第1章 なぜ今、新規研究開発テーマなのか
1-1. 新規研究開発テーマを取り巻く問題
PLC、産業用コントローラ、センサー、サーボ、HMI――。FA機器の世界では、これまで「より速く」「より正確に」「より小さく」「より高機能に」という方向で、着実な技術進化が続いてきました。
もちろん、こうした性能向上が不要になったわけではありません。しかし、新規研究開発テーマを考えるという観点では、少し事情が変わってきています。
たとえばPLCであれば、演算速度やI/O点数を向上させる。センサーであれば、精度、応答速度、耐環境性を高める。サーボであれば、高速・高精度な位置決めを可能にする。従来であれば、こうした性能改善そのものが、比較的わかりやすい商品価値になりました。
ところが現在、多くのFA機器はすでにかなり高い水準に達しています。
性能を10%上げたからといって、顧客が10%高く買ってくれるとは限りません。新機能を追加しても、顧客から「それでうちの工場は何が良くなるのか」と聞かれれば、説明に窮することもあります。
ここに、新規研究開発テーマを考える難しさがあります。
顧客が欲しいのは「機器」ではない
製造現場の顧客が本当に欲しいものを考えてみると、PLCやセンサーそのものではありません。
「設備を止めたくない」
「不良を減らしたい」
「熟練者が減っても生産を維持したい」
「段取り替えを短くしたい」
「電力使用量を減らしたい」
といった成果です。
つまり顧客が求めているものは、生産性、品質、稼働率、省人化、省エネルギーといった経営・現場上の価値です。
そう考えると、新規研究開発テーマの発想も変わってきます。
「次世代の高精度センサーを開発する」ではなく、
「設備異常を従来より早く発見し、突発停止を半減させるためには何が必要か」
と考える。
すると必要になるのは、センサーだけとは限りません。エッジ側での信号処理、異常判定アルゴリズム、ネットワーク、データ蓄積、HMIでの表示、さらに保全サービスまで含めた仕組みになるかもしれません。
研究開発テーマの単位そのものが、「製品」から「顧客課題」へ変わりつつあるわけです。
ハードウェアの先に事業がある
もう一つ重要なのが、売切り型ビジネスからの変化です。
FA機器メーカーにとって、ハードウェアは今後も重要な収益源でしょう。ただし、ハードウェアを販売して終わり、というモデルだけでは成長余地が限られてきます。
設備データを継続的に収集し、状態を診断する。
異常兆候を知らせる。
運転条件の改善を提案する。
複数設備のデータから工場全体を最適化する。
こうした領域では、ソフトウェア、AI、クラウド、エッジコンピューティング、保全サービスなどが組み合わされます。
ここで注意したいのは、
「AIを使うこと」や「クラウドにつなぐこと」自体を研究開発テーマにしない
ことです。
AIもクラウドも手段にすぎません。
「AIを使って何かできないか」と技術起点だけで考えると、面白いデモはできても事業にならない、ということがよく起こります。
逆に、
「顧客のどの問題を解決するのか」
「その問題にはどれくらいの経済価値があるのか」
「自社の技術を使う必然性はあるのか」
「継続的に収益を得られる仕組みにできるのか」
まで考えると、研究テーマと事業テーマがつながってきます。
問題は「技術がない」ことではない
多くのFA機器メーカーを見ていると、研究開発の悩みは、必ずしも技術力不足ではありません。
むしろ逆です。
制御技術もある。
センシング技術もある。
通信技術もある。
モーター技術もある。
ソフトウェア技術者もいる。
それなのに「次に何をやるべきか」が決まらない。
これは、技術を生み出す力と、技術を顧客価値に変換する力は別物だからです。
さらに言えば、
技術 → 顧客価値 → 製品・サービス → 事業
という一連の変換を行う仕組みが社内に必要になります。
新規研究開発テーマの探索とは、単なるアイデア出しではありません。「将来使えそうな技術」を集めることでもありません。
自社が持つ技術と、これから起こる市場・顧客の変化を結びつけ、そこから将来の事業につながるテーマを選び出す活動です。
では、その「これから起こる変化」とは何でしょうか。
人手不足、熟練者減少、AIの普及、設備のデータ化、省エネルギー要求、サイバーセキュリティ、工場の自律化――。
次回は、「1-2.製造業を取り巻く変化」として、FA機器メーカーが新規研究開発テーマを考えるうえで押さえておくべき外部環境の変化を整理します。
※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。
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