2010/02/09

品質工学の真髄に迫る!「上級タグチメソッド」レビュー


 前書「入門パラメータ設計」に続く、上級向けの解説書「上級タグチメソッド」が出版された。技術開発のマネジメントにまで触れたレベルの高い1冊だが、機能の考え方と標準SN比の関係を再認識するだけでも、目から鱗がおちる可能性が大である。

 これまで必ずしも明快に解説されていなかった、「基本機能」と「目的機能」の意味、そして、どのようなフェーズでどのようにして使うべきかがすっきりと説明されている。また、基本機能の場合にこそ標準SN比を使って、完全な2段階設計を実施すべきことも理解できる。また、エネルギーを評価するということを通して、基本機能、SN比、損失関数、加法性、再現性、といった一気通貫の哲学も理解できる。

 詳細は本書にゆずるが、基本機能で研究開発するということを知ることで、技術開発の体制やマネジメントの問題点が浮き彫りになる体験をするだろう。田口賞が制定されてから未だ、研究開発段階で品質工学を体系的に取り入れた企業が表彰されていないところからみても、基本機能での2段階設計の完全適用開発は行えていないのが現状だと思われる。開発案件ごとにシステムや目標仕様が決まっており、その中で目的機能の安定性を最適化、場合によっては性能とのバランスをとって製品化という流れになっていることが多い。

 従来のタグチメソッドのテキストやコンサルでは、あまりにも感度や性能のチューニングはあとでよいということを強調しすぎてはこなかっただろうか。ロバスト設計の前にチューニングで性能があわせこめるという前提を省いた物言いが多かったように思う。そのため、2段階設計のロバストが先だという話を前面に押し出しすぎると「性能も出ていないのにロバスト設計どころじゃないよ」と、見向きもされない、ということはなかっただろうか。

 そこで、開発の順序を「性能の確保(技術の目処付け)」⇒「ロバスト設計」⇒「製品仕様ごとのチューニング」の流れで実施するということを本書では提言している。つまり、まず全条件で性能目標を達成できる見込みを得てからロバスト設計を行うのである。

 他にも、標示因子がある場合のSN比の作り方や、信号因子の種類わけの考え方など、意外とこれまできちんと解説されていなかったようなことが、類書との重複がなく記載されている。きちんと理解したい方、真髄に迫りたい方は必読の一冊である。ただし、本書の内容の実践にはかなり険しい道(マネージャーも技術者も)が待っていることは付け加えておきたい。魔法の杖ではない。

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