2026/10/01

【新規連載】品質を守るだけでは会社は勝てない ― 自律するDQLの仕事⑬

 

第5回 研究開発で最も危険なのは、「やめられないこと」

― サンクコストに支配されないDQLの判断力

 

研究開発は、始めるより「やめる」ほうが難しい

研究開発の会議では、新しいテーマを始めるときには多くの議論が行われる。

市場性はあるか。技術的に実現できそうか。どのくらいの投資が必要か。競合に勝てるか。顧客は本当に欲しがっているか。

ところが、いったんテーマが始まると、状況は少し変わる。

半年経っても思ったほど性能が出ない。

一年経っても顧客評価が芳しくない。

原価を計算してみると、当初想定よりかなり高い。

それでも会議では、「もう少し続けてみよう」という意見が出やすい。

なぜなら、すでに時間も金も人も使っているからである。

ここに、研究開発の難しさがある。

新しいテーマを始めるには勇気がいる。

しかし実際には、見込みの薄くなったテーマをやめるほうが、もっと大きな勇気を必要とする。

 

「ここまでやったのだから」が最も危険な言葉になる

簡単な例を考えてみよう。

あるメーカーが、新しいセンサー技術の研究開発に取り組んでいるとする。

当初の計画では、2年で製品化し、開発費は5000万円程度の予定だった。

ところが1年半が経過しても、必要な精度が安定して出ない。

追加実験も行った。外部の専門家にも相談した。設備も購入した。

すでに4000万円を使っている。

ここで担当者が言う。

「ここまで4000万円使ったのだから、あと1000万円だけ追加して完成させたい」。

一見すると合理的に聞こえる。

しかし、本当に見るべきなのは過去の4000万円ではない。

その4000万円は、もう戻ってこない。

今考えるべきなのは、

これから1000万円を追加したときに、その1000万円に見合う成果が期待できるか

という一点である。

過去にいくら使ったかは、本来、次の投資判断とは切り離して考えなければならない。

これがサンクコストの問題である。

 

ギャンブルでいう「追い銭」は、研究開発でも起こる

ギャンブルで最も危険な状態の一つは、負けた金を取り戻そうとして賭け金を増やすことである。

1万円負けた。

次は2万円賭ける。

それでも負けた。

今度は5万円賭ける。

本人の頭の中では、「勝てばこれまでの損失を取り戻せる」と考えている。

しかし、過去の負けは次の勝率を高めてくれるわけではない。

研究開発にも、これとよく似たことが起こる。

一年間研究した。

二年間研究した。

設備を購入した。

専任チームも作った。

経営会議でも「重点テーマ」として発表した。

こうなると、撤退する心理的なハードルは急激に高くなる。

そして本来なら、

「今の情報で判断すれば、このテーマにはもう追加投資しない」

という結論になるはずなのに、

「ここまでやったのだから、もう一年だけ」

という判断に変わってしまう。

これは研究開発における「追い銭」である。


※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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