2026/08/27

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)③

 2.デジタルFA企業の技術資産を再定義する

2-1.保有しているのは「FA機器」だけではない

新規研究開発テーマを考えるとき、多くの企業が最初にやるのは「自社には何があるか」の棚卸しです。

ところが、この棚卸しには一つ落とし穴があります。

PLCメーカーならPLC、センサーメーカーならセンサー、サーボメーカーならサーボ、といった具合に、現在販売している製品の名前で自社の強みを整理してしまうことです。

これでは、これまでの延長線上のテーマしか出てきません。

たとえば「次世代PLC」を考えれば、演算速度を上げる、I/Oを増やす、小型化する、通信機能を強化するといった発想になりやすい。もちろん、それ自体が悪いわけではありません。しかし、新しい事業領域を探索するのであれば、もう一段深く掘る必要があります。

見るべきなのは製品ではなく、その製品を成立させている技術資産です。



PLCの本当の資産は「箱」ではない

PLCを例に考えてみます。

顧客が購入しているものはPLCという機器ですが、その背後には、リアルタイム制御、シーケンス処理、安全制御、決定論的な演算処理など、多くの技術があります。

さらに言えば、

「決められた時間内に必ず処理を終わらせる」
「異常時にも安全側へ移行する」
「長期間安定して動作する」

といった設計思想やノウハウも蓄積されています。

これらはPLC以外にも使える技術です。

自律搬送機器、ロボット、分散制御システム、エッジコンピューティングなど、新しい製品やサービスに展開できる可能性があります。

センサー企業は「計測技術」を持っている

センサーについても同様です。

製品として見れば、温度センサー、圧力センサー、流量計、変位計、振動センサーなどに分かれます。

しかし技術資産として見れば、

物理量を電気信号へ変換する技術、校正技術、温度補償、ノイズ除去、微小信号処理、異常値判定などが存在します。

つまり、「振動センサーを作れる会社」というより、

ノイズの多い現場から意味のある微小変化を取り出せる会社

と捉えたほうが、技術の応用範囲は広がります。

この言い換えは、新規テーマ探索では意外に重要です。

サーボやHMIにも別の顔がある

サーボモーターやインバータの背後には、モーターそのものだけでなく、電力変換、位置制御、速度制御、トルク制御などの技術があります。

これらを「モーターを動かす技術」とだけ考えるのか、「機械の動きを精密に作り出す技術」と考えるのかで、発想できるテーマは変わります。

HMIも同じです。

表示器を作っている、と考えるだけでは十分ではありません。

実際には、

「設備の状態を人に伝える」
「異常を見逃させない」
「操作ミスを防ぐ」
「複雑な情報から必要な情報だけを提示する」

という技術を持っています。

これは表示技術というより、人と設備のインターフェース設計技術です。

熟練者不足が進む工場では、この技術の価値はむしろ高まる可能性があります。

ネットワーク企業が持っているのは通信だけではない

産業用ネットワークについても、「データを送る技術」とだけ見ると狭すぎます。

機器同士を確実につなぐ。
異なる装置間で時刻を合わせる。
大量のデータを決められた時間内に届ける。
異なるメーカーの機器間で意味を共有する。

この背景には、通信技術だけでなく、時刻同期、機器接続、データモデル、相互運用性に関するノウハウがあります。

工場がデータ中心のシステムへ移行するほど、この資産は重要になります。

「保守サービス」も立派な技術資産である

さらに見落とされやすいのが、保守部門です。

研究開発部門から見ると、保守は製品販売後の業務と考えられがちです。

しかし保守部門には、

どの設備が、どこで、どのように使われているか。
何年目にどんな故障が起きやすいか。
顧客がどんな使い方をしているか。
現場では何に困っているか。

という情報が蓄積されています。

これは、予知保全サービスや設備診断、新しいセンサー、新しい制御機能を考えるうえで非常に価値の高い資産です。

技術研究所にはない情報を、サービス担当者が持っていることも珍しくありません。

製品名を外して考えてみる

そこで自社技術を棚卸しするときには、一度、製品名を消してみることをおすすめします。

たとえば次のように整理します。


こうしてみると、自社が持っているものは「PLC」「センサー」「HMI」という製品群だけではないことが分かります。

むしろ、それらの製品を長年作り続けるなかで蓄積した、制御する、測る、動かす、つなぐ、見せる、診断するといった能力こそが、新規研究開発の材料になります。

新規テーマを考える際には、「今ある製品の次」を考えるだけでは不十分です。

今ある製品を一度分解し、その奥にある技術を取り出して、別の用途と組み合わせ直す。

ここから、従来の製品分類では見えなかったテーマが出てきます。

もっとも、技術資産は技術部門の中にだけあるわけではありません。長年蓄積された設備データ、故障履歴、顧客との接点、さらには「この業界では当たり前」と思っている現場知識の中にも、他社が簡単には手に入れられないものがあります。

次回は、**2-2.見落とされやすい戦略資産」**として、技術一覧表には載りにくいものの、新規事業を考えるうえで大きな武器になる資産について考えていきます。

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