2026/09/14

【新規連載】新規研究開発テーマの決め方と進め方(FAビジネスを例にとって)⑰(最終)

7.経営・組織としての実行方法

テーマを継続的に生み出す仕組み

ここまで、新規研究開発テーマの探索、評価、事業化までを順に見てきました。

最後に考えたいのは、こうした活動を一度きりで終わらせず、継続的にテーマを生み出せる組織にするにはどうすればよいかという点です。

新規テーマ探索は、年に一度のアイデア募集では続きません。

「何か新しいテーマを出してください」と号令をかけても、出てくるのは既存製品の改良案か、流行技術を使った思いつきになりがちです。

必要なのは、普段の事業活動そのものからテーマの種が入ってくる仕組みです。

製品別組織をいったん横に切る

FAメーカーでは、PLC、センサー、サーボ、HMIなど、製品別の組織になっていることが多いと思います。

既存製品を効率よく開発するには合理的です。

しかし新規テーマを考えるとき、この組織構造が壁になることがあります。

たとえば設備異常診断を考えると、

PLCの制御ログ、
センサーの計測値、
サーボの電流・位置情報、
HMI
の警報履歴、
エッジ側の解析

を組み合わせた方が強い。

ところが、それぞれが別部門だと「どの部門の商品なのか」という話になってしまいます。

そこで新規研究開発では、製品別組織とは別に、制御・計測・駆動・表示・DXを横断するチームを作った方がよいでしょう。

顧客の問題は、社内の組織図に合わせて発生してくれるわけではありません。

技術責任者と事業責任者を分ける

新規研究開発では、技術責任者がそのまま事業責任者を兼ねることがあります。

小規模なテーマなら問題ありませんが、事業化を狙うテーマでは役割を分けた方がよいと思います。

技術責任者は、

「実現できるか」
「性能は出るか」
「安全性は確保できるか」

を見る。

一方、事業責任者は、

「誰が買うか」
「いくらで売れるか」
「標準化できるか」
「どう横展開するか」

を見る。

前回までに述べた「技術仮説」と「事業仮説」を、それぞれ責任を持って追う人を置くわけです。

この二人が対立するくらいで、ちょうどよい場合もあります。

技術側が「できました」と言い、事業側が「でも誰が買うのですか」と聞く。

逆に事業側が「顧客が欲しいと言っています」と言い、技術側が「その精度では安全を保証できません」と返す。

このやり取りがテーマを強くします。

営業やサービスを途中から呼ばない

研究テーマが完成してから営業に説明する。

これも避けたいところです。

営業、サービス、品質、セキュリティ部門は、初期段階から参加させます。

営業は顧客の困りごとを知っています。
サービスは故障や保全の実態を知っています。
品質部門は市場不具合を知っています。
セキュリティ部門は、商品化後に必要となる対応を知っています。

研究部門だけでは見えない情報が、これらの部門にはあります。

とくにサービス部門には、新規テーマの種が大量にあります。

「また同じ故障で呼ばれた」
「この調整は毎回時間がかかる」
「この警報について問い合わせが多い」

こうした情報こそ、新しい診断機能や自動化機能の入口です。

四半期ごとにテーマを動かす

テーマ管理も年に一度では遅すぎます。

市場も技術も顧客要求も変わります。

そこで、たとえば四半期ごとにステージゲート審査を行います。

そのとき重要なのは、「進捗率80%」のような管理をしないことです。

見るべきなのは、

顧客損失の仮説は確認できたか。
技術仮説はどこまで検証できたか。
事業仮説は変わったか。
次の3か月で何を確認するか。

です。

そして必要ならGoだけでなく、HoldPivotKillを判断します。

テーマは計画通り進めることより、学習した結果に応じて変えることの方が重要です。

社内に散らばったデータをテーマ探索に使う

新規研究開発に使えるデータは、実は社内にかなりあります。

故障履歴。
修理履歴。
警報ログ。
調整記録。
顧客問い合わせ。
品質不具合。
営業からの要望。

問題は、それぞれ別のシステムやExcelに入っていることです。

これらを共通データ化すると、

「最近どの不具合が増えているか」
「どの製品で調整工数が多いか」
「複数顧客から同じ要望が出ていないか」

を横断して見られるようになります。

ここから新規テーマ候補を自動的に抽出することも可能です。

AIは「テーマを考えてもらう」より整理に使う

生成AIを新規研究開発に使う場合も、使い方を少し工夫した方がよいでしょう。

「次世代FAの新規テーマを100件考えてください」

と聞けば、それらしい案はいくらでも出ます。

しかし、それだけでは自社らしいテーマにはなりません。

むしろAIに、

市場動向、
特許、
規格、
顧客要求、
社内不具合情報、
修理履歴

などを整理させ、

「どの顧客課題が増えているか」
「自社技術とどこで重なるか」
「過去に似たテーマをやっていないか」

を探させる方が実務的です。

AIはアイデア発生器というより、大量の情報からテーマの兆候を拾う補助者として使うと効果的です。

技術伝承も研究開発テーマに変えられる

もう一つ、FA企業では重要なのが熟練者のノウハウです。

熟練技術者が、

音を聞いて異常を判断する。
波形を見て調整条件を変える。
振動の出方から機械状態を推定する。

こうした知識を、単に若手へ教育して終わらせるのはもったいない。

その判断過程をデータとして残し、

AI診断、
自動調整、
設計支援、
復旧ナビゲーション

などの機能へ実装できれば、技術伝承そのものが新規研究開発になります。

「人から人へ教える」だけでなく、人の知識を製品やサービスへ組み込むわけです。

これは熟練者不足への対応であると同時に、新しい競争力にもなります。

テーマ探索を「行事」にしない

新規研究開発を継続させるために重要なのは、特別なアイデア会議を増やすことではありません。

営業活動から顧客課題が入る。
サービス活動から故障情報が入る。
品質部門から市場不具合が入る。
技術部門から新技術が入る。
AI
がそれらを横断して整理する。

そして四半期ごとにテーマ候補を見直す。

この循環が回れば、新規テーマ探索は年に一度のイベントではなく、通常の経営活動になります。


まとめ:幹部に伝える三つの要点

この連載で述べてきたことを、最後に三つに絞っておきます。

1FA機器の新規テーマは、機器の高性能化ではなく、製造現場の損失削減から定義する。

PLCを速くする、センサーを高精度にする、AIを搭載する。その前に、「顧客の何を改善するのか」を決めます。

2.ハードウェア、ソフトウェア、データ、サービスを一つの事業として設計する。

これからのFA事業では、機器を売って終了とは限りません。設置ベースと現場データを生かし、診断、更新、保守まで含めて事業を設計することが重要です。

3AIDXテーマでは、技術精度だけでなく、安全性、標準化、継続的なデータ取得、有償化可能性を早期に確認する。

PoCで高い精度が出ても、それだけでは事業になりません。現場で使え、複数顧客へ展開でき、継続的に利益を生む仕組みになっているかまで確認します。

新規研究開発テーマを決めるという仕事は、未来の技術を当てる仕事ではありません。

顧客の変化を読み、現場の損失を見つけ、自社の技術資産と結びつけ、それを事業として成立させる。

この一連の仕組みを持てるかどうかが、これからのFA企業の研究開発力を大きく左右するのではないかと思います。 

(連載おわり)

  

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