2026/11/07

【新規連載】自律型「設計品質リーダー(DQL)」が拓く製造業の未来⑤

 第3章 「権限がないからできない」は、なぜ企業を弱くするのか

― 組織の壁を越え、仕事を動かす自律型リーダー ―


技術的な問題がわかっていても、なぜ解決できないのか

「それは設計部門の仕事です」「製造側の問題なので、こちらでは対応できません」「私には権限がありませんので、上司に判断してもらわないと……」

製造業の技術部門では、このような言葉を耳にすることが少なくない。

企業には設計、製造、生産技術、品質保証、営業など、さまざまな部門がある。それぞれに責任者が置かれ、業務分掌や決裁権限が定められている。組織が大きくなれば、こうした役割分担が必要になることは当然である。

しかし、実際の技術的な問題は、必ずしも組織の境界に沿って発生するわけではない。

例えば、製品の騒音が大きいという問題一つをとっても、原因は設計、加工、組立、材料、使用条件など、さまざまなところに存在する可能性がある。しかも、それらの要因が複雑に関係していることも珍しくない。

ところが、企業の組織はそうなっていない。設計上の問題は設計部門、加工上の問題は製造部門、検査上の問題は品質保証部門というように、仕事が細かく区分されている。

この結果、問題が発生すると、まず「どこの部門の責任なのか」という議論が始まる。

各部門の担当者は、自分たちの仕事に問題がなかったことを説明し、責任の所在を明らかにしようとする。しかし、それぞれが正しい説明をしていたとしても、製品全体としての問題が解決するとは限らない。

各部門が自分の仕事を正しく行っていることと、企業全体として正しい成果を生み出していることは、同じではないのである。

私は、こうした組織の壁こそ、技術的な成果が経営成果につながらない大きな原因の一つだと考えている。

 

事例:歯車メーカーで起こった部門間の対立

前回紹介した、産業用減速機向けの精密歯車メーカーを例に考えてみよう。

このメーカーでは、取引先の減速機において噛み合い騒音が大きく、完成検査での不合格率が8%に達していた。

そこで、歯車メーカーの技術部門は、不合格率を6か月以内に2%以下へ低減するという目標を掲げた。

ところが、改善活動を進めるうちに、社内の各部門で意見の対立が起こった。

設計部門は、歯形や歯すじの修整によって騒音を低減できる可能性を指摘した。しかし、製造部門は「現在の設備では、新しい歯面形状を安定して加工することが難しい」と主張する。

一方、製造部門では熱処理後の歯車の変形にばらつきがあることを問題視していたが、設計部門は「図面で規定した公差は十分に満たしている」と説明する。

品質保証部門は、「検査結果から見れば歯車単体の品質には問題がない。減速機側の組付け精度に原因があるのではないか」と考えていた。

さらに営業部門は、「顧客からは早急な対応を求められている。これ以上の改善遅れは、次期製品の受注にも影響する」と訴えている。

どの部門の説明にも、それなりの根拠がある。

しかし、その間にも騒音不良は発生し続けている。取引先では再調整や再検査が必要になり、顧客の生産効率は低下したままである。

こうした状況は、決して珍しいものではない。

問題の原因について会議を重ね、議事録を作成し、担当部門を決める。しかし、関係者がそれぞれの立場から主張を繰り返すばかりで、具体的な解決策がなかなか実行されない。

そして、いつの間にか「問題を解決すること」よりも、「自分たちの責任ではないことを証明すること」に多くの時間が使われるようになる。

これは、経営にとって非常に大きな損失である。

 

「誰の責任か」よりも「どうすれば解決できるか」

では、設計品質リーダー(DQL)は、このような状況に対してどのように行動するのだろうか。

まず、問題を特定部門の責任として捉えるのではなく、「顧客の減速機における騒音不良を2%以下に低減する」という共通の成果目標に立ち返る。

そのためには、設計、製造、品質保証のどの部門が原因を持っているかという議論をいったん脇に置き、実際の騒音発生メカニズムを明らかにする必要がある。

例えば、歯車単体の寸法測定結果、歯面形状、熱処理後の変形量、加工条件などの情報を集める。

さらに、取引先の減速機メーカーとも協力し、組付け状態や負荷条件、回転速度、騒音の周波数成分などを調査する。

このような活動を進めれば、設計、製造、品質保証、さらには顧客側の技術部門まで、複数の組織が関係することになる。

ここでDQLが発揮すべき能力は、単に技術的な知識を提供することではない。

誰からどのような情報を得る必要があるのか。どの部門に何を依頼するのか。どのような順番で調査や実験を実施すれば、限られた時間の中で効率的に原因を絞り込めるのか。

こうした具体的な実行計画を考え、関係者を動かすことである。

例えば、最初の1か月で歯車単体の測定値と減速機の騒音データとの関係を明らかにする。続く2か月で、噛み合い伝達誤差や歯面修整量の影響を調査する。その結果をもとに、設計変更や製造条件の改善を検討する。

これらの活動を各部門に個別に任せるのではなく、共通の成果目標と実行計画の下で進める。

ただし、どの部門が何を実施するかという役割と責任は明確にする必要がある。組織の壁を越えることは、責任の所在を曖昧にすることではない。

重要なのは、部門ごとの仕事を寄せ集めるのではなく、一つの成果を実現するために各部門の仕事を組み立てることなのである。

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