2026/09/22

【新規連載】品質を守るだけでは会社は勝てない ― 自律するDQLの仕事⑥

DQLは「不確実性を減らす順番」を考える

ここで、設計品質リーダー(DQL)の役割が見えてくる。

DQLは、最初から正解を知っている人ではない。

研究開発テーマに存在する不確実性を整理し、「何から確かめるべきか」を考える人である。

ある製品では、最大の不確実性が技術にあるかもしれない。

別の製品では、技術的には簡単だが、顧客がお金を払うかどうかが分からないかもしれない。

また別のテーマでは、市場性は十分でも、原価が下がらなければ事業にならないこともある。

こうした状況で、手当たり次第に実験していてはいけない。

事業の成否を最も左右する不確実性から先に潰していく必要がある。

そのために、顧客調査を使うこともある。

QFDを使って顧客価値を整理することもある。

FMEAによって重大な技術リスクを洗い出す場合もある。

実験計画法や統計解析を使って、少ない試験回数で技術仮説を検証する場合もある。

重要なのは、どの手法を使ったかではない。

限られた時間と費用で、意思決定に必要な不確実性をどれだけ減らせたか

である。

ここでも、手法は目的ではない。

より良い賭けをするための道具なのである。

 

優れたDQLは「やる理由」と同時に「やめる条件」を決める

研究開発を始めるとき、多くの企業は「なぜこのテーマをやるのか」を議論する。

市場が成長している。顧客ニーズがある。自社技術が使える。競合より有利である。

ところが、「どのような状態になったらやめるのか」は、あまり議論されない。

これは危険である。

研究開発が始まると、担当者にはそのテーマへの思い入れが生まれる。

設備を購入する。人員を投入する。顧客にも説明する。役員会で承認を受ける。

時間が経つほど、「今さらやめられない」という心理が強くなる。

そして、本来なら撤退すべきテーマに追加投資を続けてしまう。

ギャンブルでいう「負けを取り戻そうとする状態」とよく似ている。

だからこそ、優れた研究開発では、テーマを始める段階で撤退条件を考えておく必要がある。

この性能が達成できなければ中止する。この原価を超えるなら再検討する。この期限までに顧客評価が得られなければ撤退する。

あらかじめ条件を決めておけば、結果が悪かったときにも冷静に判断しやすい。

挑戦する勇気と、撤退する勇気はセットなのである。

 

「賭けない会社」は、本当に安全なのか

研究開発に対する最大の誤解は、「投資しなければ損をしない」と考えることである。

確かに、開発をしなければ開発費は発生しない。

新しい技術に挑戦しなければ、技術的な失敗も起こらない。

しかし、市場は止まってくれない。

顧客要求は変化する。競合は新製品を出す。新技術が既存製品の価値を変える。異業種から新しいプレイヤーが参入する。

企業が何もしなくても、周囲は動いている。

つまり「現状維持」もまた、一つの選択である。

そして、その選択にもリスクがある。

研究開発テーマへの投資額は会計上はっきり見えるが、挑戦しなかったことで失った将来の売上は、損益計算書には「損失」として表示されない。

ここに組織経営の難しさがある。

見えるリスクだけを減らすと、見えないリスクが膨らんでいく。

DQLには、製品の故障リスクだけでなく、

「その技術を開発しないリスク」

まで見る視点が必要になる。

 

企業に必要なのは「正しいギャンブラー」である

ここまで「賭け」という少し刺激的な表現を使ってきた。

しかし、私が言いたいのは、経営や研究開発を運任せにしようということではない。

むしろ逆である。

未来には不確実性があるという事実から目をそらさず、その中でできるだけ合理的な判断をしようということである。

何に賭けるのか。

どれだけ賭けるのか。

何を確認してから次の投資へ進むのか。

どこまで損失を許容するのか。

どの条件になれば撤退するのか。

そして、成功した場合にはどれほど大きな価値を得られるのか。

これらを考えたうえで意思決定するのであれば、それは無謀なギャンブルではない。

企業経営そのものである。

これからのDQLに求められるのは、失敗を恐れてすべての挑戦を止めることでも、技術への情熱だけで突っ走ることでもない。

不確実性を認識し、それを少しずつ減らしながら、勝負すべきところでは会社の資源を投入する。

そして、仮説が間違っていたなら、過去への執着を捨てて次の機会へ移る。

そんな「正しく賭けられる技術者」を、企業の中にどれだけ育てられるか。

それが、研究開発型企業の競争力を大きく左右する時代になっている。

では、その「賭け先」はどのように探せばよいのだろうか。

新しいAIが登場したからAI製品を考える。新素材を開発したから用途を探す。競合が始めたから自社も研究テーマにする。

これでは、技術が先にあり、顧客が後からついてくることになる。

次回は視点を逆転させたい。

研究開発テーマを探すとき、最初に見るべきものは「技術」ではない。

顧客が現在支払っている損失である。

3章では、「技術テーマを探す」のではなく、「顧客の損失を探す」という考え方から、儲かるプロダクト企画の出発点を考えてみたい。

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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