専門家とDQLは、上下関係ではない
ここで誤解してはいけないのは、DQL(設計品質リーダー)のほうが専門家より上だという話ではないことである。
専門家とDQLは、役割が違う。
非常に深い技術課題を解決するには、専門家が必要である。
世界最高レベルの材料、アルゴリズム、加工技術を生み出す人材は、企業にとって極めて重要である。
一方DQLは、その専門性をどこで使えば最大の価値になるかを考える。
だから、どちらか一方だけでは弱い。
サッカーチームでいえば、世界最高のストライカーと優れた監督のどちらが重要かと聞くようなものである。
役割が違う。
強い企業には、深い専門家と、専門家を束ねるDQLの両方が必要である。
DQLは「人を使う」のではなく「人の強みを組み合わせる」
リーダーという言葉から、部下へ指示を出す管理職を想像する人もいる。
しかしDQLのリーダーシップは、それとは少し違う。
新しいプロダクトを作るには、自分より詳しい専門家と仕事をしなければならない。
材料については材料担当のほうが詳しい。
AIについてはデータサイエンティストのほうが詳しい。
市場については営業やマーケティングのほうが詳しい。
DQLがすべてに対して指示を出そうとすれば、むしろ判断を誤る。
必要なのは、
「この人は何に強いのか」
「この専門性とあの専門性をどう組み合わせるか」
を考えることである。
料理にたとえるなら、DQLはすべての食材を自分で作る農家ではない。
優れた食材を選び、組み合わせ、一つの料理に仕上げる料理人に近い。
AI時代には、専門家をつなぐ能力の価値がさらに上がる
前回、AI時代には「問いを決める人」の価値が高まると述べた。
この変化は、専門家のあり方にも影響する。
AIによって、専門外の基礎知識へアクセスすることは以前より容易になる。
機械技術者でも、AIを使えばソフトウェアや市場について短時間で基本情報を整理できる。
その結果、専門分野の境界は少しずつ低くなる。
しかし、境界がなくなるわけではない。
むしろ、複数の専門領域をまたいで新しい問いを作る人の価値が高まる。
AIは、異分野の知識をつなぐための強力な補助輪になる。
DQLはAIを使いながら、これまでなら専門家を何人も集めなければ検討できなかった領域まで探索できる。
だからAI時代には、「一人で何でもできる人」ではなく、
専門家とAIを使いながら、全体を統合できる人
が重要になる。
専門性の「深さ」と事業視点の「広さ」を両立させる
DQL育成で難しいのは、深さと広さのバランスである。
幅広い知識だけを身につけると、評論家のようになってしまう。
何についても話せるが、技術的な難しさを理解できない。
一方で、専門性だけを深めると、自分の領域の外にある事業機会が見えなくなる。
だからDQLには、まず一つの専門性で「深く考える経験」を持たせる必要がある。
技術課題に悩み、実験し、失敗し、解決した経験である。
そのうえで、顧客、市場、経営、他技術へ視野を広げる。
私はこれを、木にたとえると分かりやすいと思う。
深い根が専門性である。
枝葉が顧客、事業、他分野への広がりである。
根だけでは実がならない。
しかし根の浅い木は、大きく枝を伸ばすこともできない。
DQL育成では、専門性を捨てずに視野を広げることが重要なのである。
「自分が答えるリーダー」から「チームが答えを出せるリーダー」へ
従来の技術リーダーには、「最も詳しい人」であることが求められることが多かった。
部下が困れば答えを教える。
問題が起きれば解決する。
その人がいれば安心できる。
しかし、技術が複雑になり、複数分野が融合する現在、一人のリーダーがすべての答えを持つことは難しい。
DQLに必要なのは、
自分がすべて答えることではない。
正しい問いを出す。
必要な専門家を集める。
異なる意見を整理する。
顧客価値という共通目標へ議論を戻す。
そしてチームとして意思決定する。
つまりDQLは、
「答えを持つリーダー」から「チームが答えを生み出せる状態をつくるリーダー」
へ変わる必要がある。
企業が育てるべきなのは「専門家か、ゼネラリストか」ではない
人材育成の議論では、
「専門家を育てるべきか、ゼネラリストを育てるべきか」
という二択になりやすい。
しかし、これからの製造業やテック企業に必要なのは、この二択ではない。
深い専門性を持つ専門家は、これからも必要である。
同時に、専門家と専門家をつなぎ、技術を顧客価値へ変え、事業として成立させる人材も必要になる。
その役割を担うのがDQLである。
重要なのは、専門家を減らしてDQLを増やすことではない。
専門家が持つ価値を、企業全体の価値へ変換できるDQLを増やすことである。
どれほど優れた技術を持っていても、それが部門の中に閉じていれば事業にはならない。
どれほど優れた顧客情報を持っていても、技術へ翻訳できなければ製品にはならない。
どれほど優れたAIを導入しても、何を解かせるかを決める人がいなければ競争優位にはならない。
DQLは、それらをつなぐ。
そして、その「つなぐ力」こそ、これからの研究開発型企業にとって重要な競争力になる。
ここまでDQLを、技術、顧客、事業、AI、異分野連携という視点から見てきた。
では、そうしたDQLは、どのような道具を使って意思決定すればよいのだろうか。
QFD、FMEA、実験計画法、統計解析、ロバスト設計など、製造業には多くの優れた方法論がある。
しかし、手法を知っていることと、使いこなせることは同じではない。
次回は、DQLにとっての方法論の位置づけを整理したい。
第11章は、「QFD、FMEA、品質工学は『答え』ではなく武器である」である。
※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。
[無断転載禁止]
DQL(設計品質リーダー)育成コースの詳細なご案内は下記よりダウンロードできます。
ダウンロード
0 件のコメント:
コメントを投稿