2014/05/07

「ほどよし信頼性工学」なるもの

「ほどよし信頼性工学」というものが最近、言われだしているらしい。
たとえばこちら。

http://thepage.jp/detail/20140227-00000017-wordleaf

拝見した感想をつらつら書きたいと思う。

ポイントは「ほどよいコストと品質・性能をバランスさせる」
「設計はシンプル・イズ・ザ・ベスト」を目指すとのこと。

コストを損失・効用をバランスさせて設計するという考え方は以前からある。
例えば、品質工学の「損失関数、許容差設計」の考え方や、信頼性技法の7つ道具の「信頼性・コスト設計法」などもその1つである。

またそもそも品質管理とは、品質保証を「経済的に」実現するための管理活動及び管理手段であり、「ほどよし」を今更強調するべき背景があるとも思えない。

では「ほどほど」でよいのかというと、実際は単純ではない。

先の地震の津波の事故に見られるように、「1000年に1度」に対しても万全の対策を打つべきなのか、「1000年に1度」まで考慮しなくてよいのかは、コストというよりは社会的なコンセンサスの問題も絡んでくる。

功利主義至上の考え方が、世の中に受け入れられなかった事例として「フォード・ピント事件」を思い出す。
人命がかかわる場合、そのような「センチメント」の問題は避けて通れないと考える。

もう1つの設計をシンプルにするということは、余分なサブシステムは整理してシンプルにできるわけだから、信頼性上もコスト上も部品や公差の管理上も有利である。

これも信頼性工学では、以前から言われていることで、複雑にすれば各パーツの故障率の掛け算でシステムの故障率が高くなるので、その面では設計の常識といえる。
VE手法や、トヨタのGD3手法でもそのようなことを言っている。

ただし、逆の考え方もある。品質工学におけるロバスト設計(パラメータ設計)では、設計を複雑にすることで、出力を安定にする考え方をとる。
写真用のカラーフィルムの多層構造、インクジェットプリンタインクの多色化(3原色以上)、カメラ用レンズの多群構造など、品質を安定化させるための工夫がされており、これらは基本的に「複雑化」の方向性をもっており、これが特許の要になっているわけだ。

これは教授のいう「屋上屋を架す」のは異なる。

世の中の製品には、確かに「設計根拠がわからないので変更(シンプルに)できない」「変更した結果に対して責任がとれない」などの理由で不合理な設計になっているものは多数存在するのであろう。

しかし設計も心(多くは個人的な損得勘定)をもった人間の活動である以上は、すべて合理的には進まない。
そのあたりは、品質工学の損失関数があまり普及しない原因1つになっていると考察しているのだが、それはまたの機会にする。


株式会社ジェダイト(JADEITE:JApan Data Engineering InstituTE)

1 件のコメント:

Runner_Totchan さんのコメント...

 もとへ戻っただけのような気がしますね.

 自動化,量産化で修理するより買い換えるほうが安くなったのだけれど,もっと安くするために,壊れにくくしてきた.

 しかし,修理の仕方によっては,修理したほうが安くなったので,修理することに回帰した.

 7月に信頼性・保全性シンポジウムが開催されるけれども,保全性の話題はいつも少ない.修理系システムのTTFをTBFと区別して,うまく説明できていない事態も見られる.

 安全を確保することで,信頼性の妥協点を調整できるように思える.