DQL(設計品質リーダー)は、技術テーマと人材を同時に見る
研究開発ポートフォリオと人材育成は、本来切り離すことができない。
五年後にAIやデジタルサービスを重点事業にすると決めても、それを担える人材を今から育てていなければ実現できない。
これは果樹園と同じである。
五年後にリンゴを収穫したいからといって、五年後に苗木を植えても間に合わない。
今から植えて育てる必要がある。
技術人材も同じである。
どの技術を重点領域にするのか。
どの人材をそこへ配置するのか。
誰に顧客経験を持たせるのか。
誰にプロジェクトを任せるのか。
誰を次のDQL候補として育てるのか。
研究開発戦略とは、技術テーマの選択だけではなく、未来のタレントをどこに育てるかを決めることでもある。
AI時代ほど、自律的なDQLが必要になる
AIの進歩によって、技術者の仕事は大きく変わる。
技術調査、資料作成、解析、プログラミング、アイデア生成など、多くの作業が高速化される。
しかし、そこで一つの問題が生まれる。
AIは大量の答えを出してくれる。
では、どの答えを採用するのか。
AIは多数の研究テーマを提案できる。
では、どのテーマに会社の人と金を投入するのか。
AIはFMEAの初稿も作れる。
では、どのリスクを本当に重要だと判断するのか。
この意思決定をする人間が必要である。
AI時代に価値が上がるのは、単に知識を持つ人ではない。
問いをつくり、AIや専門家を使い、最後に自ら判断できる人である。
DQLは、その役割を担う。
QFDやFMEAは「DQLになるための資格」ではない
本連載では、QFD、FMEA、実験計画法、統計解析、品質工学などにも触れてきた。
これらは重要である。
しかし、これらを使える人がDQLなのではない。
DQLが必要に応じて使う武器なのである。
顧客価値を技術へ展開したいときはQFDを使う。
重大な技術リスクを整理したいときはFMEAを使う。
少ない実験で技術仮説を確認したいときはDOEや統計を使う。
市場条件の変化に強い製品をつくりたいときはロバスト設計の考え方を使う。
AIも同じである。
重要なのは、手法をいくつ知っているかではない。
今の問題を解くために、どの方法を使うべきかを自分で選べることである。
DQLは方法論の収集家ではなく、意思決定者なのである。
では、DQLはどうすれば育つのか
ここまでDQLに多くの能力を求めてきた。
顧客を理解する。
技術を理解する。
市場を見る。
事業性を考える。
研究開発投資を判断する。
専門家をまとめる。
AIを使う。
必要な方法論を選ぶ。
こう並べると、「そんな万能人材を育てるのは無理ではないか」と感じるかもしれない。
確かに、座学だけでこれらをすべて教えることは難しい。
だからこそ、DQL育成では知識教育だけでは足りない。
実際の課題を使って考えさせる必要がある。
顧客要求を分析する。
研究テーマを評価する。
複数の技術方式から一つを選ぶ。
実験計画を作る。
リスクを考える。
事業性を計算する。
そして、自分の判断を他者へ説明する。
こうした経験を繰り返すことによって、知識が「判断力」へ変わっていく。
DQL育成では、「答えを教える」より「自分で決める」経験を増やす
従来型の企業研修では、正解を教えることが中心になりやすい。
FMEAはこう作る。
QFDはこう展開する。
統計解析ではこの式を使う。
もちろん基礎知識として必要である。
しかし、自律的なDQLを育てるなら、それだけでは足りない。
たとえば、
「三つの研究テーマのうち、来年度どれに5000万円を投資するか」。
「性能を上げる案と原価を下げる案のどちらを選ぶか」。
「追加実験をするか、テーマを撤退するか」。
こうした問いには、唯一の正解がない。
顧客、技術、市場、投資、リスクなどを総合して判断する必要がある。
そして、自分がなぜその判断をしたのかを説明する。
これがDQLの訓練になる。
料理学校でレシピを暗記するだけでは料理人になれないのと同じである。
実際の食材を見て、その日の客や予算を考え、自分で料理を組み立てる経験が必要になる。
「自律」とは、一人で全部やることではない
DQLの自律性についても、誤解しないほうがよい。
自律した人材とは、上司に相談しない人ではない。
一人ですべて解決する人でもない。
必要な専門家へ相談する。
AIを使う。
営業に聞く。
顧客の現場へ行く。
品質部門にも意見を聞く。
そのうえで、他人に判断を丸投げしない。
自分で仮説を持ち、必要な情報を集め、最後は自分の言葉で判断する。
これが自律である。
DQLは孤独な天才ではない。
人や技術や情報を使いながら、自分で方向を決められる人なのである。
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