日本品質管理学会誌「品質」のvol.45、No.2、pp.64-72(2015)に、リコーの細川氏らによって、応用研究論文「パラメータ設計とT法を融合した開発手法の提案」が投稿された。この内容のベースは、品質工学会の2012年の品質工学研究発表大会(QES2012)で「T法によって拡張されたパラメータ・スタディー」として発表されていた(ちょうど、下名の発表の1つ前だったのだ)。
今回、品質工学誌ではなく、品質誌に投稿された意図を知るにはご本人にうかがうしかないが、それはともかく、本論文を読んで思う所がいくつかあったので、記録に残しておきたい。
QES2012では「パラメータスタディー」となっており、今回は「パラメータ設計」と変更になっているが、内容的には前者の表現ほうがしっくりくる。すなわち、氏が提案している方法論は、品質工学で目指している再現性の確認や、制御因子の水準最適化を行うパラメータ設計ではないということである。これは論文を精読するまでは下名も気付いていなかったが、氏も品質誌の論文内で「直交表の全ての行を実験する必要はない」「利得の再現性評価のための確認実験の必要はない」「(実験の打ち切りによって)実験期間の短縮に大きく貢献できる」などと記しているとおりである(その意味で、本論文の方法論がパラメータ設計から逸脱しているという批判は的外れであるーー論文タイトルに「パラメータ設計」と挙がっていること以外はーー)。
一見、パラメータ設計のような要因配置になっているこの実験計画がパラメータ設計でないとすれば、どういことなのかということがこの論文、またこのblogの記事の主旨である。
本方法では直交表を多数の現象説明因子ーーメカニズムの記述に関係するものであり、この中に「システム全体の評価が可能なもの」である「基本機能」に関係する因子が含まれていることに注意するーーの変化のバラエティを得るのに活用している。制御因子が直交表のいくつかの行の指示する組み合わせで設計された場合(このあたりはパラメータ設計的ではあるが本質ではない)、現象説明因子は制御因子に対して従属であるために、現象説明因子はいろいろな値にふるまう。
現象説明因子のふるまいと、目的特性(SN比や、計測特性yの分散)の関係を調べることで、目的特性がなぜ良くなった(悪くなった)のかを知ることができる。ここで、制御因子を割り付けた直交表の行の一部しか実験おらず、また一般には現象説明因子は多数あるので、現象説明因子を説明変数とした目的特性の解析は、過飽和計画となる。そこで、ここにT法をもちいて、現象説明因子と目的特性の解析を紐解く(T法が過飽和計画の一種であることは、このblogの記事(1)(2)でも指摘したとおりである)。過飽和計画の場合、たまたま目的特性のふるまいを説明してしまう因子が出てくるリスクがあるがその対処方法も詳しく記載されおり、まさにかゆい所に手が届いている。
さて、下名が感銘をうけたのはこれからだ。原因説明因子には、基本機能に関係する因子が含まれていれば、システム全体の改善指標である目的特性(SN比等)とその因子の挙動とは相関関係にあるはずである。そのような因子を見つけ出せれば、【実験的に基本機能を見出すことができる】のである。あるコンサルタントからは「基本機能とは発明である」「センスが必要」などともいわれたことがあるが、この方法論を用いれば、基本機能をシステマチックにーーもちろん技術が創造である以上、工学的・技術的な発明やセンスは必要なのは変わらないがーー見出すことができる。これはこの方法論が示す極めて重要かつ独創的なポイントであり、技術開発における機能定義の考え方に新しい視点をもたらす。さらには「基本機能とはなにか」「どう定義すべきか」という品質工学における永遠のテーマに対する具体的行動を提供するものである。
株式会社ジェダイト(JADEITE:JApan Data Engineering InstituTE)
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