2026/08/31

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑦

 3-2.テーマの発生源

新規研究開発テーマを探すというと、つい「将来伸びそうな技術」を探したくなります。

AI、ロボット、デジタルツイン、エッジコンピューティング、次世代通信――。もちろん、こうした技術動向を追うことは必要です。

ただ、事業につながるテーマを見つけるという意味では、もっと身近なところに有力な材料があります。

それは、顧客の現場で繰り返し発生している損失や面倒な作業です。

研究テーマの種は、華やかな技術ニュースよりも、むしろ「毎日困っていること」の中に埋まっています。



設備停止だけでなく「少しずつ遅い」も損失

設備停止は分かりやすい損失です。

ただし実際の工場では、完全停止よりも、

「数分止まるチョコ停が多い」
「設備は動いているが速度が落ちている」
「本来のタクトまで上げられない」

といった問題も少なくありません。

こうした損失は、一回あたりでは小さく見えます。

しかし年間で積み上げると大きい。

ここから、異常兆候検出、停止原因の自動分類、サイクルタイム監視、設備能力低下の診断などのテーマが生まれます。

品質問題は「不良品」だけではない

品質についても、不良率だけを見ているとテーマを見逃します。

工程条件が少しずつ変動している。
不良が怖いため検査を増やしている。
本当は不要かもしれない全数検査を続けている。
熟練者が経験で条件調整している。

これらもすべて顧客損失です。

たとえば「検査自動化」という発想だけではなく、

工程データから品質を予測し、そもそも検査を減らせないか

という方向へ展開できます。

これはセンサー、PLC、データ解析、品質管理を横断するテーマになります。

立上げやティーチングは宝の山

新しい設備を導入したときの立上げ、サーボ調整、センサー設定、ロボットティーチングなども有望なテーマ発生源です。

FAメーカー側では、装置が安定稼働した状態だけを見がちです。

しかし顧客は、その状態になるまでに相当な時間を使っています。

現場で技術者が何度も条件を変える。
設定値をExcelに記録する。
ベテランが過去の経験を思い出しながら調整する。

この「立ち上がるまでの時間」を短縮できれば、大きな価値になります。

自動チューニング、設定推薦、過去案件の再利用、仮想立上げなどは、まさにここから生まれるテーマです。

段取り替えは製品多様化とともに重くなる

多品種少量生産が進むほど、段取り替えや品種変更の回数は増えます。

設備そのものが高速でも、段取り替えに30分、1時間とかかれば生産能力は上がりません。

しかも、品種ごとに設定条件が異なると、入力ミスや確認作業も増えます。

この領域では、

品種認識、条件の自動呼出し、設定ミス防止、治具状態確認、段取り手順ナビゲーション

といったテーマが考えられます。

保全履歴は次の研究テーマにつながる

センサー交換、モーター交換、電源交換、ファン交換などの履歴も重要です。

何が壊れたかだけではなく、

「なぜ交換したのか」
「交換前にどんな兆候があったか」
「同じ部品が繰り返し交換されていないか」

まで見ると、予知保全や寿命推定のテーマにつながります。

とくに長期間の設置ベースを持つFAメーカーにとって、これは新規参入企業には簡単に得られない情報です。

顧客のExcelを見せてもらう

テーマ探索で、かなり有効なのがこれです。

顧客が独自に作っているExcel、紙帳票、チェックリストを見る。

そこには、本来システムや機器が提供できていない機能が表れています。

設備データを毎朝Excelへ転記している。
警報履歴を人が集計している。
複数装置の稼働率を手作業でまとめている。
保全部品の交換時期を個人の表で管理している。

こうした「人が補っている仕事」は、新しい機能やサービスの候補です。

最新技術を探すより、顧客が作ったExcelを見た方が、よいテーマが見つかることさえあります。

「つながらない」ことにも市場がある

工場では、異なるメーカーのPLC、センサー、装置、SCADAなどが混在しています。

データ形式が違う。
通信仕様が違う。
タグ名が違う。
時刻が合わない。

その結果、データを収集するだけで多くの工数がかかります。

この接続負担そのものが顧客損失です。

相互運用性、データモデル変換、自動タグ認識、時刻同期などは、この問題から生まれるテーマです。

古い設備にも大きな市場がある

新規研究開発というと、新型設備ばかりを考えがちですが、実際の工場には古い設備が大量に残っています。

設備本体はまだ使える。
しかしPLCが古い。
交換部品がない。
ソフトウェアが新しいOSで動かない。
通信規格が古く、データを取得できない。

こうした問題に対して、互換機、変換装置、レトロフィット、ソフトウェア変換などの需要があります。

「最新技術を新設備へ入れる」だけが新規テーマではありません。

古い設備をどう現代化するかも、大きな研究開発領域です。

エネルギーとセキュリティも日常業務から見る

省エネルギーも、「電力を見える化する」だけではテーマとして弱い。

重要なのは、

エネルギー原単位が悪化している。
ピーク電力を下げたい。
設備停止中なのに電力を使っている。

といった具体的な損失です。

同様にセキュリティも、「セキュアな機器を作る」だけではありません。

顧客側では、

脆弱性情報を確認する。
対象機器を特定する。
アップデートの影響を調べる。
監査用の記録を作る。

といった業務負担が発生しています。

この負担を減らすこと自体が、新しいサービスや機能のテーマになり得ます。

「困りごとの反復」を探す

こうして並べてみると、テーマ探索で見るべき場所はかなり広いことが分かります。

設備停止、品質、立上げ、段取り、保全、Excel作業、データ接続、旧設備、エネルギー、セキュリティ。

共通しているのは、

現場で繰り返し発生している損失や手間を探すこと

です。

一度だけ起きた特殊な問題より、何度も繰り返している問題の方が研究開発テーマとしては有望です。

繰り返しているということは、それだけ市場全体にも同じ問題が存在する可能性が高いからです。

ただし、テーマの種をたくさん集めるだけでは十分ではありません。

「市場の重要性は高いが自社技術と遠い」
「自社技術には合うが顧客損失が小さい」

といったテーマも混ざってきます。

そこで次に必要になるのが、候補を整理するための枠組みです。

次回は、「3-3.テーマ探索マトリクス」として、顧客課題と自社技術をどのように組み合わせて、有望な研究開発テーマを絞り込むかを考えていきます。


※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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