2-2.見落とされやすい戦略資産
前回は、FA機器メーカーが持っているのはPLCやセンサー、サーボ、HMIといった「製品」だけではなく、その背後にある制御、計測、信号処理、通信などの技術資産である、と書きました。
ただし、自社の強みを考えるときには、もう一段広く見る必要があります。
技術一覧表には載っていないものの、実は他社が簡単にはまねできない資産があるからです。
その代表が、長年の納入実績、設置ベース、現場データ、顧客との接点です。
「何台売ったか」ではなく「何台動いているか」
FA機器メーカーにとって、過去の販売実績は単なる売上の履歴ではありません。
何十年にもわたりPLC、センサー、サーボ、HMIなどを販売してきた企業であれば、全国、場合によっては世界中の工場や装置の中で、自社製品が稼働しています。
この「設置ベース」は大きな資産です。
たとえば、新しい設備診断サービスを考える場合、新規参入のIT企業はまず顧客を探し、対象設備を理解し、データを取得できる状態を作るところから始めなければなりません。
一方、既存のFAメーカーには、すでに顧客があり、設備があり、機器がある。
しかも、その機器がどのような装置に組み込まれ、どのような環境で使われているかという知識まで持っていることがあります。
新規研究開発では、この差をもっと意識してよいでしょう。
故障履歴は「過去のトラブル記録」ではない
修理部門やサービス部門には、膨大な故障情報が蓄積されています。
警報コード、故障部位、使用年数、交換部品、使用環境、再発状況などです。
これらは通常、「品質問題への対応記録」や「修理履歴」として扱われています。
しかし見方を変えれば、これは将来の研究テーマの材料です。
たとえば、
「特定の使用条件で電源部の故障が増える」
「ある警報の数週間後に重大停止が起こりやすい」
「特定の部品交換が繰り返される装置には共通条件がある」
といった傾向が見つかれば、予知保全や寿命予測、異常検知のテーマにつながります。
つまり、過去のクレームや修理履歴は、将来の商品企画に使える学習データでもあるのです。
カタログには書けないノウハウがある
もう一つ重要なのが、顧客装置への組込みノウハウです。
FA機器は、それ単独で使われることはほとんどありません。
実際の現場では、センサー、PLC、サーボ、電源、ネットワーク、機械構造などが組み合わされます。
すると、
「この制御周期では安定するが、これ以上速くすると振動が出る」
「この配線だとノイズを拾いやすい」
「この位置にセンサーを置くと温度影響が大きい」
「この装置では加減速条件をこう設定した方が安定する」
といった、現場固有の知識が蓄積されていきます。
これらは論文や特許にはならないかもしれません。しかし、実際の製造現場で機器を安定して動かすという意味では、非常に価値があります。
むしろ、こうした「細かすぎて文書化されにくい知識」こそ、長年FAに関わってきた企業の強みです。
技術を横断できる人も資産である
新規研究開発を考えるとき、技術資産というと特許や設備、ソフトウェアなどを思い浮かべがちです。
しかし、人も重要な資産です。
とくにFA分野では、
制御だけが分かる。
計測だけが分かる。
モーターだけが分かる。
という人よりも、
制御・計測・駆動・通信を横断して、一つのシステムとして考えられる人
が、新しいテーマを生み出すうえで大きな役割を果たします。
設備の異常を診断しようとすれば、センサーだけでは足りません。機械構造、駆動条件、制御ロジック、データ処理まで見る必要があります。
こうした複数領域をつなげられる人材は、外部から簡単に調達できるものではありません。
顧客との「距離の近さ」も競争力になる
FAメーカーには、代理店、装置メーカー、エンドユーザーの工場など、多層的な顧客接点があります。
営業担当者、サービス担当者、アプリケーションエンジニアなどが日常的に現場へ入り込んでいる企業も多いでしょう。
ここには、Web検索や市場調査だけでは得られない情報があります。
「最近こういう相談が増えた」
「この工程だけ人が集まらない」
「設備停止より復旧作業の方が問題になっている」
「データは取れているが誰も見ていない」
こうした小さな変化は、新しい市場の兆候であることがあります。
研究開発部門が顧客の声を直接聞く機会が少ない企業ほど、この情報を意識的に取り込む仕組みが必要です。
「古い体質」に見えるものが強みになることもある
FA業界では、長期供給、旧製品との互換性、修理対応などが重視されます。
一般のIT製品の感覚から見ると、開発スピードを遅くする制約にも見えます。
しかし工場では、設備を10年、20年と使うことも珍しくありません。
「突然サービスが終了しない」
「旧機種との互換性がある」
「故障しても修理できる」
という安心感そのものが商品価値です。
この信用は、短期間で市場参入した企業には簡単に作れません。
新規事業を考えるときも、既存FAメーカーがIT企業と同じ土俵でソフトウェア機能だけを競う必要はありません。
むしろ、長期間使われる設備を知り、その設備を最後まで支えられることを事業モデルに組み込む方が強い場合があります。
IT企業にはない二つの資産
こうして見ると、FAメーカーには多くの戦略資産があります。
その中でも特に重要なのが、
設置ベース
現場データ
の二つです。
どこに、どの機器が、どんな設備に組み込まれ、どのような条件で使われているか。
そして、その設備でどのような故障、警報、修理、交換が発生してきたか。
これらは、FA機器メーカーが長い年月をかけて蓄積してきたものです。
AIやソフトウェアの技術だけを見れば、新興IT企業の方が強いこともあります。
しかし、AIを本当に製造現場で役立てようとすれば、学習させるデータと、結果を解釈する現場知識が必要です。
そこでFAメーカーの蓄積が効いてきます。
新規研究開発テーマを考えるときには、「自社にどんな新技術があるか」だけを見るのではなく、
他社が欲しくても短期間では手に入らないものは何か
という問いを加えてみるべきでしょう。
そこに、新規参入企業とは違う研究開発テーマの入口があります。
そして次に必要になるのが、その資産を「何に使うか」です。
製品起点で「次のPLC」「次のセンサー」を考えるのではなく、顧客が現場で失っているものからテーマを考える。
次回は、「2-3.製品起点から顧客損失起点へ」として、新規研究開発テーマの出発点をどこに置くべきかを考えていきます。
※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。
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