2026/10/06

【新規連載】品質を守るだけでは会社は勝てない ― 自律するDQLの仕事⑯

 第6章 「成功確率」ではなく「期待値」でテーマを選べ

― 当たりやすい研究開発ばかりでは、会社は大きくならない

 

成功率の高いテーマは、本当に良いテーマなのか

研究開発テーマを評価するとき、企業ではよく「成功可能性」が重視される。

技術的に実現できそうか。予定期間内に完成できそうか。顧客に採用されそうか。量産まで持っていけそうか。

これらはもちろん重要である。

しかし、成功可能性が高いという理由だけでテーマを選んでいくと、研究開発は次第に保守的になる。

既存製品の小改良。

既存顧客向けの機能追加。

すでに社内で実績のある技術の横展開。

こうしたテーマは成功しやすい。

一方で、新しい市場、新しい技術、新しいビジネスモデルには不確実性がある。

当然、成功確率は低くなる。

もし研究開発の評価制度が「成功率」を重視しすぎれば、担当者は合理的に安全なテーマを選ぶようになる。

誰だって、評価を下げたくはないからである。

その結果、会社全体では「失敗しない研究開発」が増える。

しかし、会社の成長につながる研究開発まで減ってしまう。

ここに大きな問題がある。

研究開発では、

成功確率が高いテーマと、価値の高いテーマは同じではない。

 

9割成功するテーマより、3割成功するテーマのほうが価値があることもある

単純な例で考えてみよう。

Aという研究テーマがある。

成功確率は90%である。

成功すれば1000万円の利益が期待できる。

もう一つ、Bというテーマがある。

成功確率は30%しかない。

しかし、成功すれば1億円の利益が期待できる。

単純化して期待値だけを見ると、Aは、

90% × 1000万円 = 900万円

である。

一方Bは、

30% × 1億円 = 3000万円

となる。

もちろん実際の研究開発では、投資額、失敗時の損失、開発期間、資金制約なども考えなければならない。

しかし、この例が示していることは重要である。

当たりやすいテーマが、必ずしも儲かるテーマではない。

会社がAのようなテーマだけを選び続ければ、研究開発の成功率は高くなるかもしれない。

しかし、大きな成長機会を逃している可能性もある。

 

「失敗しないこと」が目標になると、テーマは小さくなる

研究開発組織には、しばしば評価指標の副作用がある。

たとえば、

「研究テーマの製品化率を80%以上にする」

という目標を設定したとしよう。

一見すると良い目標に見える。

しかし担当者の立場から考えるとどうなるだろうか。

成功率が低い革新的なテーマを選べば、自分たちの製品化率を下げる可能性がある。

逆に、少し改良すれば確実に製品になるテーマを選べば数字は良くなる。

すると、組織全体が徐々に「確実にできるもの」を選ぶようになる。

これは学校のテストで考えると分かりやすい。

「正答率を上げること」が目的なら、難しい問題には挑戦しないほうがよい。

簡単な問題だけ解けば、正答率は高くなる。

しかし、それで学力が高まるとは限らない。

研究開発でも同じである。

成功率という指標だけを上げようとすると、研究開発の難易度そのものを下げる誘惑が生まれる。

本当に見るべきなのは、

成功したテーマの数ではなく、研究開発全体としてどれだけ企業価値を生み出したか

である。

 

期待値は「成功したとき」だけで決まらない

ただし、期待値を単純に「成功確率 × 成功時の利益」とだけ考えるのも不十分である。

失敗したときに何を失うかも重要だからだ。

たとえば二つの新規事業を考えてみよう。

Cテーマは成功確率40%、成功した場合の利益は5億円。

しかし、量産設備を先に建設する必要があり、失敗した場合には3億円の損失が残る。

Dテーマも成功確率40%で、成功時の利益は5億円。

ただし最初はソフトウェア開発と小規模実証だけで進めることができ、失敗時の損失は3000万円で済む。

成功確率と成功時の利益は同じである。

しかし企業にとっては、Dのほうがはるかに扱いやすい。

なぜなら失敗時の傷が浅いからである。

前回まで述べてきた「小さく賭ける」ことの意味が、ここにつながる。

研究開発の期待値を高める方法は、成功確率を上げることだけではない。

失敗時の損失を小さくすることでも高められる。

この視点は非常に重要である。

 

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