2026/08/25

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)②

 1-2.製造業を取り巻く変化

新規研究開発テーマを考えるとき、まず押さえておきたいのは「技術の進歩」よりも「顧客の工場がどう変わっているか」です。

FA機器メーカーにいると、どうしても新しい通信方式、新しいセンサー、AI、新しい制御技術といったものに目が向きます。しかし、顧客が新しい技術を採用するのは、その技術自体が面白いからではありません。

工場が抱えている問題が変わるから、必要な技術も変わるのです。

その意味で、現在の製造業にはいくつかの大きな変化が同時に起きています。

人が足りない。それ以上に「分かる人」が減っている

もっとも分かりやすい変化は、人手不足です。

ただし製造現場で深刻なのは、単純な人数の不足だけではありません。

設備の音を聞けば異常が分かる。
加工状態を見て条件を微調整できる。
停止した設備を短時間で復旧できる。

こうした熟練者が減っています。

これまで人の経験で補っていたものを、センシング、データ解析、制御、ナビゲーションなどによって支援する必要が出てきました。

設備監視や予知保全が注目される理由もここにあります。

ただし、「振動センサーを付けてAIで異常診断する」と考えただけではテーマとしてはまだ浅い。

本当に問うべきなのは、

熟練者が行っていたどの判断を、どこまで機械やソフトウェアで支援できるか

ということです。

ここまで掘り下げると、研究テーマの姿がかなり変わってきます。

多品種少量化は「止まらない工場」を難しくする

もう一つの変化が、多品種少量生産です。

同じものを長時間作り続ける工場であれば、一度条件を決めれば比較的安定して運転できます。しかし品種が増えれば、段取り替え、条件変更、治具交換、プログラム変更などが頻繁になります。

当然、ミスも起こりやすくなります。

ここでは高速なPLCや高精度なサーボだけでなく、

「品種が変わっても短時間で条件を設定できる」
「誤った設定を設備側で検知する」
「過去の良品条件を自動的に参照する」

といった機能が価値を持つようになります。

つまり、機器単体の性能競争から、変化に強い生産システムをどう作るかという競争への移行です。

「何が起きたか」から「なぜ起きたか」へ

工場では、設備停止、品質異常、電力使用量など、多くのデータが取得されるようになりました。

ところが実際には、データを取っただけで終わっているケースも珍しくありません。

「今月の設備稼働率は93%でした」

と表示されても、それだけでは設備は改善しません。

重要なのは、

「残り7%はなぜ止まったのか」
「どの条件のときに品質異常が増えるのか」
「どの設備、どの工程でエネルギーを無駄に使っているのか」

まで分かることです。

今後のFA機器には、単にデータを収集・表示するだけでなく、原因推定や意思決定支援まで踏み込むことが求められるでしょう。

ITOTの境界が薄くなる

従来、工場内の制御系、いわゆるOTOperational Technology)は、企業のITシステムとは比較的独立していました。

しかし現在は、PLCやセンサーのデータを上位システムに送り、SCADA、生産管理、クラウドサービスなどと接続するケースが増えています。

産業用ネットワークについても、特定メーカーの閉じた世界だけでなく、オープン化や相互運用性が重要になっています。

これはFA機器メーカーにとって大きな変化です。

顧客が評価する対象が「その機器が何をできるか」だけではなく、

他の機器やシステムと、どれだけ自然につながるか

に広がるからです。

AIとデジタルツインは「特別な技術」ではなくなる

AIについても同じことが言えます。

異常検知、品質予測、条件最適化、画像検査、需要予測など、製造現場での利用範囲は広がっています。

さらに、実際の設備や生産ラインをデジタル空間に再現するデジタルツインも、シミュレーション、保全、立上げ支援などへの展開が進んでいます。

もっとも、「AI搭載」や「デジタルツイン対応」と書けば商品になる時代が続くとは思えません。

やがてこれらは、通信機能やデータロギングと同じように、当たり前の機能になっていくでしょう。

だからこそ研究開発では、「AIを使うか」ではなく、AIを使うことで顧客の仕事をどう変えるかを考える必要があります。

セキュリティも「あとから付けるもの」ではない

そして見落としてはいけないのが、サイバーセキュリティです。

工場の設備がネットワークにつながり、ITOTの接続が進めば、それだけ攻撃対象も広がります。

経済産業省は202510月、「半導体デバイス工場におけるOTセキュリティガイドライン」を策定しました。同ガイドラインでは、生産目標の維持、機密情報の保護、半導体品質の維持を守るべき対象とし、国際規格との整合も意識した工場セキュリティ対策を示しています。(経済産業省)

ここからFA機器メーカーが読み取るべきことは明快です。

これからのPLC、産業用PC、ネットワーク機器、HMIなどでは、セキュリティは「上位機種だけに付ける便利な機能」ではありません。

設計、製造、導入、アップデート、保守、廃棄までを含めた、製品ライフサイクル全体の基本品質として考える必要があります。




こうして製造業の変化を並べてみると、一つの共通点が見えてきます。

今後求められるのは、単体のFA機器を高性能化することだけではありません。

人の判断を支援する。
設備同士をつなぐ。
現象をデータとして捉える。
将来を予測する。
安全につながり続ける。

こうした機能を組み合わせ、工場全体の価値へ変えていくことです。

そこで次に考えたいのが、FA機器メーカー自身が持っている「技術」の見方です。

PLCメーカーは、本当にPLCという製品しか持っていないのでしょうか。

次回は、「2.デジタルFA企業の技術資産を再定義する 2-1.保有しているのは『FA機器』だけではない」として、自社技術を製品名ではなく「技術資産」として棚卸しする方法を考えていきます。

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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