2026/08/22

【新規連載】100年時代を生き抜く「アンラーン」:DQLコースで未来を再定義⑤

 第5回:アンラーンを加速させる「DQLコース」の設計思想

これまで本連載では、アンラーンが必要とされる背景、成功体験によって形成される「思考のクセ」、それを解きほぐすための実践方法、そして変化を妨げる「七つの壁」について見てきた。

ここまでの内容から分かるように、アンラーンは、本人がその必要性を理解するだけでは十分ではない。「過去の成功に固執しないようにしよう」「柔軟に考えよう」と決意しても、日常業務に戻れば、再び慣れた思考と行動のパターンが働き始める。

だからこそ、アンラーンには、それを継続的に促すための場と仕組みが必要になる。

株式会社ジェダイトが提供する「設計品質リーダー(DQL)育成コース」は、本連載で述べてきたアンラーンの考え方を、設計・開発の実務へ落とし込むためのプログラムである。

DQLコースの目的は、新しい知識や手法を一方的に教え、それまでの知識を新しい知識で「上書き」することではない。受講者が、自分の判断を支えている前提や成功体験を振り返り、現在の環境に適した形へと自らの思考を再定義することにある。

その中心にあるのが、「Re-define(再定義)」という考え方である。



知識の上書きではなく、思考の再定義

一般的な研修では、新しい知識、手法、フレームワークを習得することが重視される。もちろん、DQLコースにおいても、設計品質を高めるための知識や実践的な手法を学ぶ。

しかし、新しい手法を学んだだけで、実務における判断が変わるとは限らない。

例えば、顧客要求を整理する新しい方法を学んでも、「顧客の要望は営業部門が把握しているはずだ」という前提が残っていれば、開発者自身が顧客価値を深く考えるようにはならない。新しい評価手法を学んでも、「過去の製品で問題がなかったから、今回も同じ条件でよい」という考え方が残っていれば、その手法は形式的に使われるだけで終わってしまう。

つまり、知識を追加する前に、その知識を受け入れ、活用する側の思考を点検しなければならないのである。

DQLコースが目指すのは、「従来の考え方は間違っていた」と否定することではない。これまでの方法が、どのような条件のもとで有効だったのかを明らかにし、現在の条件でも有効なのかを問い直すことである。

「この方法が正しい」という完成した答えを、「この条件では、この方法が有効なのではないか」という検証可能な仮説へ戻す。これが、DQLコースにおける思考の再定義である。

あえて「不完全段階」へ戻る

DQLコースの設計思想には、受講者を意図的に「不完全段階」へ導くという考え方がある。

経験を積んだプロフェッショナルは、自分なりの仕事の進め方や判断基準を確立している。それによって、複雑な課題にも素早く対応し、安定した成果を出すことができる。いわば、仕事における一つの「完成形」を築いているのである。

しかし、その完成形が強固であるほど、別の考え方を受け入れる余地は小さくなる。

そこで、いったん完成された答えを開き、「なぜ、この方法を選んでいるのか」「前提となる条件は変わっていないか」「別の方法は本当に成立しないのか」と問い直す。自分の判断に含まれる暗黙の前提を、他者が検討できる形まで言語化する。

この過程では、これまで自信を持っていた答えが揺らぐこともある。自分が十分に理解していると思っていた問題に、説明できない部分が見つかることもある。それは、能力が低下した状態ではない。新しい可能性を取り込むために、完成形を一度開いた状態なのである。

プロフェッショナルとして身につけた鎧を、一時的に脱ぐ。そこで生まれた余白に、新しい知識、異なる視点、他者からの問いを受け入れる。そのうえで、自分の経験を現在の環境に合った形へと組み直していく。

DQLコースにおける「不完全段階」とは、初心者へ戻ることではない。豊富な経験を持ったまま、もう一度学び、選び直せる状態へ戻ることである。

最大の対象は、成功体験を持つリーダー層

アンラーンによる効果を最も大きく得られるのは、皮肉にも、すでに豊富な経験と大きな成功体験を持つリーダー層である。

成功してきたリーダーには、自分の判断を信じるだけの根拠がある。過去の経験によって、多くの問題を解決してきた実績もある。組織の中でも、その人の判断や方法が一つの基準として扱われていることが少なくない。

しかし、環境が大きく変化したとき、その強い成功体験は「成功体験という名の脆弱性」に変わる可能性がある。

リーダーの過去の成功パターンが組織の標準になっていると、本人だけでなく、部下や組織全体も新しい方法を試しにくくなる。「以前、この方法で成功した」という事実が、現在の条件を検討しない理由として使われるからだ。

DQLコースの使命は、リーダーが築いてきた専門性や成功体験を否定することではない。それらを成立条件まで含めて見直し、新しい課題にも使える形へと変換することである。

過去の経験を、守るべき完成品として扱うのではなく、未来のために更新できる資源として扱う。そうすることで、「成功体験という名の脆弱性」は、再び「未来を切り拓く武器」へと変わる。

「人は変われる」を、カリキュラムとして体験する

「人はいつからでも変わることができる」という言葉は、理念としては多くの人が理解している。しかし、長年かけて形成された思考や行動のパターンを、本人の決意だけで変えることは難しい。

必要なのは、過去の前提に気づき、他者の視点を受け入れ、新しい考え方を試し、その結果を振り返る一連のプロセスである。そして、その経験を一度きりで終わらせず、実務の中で繰り返せる形にすることである。

DQLコースは、「人は変われる」という信念を、抽象的な理想ではなく、受講者自身が実感できる学習プロセスとして設計する。

受講者が得るべきものは、研修で学んだ知識の量だけではない。自分の思考を点検し、必要に応じて解きほぐし、別の形へ組み直せる能力である。この能力が身につけば、研修で扱わなかった未知の課題に直面したときにも、自ら学び、変化し続けることができる。

DQLとは、完成された答えを持つリーダーではない。環境の変化に応じて、自分と組織の答えを何度でも問い直せるリーダーなのである。

次回の最終回では、DQLコースが受講者をどのような段階を通じて変容へ導くのか、その具体的なステップと、受講後に開かれる新たな可能性について詳しく見ていく。

※参考文献:Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」_柳川 範之_為末 大_日経BP

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