比較的大規模なコロナ抗体検査が行われた。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200616/k10012471891000.html
結論からいえば、抗体保有率が思いのほか低かった(東京で0.1%)ということ。サンプル数不足のため、従来のPCR検査での陽性率(対人口、以下同)に比べて多いかどうかはこのデータからは言えない。また、同様の理由で「保有率が高い大阪人はでかい声で話すから感染しやすい」などということも言えない。
以下は統計に興味のある方むけ(といっても、弊社の統計入門講座でも最初のほうで出てくる話だ)。
今回のコロナ抗体検査の保有率pの結果(nはサンプル数)。
東京 p=0.1%(n=1971)
大阪 p=0.17%(n=2970)
宮城 p=0.03%(n=3009)
今回の抗体検査の感度、特異度は100%に近く、複数の試薬のクロスチェックを受けているので、以下試薬の精度は100%と仮定して話を進める。
二項分布から東京(t)の保有率pの標準偏差の点推定値を求めると、
σ(t)=√(0.001*(1-0.001)/1971)=0.0007(0.07%)
nが十分大きいので正規分布の確率をあてはめると、保有率の95%信頼区間(5%だけ間違うリスクを取った推定範囲)は、
p(t)=0.1%±1.96×0.07%=0~0.24%
PCR検査等によるこれまでの陽性数は約5000人で、東京の人口1400万人に対しては、
p(t)'=0.5万/1400万=0.0004(0.04%)
これは上記の信頼区間に含まれるので、少なくとも妥当な結果ではある。PCR検査陽性率を信頼区間の実際の下限と考えればよい。
しかし、nが小さいため今回抗体検査とPCR検査で抗体保有率とPCR陽性率に有意差が認められずあまり新しい知見が得られていない。
この結果だけからは、「実際の陽性率のほうがPCR陽性率より高い」という結論は導けない。
PCR受診者はほとんどが症状がある人なので、受けていない人の中にも感染者が一定数いるということは、今回調査前から常識でわかっている話で、今回のデータだけからは結論できない、あるいは常識を補強できないということだ。
今回の調査結果からの最大の情報は、リンクの記事コメントにもあるように、「抗体を保有している人の割合が東京で0.1%というと、単純に人口に当てはめて1万4000人程度で、実際に感染が確認された人数よりは多いが、予想していたよりも少ないと感じる。」ということだ。信頼区間の上限で考えても0.24%程度の保有率なのである(別の調査でニューヨークでは12%)。このことが明確になったのは今後の対策や日本での感染率の低さの究明などに役立つだろう。
なお計算の詳細は省くが、東京と大阪などの都市間で保有率pの有意差を検定したが、差が一番大きかった大阪-宮城間を含めて、すべて有意とはいえないという結果であった(有意差がないことを結論できる意味じゃないですよ)。
大阪の保有率(点推定)が高かったからといって、「大阪人はでかい声で話すから感染しやすい」などの風説を流布しないように!(笑)
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