2025/02/28

品質工学会におけるバーチャルパラメータ設計の直近10年間の状況と今後の課題(まとめ)

Chat-GPT PlusでDeep Researchが使えるようになったので、さっそくニッチと思える分野の調査でお手並み拝見。品質工学会が提唱する「バーチャルパラメータ設計(VPD)」について、普通にGPT等に質問すると、バーチャルの意味をコンピュータシミュレーションやAIを使った設計ととらえる回答が多く、要を得ない。

そこでDeep Researchを使って、VPD直近10年間の日本の研究成果と今後の課題について調査してみた。特に製造業分野に焦点を当て、最新の論文や実践事例をまとめてもらった内容を紹介する。所要時間は10分ほどだった。出典も含めて詳細な内容まで踏み込んで全体を把握できるレポートは、なかなか便利そうだ。なお、ワードクラウドは別のツールで作成したものである。

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バーチャルパラメータ設計の研究動向(直近10年間)と製造業への応用

最新の研究論文・発表の概要

直近10年間、日本の品質工学会において「バーチャルパラメータ設計(Virtual Parameter Design, VPD)」は活発な研究テーマとなっており、賛否両論を含め盛んに議論されています ([PDF] バーチャル評価の現状と課題 (1) - 品質工学会)。VPDは、タグチメソッドに基づくパラメータ設計を“実物を用いず仮想的に”実施する手法で、専門家の知見シミュレーションによって製品・プロセスの性能評価を行う点に特徴があります ([PDF] バーチャルパラメータ設計の可能性と課題)。例えば、品質工学会誌では2022年に技術向上委員会による解説「バーチャルパラメータ設計の可能性と課題」が掲載され、VPDの意義や問題点が総括されています (品質工学会 学会誌「品質工学」)。この中では、VPDの黎明期として2005年頃のIHIにおける微小径ドリル加工最適化の事例にまで言及されており、当時から切削抵抗の測定結果を基にシミュレーションを活用したVPDの試みがあったことが紹介されています ([PDF] バーチャルパラメータ設計の可能性と課題)。

品質工学会の論文賞でもVPD関連の研究が頻繁に表彰されており、研究成果が蓄積しています。2016年には「バーチャル設計を用いたシャッタ機構の設計」が論文賞銀賞を受賞し (品質工学会 論文賞)、2017年にはコニカミノルタの埴原文雄氏らによる「構想設計へのバーチャル・パラメータ設計の活用の研究」が論文賞金賞を受賞しました (品質工学会 論文賞)。この研究は学会設立25周年特集号(品質工学Vol.25 No.5)に掲載され、大規模システム(デジタル複合機の画像形成プロセス)の全体最適化にVPDを適用した先駆的事例です (品質工学会 論文賞)。その後も品質工学研究発表大会などでVPDに関する発表が継続しており、例えば2022年にはリョービ株式会社・寶山靖浩氏による「金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価」が論文賞銀賞に選ばれています (品質工学会 学会誌「品質工学」)。このように、この10年間で論文誌や学会発表を通じてVPDの事例研究や手法論が着実に報告されてきました。

バーチャルパラメータ設計の成功事例と実際の活用方法

製造業分野では、VPDの適用によって開発初期段階から品質問題を予防し、設計最適化を図った成功事例が報告されています。コニカミノルタでは、複合機や光学機器の開発においてシミュレーションとパラメータ設計を融合し、試作品を作らずに設計パラメータの最適化を実現する開発プロセス改革に取り組みました () ()。例えば車載用特殊カメラの構想設計段階で、CAE(数値シミュレーション)モデル上に信号・ノイズ条件を設定して機能性を評価し、ロバストな設計案を導出しています () ()。この手法により、市場で発生しうる問題を前倒しで潰し込む成果を上げたとされています ()。コニカミノルタのシャッタ機構設計の事例(2016年銀賞)では、製品内部のサブユニットレベルでVPDを適用し、物理試験を行わずに設計案を評価・改良しました (品質工学会 論文賞)。さらにその続報として取り組まれた画像形成システムの構想設計(2017年金賞)では、複数の分野の専門技術者6名が評価者となり、各種設計因子の組み合わせに対する出力画像の品質を11段階評価するというユニークな手法が採られました (品質工学会 論文賞) (品質工学会 論文賞)。L18直交表に割り付けた制御因子に対して人間の感性による評価を行い、1回目評価後に評価者同士で合議・認識共有した上で再評価することで、全員が合意する最適案を導出しています (構想設計へのバーチャル・パラメータ設計の活用の研究 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター)。その最適条件により現行比約10dBの機能向上(SN比改善)を達成し、並行して行ったCAEシミュレーションによる設計最適化結果とも同じ傾向であることを確認しています (構想設計へのバーチャル・パラメータ設計の活用の研究 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター)。このケースでは専門家の知見を仮想評価に活かしつつ、デジタルシミュレーションで裏付けを取ることで、バーチャル評価の妥当性と信頼性を高めた点が特徴です (品質工学会 論文賞)。

