過飽和計画における回帰分析では、説明変数の数が実験回数(サンプル数)を超えるため、通常の重回帰分析では解が一意に定まらず、多重共線性の問題が生じる。これに対処するために登場するのが、MTシステムのT法(およびMSR)と、正則化回帰(LassoやRidge)である。それぞれの違いと優劣を比較してみよう。
1. T法(MTシステム)とは
手法名 | T法(Taguchi Method)またはMSR(Multiple Single Regression) |
基本原理 | 各説明変数と目的変数の関係を個別に単回帰で求め、相関を無視して合成 |
利点 | - 項目数がサンプル数を超えていても計算可能 - 多重共線性の影響を受けにくい - 寄与度の可視化が容易 |
欠点 | - 相関を無視するため、交互作用や冗長性を考慮できない - 統計的な厳密性に欠ける場合がある |
2. 正則化回帰(Lasso・Ridge)とは
手法名 | Lasso回帰(L1正則化)、Ridge回帰(L2正則化) |
基本原理 | 回帰係数にペナルティを課すことで、不要な変数の影響を抑制 |
利点 | - 多重共線性に強い - モデル選択が可能(Lassoは係数をゼロに) - 統計的に厳密で汎化性能が高い |
欠点 | - サンプル数が極端に少ない場合は不安定 - ハイパーパラメータ(λ)の調整が必要 - 実装に統計ソフトやスキルが必要 |
3. 優劣の比較
観点 | T法(MT) | 正則化回帰 |
---|---|---|
多重共線性への耐性 | ◎(相関を無視) | ◎(ペナルティで制御) |
統計的厳密性 | △(経験則ベース) | ◎(理論的に確立) |
モデル選択 | △(寄与度分析) | ◎(Lassoで自動選択) |
実装の容易さ | ◎(Excelでも可能) | △(Python/Rなどが必要) |
解釈性 | ◎(寄与度が明確) | ◯(係数で判断) |
汎化性能 | △(過学習の可能性) | ◎(交差検証で制御) |
結局、どちらを使うべきか?
- T法(MTシステム)は、実験回数が極端に少ない場合や、簡易な解析を素早く行いたい場合に有効。計算が簡単なため、Excelシートへの実装は容易。
- 正則化回帰は、統計的な信頼性や予測精度を重視する場合に適する。特に、Lasso回帰は変数選択を兼ねるため、過飽和計画において非常に有用である。ただし、専用のソフトやプログラミングが必要となる。
- パラメータ設計の応用で、直交表の代わりに過飽和の計画(カンファレンス行列)を使用する場合、これらの分析手法が有効となる。
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