6-3.顧客実証で確認すること
新規研究開発テーマの決め方
第15回 顧客実証で確認すること
研究開発テーマが試作品の段階まで進むと、いよいよ顧客設備でのPoCに入ります。
ここで注意したいのは、PoCを「技術が動くことを見せる場」にしないことです。
研究室で動作した技術を顧客設備に持ち込み、
「異常を検出できました」
「AI精度95%でした」
で終わってしまうと、事業化に必要な情報はほとんど得られません。
顧客実証で確認すべきなのは、技術性能だけではなく、その技術によって顧客の仕事と経済的な成果が本当に変わるかです。
顧客は「完成してから探す」のでは遅い
できれば重点顧客は、PoCの段階で初めて探すのではなく、テーマ探索の初期から3社程度を巻き込んでおきたいところです。
一社だけでは、その企業固有の問題なのか、市場共通の問題なのか判断しにくいからです。
たとえば設備診断でも、
A社では突発停止が問題。
B社では保全員不足が問題。
C社では交換部品の判断が問題。
ということがあります。
三社程度と話をすると、共通している部分と個別部分が見えてきます。
この共通部分が、将来の標準製品やサービスの核になります。
実証前の状態を測っておく
PoCで非常にありがちな失敗が、改善前のデータを取っていないことです。
導入後に、
「便利になりました」
「以前より良くなった気がします」
と言われても、事業性の判断には使えません。
したがって、実証前に基準値を取っておきます。
設備停止なら年間または月間停止時間。
品質なら不良率、手直し率、検査工数。
立上げなら調整時間。
省エネルギーなら生産量当たりの電力量。
つまり、PoCは新技術を試す前から始まっています。
改善前と改善後を比較できて初めて、
「この技術によってどれだけ顧客損失が減ったか」
を評価できます。
AI精度より、その後の行動を見る
AIを使ったテーマでは、とかく予測精度や正解率ばかりを評価します。
もちろん精度は重要です。
しかし、設備診断AIが異常を正しく検出しても、その情報を誰も使わなければ価値は生まれません。
たとえば、
AIが「ベアリング劣化の可能性80%」と表示した。
そのとき保全担当者はどうするのか。
すぐ確認するのか。
次回点検まで待つのか。
部品を事前手配するのか。
そもそもAIの判断を信用しないのか。
ここまで見る必要があります。
良いPoCでは、
AIの判断精度ではなく、AIによって人の意思決定が変わったか
を確認します。
予知保全であれば、最終的に設備停止や緊急修理が減ったかまで見たいところです。
「普通に動いているとき」だけ試さない
顧客設備での実証では、正常運転だけを見ると危険です。
FA機器では、むしろ異常時の挙動が重要だからです。
少なくとも、
正常時、
異常時、
通信切断時、
誤操作時
は確認しておきます。
たとえばクラウドを使った設備診断なら、ネットワークが切れたときどうなるのか。
診断結果が届かなくなるだけで設備運転には影響しないのか。それとも制御側に何らかの支障が出るのか。
AIが誤判定した場合に、作業者がそれを打ち消せるのか。
FAでは「正常時には動きます」だけでは製品になりません。
ばらつきを意図的に入れる
研究段階では、同じ設備、同じ条件で繰り返し試験したくなります。
しかし実際の工場では条件が変わります。
品種が変わる。
設備個体が変わる。
夏と冬で環境が変わる。
作業者が変わる。
こうした違いを避けて実証すると、PoCでは高い性能が出たのに、商品化後に性能が安定しないということが起きます。
そこで、
品種、設備個体、季節、作業者などを誤差因子として意識的に評価する
ことが重要です。
たとえば異常検知AIなら、一台の設備で95%の精度が出ることより、複数設備・複数品種でも安定して90%を維持できる方が、製品としては価値があります。
研究開発では最高性能を競うより、現場条件が変わっても性能が崩れないことを見るべきです。
個別仕様を増やしすぎない
PoCでは顧客からさまざまな要求が出ます。
「この画面を追加してほしい」
「この設備だけ特殊な信号を使いたい」
「自社独自の帳票形式にしてほしい」
営業的には対応したくなります。
しかし全部受け入れると、PoCは成功しても標準製品になりません。
そこで、顧客ごとの要求を、
共通プラットフォーム部分
と
個別設定部分
に分けます。
たとえばデータ収集、診断アルゴリズム、通信、安全機能などは共通化し、画面表示やしきい値などは設定で変更できるようにする。
この境界をPoC段階から意識しておくと、二社目、三社目への展開が容易になります。
「無償PoC」から抜け出せるか
そして事業化で非常に重要なのが、PoCの有償化です。
新技術なので最初は無償で試してもらう。
これはよくあります。
問題は、二社目、三社目でもずっと無償で続けることです。
顧客は無料なら使ってくれます。
しかし、それでは本当に価値を感じているのか分かりません。
そこで実証を始める前に、
「この条件を達成したら有償サービスへ移行する」
という基準を決めておきます。
たとえば、
設備停止時間を20%削減。
段取り工数を30%削減。
エネルギー原単位を5%改善。
これを達成した場合、
月額いくら、年間いくら、あるいは設備1台あたりいくら
で契約するのかまで話しておきます。
多少厳しい話に見えますが、ここを避けると「PoCは好評なのに誰も買わない」という状態になりがちです。
PoCの成果は技術データだけではない
顧客実証で得るべきものを整理すると、大きく三つあります。
一つ目は、技術性能。
二つ目は、顧客の行動変化。
三つ目は、経済効果です。
この三つがそろって初めて、事業化の判断材料になります。
技術的に動いた。
現場で使われた。
そして顧客損失が減った。
ここまで確認できれば、その研究テーマはかなり強い。
逆に、AI精度は高いが誰も使わない、顧客には好評だが経済効果が小さい、といった場合は、商品化の前にもう一度テーマを見直すべきです。
研究開発から事業化へ進むためには、技術性能を「顧客価値」、さらに「金額」へ変換する必要があります。
次回は、「6-4.経営貢献金額で比較する」として、設備停止削減、品質改善、省人化、エネルギー削減などの成果をどのように金額換算し、複数の研究開発テーマを同じ土俵で比較するかを考えていきます。
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