2023/09/04

エネルギー比型SN比(不揃いで標示因子がある場合)

読者より下記の感想と質問をいただいた。
筆者として、またエネルギー比型SN比研究の研究者の一人として、大変うれしいコメントをいただき、冥利につきるところである。
今回の質問は、著書で説明されていないケースなので回答とともに紹介する。

メッセージ:
現在入社5年目であり、独学で品質工学を学び始めて2ヶ月目の初心者です。他の書籍を読んでも数式が煩雑で諦めかけていた中この本に出会い、シンプルでわかりやすい計算で従来のS/N比と同じ結果が得られる手法に大変感動致しました。初めての機能性評価を是非エネルギー比型S/N比を用いて実践していきたいと思います。

質問:
ノイズ因子水準ごとに信号因子水準値が異なっており、かつ標示因子がある場合の計算について簡単な例をご教示いただくことはできますでしょうか。

回答:
標示因子がある場合、一般には以下の2つの場合があります。
1)標示因子水準ごとに設計が変えられる場合は、
  標示因子の水準ごとに別々にSN比を求める(まとめる必要がない)
2)標示因子のいずれの水準も1つの設計の中で出現する場合は、
  標示因子の変動成分は、有効成分にも有害成分にも含まずに計算する

1)の例としては製造の機能において使用材料の違いごとに製造条件が変えられる場合など
2)の例としては自動車のステアリングの機能における車速の場合など

今回のご質問は2)のケースですね。

この場合、さらに2つの方法があり、実務上はどちらでも構いません。
2-1)標示因子の水準ごとに個別にSN比(db単位)を求めてそれらの算術平均を求める
2-2)2乗和の分解の考え方を用いて計算する

2-1)のケースでは標示因子水準ごとのSN比の求め方は標示因子なしの場合と同じですので、問題ないかと思います。

今回のご質問は2-2)のケースで、
統一された原理原則でSN比を求めたいということかと推測します。

以下、信号の記号をM、出力の記号をy、2乗和の記号をS、傾きの記号をβ、有効除数の記号をrとし、適宜添字を付して用いる。

標示因子水準ℓによってノイズ水準数nが同じで、信号因子の水準はすべてばらばらの場合※あまり想定できないですが、標示因子水準ℓによってノイズ水準数nが異なる場合は、2-1)の方法を用いてください。

ノイズ因子ごとまた標示因子ごとに信号の水準値や数が異なる場合も二乗和の計算の考え方は同じです。標示因子の変動成分(無効成分)はSN比の有害成分にも有効成分にも含まれないだけです。

ノイズ因子Nがn水準、信号因子Mがm水準、標示因子Pがq水準とします。
これらの組合せのnq個の水準組合せにおける各データから平均の傾きを求めます。
ノイズをi、信号因子をj、 標示因子をℓで水準であらわすと、

 β_iℓ =∑j (M_ijℓ・y_ijℓ)/r_iℓ

ここに有効除数

 r_iℓ=∑j(Mijℓ)^2

これらiℓ個の傾きの平均が全体の平均β_0

 β_0=∑i∑ℓ(β_iℓ)/nq

有効成分

 S_β=nqrβ_0^2

ここに有効除数

 r=∑i∑j∑ℓ(Mijℓ)^2

β_iℓから、標示因子の水準ℓごとに平均の傾きβ_ℓを求める

 β_ℓ =∑i (β_iℓ)/n

標示因子の変動成分(無効成分)

 S_P=∑i∑j∑ℓ(M_ijℓβ_ℓ- Mijℓβ_0)^2

有害成分(すなわちS_N×β +S_e)は平均の傾きから各データまで変動からS_Pを引いて求められます。

 S_N=∑i∑j∑ℓ(yijℓ - Mijℓβ_0)^2- S_P

SN比は、

 η=S_β/S_N

ただし、

 S_T≠S_β+S_N+S_P (非直交データのため) ※S_T=∑i∑j∑ℓ(y_ijℓ)^2

なお、S_N×P(標示因子ごとのノイズの効果の違い)はS_N(の中のS_e)に含まれていると考えることができます。SN比を求める目的では分解の必要はありません。

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