2010/05/15

損失関数とテイラー展開は関係ない

 損失関数の導出の式が教科書に載っているが、まず最初の損失の定義式は実はなんでもいい。そのあとにテイラー展開して2次の項を残すというストーリーなので、境界条件(関数が原点をとおって、原点ではなめらかにつながる、つまり微係数が0)さえ前提として受け入れればそれで十分である。

 しかるに、ここで任意の損失の定義式を近似するのに、テイラー展開すなわち多次元式で展開する必然性は、そこでは述べられていない。別にフーリエ変換でもいいはずである(SinまたはCosカーブの頂点の部分を原点にもっていけば、2次式と同じようにもとの境界条件を満たすことができる)。

 しかし、損失関数が2次式で表されるというのは、この損失関数の導出とは別の観点で必然性がある。つまり、損失はエネルギーに比例する量であることと、計測する特性値(基本機能の出力)がエネルギーの平方根に比例する量にする戦略から、この両者が整合するのである。もちろん、評価尺度であるエネルギー比型SN比もそれに整合すると考えている。

 よって、テイラー展開はそれ自体に必然性はないが、何を計測するか、どのような量が損失に比例するかという、品質工学の基本原則から損失関数は2次関数になるべきで、それがたまたまテイラー展開の低次項をとった式に一致すると考えるべきである。

 宮川雅巳先生の「品質を獲得する技術」には、前提条件を満たすもっとも簡単な関数形は2次式である、というまったく論理的かつ理解しやすいな記述があるが、そのとおりであると思う。

 だれしも、数式で説明されているものはいかにも正しいように思い込んでしまうきらいがあるが、テキストに古くから記載されているからといって、考え方を鵜呑みにするのは危険である。

6 件のコメント:

らすかる母 さんのコメント...

>宮川雅巳先生の「品質を獲得する技術」には、前提条件を満たすもっとも簡単な関数形は2次式である、というまったく論理的かつ理解しやすいな記述があるが、そのとおりであると思う。

はい?どこがどう論理的でかつ理解しやすいのかさっぱりわかりません・・・。
つるぞうさん、ものすごく難しいことやってらっしゃるんですね。

私は、奥様のお料理のファンですので、お料理&ワインのエントリーを楽しむことにします。(身の程をわきまえます・・・)

kazz さんのコメント...

つるぞうさん
Kazzです。
損失関数は市場に出てから消費者に損失を与えるかという金額ですから,実際に調べることができないので,たまたまテーラー展開で表したら2次式で説明できるということだけで,貴方の言われるようにテーラー展開でなくてもよいのです。
大切なことは,目標値からのばらつきが消費者の損失で,データの平均値のばらつきと平均値の偏りが問題になることです。
目標値に調整は簡単にできるので,調整後のばらつきが消費者のばらつきと考えればよいのです。そのばらつきがSN比の逆数で表されるのです。
テーラー展開は「実際の市場損失」を説明するための便法であって,貴方が仰る通り,損失がテーラー展開から出たものではないのです。

kazz さんのコメント...

つるぞうさんは損失関数をテーラー展開から求めたと勘違いされているようですが,市場における全損失を考えるために,テーラー展開を用いたに過ぎません。

つるぞう さんのコメント...

>どこがどう論理的でかつ理解しやすいのかさっぱりわかりません・・・。

品質工学のほうにも書き込みをいただいて、ありがとう。

>身の程をわきまえます・・・

またまたご謙遜を!(らすかる母さんは職業柄、数理統計はおそらく得意でしょう?)

つるぞう さんのコメント...

kazz先生
いつもありがとうございます。急ににぎやかになりました。

>つるぞうさんは損失関数をテーラー展開から求めたと勘違いされているようですが,

損失関数が2次形になることは、テーラー展開から無条件に説明されているのが事実だと思います。この説明の必要性に疑問があります。宮川先生のように(とりあえずはいろんな関数形が考えられるが)1番簡単なのは2次関数である、と言われたほうが納得できました。

>市場における全損失を考えるために,テーラー展開を用いたに過ぎません。

その全損失の式(製品のそれぞれ個体の損失額の時間積分の平均)が、その後の式の導出となんの関係もないことが問題だと思います。

もちろん、田口先生は損失関数が2次形になるのは、エネルギーとの関連で説明されている部分もあるので、私はそちらのほうに賛同しているわけです。

kazz さんのコメント...

つるぞうさん

>その全損失の式(製品のそれぞれ個体の損失額の時間積分の平均)が、その後の式の導出となんの関係もないことが問題だと思います。

この式と損失関数の式とは直接関係はないと思います。
特性値の個体の損失額は,市場に出てからの金額ですから,1円から数億円にばらつきますから特定できないのでN個の販売数の平均を考えたものですから,目標値に合っている場合は損失ゼロであるから,残ったものが2次式で示されるという考え方をテーラ展開で説明したわけですから一応納得できます。
私は,この式と目標値からのばらつき(偏りとばらつきの和)から求めた損失関数が一致するので納得しています。