2009/06/02

あまりに天下り的では・・

 たとえば、ゼロ点比例式(誤差は出力の大きさに比例するはずである)における感度(傾き)βを求めるときに最小二乗法(誤差は等分散)をつかうのはなぜだろうか。またたとえば、要因効果図を作成するときに、L18直交表の実験でA列の水準1のSN比のdbで工程平均を求めるのはなぜだろうか。天下り的に品質工学やっているとこのような非常に基本的なことに疑問は持たないだろう。

 ここでは後者の例について考えてみよう。SN比のdb値 η1とη2の算術平均でSN比を総合するということは、

ηT=(η1+η2)/2=[-10log(δ1^2)-10log(δ2^2)]/2=-10log(δ1δ2) (db)

となる。ここで、δ1、δ2は変化率の真数をあらわす。

 さて、最後の式に現れる、δ1δ2 とはいったい何であろうか。δが利得であれば理解できる。その場合は利得の合計の効果である。つまり真数の世界で2倍よくなる条件と3倍よくなる条件では、その積である6倍よくなる、というのは数式の意味の上では理解できる(実際に6倍よくなるかどうかは別問題)。しかし、ここでのδは、個々の設計条件におけるデータの変化率である。この変化率の積が何を意味するのかはまったくもって不明である。

 たとえば、L18実験のA列水準1の工程平均の場合で言えば、No.1~No.9の個々の変化率の総合を考えることになるが、この場合は「平均してどれくらいのばらつき=SN比か」、は「平均してどれくらいの損失が発生しうるばらつきであるか」を考えていることと同じはずである。よって、実験No.1~9のそれぞれの変化率で発生する損失(金額)の平均が、因子A水準1の損失の工程平均である。損失は金額なので比尺度であるため、加法性があり、足したり引いたりできる。損失関数で平均するということは、変化率の2乗つまりSN比の真数γの逆数で平均するということである。

1/γT=(1/γ1+1/γ2)/2=[(δ1^2)+(δ2^2)]/2 (db)

 最後の式は、変化率の2乗の平均になっており、これは分散の加法性をあらわす式と同じである。したがって、制御因子・各水準の要因効果を求めるときは、db値ではなく、損失金額の平均すなわちSN比の真数の調和平均で求めるのが合理的である。もちろん、利得の推定時に行う、利得の積み上げ計算はdbで足し算してよい。

 この計算方法が威力を発揮するのは、偶発的にN1とN2のデータが一致して(またはそれに近い状態になって)、平均すべきSN比の1つが発散してしまう場合である。たとえば実験No.1がそのようであると、従来のようにdbで平均すると、すべての制御因子の第1水準の工程平均はそれに引っ張られて、要因効果図はすべておおきな左肩上がりとなってしまう。ところが、前記のように金額で考えると、実験No.1は損失が0円に近づくだけであり、損失金額の平均には1/9しか影響を与えない。つまり各実験No.ごとに損失を考えているので、工程平均に対する寄与が均等になる。従来のようなdb平均法では、真数の部分が積になっているので、1つの変化率が0に近づくと積である全体がその影響を受けるのでまずいことになる。

 このような、原理原則に基づいた修正提案ということも無駄ではないと思うのであるが、いかがだろうか。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

記事、興味を持って拝見しました。
最近になってタグチメソッドを利用し始めたのですが、どうして?と思うところが幾つか有ります。
既にエネルギー比型SN比がありますが、Veを引く従来のSN比や、実測値を逆数にする望大特性など、本当にいいの?と疑問が有ります。
恐らく、つるぞうさんをはじめ先生方はこの回答が出来るのでしょうが、全員が理解して使っているわけではないと思います。
取扱説明書を読まずに家電機器を使う様な状態は少なからず危険を伴いそうです。

つるぞう さんのコメント...

匿名さん。こんにちは。

書き込みの少ないブログによくおいでいただきました。ありがとうございます。

タグチメソッドの方法論には、いろんな前提(特に目的に関する)が必要だと思います。注意点を知らずに闇雲な使い方をするのは避けたいものですね。

かくいう私も勉強中の身で偉そうなことを書いていますが、このようなコメントいただけると、ブログを続けていくモチベーションになります。