2016/05/03

アンナ・カレーニナと機能性評価

 会社は10連休。ここ数日は出ずっぱりだったので、久々にブログへ投稿しますね。

 MTシステムの説明で田口玄一先生が引き合いに出された、トルストイの「アンナ・カレーニナ」の一節。

”幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である。”

 つまり、MTシステムおける正常な空間(単位空間)は均一でそろっているが、異常な空間(信号空間)はその様相がさまざまであるということに対するたとえ話である。

 様相がさまざまであるということは、事前にすべてのパターンを予測することが難しい(というか、不可能に近い)であるということだ。MTシステムでは、こちらの異常な空間のデータベースを作っておくのではなく、事前に予測しやすい、定義しやすい正常な空間のデータベースを作っておいて、その正常な空間からの差で、異常かどうかを定量的に識別しようとした。

 つまり人の体調でたとえると、健全状態(正常)と疾病状態(異常)では前者は均一でばらつきやパターンが少ないため、これを基準として、後者の度合いを計測しようというのだ。(本稿では異常な様相の”種類”の判別については論じない:MTシステムにはその方法も用意されている)

 さて、MTシステムではよく引き合いにだされる上記の話だが、これはハードウェアの品質計測法である機能性評価でも同じだと考えることができる。

 製品が設計・製造・出荷されたのち、機能(お客さまがほしい出力)の変動や、悪い場合は故障などの不具合に見舞われることがある。これは使用段階でさまざまな環境条件や使用条件にさらされる影響からである。これらからの影響が少ないほど、安定で安心して使える製品であることは明らかであるため、製品出荷前までの段階で、これらの影響に対して何らかの対応をしたいわけだ。

 ところが、不具合が発生する原因(外乱)や、それによって引き起こされる製品内部の変化(内乱、故障モード)は、お客さまや仕向け先などによってさまざまで、特に前者の場合はすべてを事前に予測するのは不可能に近い。たいがいは、予測できる範囲の試験や対策をへて、製品を出荷させているのである。

 そこでこう考えてはどうか。製品の(機能の)あるべき姿や理想状態というのは、正常な空間であり、均一で定義しやすい。田口玄一先生が唱えた、ゼロ点比例式もその1つである。そのような、機能のあるべき姿からの変動(ずれやばらつき)が発生するように故意にノイズ因子(誤差因子)を与えて、その変動の大きさを定量化することで、使用段階での製品品質の実力を評価する。これがSN比である。

 このようなアナロジー(類比)で見ていくと、品質工学におけるMTシステム(パターン認識、ソフトウェアの設計)と、機能性評価(ハードウェアの安定性の評価)の根本は同じ考え方であることが見えてくる。

 これを田口先生はいみじくも、「品質工学は計測法」とおっしゃったのである。すなわち、計測法とはものさしの定義であり、それは原点・ゼロ点(正常な空間)の定義と、単位量(1目盛りの大きさ)の定義にほかならないということである。

 以上、下名なりに品質工学が計測法であることの説明を試みたしだいである。

株式会社ジェダイト(JADEITE:JApan Data Engineering InstituTE)

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