研究開発の初期投資は、「成果を買う金」ではなく「情報を買う金」である
研究開発では、投資した金額に対して「何が完成したか」を評価したくなる。
しかし初期段階では、完成品ができなくても価値がある。
重要な仮説が間違っていると分かったなら、それは十分に成果である。
たとえば新しい樹脂材料を使った部品を開発していたとする。
材料メーカーのデータシートでは、従来材よりも耐薬品性が高い。
そこで製品設計を進める前に、実際の使用環境を模擬した簡単な浸漬試験を行った。
すると、特定の薬液条件では想定以上に膨潤することが分かった。
この試験に50万円かかったとする。
「50万円使ったのに開発が前に進まなかった」と考えることもできる。
しかし本当は逆である。
もしこの試験をせず、金型を作り、量産評価まで進んでから問題が発覚していれば、数千万円の損失になったかもしれない。
つまり50万円で、
「このまま進むと危険である」という情報を買った
のである。
研究開発初期の投資は、完成品を買うための投資だけではない。
不確実性を減らすための投資でもある。
何を先に試すかで、開発効率は大きく変わる
「小さく試す」といっても、何でも片っ端から試せばよいわけではない。
重要なのは、事業の成否を左右する不確実性から先に確認することである。
たとえば新しいセンシング製品を開発するとしよう。
技術者としては、まずセンサー精度を高めたくなる。
精度1%を0.5%にしたい。応答速度をもっと速くしたい。ノイズを減らしたい。
しかし、その製品の最大のリスクが「顧客が既存設備にセンサーを追加する工事を嫌がること」だとしたら、精度向上を半年続けても事業リスクはほとんど減らない。
この場合、先に確認すべきなのは取り付け性かもしれない。
既存設備を止めずに取り付けられるのか。
現場作業者が30分で設置できるのか。
無線通信でデータを送れるのか。
こうした条件が成立しなければ、どれほど高精度なセンサーでも売れない。
DQLは、技術的に面白い課題から取り組むのではなく、事業を止める可能性が最も高い不確実性から潰していく必要がある。
「最も危険な仮説」を最初に探す
研究開発テーマには、必ず複数の仮説がある。
「この顧客課題は本当に大きい」。
「この技術で解決できる」。
「この価格なら買ってもらえる」。
「量産できる」。
「競合より優位性がある」。
これらすべてが正しければ事業は成立する。
しかし、一つでも致命的な仮説が崩れれば、事業全体が成立しない場合がある。
そこでDQLは、最初にこう問う。
「この事業が失敗するとしたら、最もありそうな理由は何か」
この問いは非常に有効である。
たとえば、新しい画像検査装置を企画しているとする。
技術者は画像認識精度が最大の課題だと思っている。
ところが顧客へ確認すると、「精度90%でもいいから、既存ラインに一日で導入できることのほうが重要だ」と言われるかもしれない。
すると、最大の不確実性はAIモデルではなく、設備との接続性や導入工数だったことになる。
ここを早い段階で知ることができれば、開発の方向を大きく誤らずに済む。
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