損失関数を活用する上での課題を改めてまとめておくことは今後の議論や研究の指針になるだろう。一部解決案が提示されているものも含めて記しておく。
(1)損失関数の横軸となる物理量(主たる品質特性)をいかに設定するか。
さらに、1つの品質特性で複雑な製品の社会的損失が推定できないとすれば、複数の品質特性による損失をいかに総合するか、ということ。
(2)その品質特性の機能限界(LD50)をどのように決めるのかということ。
品質工学では「新しいシステムの創造」の重要性を言っているので、過去に市場実績のない製品のLD50(お客の感じ方)をいかに事前評価すべきかということ。
(3)機能限界を超えたときの平均社会的損失A0をどのように見積もるのか。
クレーム費用の何倍、といったような経験式の活用も考えられるが、ここに概算が許されるのであれば、テイラー展開する前の損失関数の式の値も概算で求められることになるのではないか。
(4)安全係数を取った上での許容差に入っているものでも、損失を発生するということをいかに理解・運用してもらうか。
(5)損失関数によるコストのバランスはいわば、世代や立場の違いによる損失の分担、トレードオフである。部門全体(外注や部品メーカも含めて)による理解、納得が必要である。
将来や他人とコストをバランスできるという考え方は、ある種の全体主義的な社会モデルである。利害が交錯する合議制ではほとんど不可能。「トップのリーダーシップ」というのは、言うは易し・・・。
(6)現在と将来の価値の違いや、人間の行動における動機付けの影響などの経済学の初歩的な条件が考慮されておらず、現実に適用したときに、いきおいベテランの皮膚感覚と合わず、運用上の齟齬を生じる可能性があること。
とにかくいい技術を開発すれば社会損失は減るのだから、と技術開発に邁進するのも1つのいき方だが、損失関数が許容差設計やオンラインQEなどのさまざまな局面で関連している以上、このような課題について考えるのは無駄ではないと思う。
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