2009/11/12

「設計科学におけるタグチメソッド」レビュー


 遅ればせながら2008年10月発刊の、「設計科学におけるタグチメソッド」(椿広計, 河村敏彦著)を読んだ。
 前半はタグチメソッドの統計学からの解釈であるが、異なる表現方法でタグチメソッドを眺めなおすと、自分の知識を再整理するのに役立つだろう。タグチスト向けへの配慮ということもあるのであろう、難解な数式の羅列という印象ではなく、統計の門外漢の下名でもなんとか筋を追えた(2重非心F分布が出てこなくてよかった・・・)。

 後半は著者らによる新しいモデル(乗法モデル:y=εβM、2乗対数損失関数、その損失関数にもとづくSN比)の提案である。非常に大雑把に言えば、品質工学では β^2/σ^2 の対数をとることでパフォーマンスの測度加法性を確保していたのに対して、著者らの提案は、各データをそれぞれ信号値で割った誤比つきの傾きε・β(有害成分)にしたものと、、傾きβの幾何平均(有効成分)の比を考え、その対数の二乗和で損失を総合する尺度である。これはSN比が無次元化でき、信号のスケールの影響を受けない。また、βの変化率の対数の世界で、2次損失関数と整合する。

このようなSN比は、
 (1)新しい機能モデルや損失関数の定義からスタートしていることや、
   そのことによるこれまでの事例との整合性の問題や、
 (2)データ数の違いによる影響
   (1/(nm-1)で割っているので少なからず影響を受ける)、
 (3)信号・出力が小さいところでのβ(本書ではy'ij)の精度の問題
などの課題が想定されるが、筆者らの仮定にもとづく論理展開は明快であり、一定の妥当性はありそうである。

 本書の中でも強く賛同したのが、6章(p.173~)における最後のくだりである。
「この種の方法論(ここではタグチメソッドのこと※下名注)全体が依拠している原則を仮説することで、パラメータ設計は自律的に進化可能になると考える。 また、これらの原理を前提とすれば、タグチメソッド自体を設計科学的に検証する方法論も確立できる。(中略)このようなことをはじめなければタグチメソッドの方法論的進化のPDCAが回らないのではないか・・・」

 品質工学の考え方が独善的にならず、反証可能なものであるためには、新しい提案に対する評価方法(メタ評価技術)の研究が期待される。これは現在のRQESの課題といってもよいと思う(これについては後日)。

 宮川先生の著書同様、品質工学に対する深い見識に基づいて著されたものであり(と下名が評するのも僭越であるが)、「統計家嫌い」の諸氏にもご一読を勧めたい。

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