2022/12/26

超実践品質工学の必要性②

 超実践品質工学の必要性②

(つづき)

 確かに,そのような技術開発が現実に行えるのなら最高です.それが究極的に目指すべき方向性であることも理解できます.しかし,とてもではないですが,筆者は前記のような設計・開発の現場に,これらの理想論をそのまま提案することはできません.それでも「困っている」現場―――もはや設計変更もほとんどできず,納期は迫り,なのに性能や品質が確保できていない状態―――では,藁をもすがる思いで品質工学らしきもの(これが単なる直交表実験を指していることが多い)をやってみよう,ということになることはあります.しかし,生半可な技術力,見よう見まねのやり方で実施してもうまくいくはずもなく,結局「品質工学は役に立たない」,「うちの現場にはレベルが高すぎる,難しい」,「うちの製品(技術)は特殊だから」などとして,やめてしまうのがオチなのです.無駄にした時間は帰ってきません.そのような経験は,一度でも社内で品質工学を試してみた方,人に勧めてみた方なら体験しているのではないかと思います.また上記のような理想的な開発が一気通貫で行えている事例が発表されているかというと,これが非常に少なく,また適用分野も限られています .そのため,推進・指導する側も,「本当に品質工学が提唱するような理想的な開発が行えるのだろうか」と疑問をもつことになるのです.

 さてパレートの法則によれば,社内教育やセミナーや本での自習などで品質工学に出会った人の中で,それを理解して「いいね」とアンテナが立つ人が2割くらいでしょうか.その中の2割が実際に行動を起こします.その中のさらに2割が品質工学でなんらかの成果をもたらすと考えると,成功するのは品質工学に何らかの形で触れた人の約1%という狭き門となります.こうなる理由はさまざまありますが,それでも残り99%の人には品質工学は不要な考え方なのでしょうか.非常に高度な技術力と倫理観をもつ一部の有能な技術者,リソースが潤沢にある開発組織,崇高な技術理念を実践できる企業だけのものなのでしょうか.品質工学は故田口玄一氏が半世紀を費やしてほぼ独力で創造した,技術論・方法論の結晶です.これを一部の技術者,組織だけのものとするのは余りにもったいないと考えるのです.より多くの方が,より広い範囲で品質工学を設計・開発の現場では使い,成果を出せないものだろうかと.(つづく)


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