2026/09/21

【新規連載】品質を守るだけでは会社は勝てない ― 自律するDQLの仕事⑤

 研究開発では「成功確率」だけを見てはいけない

企業の研究開発会議では、「成功確率はどのくらいか」という問いがよく出る。

もちろん重要な質問である。

しかし成功確率だけでテーマを判断すると、組織は次第に小さなテーマばかりを選ぶようになる。

既存製品の改良なら成功確率は高い。既存顧客向けの追加機能も比較的読みやすい。すでに成熟した技術を使えば、技術リスクも小さい。

その結果、「確実にできそうな開発」がテーマ一覧を埋め尽くしていく。

ところが、それでは会社の未来を変えるような事業は生まれにくい。

研究開発で本当に考えるべきなのは、成功確率だけではなく、成功した場合にどれほど大きな価値が生まれるのか、失敗した場合にどこまで損失が発生するのかという全体像である。

単純化すれば、

成功する可能性 × 成功時の価値

失敗する可能性 × 失敗時の損失

の両方を見る必要がある。

これは期待値という考え方に近い。

成功確率90%でも、成功時の利益が小さければ魅力的なテーマとは限らない。

反対に成功確率30%でも、成功すれば巨大な市場を開拓でき、途中で撤退すれば損失を限定できるのであれば、十分に挑戦する価値がある。

重要なのは「当たりやすさ」ではない。

会社として、その賭けを繰り返したときに利益が残る構造になっているかどうかである。

 

「失敗しないテーマ」ばかりを選ぶ会社は、少しずつ弱くなる

組織には不思議な性質がある。

失敗したテーマの担当者は説明を求められるが、「挑戦しなかったこと」について説明を求められることは少ない。

そのため、組織の合理的な人間ほど、次第に安全なテーマを選ぶようになる。

成功する可能性が高い。既存技術が使える。既存顧客がいる。投資額が小さい。社内の反対も少ない。

一つひとつを見ると、非常に合理的に見える。

しかし、それを10年続けた会社はどうなるだろうか。

商品は少しずつ改良される。品質も少しずつ良くなる。コストも毎年数%下がる。

ところが、競争のルールそのものを変える技術や、新しい顧客価値を生み出す商品には投資していない。

気がついたときには、市場そのものが縮小している。

あるいは、まったく別の技術を持つ企業が市場を奪っている。

これは典型的な「何もしなかったリスク」である。

企業では、行動した結果の失敗は見えやすい。

一方で、行動しなかったために失った利益は見えにくい。

だからこそ、リスク管理という言葉が「何もしないための論理」になってはいけない。

本来のリスク管理とは、リスクをゼロにすることではない。

取る価値のあるリスクと、取ってはいけないリスクを区別することである。

 

「小さく賭ける」という技術

ここまでの話をすると、「それでは大胆なテーマにどんどん投資すればよいのか」と思うかもしれない。

もちろん、そうではない。

研究開発にはギャンブルと決定的に違うところがある。

自分たちの行動によって、成功確率を変えられることである。

市場について分からなければ、顧客に聞くことができる。

技術成立性が分からなければ、実験できる。

原価が不明なら、簡易モデルを作ることができる。

量産性が不安なら、小規模な試作を行うことができる。

つまり研究開発では、一度に全資源を投入する必要はない。

最初は小さな投資で仮説を検証し、確信が高まるにつれて投資額を増やしていけばよい。

私はこれを、「小さく賭ける」と考えると分かりやすいと思う。

たとえば1億円の開発をいきなり承認するのではなく、まず300万円で顧客ニーズと技術成立性を確認する。

そこで有望なら次に1000万円を投入する。

さらに市場性や量産性を確認し、成功可能性が高まったところで本格投資する。

反対に、途中で仮説が崩れれば止める。

この考え方を徹底すれば、挑戦回数を増やしながら、一つの失敗で会社が大きな損失を被ることを防げる。

研究開発の強い企業とは、必ずしも未来を正確に予測できる企業ではない。

未来が分からないことを前提として、安く、早く学べる企業なのである。

 

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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