株式会社ジェダイトのつるぞうによる、品質工学(タグチメソッド)や統計手法などに関するエッセイ、オンラインセミナー(ウェビナー)・研修・講演・設計・開発コンサルティングなどの情報を中心に日常気になるトピックを紹介するブログです。
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2009/04/13
デジタルとアナログの標準SN比がつながった。
p.312の式を展開した結果、従来SN比の計算方法から導かれるデジタルのSN比は、
η=(1/n)(Sm-Ve)/Ve=(p-(1/n))/(1-p)
となる。p.312では、p/(1-p) になるように書いているが、実は、上のように、分子のところに、-1/nがくっついたような形になり、データ数の影響を受けることがわかる。 また、この式の形式は20世紀型であり、これがなぜアナログの標準SN比(21世紀型)とつながるのか、よく分からないでいた。
なお、「品質工学の数理」のp.184の(14.14)式では、n>>1のことが多いとして「≒」を用いている。近似するなら、-Ve の補正とか拘らなくても・・・と思うが、ちなみに、分子の-Veをひくのをやめてもなお一致しない。
では、エネルギー比型SN比ではどうか?
標準SN比というからには、エネルギー比型SN比の標準SN比の手順で愚直に求めてみよう。
データ数が n で、うち r個のデータが1、のこり n-r個 が 0 の場合である。
ST=1^2×r+0^2×(n-r)=r=np
y0=(1×r+0×(n-r))/n=r/n=p
r0=y0^2 =p^2
L=y1・y0+・・・+yn・y0=r・y0=rp=np^2
Sm=L^2/(n・r0)=(np^2)^2/(np^2)=np^2
Se=ST-Sm=np-np^2=np(1-p)
ηE=Sm/Se=p/(1-p)
となり、オメガ変換の式にピッタリと一致する。
つまり、オメガ変換の式は、エネルギー比型でないとスッキリとは導けない。
また、ηEの分子分母の成分は、
有効成分=良品率p
有害成分=不良率1-p
となっているので、
ηE=有効成分/有害成分=良品率/不良率=p/(1-p)
と非常に理解しやすい形になっている。
これでデジタルとアナログの標準SN比がエネルギー比型SN比でつながったことになる。
かねがね、(Sβ-Ve)/VN や nr/VN ではデジタルのSN比とつながらず、理解に苦しんでいたのである。 デジタルとアナログの標準SN比がなぜ同じことであるのか、理解しにくい面があったが、上記のようにエネルギー比型SN比を用いることでデジタルもアナログも同じ式であることが簡単に説明できるのだ。
2009/04/07
汎用的手法の提案は一般論か?
田口博士の半世紀にもわたる提案の実証と実績を軽視するものではまったくないが、田口博士以外から「原理的にはこういう可能性もあるので、本来はこうあるべき」というロジックや提案もあってよいはずである。しかし現実には、そのような提案は「実際の技術課題に基づいていない」とされて、一般論という誤解のもとに一蹴されてしまう空気がある(この「空気」という表現は的を射ていると思う。詳しくは、山本七平「空気の研究」)。
汎用技術の提案は一般論ではなかろう。とかく、田口先生以外の仮説に基づいた提案というのが非常に行いにくい状況にある(もちろん、下名の提案などは10年早いのは百も承知であるが)。
本当にQEを学問として、また汎用計測技術として洗練させていくためには、従来の帰納型で検証を続けるアプローチだけでなく、演繹型の仮説提案のアプローチもあわせて必要だと考えている。もちろん、後者のアプローチにおいてもその後の実地での検証が必要なのはいうまでもない。つまり、実例で証明するという意味では、これらのアプローチの重要性は対等なはずだ。
2009/04/06
利得が再現したら本当に市場で大丈夫といえるのか?
つまり、科学、QEに限らずそのこと自体か真に正しいかどうかではなく、実益性やその時代の通念などの社会的、政治的な制約や庇護を受けながら、認められていくのだということである。まあ、そのこと自体は科学哲学の小論文テーマレベルの知識としては知ってはいる。すべては人間の人間による活動なのであるから、その意味ではQEとて科学と同じアプローチを取らざるを得ないのである。
なぜ田口博士は最終的に事例で証明する方法をとったのか。それは、最初のY先生への質問に戻ると、SN比の再現性や加法性といったものが、客観的な真値として事前には定義できないからであろう。つまり、Y先生のおっしゃるように、「再現したからといっても、真値が分からない以上、最終的には信用することができない」のである。
SN比や損失関数は将来市場で起こる損失の予測にすぎないので、実際の市場での損失額が確定しない限りはその正しさの証明とならないのである。結局は長い歳月をかけてしかその正当性が分からない、というのであればこれは信頼性試験やワイブルプロットと同じではないか、という気さえしてくる(もちろん冗談)。
技術者のあるべき姿に近づきたい人へ「品質工学ってなんやねん」レビュー

ユダヤの訓えに「勉学は父、笑いは母」という言葉があるが、第1章は気軽にエピソードや笑いを交えながら、そして第2章はまじめに品質工学や技術者の本質にせまったのが、この「品質工学ってなんやねん」だ。関西品質工学研究会編となっているが、実際は第1章を研究会会長の芝野氏(コニカミノルタ)、第2章を同顧問の原先生が執筆されている。
第1章のエピソード集は社内の品質工学のセミナーや講演のなかのちょっとした話題提供や、品質昼礼などにすぐ使えそうなものばかりだ。品質ではなく機能性を評価・改善する重要性は「豚のフン」の話で笑いがとれるばかりか、機能性の改善の大切さの理解も深めることができるであろう。若い読者で、田口先生のお話を聞いたことがない、という方は、このようなエピソードの一端にふれることで、より品質工学や田口先生を身近に感じることができるに違いない。難しい品質工学を平易なエピソードで説明できる、というのはよほど深い見識なないとできないことである。
第2章は原先生らしい、厳しくも優しさあふれる品質工学論になっている。全体的に断定的な口調で書かれているが、これは癖のようなもので気にする必要はない。特に「ほんまもんの技術者とは」のところは多くの技術者が一度は読んでおくべき内容であろう(もちろん読んだだけではだめで行動しなければならないのだが)。これを読めば、単に品質工学の枠組みをツールと捉えるのではなく、技術者としてどうあるべきかという考え方として捉えることができることがわかるだろう。また、最後のリコーの細川氏の引用「理想を目指して技術開発を行うのと,妥協を目指して技術開発を行うのでは結果に大きな違いが出てくる」は下名の座右の銘の1つとなっている。
新書サイズで1700円と、価格を確認せずにレジに持って行ってしまうと、レジの金額表示に一瞬「ギョッ」とする価格設定ではあるが、本の価値は、紙の量でも、筆者がどれだけ価値があると思っているかでもなく、読んだ人次第なのである。体系的にまとまったものでしっかり勉強するのもよいが、同書のような多角的なアプローチで品質工学の全体像にせまろうとする入門書が他にないという点からみても、一度は手にとって見る価値はある。