2017/03/13

エネルギー比型SN比の解説①

1. はじめに
エネルギー比型SN1)2)、品質工学における新しい評価尺度であり、SN比の比較対象間でデータの数や信号値の大きさが異なる場合でも、公平な比較が可能である。実務者にとって従来のSN比の制約を気にしながら、ケースバイケースで使いこなすのは煩雑であり、また間違いの原因ともなる。本稿では、従来SN比の課題を具体例でひも解きながら、エネルギー比型SN比の数理や利点を解説し、エネルギー比型SN比の計算例とともにその活用成果を示す。

2. 技術評価におけるSN
2.1. 従来のSN
まず品質工学3)におけるSN比を概説する。品質工学がめざす「社会的損失の最小化」や「技術開発の効率化」を実現するためには、設計・開発の初期段階で、対象の機能(技術的な働き)の安定性を効率よく評価することを中心におく(機能性評価)。製品が出荷されたあとの使用段階において、さまざまなお客様の使用条件、環境条件に対して安定な製品を作り、送り出すことで、故障や公害にかかわるコストや損失を最小化する。あわせて、そのような安定な製品は、社内の製造や試験での手戻りも起こりにくく、開発や生産の効率化にも寄与する。
品質工学におけるSN比は、前記の機能の安定性の尺度(ものさし)である。お客様の使用条件・使用環境の組み合わせを模擬した条件(ノイズ因子またはノイズ因子)を印加した場合に、対象の機能の出力がどれくらいばらつくのか、変動するのかの尺度である(図表2.1.1)。
求めるべき誤差(ノイズ因子の影響と偶然誤差)は、出力の大きさに比例すると考えて、標準条件y=βMからのばらつきσ(偏差2乗和)を機能の入出力の傾きβで割った、2.1.1で計算される(※計算は2乗で行われる)。品質工学のSN比は「傾きβ1に校正したときの誤差分散」という当初の計測法の評価思想4)が表われた定義である。

       
  ---------------(2.1.1)



2.1.1の分母はβで基準化(校正)されたばらつき表したもので、機能の安定性の悪さを示している。SN比は良さを表す尺度のため、全体の逆数をとっている。これが品質工学における、動特性(入力と出力がある場合)のSN比の定義である5)。なお、以下のSN比もすべて真数で示すが、計算例では、10logη真数(db) を用いている。





参考文献
1) 鐡見, 太田, 清水, 鶴田:「品質工学で用いるSN比の再検討」, 『品質工学』, 18, 4, (2010), pp80-88 .
2) 鶴田, 太田, 鐡見, 清水:「新SN比の研究(1)(5), 『第16回品質工学研究発表大会論文集』, (2008), pp.410-429.
3) たとえば、田口, 矢野, 品質工学会:『品質工学便覧』, 日刊工業新聞社, (2007)
4) 田口玄一: 22章 計測法のための実験計画とSN比」, 『第3版実験計画法』, (1977), pp.611-618

5) 田口, 横山:『ベーシックオフライン品質工学』, 日本規格協会, (2007), pp.57-71.

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