者と情報を共有し、必要な対策を講じることが重要なのである。
「朝令暮改」は、必ずしも悪いことではない
日本の企業では、「朝令暮改」という言葉は、方針が定まらず、上司の指示が頻繁に変わることを批判する意味で使われることが多い。
確かに、経営者や管理職の思いつきで方針が変わり、現場が振り回されるようでは、組織の信頼関係は損なわれる。
しかし、技術開発や問題解決においては、事実に基づいて実行方法を迅速に変更することが必要になる場合もある。
例えば、歯車の騒音低減を目指し、当初は歯面粗さの改善を重点的に進めていたとする。
ところが、騒音の周波数解析や噛み合い伝達誤差の評価を進めた結果、歯面粗さよりも歯すじ修整量と負荷による歯当たりの変化が、騒音に大きく影響している可能性が明らかになった。
その場合、当初の計画に固執して歯面粗さの改善を続けることが合理的だろうか。
むしろ、得られた知見に基づいて優先順位を変更し、歯面修整の最適化へと開発資源を振り向けるべきであろう。
それまでの研究や実験を無駄にしたくないという心理から、効果の乏しい方法を続けてしまうこともある。しかし、過去に費やした時間や費用は、これからの判断を正当化する理由にはならない。
達成すべき目標は一貫させる。しかし、その目標を達成するための手段は、得られた事実に応じて柔軟に変える。
この姿勢は、DQLにとって極めて重要である。
そして、こうした判断を適切に行うためには、技術的な知識とともに、統計解析や実験計画法などを活用して、事実と推測を区別する能力も求められる。
単なる思いつきによる方針変更と、客観的な根拠に基づく計画修正は、明確に区別しなければならない。
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