(間違ってしまう)原因は使い手の理解不足や凡ミスによるものであった。これは担当者個人の問題だけではない。情報システムによってこういう担当者を「生産してしまう」という仕組み上の問題でもある。
(山崎将志「残念な人の思考法」)
日本ではOJTのような現場の訓練や、KYTのような危険予知、ボランタリーな小集団活動、経験といった、担当者個人のモチベーションや注意力、個人や共同体の暗黙値にリスク管理をゆだねる傾向が強いが、多民族国家ではシステム(仕組み、ルール)で管理する、またそのルールも簡単には破れないように(または担当者がルールを守りやすいように)仕組みにしておくのが普通である。
安全設計の世界ではリスクに対する対策に3段階あって、その対策順序が重要である。最初に行うのは「本質的安全」の設計で、そもそもそのようなリスクが生じないように、該当する作業を行わなくてすむような対策である。交差点の交通事故にたとえれば、交差点を立体交差にするようなものである(車に乗らない、外に出歩かないというのは非現実的だろう)。次に行うのは「機能安全」の設計でインターロックやフールプルーフなどの装置によって注意を促したり、物理的に危険な作業をできなくしたりするものである。先の例では踏み切りや信号機(+交通法規)がそれにあたる。機能設計においてはその装置が故障した場合にリスクを避けられなくなる。そして最後に行うのが「使用上の注意」などの喚起、教育によって使用者に注意を促すことである。先の例では、道路は横断歩道を信号や左右を見て注意して渡りましょう、と教育する類である。
さて品質工学におけるSN比の使用についても同じことは言えないか。つまり「SN比を使うときには、信号の範囲をそろえたり、水準数が同じになるように」注意を喚起するだけでは不十分で(というより順序としては最後で)、まずSN比自体に使用者が間違わないような仕組みを埋め込んでおくべきではないだろうか。それはそのような問題が発生してから考えるレベルの話ではなく、そのような使用上の間違いが起こりうるので、間違い得ないように未然防止しておく「SN比の機能安全設計」の問題である。実用上はエネルギー比型SN比がその一案であると考えている。
信号機や踏み切りと立体交差ではまったく建造コストが異なるので、両者はコストと許容できる事故の確率の兼ね合いで使い分けられているが、SN比の場合は計算方法の微修正のみで、むしろエネルギー比型のほうが計算コスト(工数)は少ないくらいである。ツールの機能安全設計は広く普及させる戦略の1つであると思う。
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