2026/10/08

【新規連載】品質を守るだけでは会社は勝てない ― 自律するDQLの仕事⑱

 一つのテーマではなく、研究開発全体で勝つ

ここまでの話は、一つのテーマだけを見ていると分かりにくい。

研究開発は、ポートフォリオ全体で考えると理解しやすい。

たとえば10件の研究テーマを持っている会社があるとする。

そのうち6件は、既存製品の改良や顧客要望への対応である。

成功確率は高いが、大きな成長は期待できない。

3件は、新技術を使った新製品である。

成功確率は中程度だが、成功すれば新しい市場へ入れる。

そして1件は、成功確率は低いものの、成功すれば会社の事業構造を変える可能性がある。

この組み合わせなら、短期の収益を確保しながら将来への挑戦もできる。

ところが10件すべてが安全な改良テーマなら、現在の売上は守れても未来は弱い。

反対に10件すべてが大勝負なら、会社の資金が持たないかもしれない。

必要なのは、

異なるリスクとリターンを持つテーマを組み合わせること

である。

これは金融投資のポートフォリオと非常によく似ている。

 

「九勝一敗」より「六勝四敗」のほうが強いこともある

研究開発組織の評価では、失敗件数が少ないほど優秀に見える。

しかし、たとえば二つの組織を比較してみよう。

X研究所は10件中9件を製品化した。

しかし、どれも既存製品の小規模改良で、利益への貢献は1件1000万円だった。

合計9000万円である。

Y研究所は10件中6件しか製品化できなかった。

4件は途中で撤退した。

しかし6件のうち1件が大きな新市場を開拓し、5億円の利益を生み出した。

どちらの研究所が会社に貢献しているだろうか。

単純な「成功率」ならXは90%、Yは60%である。

しかし経営成果ではYが圧倒的に大きい。

これはスポーツでも同じである。

すべての打席でヒットを狙う選手と、ときには三振しても長打を打てる選手では、チームへの貢献の仕方が違う。

研究開発でも、

失敗件数の少なさを競うのではなく、トータルで勝つこと

が重要である。

 

ただし「一敗で会社が死ぬ」テーマは避けなければならない

ここで、期待値だけでは不十分なもう一つの理由がある。

企業には倒産という状態がある。

理論上の期待値が高くても、一度の失敗で会社が存続できなくなる賭けはできない。

たとえば、成功確率70%で、成功すれば100億円儲かるテーマがあるとする。

非常に魅力的に見える。

しかし失敗した場合に300億円の損失が発生し、自社の財務では耐えられないのであれば、その賭けをしてはいけない。

これもギャンブルの鉄則と同じである。

どれほど有利な勝負でも、全財産を一度に賭けてしまえば、一回の不運で退場する。

企業経営では、

期待値を高めることと、破滅確率を下げることを同時に考える

必要がある。

DQLも、研究開発テーマの魅力だけでなく、会社がどこまでその失敗を許容できるかを考えなければならない。

 

期待値は、途中で変わる

研究開発テーマを開始した時点で決めた期待値は、固定ではない。

研究が進めば新しい情報が入る。

技術実験で良い結果が出れば成功確率は上がる。

競合企業が画期的な製品を発売すれば、成功時の利益は下がるかもしれない。

顧客から想定以上の反応が得られれば、市場価値は上がる。

逆に原材料価格が高騰すれば、事業性は悪化する。

つまり研究開発テーマの価値は常に変化している。

だからこそ、テーマを開始したときの事業計画を最後まで守ることが必ずしも正しいとは限らない。

DQLは定期的に、

「今、このテーマをゼロから提案されたとして、それでも投資するだろうか」

と問い直す必要がある。

この問いを使うと、過去の投資や思い入れをある程度切り離して判断できる。

前回取り上げたサンクコストへの対策にもなる。

 

DQLは「研究テーマの選手」ではなく「監督」になる

専門技術者は、自分の担当テーマを成功させようとする。

それは当然である。

しかしDQLは、一段上の視点を持たなければならない。

一つのテーマだけを勝たせることではなく、

限られた研究開発資源を、会社全体として最も価値の高いところへ配分する

ことを考える必要がある。

野球にたとえるなら、個々の技術者は選手である。

一方DQLは、選手としての能力も持ちながら、監督の視点も持つ。

この投手をここで使うのか。

代打を出すのか。

若手を育てるのか。

一点を取りに行くのか。

長打を狙うのか。

試合全体を見て判断する。

研究開発も同じである。

短期の売上を支えるテーマ。

中期的な成長を狙うテーマ。

長期的に大きな事業を生むテーマ。

それぞれを組み合わせる。

この視点を持った人材がいなければ、研究開発テーマは各部門の希望を集めただけの一覧表になってしまう。

 

「全部成功させる」発想を捨てる

研究開発には失敗がある。

これは避けられない。

むしろ不確実なテーマに挑戦しているのに、すべて成功しているとしたら、挑戦の水準が低すぎる可能性さえある。

重要なのは、失敗を放置することではない。

小さく失敗する。

早く学ぶ。

見込みがなくなればやめる。

有望なテーマには追加投資する。

そして成功したテーマから大きなリターンを得る。

この一連の仕組みを作ることである。

つまり研究開発で目指すべきなのは、

「すべてのテーマを成功させること」ではなく、「テーマ群全体で勝ち越すこと」

なのである。

DQLには、そのための判断力が必要になる。

技術的な成功確率だけを見るのではない。

顧客価値を見る。

市場を見る。

競合を見る。

成功時のリターンを見る。

失敗時の損失を見る。

そして会社全体の研究開発ポートフォリオの中で、そのテーマがどの役割を持つのかを考える。

ここまでできて初めて、研究開発は「テーマ管理」から「投資マネジメント」へ変わる。

では、実際にはどのような研究開発テーマを、どのくらいの比率で持てばよいのだろうか。

短期的な改良テーマだけでは未来がない。

しかし長期テーマだけでも会社は生きていけない。

次回は、この問題を研究開発ポートフォリオの視点から考えてみたい。

第7章は、「技術ポートフォリオを持つ会社は強い」である。

 

※御社のプロダクト(製品・サービス)分野で同様の話が聞きたい!という場合は、どうぞご相談ください。

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