また、製造プロセス改善へのVPD活用例として、リョービ株式会社のダイカスト金型補修工程での事例があります (品質工学会 学会誌「品質工学」)。この研究では、肉盛溶接による金型補修に関して現場の2部署が抱える「どの条件が品質に効くか」という認識の違いに着目しました。VPDにより両部署の技術者が考える重要因子とその効果を仮想評価し、食い違っていたある要因について仮説検証実験を計画しました (金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価)。実際に双方の部署が影響があると主張した条件で試験片を作製し、溶接時の消費電力や溶接部の引張強度を計測したところ、優れる条件がどちらかが明確になり (金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価)、その結果を両部署で共有することで技能に関する共通理解の深化につながりました (金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価)。このようにVPDを切っ掛けに現場の勘所の検証と知見統一が図られ、プロセス改善に結びつけた点が成功要因とされています。

以上の事例から、バーチャルパラメータ設計は製品設計の構想段階から生産プロセスの改善まで幅広く応用されており、専門家の知識CAEシミュレーションを組み合わせて活用する実践例が蓄積されています。

製造業における導入のメリットと課題

製造業でVPDを導入するメリットとして、まず開発リードタイムとコストの削減が挙げられます。実物試作や大量の物理実験を行うことなく設計パラメータの効果を評価できるため、試行錯誤の期間を短縮し開発コストを抑制できます () (品質工学会 論文賞)。特に自動車部品や精密機器のように試作にコストが掛かる分野では、コンセプト段階で多数の設計案を仮想的に評価・比較できる意義は大きく、市場投入前に品質問題を予見して対策を打てる利点があります () (品質工学会 論文賞)。また、従来は各部署・サブシステムごとに最適化していた設計を、VPDによりシステム全体を俯瞰して統合的に最適化できる点も重要なメリットです (品質工学会 論文賞) (品質工学会 論文賞)。実際にコニカミノルタの事例では、画像形成プロセス全体を見渡した評価手法によって従来手法の「サブシステムのつなぎ合わせによる開発」の殻を破り、将来の技術価値を見落とさない戦略的なシステム選択が可能になったと報告されています (品質工学会 論文賞) (品質工学会 論文賞)。さらに、評価の迅速性も見逃せません。専門家の頭の中やデジタル空間上で評価が完結するため、短時間で結果を得ることができ、開発サイクルの高速化に寄与します (品質工学会 論文賞)。リョービの例では部署間の合意形成にもVPDが役立ち、部門横断的なコミュニケーション促進という副次的な効果も得られています (金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価)。

