6-4.経営貢献金額で比較する
研究開発テーマを事業化の視点で評価するとき、「売上はいくらになるか」だけを見てはいけません。
特にデジタルFAのテーマでは、価値の出方が従来のハードウェア販売より複雑です。
PLCやセンサーを何台売るか。
サーボアンプの売上がいくら増えるか。
もちろん、これは重要です。
しかし実際には、その周辺にソフトウェア、保守、アップデート、サービス、既存製品への波及効果があります。
したがって新規研究開発テーマは、単体商品の売上ではなく、経営への総合的な貢献金額で見る必要があります。
ハードウェア売上だけでは小さく見えるテーマがある
たとえば、既存PLCに設備診断機能を追加するテーマを考えてみます。
新しいハードウェアを大きく販売するわけではないため、「売上規模が小さい」と評価されるかもしれません。
しかし、その診断機能を年間ライセンスとして販売できればどうでしょうか。
さらに、
診断モデルの更新料金、
年間保守契約、
遠隔監視サービス
まで付けば、収益は継続します。
また、「この診断サービスを使うには当社PLCとセンサーを採用してください」という形になれば、既存製品の売上にも波及します。
つまり、一つの研究テーマから生まれる事業価値は、
機器売上+ソフトウェア+サービス+既存製品への波及
で考えた方が実態に近くなります。
「標準採用」の価値は大きい
FA分野では、装置メーカーへの標準採用も重要です。
ある装置メーカーが新しい設備診断機能を自社標準仕様として採用すると、その後の装置にも継続して搭載される可能性があります。
最初の一台だけを見ると、小さな売上です。
しかし年間100台の装置に採用され、それが5年間続くなら話は変わります。
さらに海外工場や別シリーズへ横展開されれば、研究テーマの経営貢献は大きくなります。
したがって、
「初年度売上はいくらか」
だけでなく、
顧客内でどこまで標準化・横展開される可能性があるか
を見る必要があります。
コスト削減も研究開発の成果である
研究開発の経営貢献は、外部売上だけではありません。
たとえば共通の通信プラットフォームを開発したとします。
これによって、PLC、HMI、エッジ端末ごとに別々に開発していた通信機能を共通化できれば、開発工数を削減できます。
同様に、
設計自動化による設計工数削減、
仮想立上げによる評価工数削減、
自己診断機能による問い合わせ削減、
共通ソフトウェア基盤による保守費削減
なども立派な経営効果です。
研究テーマによっては、売上を増やすよりも、会社全体の開発コストを下げる効果の方が大きいことがあります。
ここを評価しないと、共通基盤技術のようなテーマが不当に低く評価されます。
まず顧客価値を金額で考える
事業価値を考える前に、顧客側の経済効果を計算します。
考え方は比較的単純です。
顧客価値
= 停止損失削減+不良削減+工数削減+エネルギー削減
-(導入費+運用費+変更リスク)
たとえば設備診断システムによって、
停止損失を年間500万円削減、
緊急保全工数を年間100万円削減
できるとします。
一方、システム導入費が150万円、年間運用費が50万円なら、初年度でも400万円程度の経済効果が残ります。
こうなれば、顧客が購入する理由を説明しやすい。
逆に、年間50万円しか改善しないのに導入費が300万円では、技術が優れていても普及は難しいでしょう。
重要なのは、顧客価値を「便利になった」「作業が楽になった」で終わらせないことです。
「変更リスク」も忘れない
FAでは、導入費と運用費だけでなく、変更リスクも無視できません。
新しいPLCへ変更すれば、制御プログラムの検証が必要になる。
ネットワーク構成を変えれば、設備停止のリスクがある。
AI診断を導入すれば、保全手順や責任分担を変更する必要がある。
顧客にとっては、こうした変更そのものがコストです。
新技術を導入することで得られる効果が多少大きくても、
「今の設備を触りたくない」
という理由で採用されないことがあります。
そのため顧客価値を考える際には、金銭的な導入費だけでなく、設備変更、教育、検証、運用変更に伴う負担も含めて考える必要があります。
自社側は将来キャッシュフローで考える
次に、自社にとっての事業価値です。
考え方の一例として、
リスク調整後事業価値
= 将来キャッシュフロー × 段階別成功確率
- 研究開発費・認証費・事業立上げ費
と置くことができます。
ポイントは、「最大売上予想」をそのまま評価しないことです。
たとえば、成功すれば5年間で50億円の利益を生むテーマがあったとしても、技術成功確率が30%、事業化成功確率が40%なら、そのまま50億円として評価するのは危険です。
一方、将来利益は10億円でも、既存技術を使えて成功確率が80%というテーマもあります。
両者を比較するためには、不確実性を織り込む必要があります。
ステージが進むほど成功確率を更新する
前回紹介したステージゲートは、ここでも役に立ちます。
G0の機会探索段階では、成功確率はまだ低い。
G1で顧客損失が確認できれば、市場面の確度が上がる。
G3で実機試験に成功すれば、技術面の確度が上がる。
G4の顧客PoCで有償化の可能性まで確認できれば、事業成功確率はさらに高くなります。
つまり、研究テーマの事業価値は固定値ではありません。
ステージが進むたびに、期待売上、利益、成功確率を更新していくものです。
研究開発テーマの評価を年初に一度だけ行うのではなく、ゲートごとに事業価値を再計算する方が合理的です。
テーマを同じ物差しで比較できる
経営貢献金額で評価する利点は、性質の違うテーマを比較できることです。
たとえば、
Aテーマは新型センサーで年間5億円の売上。
Bテーマは診断サービスで年間2億円の継続収入。
Cテーマは共通プラットフォームで年間1億円の開発費削減。
売上だけで見るとAが一番です。
しかし粗利益や継続年数、開発費削減まで入れると、BやCの方が会社にとって価値が大きいかもしれません。
このように、
売上、利益、サービス収入、波及売上、コスト削減をできるだけ金額に置き換える
ことで、研究開発テーマを経営の言葉で議論できるようになります。
もちろん、基盤研究や将来技術のすべてを短期的な金額だけで判断する必要はありません。
それでも、
「このテーマは将来、会社のどの経営指標に効くのか」
を考えておくことには意味があります。
研究開発部門の成果を「特許件数」「試作品完成」「技術発表」で終わらせず、
顧客にどれだけ価値を生み、自社にどれだけ利益や競争力を残したか
まで追う。
ここまでできると、研究開発はコストセンターではなく、将来利益を作るための投資として経営とつながってきます。
ただし、優れた評価方法を作っても、テーマ候補そのものが定期的に出てこなければ意味がありません。
一度大規模なテーマ募集をして終わり、ではなく、顧客課題や技術変化を継続的に取り込み、新しいテーマの種を生み続ける仕組みが必要です。
次回からは 「7.経営・組織としての実行方法」 に入り、まず 「7-1.テーマを継続的に生み出す仕組み」として、新規研究開発を一過性のイベントにしないための運営方法を考えていきます。
※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。
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