2011/04/25

立林らによる本格的なエネルギー比型SN比の議論

 今月号(2011年4月号)の「品質工学」誌に本格的にエネルギー比型SN比を議論した解説文が掲載された。

立林・和田:「品質工学で用いるSN比の再検討」に関する議論,品質工学,19,2,p.33-37 (2011)

 いうまでもなく、引用されているのは、下名らによるエネルギー比型SN比の提言の報文である。詳細は解説文にゆずるが、賛成的な立場の意見としては、以下のような記述がある。

筆者たちは、エネルギー比型SN比は、上記の従来型SN比の問題点を解決するという観点では、かなり成功していると考えている。また、品質工学のような汎用技術は、汎用性が高く、かつ平易であることが日常の利用のうえで重要と考えている。実際、現場に対する推進を行っていると、SN比や感度の種類の多さや計算の複雑さから、技術者が品質工学を敬遠することを実感している

分母でVeを引かない、分子で自由度で割らないという提案者たちのSN比の方が、むしろ記述統計学に近いように思う。

1つの改良案で従来のSN比の問題点をこれほど豊富に解決するのだから、汎用性も高く、優れた改良案だと思う。比較的近日中に、SN比の意味も数理的に裏付けられるだろうと思う。

また、問題点も提起いただいている。

誤差因子の水準N1N2ごとに信号の値が変化する場合には標準条件を求められないため、エネルギー比型SN比がそのままでは適用できない。

平方和比のSN比それ自体には残念なことに技術的な意味は付与しにくい。エネルギー比型SN比には、(実体上の)技術的意味の付与には今後も困難が伴うと思われる

これらの問題提起に対して下名らも意見を持っているが、それはまた今後議論したいと思う。また、

これまでのスクラップ・アンド・ビルドは田口玄一自身によって行われてきたが、今回は一般会員から提案者が出たところが異なっている。

とも言われており、「一般会員」である下名らの提言に対して、このような有識者の意見としてでてきて議論が進むのは、非常に喜ばしいことである。さらなる議論に期待する。

2 件のコメント:

つるぞう さんのコメント...

「初学者」さんから以下のような投稿があったようですので転載します(メールのほうには連絡があったのですが、なぜか、ブログのほうには反映されていませんでした)。
----------------------------------長文失礼いたします。

「品質工学」誌(2011年4月号)に掲載されました「品質工学で用いるSN比の再検討」について思うところがあり、検索しているうちにつるぞう様のブログに辿り着きました。

エネルギー比型SN比に関する「対数を取るため無次元化が必要」という指摘を踏まえ、評価方法について考え方を展開していたら次の様な疑問が出てきました。

唐突で大変失礼ですが、このような疑問について議論をできる人が身近におりませんので、つるぞう様のご意見を頂ければ幸いです。

【前提条件】
・「有効な変動(理想機能)」がゼロ点比例で推移すると仮定し、回帰直線の傾きをβとおく。
・「有害な変動(プールした誤差)」もゼロ点比例で推移すると仮定し、一つの回帰直線に置き換え、その傾きをNとおく。
(ここで、「有効な変動の回帰直線」と「有害な変動の回帰直線」はそれぞれ独立した直線で表現することにします)
・信号因子の数をk個、誤差因子の数をn個とする。

上記のような仮定のもとで、次のような評価基準を勝手に考えたとします。
①「有効な変動による傾きβ」と「有害な変動による傾きN」の比率を評価指標とする
②「比率」である評価指標に加法性を持たせるために対数を取る

①、②より、評価指標は
η=log(β/N)[b]
 =10log(β/N)[db] ・・・(1)式
(β/Nはマイナスにはならないので二乗していません)

このとき、比例式の回帰二乗和は
Sβ=n×((βM1)^2+(βM2)^2+…+(βMk)^2)
   n×(M1^2+M2^2+…+Mk^2)×β^2
   n×r×β^2
よって傾きβは
 β=√(Sβ/(n×r))

「有害な変動」も各データがそれぞれ1つずつ持っているので、同じモデルが成り立つと考え
 N=√(SN/((n×r))

(1)式に代入すると
η=10log(β/N)
 =10log(√((Sβ/(n×r))/(SN/(n×r)))
 =5log(Sβ/SN)[db]

このような考え方が数学的に正しいのか、またエネルギー比型SN比の考えに近いものなのか分かりませんが、式の形としてはエネルギー比型と同じものになります。
ここまで考えて次の様な疑問が出てきました。

前提条件として「有害な変動(プールした誤差)もゼロ点比例で推移する」と仮定してしまっていますが、これはいろいろと問題がある気がします。(有害な変動が線形的に推移すると考えて良いのか?)
とすると、問題がある方法なのにエネルギー比型SN比と同じ形になってしまってる??とう疑問です。

「エネルギー比型SN比」にはまた違った演繹があるのだと思うのですが、このような単純な感度比と一致してしまうことに多少違和感を感じております。

品質工学歴が浅いものでいろいろと根本的に間違っているかもしれませんが、ご教示いただければ幸いです

つるぞう さんのコメント...

初学者さん

とても有用なコメントをありがとうございます。

すぐにはお答えする余裕がありませんが、もし可能でしたら関西品質工学研究会で議論しませんか。
余裕があればこおnBLOGでも検討の上お答えしたいと思います。