2026/10/25

【新規連載】品質を守るだけでは会社は勝てない ― 自律するDQLの仕事㉙

 「T型人材」だけではなく、「往復できる人材」を育てる

人材育成では、T型人材という言葉がよく使われる。

一つの専門性を深く持ち、そのうえで幅広い知識も持つ人材である。

この考え方はDQLにも近い。

ただし、DQLに必要なのは、単に知識の幅が広いことではない。

専門領域と事業領域を行き来できることが重要である。

顧客の困りごとを聞く。

それを技術課題へ変換する。

専門家と議論する。

技術成果を顧客価値へ戻す。

さらに、顧客価値を利益や投資判断へ翻訳する。

この往復ができる人材こそ、DQLである。

だからDQL育成では、「技術+ビジネス」の座学だけでは足りない。

実際に複数の世界を行き来する経験が必要になる。

 

簡単な事例――材料技術がサービス事業に変わるまで

ある部品メーカーが、長寿命の摺動材料を開発したとする。

研究者は「従来材より寿命が2倍になった」と成果を報告した。

従来型の考え方なら、この材料を使った新製品を売ることで終わる。

しかしDQLが顧客の現場を調べると、部品寿命そのものより、「いつ交換すべきか分からないため、早めに交換している」ことが大きな損失だと分かった。

そこで、新材料と摩耗センサーを組み合わせ、交換時期を予測する仕組みを考える。

さらにデータをクラウドへ送り、保守時期を通知するサービスにする。

この瞬間、材料技術は単なる高耐久部品ではなく、予知保全サービスの一部になる。

材料技術者だけでは、ここまで発想が広がらなかったかもしれない。

逆にIT人材だけでも、長寿命材料という技術シーズには気づかなかっただろう。

複数の専門知識が交差したところで、新しい事業が生まれる。

 

「専門家の最適化」が、全体最適を壊すことがある

専門家は、自分の担当領域をより良くしようとする。

これは当然である。

しかし、局所的な最適化が製品全体では不利益になることがある。

たとえば機械設計者が安全率を高めるために構造を厚くしたとする。

強度は上がる。

しかし重量が増える。

重量が増えるとモーターが大型化する。

モーターが大きくなると消費電力が増え、筐体も大きくなる。

結果として製品価格が上がり、顧客の設置スペースにも入らなくなった。

機械設計単体では良い判断でも、製品全体では悪い判断になることがある。

DQLは、「この部品は最適か」ではなく、

「このプロダクト全体として、顧客価値と利益が最大化されているか」

を見る必要がある。

これは、設計品質という考え方を、部品や機能の品質から事業全体の品質へ広げることでもある。

 

専門家の評価制度も変えなければならない

企業が異分野連携を求めても、評価制度が個人の専門成果だけを見ていれば、行動は変わりにくい。

たとえば材料技術者の評価が、

「新材料を何件開発したか」

「特許を何件出したか」

だけで決まるとする。

すると、他部門の課題解決に時間を使うより、自分の材料研究を進めるほうが合理的になる。

ソフトウェア技術者も同じである。

アルゴリズム性能だけで評価されるなら、顧客現場へ行く時間は「本来業務ではない」と考えるようになるかもしれない。

DQL型人材を増やしたいなら、

「他分野をつないでどれだけ価値を生んだか」

「研究成果をどれだけ事業へつないだか」

という評価も必要になる。

組織は、評価するものを増やす傾向がある。

だから人材育成と評価制度は切り離せない。

 

DQLを育てるには、「越境経験」が必要である

DQL育成で特に有効なのが、異なる領域を経験させることである。

研究者に顧客訪問を経験させる。

設計者を製造現場へ出す。

品質担当者を商品企画へ参加させる。

若手技術者に事業性評価をさせる。

こうした経験を通じて、自分の専門領域だけでは見えない世界が見えてくる。

たとえば設計者が顧客の保守現場に一週間同行しただけで、それまで重要だと思っていた性能よりも、部品交換のしやすさのほうが価値が高いと気づくことがある。

これは研修資料を読むだけでは得にくい学びである。

人材を育てるには、知識を与えるだけでなく、

視点が変わる場所へ連れていくこと

が必要なのである。

 

ローテーションは「異動」ではなく「学習設計」として行う

日本企業には昔から人事ローテーションがある。

しかし、単に数年ごとに部署を移すだけでは、DQL育成にはならない。

重要なのは、その異動によって何を学ばせるかを明確にすることである。

たとえば研究部門で技術仮説を学んだ人を、次に商品企画へ移す。

そこで顧客価値と市場性を学ぶ。

その後、製品開発リーダーとして、研究と市場をつなぐ役割を経験させる。

このように経験を積ませれば、一つひとつの異動に意味が生まれる。

逆に、目的のないローテーションでは、専門性が途切れただけで終わる可能性もある。

DQL育成では、人事異動を「配置」ではなく、

能力をつくるための学習設計

として考える必要がある。


※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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