1999年に品質工学に出会ったときに真っ先に衝撃を受けたのが損失関数の考え方(技術と経済の接点)であった。損失関数が提言されて(例えば1966年の「標準化と品質管理」誌に登場)から数10年たつが、その基本的な考え方が田口博士から提言されて以来、フォロワーによって多数実践されたものの、損失関数の妥当性が議論されたことは少ないではないかと思う。
下名は損失関数による推定の妥当性を理屈では納得しており、有用性もあると考えている一人だけれども、同時に、現実の社会損失との照合があって初めて証明されると考えるものである。事実による仮説の検証は科学の基本である。品質工学自身を理想機能に近づけるためには、問題意識と科学的検証が必要である。
ここで「品質工学は科学ではない」というあり得そうな意見に先回りしておく。品質工学の設計哲学が科学的アプローチかどうかということと、品質工学が仮説している内容を実証するためのアプローチが科学的かどうかということは全く別の話である。今は後者の話をしている。品質工学における技術評価の話と、品質工学という考え方をメタに評価しようする話を混同した議論が多いのは残念である。
巷の事例を見てみると、アプリオリに損失関数が正しいと信じて、それでSN比やコストを最適化したら損失関数でこれだけ助かりました、ということしか書かれていない。「ただ信じて使ってみたら、結果がよかった」というのでもよいと思うのだが、その場合の「よかった」とは実際に現実の社会的損失を計測した上での話と考えてよいのだろうか。それも、損失関数を使わなかった場合と比較した上でアドバンテージがあったという話と考えてよいのだろうか。こういうエッセンシャルな部分は論文にはほとんど書かれないことに対して、下名を含めた後発の研究者は、なんとなく腑に落ちない感じがしている。
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