2026/09/27

【新規連載】品質を守るだけでは会社は勝てない ― 自律するDQLの仕事⑩

 

第4章 未来を当てるより、「小さく賭ける」

― 研究開発で重要なのは、予測精度より学習速度である

 

研究開発では、最初から正解は見えない

前回は、研究開発テーマを技術からではなく、顧客が現在被っている損失から考えるべきだと述べた。

では、顧客にとって価値のある課題が見つかったら、次に何をすればよいのだろうか。

ここで多くの企業が陥るのが、「もっと調べてから動こう」という考え方である。

市場規模を精緻に予測する。競合を詳しく分析する。技術ロードマップを作る。五年後、十年後の需要を推定する。原価計算を何度もやり直す。

もちろん、こうした検討は必要である。

しかし、不確実性の高い研究開発では、分析を増やせば増やすほど正解に近づくとは限らない。

なぜなら、そもそも答えがまだ存在していない場合があるからである。

新しい技術が本当に安定して動くのか。顧客が実際に使ってくれるのか。現場の業務が変わるのか。想定価格で購入してもらえるのか。

これらは、会議室の中で資料を増やしても分からない。

実際に試してみなければ分からない。

このときDQLに必要なのは、「未来を正確に当てる能力」ではない。

できるだけ安く、できるだけ早く、間違いに気づく能力である。

 

完璧な事業計画を作ることが、必ずしも賢いとは限らない

企業の新規テーマでは、しばしば立派な事業計画書が作られる。

市場規模、売上予測、開発費、投資回収期間、競合分析、技術課題、量産計画まで、数十ページにわたって整理されている。

しかし、そこに書かれている数字の多くは、まだ確認されていない仮説である。

たとえば「五年後に市場規模100億円」と書かれていても、その市場自体がまだ存在していないこともある。

「顧客の30%が購入する」と予測しても、実際に顧客へ見せたことがなければ、その数字に根拠はほとんどない。

私はこうした計画を否定しているわけではない。

問題は、仮説を、事実であるかのように扱ってしまうことである。

研究開発初期の事業計画は、本来「未来を説明する文書」ではない。

「何がまだ分かっていないか」を明確にする文書であるべきだ。

そして、その分からないことを一つずつ確認していく。

この姿勢が重要である。

 

大きく賭ける前に、まず300万円で確かめる

簡単な例を考えてみよう。

ある製造装置メーカーが、AIを使った故障予知サービスを新規事業として検討しているとする。

経営会議では、「今後は予知保全市場が伸びる」「AIは重要だ」という意見が出ている。

そこでいきなり、AI開発チームを10人集め、クラウド基盤を構築し、数億円規模のシステム開発を始めたとする。

これはかなり大きな賭けである。

しかし、この段階では重要なことがまだ分かっていない。

本当に顧客は故障予知に困っているのか。困っているとして、その問題にいくら払うのか。必要なデータは取得できるのか。実用的な精度で異常を検出できるのか。

そこで、最初の投資を300万円程度に抑え、数社の顧客設備からデータを取得して簡易モデルを作ってみる。

同時に、保全部門へ「この故障を一日前に予測できたら、いくらの価値がありますか」と聞く。

もし顧客が「故障しても予備機に切り替えるだけなので、それほど困っていない」と答えたなら、そこで重要なことが分かる。

AIの精度を高める前に、そもそも事業価値が小さいのである。

逆に、「一時間停止すると500万円の損失になる」という顧客が何社も見つかれば、次の投資へ進む意味が出てくる。

これが「小さく賭ける」という考え方である。


※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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