2024/04/22

【超実践品質工学】品質工学で扱う「品質」とは④

  品質工学で扱う「品質」とは④  (つづき)

 さいごに,グラフの一番下に示した,③の曲線です.お客様はカタログに記載されたとおりの「性能」を期待していますので,新品の段階や,あるいは使用しているうちに性能が低下してきたり,故障して性能や機能が維持できなくなったりすると,クレームになります.通常私たちが製品を使う際は,期待した期間(たとえば家電製品なら7~15年くらい)は新品の時に備わっていた性能は維持してほしいと考えます.蛍光灯やランプであれば明るさは変わらないでほしいし(実際は暗くなります),パソコンの処理速度は変わらないでほしい(実際はメモリへのアクセスなどが遅くなります)と考えます.また劣化の問題だけでなく,使い方の違いによって性能が変化してほしくないとも考えます.たとえば,自動車のブレーキは晴れの日の乾いた路面でも,雨の日の濡れた路面でも同じように効いてほしいのです(実際は異なります).このように,「新品と同じ性能を維持する」,「どのような条件でも同じ性能を発揮する」というのは,言われてみればそのとおりで,「あたりまえ」と感じます.

 このような品質のことを「あたりまえ品質」といいます(そのままですが,わかりやすいネーミングですね!).変化しない,故障しないで機能するのがあたりまえなのですから,充足度が上がっても(グラフの右側にいくほど故障が少ない),満足度が「あたりまえ」以上になることはありません.逆にそれが達成できなかったとき(グラフの左側)に満足度は大きくマイナスに振れます.その意味では,マイナスしかない品質です.このような種類の品質は,魅力的品質とは逆で,誰もが欲しくないと考えている品質です(お客様によって感じ方の程度は異なります).不具合や変化・変動はゼロが望ましいので,マーケティングや企画は関係なく,純粋に技術的な問題として取り扱います.「信頼性」や「耐久性」や「安定性」に関係する品質です.設計・開発段階での検討がまずいと,このような「あたりまえ品質」が十分でない悪い製品が出荷されてしまい,お客様に迷惑をかけることになります.

 以上3種類の品質について説明しましたが,実は品質工学で扱う品質というのは,主に「あたりまえ品質」の部分です.もちろん,性能抜きにしては製品や技術の評価はありえませんので,「一元的品質」も関係しますが,性能の確保は,品質工学の評価や改善の直接の対象ではないのです.「一元的品質」は,品質工学を適用する前の,機能設計と言われる段階で事前に確保しておくべきことです.要するに,「普通の条件でちゃんと動く」ものを作る段階です.品質工学で扱う「あたりまえ品質」は,そのような「ちゃんと動く」状態が,使用による劣化や使用条件によって左右されないかを扱うので,技術の仕上げのための品質といってもよいでしょう.


図表1.1.3 狩野モデル


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