久々にSN比の数理に関する投稿。
2018年1月号の品質誌(日本品質管理学会誌)に、リコー細川氏による、分離機能(液体と気泡の混合物を分離したい場合)のSN比について論じられている。
細川, 佐々木:”開発活動に適した分離機能の評価方法と実験方法", 「品質」, Vol.48, No.1, pp.112-116, (2018).
この論文に対する評価ではなく、以前論じたエネルギー比型SN比とデジタルのSN比の関係、それにオッズ比について備忘録として残しておきたいという意図である。
原料である液体Aと気泡Bを処理して、排出口#1からは液体Aだけをだきるだけ多く回収したい。排出口から#2からは理想的には気泡Bだけが出てくるとよい。
データセットとして以下を考える。
排出口#1 排出口#2
液体A yA yA1 yA2
気泡B yB yB1 yB2
データは単位量(例えばℓ)の倍数と考えていただきたい。
すなわち液体Aは、yA1:yA2に分離され、気泡BはyB1:yB2に分離されるという機能である。
細川氏の論文に提示されているSN比はオッズ比と呼ばれるもので、情報通信(1を1と伝え、0を0と伝える機能)の品質や、検査などの判別性能を評価するのに用いられてきたものである。情報の判別も、材料の分離も、本質的に同じ評価ということである(つまりエントロピーの大きい入力をエントロピーの低い出力に変換できればそのシステムの品質が高いということだ)。
さて、オッズ比ηT''(記号は前論文にならった)では、
ηT'=10log[(yA1/yA2)/(yB1/yB2)]^2=10log[(yA1*yB2)/(yA2*yB1)]^2 (db)
となる。
対数の中身の分子(yA1*yB2)が有効成分、(yA2*yB1)が有害成分であることは、データの定義から明らかである。
この式の意味は、田口玄一氏によって修正された2種類の誤りがある場合のデジタルのSN比とほぼ同意である(詳しくは、拙書「エネルギー比型SN比」のp.70~を参照)。
Aの分離率をpA=yA1/(yA1+yA2)、Bの分離率をpB=yB2/(yb1+yB2)とすると、SN比はこれらのオメガ変換値の平均(db単位で平均=和を取ること)で、
ηTa=[10log(pAのオメガ変換値)+10log(pBのオメガ変換値)]÷2 (db)
=10log[(yA1/yA2)/(yB1/yB2)]^(1/2)
オメガ変換値が、エネルギー比型SN比と等価であることは、前の投稿でも示した。
ηT''とηTaは本質的に同じ式である。logの[ ]部が2乗されるか(デシベル値が2倍になるか)、1/2乗されるか(デシベル値が1/2倍になるか)の違いだけで、相対比較を行う分には本質的な違いはない。
つまり、オッズ比もエネルギー比型SN比と完全に整合が取れているということである。
次の投稿で、これらの指標が原料比yA:yBに依存しないかどうかについて考えてみよう。
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