7/1(金)~7/2(土)にかけて、関西品質工学研究会の年1回のイベント、合宿研究会が神戸市の「しあわせの村」で開催されました。田口伸先生(ASIコンサルティンググループ)をお招きしての、あいかわらずの大激論でした。さて、初日のグループディスカッションの中で以下のようなご質問が出ました。品質工学ではこのような禅問答のようなことで、初学者の方を遠回りさせてしましますので、ここで解説しておきたいと思います。
質問
「品質工学ではメカニズムは考えない、原因を探さがしてはいけない、というがどういう意味なのでしょうか。私はコンピュータシミュレーションモデルで設計を行っているので、メカニズムがわからなければモデルさえ作れないのですが。」
答え
まず「メカニズムを考えない」の部分ですが、もちろん、評価や改善のモデルを作ったり、システムの改善のアイデア(制御因子)を考えるときには、メカニズムが分かっていたほうが有利です(まったくの新システムではブラックボックスで進める方法もありますが、メカニズムに何もアテがないことは少ないはずです)。
メカニズムを考えないのは、品質工学の機能性評価(機能の安定性の評価)において、お客様の立場(信号とノイズ)で評価するときのことです。お客様は製品のメカニズムは知らなくても製品の機能(働き)はほしいわけですから。
もう1つ、メカニズムの追及という文脈では、平均値が大きくなるか小さくなるかの因果関係を精密に調べることを指しており、これは古典的なQCの統計手法(実験計画法や重回帰分析など)の領域だと言っているのです。科学的な研究の場合はこれが命で、できるだけ誤差やばらつきがないように気をつけて実験するわけです。品質工学ではモデルの精密化を目指すのではなく、逆に絶対値は合わなくても傾向が合う程度の粗いモデルでSN比を使って、相対比較によって安定性の改善ができるとしています(絶対値の合わせこみは後で行います)。
「原因を探すな」というのも、因果関係の探求をするなと同じ意味です。製品の不具合が起こった原因を、統計手法を用いて調べて分かったとしても、従来はその原因をつぶそうとします(温度ばらつきが原因なら、温度を安定にしようとします)。品質工学ではそうしないと言っているのですね。温度のばらつきはそのままで、製品の機能(働き)のばらつきは小さくするような、そんな設計を目指していきましょうということです。うまくいかなかったモデルをノイズ(ばらつきの要因)別に統計手法で分析することは、原因を知り、安定な設計のアイデアを考えるためにはアリです。
技術者は改善のアイデアを考えるときはメカニズムを考え、評価するときはお客様の立場でメカニズムを考えずに行うわけですから、一人二役の場合は頭の切り替えが大変ですね(笑)。
さて、品質工学の言葉の中には、プロパガンダ(気を引くためのフレーズ)としていろんな理解しにくい文言が出てきます(そのような口ぶりで、田口玄一先生のマネをしている人には気を付けましょう。きっと初心者が目を白黒させるのを見て本人は溜飲が下がっているのでしょうから)。
そのような禅問答の答えを自分なりに考え抜いて気が付くことも楽しいのですが、いまや「寿司を握れるようになれるのに10年」という時代ではありません。私はその時間を新しいシステムや制御因子のアイデア、社内推進の工夫のためのアイデア創出、家族や健康のための時間に使ってほしいと考えます。先人が苦労してつかんだ田口先生の真意(仮説)を、後進の方が同じ年数をかけて理解する必要はないのです。
今回執筆した「これでわかった! 超実践 品質工学」では、そのような思いがあります。初心者の方は、本書を読んで最速で中級者になって実践してください。そこからまだまだ、考えたり勉強したりすることがありますので。後発の利を最大限に生かしましょう!人生の時間を大切に!
株式会社ジェダイト(JADEITE:JApan Data Engineering InstituTE)
2 件のコメント:
私のこう理解していました。
パラメータ設計を使って技術目的が達成できたなら、なぜうまく行ったのかを探すのに時間を使うより、その時間を使って次の技術開発をせよ。その方が社会に役立つ。
匿名さん
投稿ありがとうございます。同意いただけて幸いです。
品質工学をプラグマティックに活用したほうが、社会としての成果の量が大きくなると思いますね。
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