2006/08/20

「分かっちゃいるけど」の壁を超えられるか

以前ここで取り上げたDr.コヴィーの「7つの習慣」であるが、思うようにページが進まない(この間10冊以上のほかの本を読んでいるにもかかわらずである)。最後まで読まずに勝手なことはいえないが、おそらくここに書かれている成功の原則のようなものは、一面では経験主義的な真理を突いているのであろう(ただし、米国化された近代資本主義社会の枠組みの中で、であるが)。
 ところがなんとも退屈なのは一言で言うと「書いてあることは正しい」のだが、「それを得心して自分のものとして運用していく」という観点では書かれていないように思われる点である。すなわちDr.コヴィーは原則を示しているのであり、それをどう自分の問題として捉えて、パラダイムシフトを起こしていくのかはあなた次第、というところがある(もちろん、そのことでこの著書の価値が落ちるとは思わない)。  「分かっちゃいるけど」できないことは我々凡人には多すぎるのである。

 この点で、品質工学の原則論は技術論のパラダイムシフトであることは疑いの余地がないが、それを実践、推進していくのは難しいという意味で似たようなところがあると感じる。つまり、自分の外側にある事象や法則、戦略論のパラダイムシフトなのであって、それを運用する人の考え方そのものを揺るがすようなパラダイムシフトを与えるに至っていないのである。もちろん、外側のパラダイムを理性で解釈でき、また豊かな感受性で感化されて、内側の自分をモーチベートして品質工学を続けている方はたくさんいらっしゃるのであるが、それでもつまりは「あなた次第」なのである。

 そこでさらに一歩進むために、1つのヒントを与えてくれそうな本を紹介する。最近読んだ本で、人生や生きがいに関するパラダイムシフトを引き起こしてくれた本がある。「生きがいの創造」(とその一連のシリーズ:飯田史彦著)である。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4569573142/sr=1-1/qid=1155430985/ref=sr_1_1/503-9999759-3811105?ie=UTF8&s=books

 この本はおそらく、科学技術にどっぷり漬かった唯物論者は目次を見ただけで拒絶反応ものだろう(下名もその一人であるが、なぜこの本を読むことになったかは「出会い」と言うしか表現が思いつかない)。本書では、意識体(いわゆる「魂」)や中間生(いわゆる「あの世」)などの、意思や大学教授らによる実証論的な科学研究成果を検証しながら、人間の存在理由や人生の意味を1つの仮説から紐解いてゆく。本書の筆者は経営学者(大学教授)であり、本書で扱うのは最終的には「生きがい」論である。  本書の仮説を1つの考え方として受け入れてしまえば(またそう考えることに全くリスクがないことも親切に解説されている)、人生は非常に力強く、また精神的に安定なものになるだろう。なぜそう感じられるのかは本書をあたっていただきたい。無神論者でも、また「人生論など他人に説得されたくない」と思う方でも読んで損はない1冊である。

 さて話をもとに戻すと、上記「7つの習慣」のような「原則は正しいのだろうが、分かっちゃいるけどできない」に対して、その人の内面の考え方やスタンスに対してパラダイムシフトを起こしてくれる可能性があるものの1つのが飯田氏の書の考え方である。

 品質工学の原則論はおそらく正しい(下名に真理など知るゆえもないので、あくまで他の考え方との相対比較でしかないが)。しかし「社会の自由の総和の拡大」というところまで得心して、それを技術者の生き方として実践していくためには、少なくとも下名のような凡人にはなんらかの人の魂をゆさぶるような経験(それが1冊の本なのか、人との出合いなのか、研究の成功体験なのか、臨死体験なのか・・・はさまざまであろう)が必要なのであろう。

  かく言う下名もまたその探し物の途中である。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

つるぞうさん
品質工学の考えていることを経営者に分からせることは至難の業ではないですね。
今度ある大手の製薬会社の幹部に講演することになりましたが、依頼されたプロジェクトマネージャーにとっては私の話し方で左右されるというのです。責任重大ですができるだけ分かる言葉で説明することを考えています。
社会的損失の最小化とか、個人の自由の総和の拡大などいっても到底理解されないでしょう。日本の経営者でも消費者の立場で考えることくらい当たり前だというのですが実際は企業の利益を優先しているのですね。利益という概念の中の目には見えない消費者の利益や損失を測定する方法を考えていないからです。SN比や損失関数がそれであることを知れば多少でも興味を示してくれると信じて話すしかないですね。相手が困っていることの代償が生産者側のコストだということを理解してもらえればよいのです。
貴方が推薦してくれた本を読んで見ます。
それにしてもよく勉強されますね。

つるぞう さんのコメント...

Kazz先生

いつもありがとうございます。
更新しなければというプレッシャー(冗談です)と、読んでいただいているという期待感からこのBlogが続けられています。
「生きがいの創造」、ぜひ感想をお聞かせ願いたいと思います。

Kazz先生の掲示板もいつも楽しく拝見させていただいています。レベルについていけずなかなか書き込めませんが、まだ生きていますので(^^; よろしくお願いします。