AIはDQLの「思考速度」を上げる
AIをうまく使えるDQL(設計品質リーダー)は、一人で考えるよりもはるかに広い範囲を探索できる。
顧客課題の仮説を出す。
技術方式を比較する。
リスクを洗い出す。
簡単な事業性計算をする。
会議前に論点を整理する。
こうした作業をAIと対話しながら進めれば、思考の回転数を上げることができる。
たとえるなら、AIは非常に優秀な壁打ち相手である。
疲れない。
何度でも別案を出す。
異なる立場から反論もできる。
ただし、どこへボールを打つかを決めるのは人間である。
DQLはAIを「代わりに考えてくれる機械」として使うのではなく、
自分の思考を広げ、深め、速くする相棒
として使うべきである。
AIによって「経験の差」は縮まるが、「判断の差」は残る
新人技術者とベテラン技術者の差の一つは、知識と経験の蓄積にある。
ベテランは過去の失敗を知っている。
どこを確認すべきか分かっている。
類似事例を思い出すことができる。
AIによって、この差の一部は縮まる可能性がある。
若手でも、過去資料や技術情報へ迅速にアクセスできるからである。
しかし、情報を見たあとにどう判断するかという差は残る。
「このデータは怪しい」。
「この条件では再現しない可能性がある」。
「この顧客の要求は表面的で、本当の問題は別にある」。
こうした判断は、単なる知識の検索とは違う。
経験によって形成された仮説形成力や直感も含まれる。
DQL育成では、AIを使わせるだけでは不十分である。
AIが出した情報を材料に、自分で意思決定する経験を積ませる必要がある。
これからの技術者教育は「正解を教える」だけでは足りない
AI時代になると、教育のあり方も変える必要がある。
これまでの技術教育では、正しい方法を教えることが中心だった。
この場合はこの公式を使う。
この不具合にはこの分析をする。
この設計ではこの規格を守る。
もちろん基礎知識として必要である。
しかし、DQLを育てるなら、それだけでは足りない。
正解が決まっていない問題を扱わせる必要がある。
たとえば、
「三つの研究テーマのうち、どれに投資するか」。
「顧客要求のどこまでを製品仕様に入れるか」。
「追加実験に1000万円使うか、撤退するか」。
こうした問いには、唯一の正解がない。
技術、市場、顧客、リスク、資金を総合して判断する必要がある。
AI時代のDQL育成では、このような曖昧な状況で意思決定する訓練がますます重要になる。
AIを使える人ではなく、「AIに何をさせるか決められる人」を育てる
企業では今後、「AI人材を育成する」という言葉がますます増えるだろう。
しかし、AIツールの操作方法だけを教えても、競争優位にはなりにくい。
同じツールは競合企業も使えるからである。
本当に差がつくのは、
どの顧客課題にAIを使うのか。
どの業務を自動化するのか。
どの判断は人間に残すのか。
どのデータを集めるのか。
AIによって生まれた時間を何に使うのか。
という設計である。
つまり、企業が必要とするのは、
「AIを使える人」
だけではなく、
「AIを何のために使うかを決められる人」
である。
DQLは、まさにその役割を担うことができる。
AI時代ほど、「自分で考える人」の価値が高くなる
AIが高度になると、人間は考えなくてもよくなるように見える。
しかし実際には逆だと思う。
答えを出すことが簡単になるほど、どの答えを採用するかを判断する責任は大きくなる。
候補案が10個から100個に増えれば、選択の重要性も増える。
分析が高速になれば、間違った方向へ進む速度も速くなる。
だからこそ、
何を問題と考えるのか。
何を重要と判断するのか。
どこに資源を投じるのか。
どの時点でやめるのか。
こうした意思決定を自分で行える人材が必要になる。
DQLは、AIに仕事を奪われないための人材ではない。
むしろ、
AIによって拡張された研究開発を、どこへ向けるかを決める人材
なのである。
DQLは「答えを持つ人」から「問いをつくる人」へ
これまでの技術リーダーには、「詳しい人」であることが期待された。
部下が質問すれば答えられる。
トラブルが起きれば解決策を知っている。
専門家として頼られる。
これからも、その価値がなくなるわけではない。
しかしDQLには、さらに上の役割が求められる。
顧客がまだ言葉にできていない問題を見つける。
事業の将来を左右する不確実性を見つける。
AIや専門家に何を調べさせるかを決める。
そして、得られた情報をもとに次の問いをつくる。
つまりDQLは、
「答えを知っている人」から「価値のある問いを生み出せる人」へ
進化する必要がある。
AI時代に企業競争力を決めるのは、答えを出す速度だけではない。
どの問いを選ぶかである。
そして、その問いに会社の人、金、時間を賭けることができる人材がいるかどうかである。
ここまで来ると、DQLは単なる技術の専門家ではなく、かなり経営に近い存在になってくる。
では、そうした人材をどう育てればよいのだろうか。
一つの専門領域を深く学ばせれば十分なのか。
それとも、複数領域を横断させるべきなのか。
次回は、人材育成そのものをもう一段深く考えたい。
第10章は、「専門家を育てるだけではイノベーションは起きない」である。
※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。
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