2016/12/04

損失関数とSN比

 日科技連出版社から「エネルギー比型SN比―技術クオリティを見える化する新しい指標」を上梓したが、ここにはあえてSN比と損失関数の関係についてはふれなかった(あえて、と言っているように、当然全書「これでわかった! 超実践 品質工学 ~絶対はずしてはいけない 機能・ノイズ・SN比の急所~」でも損失関数には踏み込んでいない)。

 理由はいくつかあるが、もっとも大きな理由は、損失関数を文献の記載では理解できても、下名自身の事例でまだ検証できておらず、損失関数とリアルな経済の関係が信じ切れていないからである。自分が得心のいかないことを指導、コンサルティングするのは、意に反するのである。
 他社の研究会メンバーに聞いても、社内で活用できているとことは非常に少ない(計算するだけならいくらでもできるだろうけど)。田口氏の主張を否定するわけではないが(否定する材料もない)、自分で実証も得心もしていないことを、受け売りで書くことは、信念としてできなかったわけだ。田口氏の損失関数に関する提案(予測)の証明には、実際の社会の損失とよい一致を示す事例の蓄積が必要である。

 さて昨日12月度の関西品質工学研究会で、動特性のSN比と損失関数の関係が議論された。SN比とはもともと、βを目標値に調整したときの、誤差分散σ^2という定義である(ここには、誤差分散σ^2がβ^2に比例するという前提が置かれている)。したがって損失関数をSN比から求める際には、その損失はβ調整後のものであり、目標値からのカタヨリ(偏差)による損失は含まれていないことに注意する(逆にカタヨリによる損失を含めたい場合はSN比ではなく、目標値からの誤算分散を求めることになる)、ということが再確認された。なお、ここでのSN比は、無次元であるエネルギー比型SN比ηEの真数を用いる必要がある(田口氏の動特性のSN比では信号の-2乗の次元が残っているため、具合が悪い)。

 研究会で「あと2つほど論点があるが、時間がないのでまた話しましょう」としたことをここで予告しておこう。

 1つ目は、市場での実際の損失(絶対値)を知るためには、SN比計算に用いるデータのノイズ因子の水準は、市場と等価である必要があるということである。これはかなり厳しい要求である。逆にいえば、SN比を相対比較の指標として求めた場合、そこから損失関数を求めてもやはり相対的な数値となってしまい、損失関数の利得にしか意味をもたない(しかも差ではなく、比としての比較しか意味をもたないので使いにくい:1億円が5000万円になるのと、100円が50円になるのとでは大違いだ)。これでは実際の経済(例えば部品精度を向上させるためのコストなど)とリンクすることができない。

 2つ目は、「β調整後」と言っているように、対象となる機能のβは調整可能でなくてはならない。そのためには対象機能は、下名が命名したとことの「制御的機能」でないといけない。ここでも、機能の重要な分類である「エネルギー変換機能」と「制御的機能」の分類が出てくるわけだ。そうとうなベテランの方でも、エネルギー変換機能のβ(効率)を2段階目で自由に調整できるかのように思い込んでおられる方もいるので、要注意である。ぜひ、拙書「これならわかる~」のp.84以降を参照してほしい。エネルギー変換機能のβは、品質工学よりも前の段階(システム選択、機能設計)で、性能の確保として行っておく問題である。

株式会社ジェダイト(JADEITE:JApan Data Engineering InstituTE)

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