一方、課題としては評価結果の信頼性と再現性が大きなテーマです。VPDでは人間の感性や経験に基づく評価を行うケースも多く、評価者が異なれば結果が変動するリスクがあります (品質工学会 論文賞) (品質工学会 論文賞)。実際、前述の画像形成システムの研究でも「評価者(人)は計測器に相当する」と指摘されており、各人の評価にばらつきが大きい場合は従来のパラメータ設計と同様にSN比(評価の一貫性)が低下して有効な結論が得られにくくなると報告されています (品質工学会 論文賞)。この対策として、評価者の合議多面的な人材の選定によって主観の偏りを抑える工夫が必要とされています (品質工学会 論文賞)。しかし合議による平均化は極端に言えば「凡庸な結果」に収束する恐れもあるため、評価者一人一人のスキルと洞察力に依存する側面は否めません (品質工学会 論文賞)。また、シミュレーションモデルを用いる場合でも、そのモデルが現実の現象をどこまで忠実に再現できているかという懸念があります。品質工学では「必ずしも現象を忠実に再現する必要はなく、システムの機能さえ再現できればよい」とされますが () ()、現場の技術者にとってはシミュレーション精度への不安が残ることもあります。このように、バーチャル評価への信頼性と納得感をどう醸成するかが導入上の課題となっています (品質工学会 論文賞)。実務面では、VPDを実施できる人材育成(品質工学とCAEの両スキルを持つエンジニア)や、部署間で評価結果を共有・理解するための社内文化づくりも重要なポイントです。さらに、VPDで得られた結論を最終的に実機検証で裏付けるプロセスも依然必要であり、仮想評価と現実試験の接続をどう最適化するかも検討課題と言えます。

今後の研究の方向性と未解決の課題

バーチャルパラメータ設計に関する今後の研究方向性としては、上記課題への対応策を深化させることが中心になります。まず、評価信頼性の向上に向けて、シミュレーションとVPDのハイブリッドな活用が一層重要になるでしょう。既に先行事例では、VPDの結果を並行するCAE解析で検証し妥当性を確認する試みがなされています (品質工学会 論文賞)。今後はこのアプローチを発展させ、デジタルツインAIによる解析を組み合わせて仮想評価の精度と再現性を高める研究が期待されます。また、品質工学会では「VPDの可能性はシステム全体への適用範囲拡大、評価の速さとコスト低減にある」と指摘されており (品質工学会 論文賞)、より大規模・複雑なシステム(例えば自動車の統合制御システムや生産ライン全体の最適化など)への適用可能性が探られています。こうした分野では、部分最適の集合ではなく全体最適を実現する評価手法としてVPDの果たす役割が大きく、将来的な価値創出につながると期待されています (品質工学会 論文賞) (品質工学会 論文賞)。一方で、「人を使った評価ゆえに残る課題」にどう取り組むかも未解決のテーマです (品質工学会 論文賞)。評価者の選定基準や評価プロセスの標準化、評価結果のばらつきを定量的に補正する手法など、VPD実施のガイドライン整備が今後の検討課題となります。実際、品質工学会の論文賞選考講評では「短時間で再現性のある評価ができることを示した」点や「複数コンセプトを評価できる可能性」を高く評価する一方、「信頼性と納得性に対する課題が多い」ことを認め、今後多くの事例を通じた技術蓄積に期待を寄せています (品質工学会 論文賞)。これは、様々な製品・プロセスでVPDを適用し知見を共有することで、手法の汎用性や問題点を明らかにしていこうという方向性を示唆しています。

最後に、品質工学会内部でも依然として慎重な意見はありつつも、VPDを含む「バーチャル評価」は今後の品質工学の重要な柱として認識されています ([PDF] バーチャル評価の現状と課題 (1) - 品質工学会)。社会全体のデジタル化・DX(デジタルトランスフォーメーション)の波に乗り、設計段階のバーチャル化は製造業の競争力強化に不可欠となっています。その中で品質工学的アプローチを融合したVPDは、日本発の独自手法としてさらなる発展が期待されます。未解決の課題を一つ一つ検証・解決しながら、より多面的で信頼性の高いバーチャルパラメータ設計へと深化していくことで、製造業における新たな価値創造に寄与していくでしょう (品質工学会 論文賞)。

参考文献・情報源: 日本品質工学会誌「品質工学」論文・記事 (品質工学会 論文賞) (品質工学会 論文賞)、品質工学会論文賞選定経緯 (品質工学会 論文賞) (品質工学会 論文賞)、企業技術報告 () ()、学会発表事例(コニカミノルタ、リョービ) (金型補修のための肉盛溶接のバーチャル設計と機能性評価) (構想設計へのバーチャル・パラメータ設計の活用の研究 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター)。

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